論文は研究者の大事な業績であり,論文集は学会の1つの顔である.その意味で,論文集の改革は学会の有り様や会員の学術活動に大きな影響を与える.本学会では,英語論文集および産業論文集の発刊が予定され,論文集の環境が大きく変わりつつある.また,従来からの論文集(以降,本誌と呼ぶ)も部門制に対応した変革を行った.これらの論文の位置付け,目指す方向を説明したい.
これらの新しい論文集の発刊および本誌の変革は,学会自体の改革に対応している.すなわち,国際化,社会貢献,そして部門制による活性化である.国際化に対応して本誌の中から査読者の推薦に基づいて選ばれた優秀論文を英語論文集として発刊し,投稿は受け付けない.世界中から簡単にアクセスできるようにWebに掲載される.最初の号は,過去論文賞を受賞した論文の名から著者が英語化を承諾した論文をまとめて掲載する.英語論文集の役目は本学会の学術水準の高さを世界に発信することが目的であり,本誌より上位に位置付けられる.
産業論文集は,本学会の産業への貢献の姿勢を明白にすることを目的としている.そのため,内容にはなんらかの産業貢献が求められる.もちろん,本誌も産業に貢献する論文を掲載してきているので,産業論文集と本誌は競合する部分がある.そこで,月刊の書籍として重厚な歴史をもつ本誌に対し,産業論文集をWebジャーナルとすることで差別化をはかった.掲載だけでなく,投稿,査読も情報技術の恩恵を享受できるようにすることで投稿のしやすさ,査読の迅速化,掲載論文のカラー化,オブジェクトの利用などによる表現の自由度の拡大をはかった.また,掲載料も1MB当り1万円と本誌に比べて,情報化によるコストダウンをはかった.
本誌については,これまで「制御基礎」,「制御技術」,「計測」,「システム・情報」という4分野で投稿を受付,「制御」,「計測」,「システム」という3ジャンルで掲載を行ってきた.ご承知のように学会活性化のため始まった「制御」,「計測」,「システム・情報」,「システムインテグレーション」,「産業応用」,「先端融合」の6部門体制が定着し,大きな成果を上げている.論文集委員会も,これに呼応して本誌における投稿,掲載を6分野に対応する形とした.これで部門の存在が本誌で目に見える形となるので,部門活動および本誌の活性化につながることを期待している.
以上,まとめると,産業論文集は本学会の産業重視の象徴の1つであり,Webジャーナルとしての特徴を活用する論文集である.英語論文集は本誌から選りすぐられて世界に発信されるWeb上の英文の論文集である.それらの要として6部門制に対応した本誌が位置付けられる.このように本学会では会員の論文発表の機会と範囲の拡大をはかっている.会員諸氏におかれては,このインフラを最大限活用されることをお願いする.
最後に,この機会を利用して,論文集の現状について,いくつかお話したい.まず,査読期間が長いという誤解を正したい.確かに一時,査読が長期に渡ったことがあったが,最近は1年以内に査読が完了している.これは査読期間が半年以上に及んでいる論文については,毎月の論文集委員会で厳重なチェックを行い,迅速な催促または査読者変更を実施しているためである.このような催促,査読者変更のマニュアル化に加えて,査読者データベースの整備も行い,査読の負荷が特定の方に集中しないように注意している.催促の強化を痛感されている査読者もいらっしゃるかもしれないが,投稿者,学会の利益のためにご容赦願いたい.末尾に査読状況に関する最新の統計を紹介する.なお,この「最長」の論文は,適切な校閲者の選定に時間がかかったこと,および著者への照会が2度に渡ったことが原因である.このように問題点を洗い出すとともに,改善に務めている.
つぎに,ご紹介したいのは,論文集委員の人選である.現在,委員の任期は2年であり,委員の半数が1年ごとに入れ替わるという運用を行っている.そして,論文集委員会は6部門,7支部からの委員の推薦をベースに構成されている.その意味で,掲載論文のジャンル分けという今回の変革以前から部門制という本学会の新しい体制に対応してきたことをご理解いただきたい.
以上,変わりつつある本学会の論文集事情について説明をさせていただいた.論文集が本学会の価値を向上するとともに,活性化にも貢献することを大きな目標としている.改善点や新たな提案を歓迎する.学会事務局論文集担当あてにご意見やご要望をいただければ幸いである.もちろん,各部門や支部選出の委員を通してご提案くださっても結構である.
論文集委員会副委員長
産業論文委員長
新 誠一
○平均査読期間(2001年の論文受付〜委員会最終確認までの時間)
- ・論文 約7.1か月
- 最長
- 16.6か月,最短::2.3か月
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・ショート・ペーパー 約5.3か月
- 最長
- 7.7か月,最短::0.9か月
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○採択率(過去5年間の平均)
・論文 約73.5% ・ショート・ペーパー 約82.6%
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