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学術奨励賞 研究奨励賞10君,学術奨励賞 技術奨励賞2君に贈呈された.
○学術奨励賞 研究奨励賞
みやむら あいこ
宮村亜位子 君
1977年7月18日生.2000年東京大学工学部計数工学科卒業.同年同大学大学院新領域創成科学研究科修士課程に進学,現在に至る.Motor
Control,適応制御に関する研究に従事.
受賞論文「Synthesis Aspects of Cerebellum
Motor Control」
<第29開制御理論シンポジウムで発表>
近年脳をシステム論の立場から研究する動きが盛んである.脳の機能の中でも特に小脳大脳連関による四肢の運動制御(Motor
Control)は制御論の立場からみても大変興味深いテーマである.多くの脳の制御モデルが生理学や神経科学の分野から提案されているが,本論文はその中でも制御論の立場からみて最も妥当であると考えられる川戸らによって提案された「フィードバック誤差学習法」について,従来までの研究に関しての問題点を挙げるとともにそれらを解決した形で厳密な理論解析を行い,最終的に1つの制御器設計法として提案することを目的としている.特に克服が困難だとされているフィードバックループにむだ時間が存在するシステムに対して,新しい適応則を提案しむだ時間と適応速度との興味深い関係を導いた.
なら たかあき
奈良 高明 君
1973年3月20日生.95年東京大学工学部計数工学科卒業.2000年同大学大学院工学系研究科博士課程修了.同年日本学術振興会特別研究員,現在に至る.生体の触覚情報処理のモデル化,触覚ディスプレイの製作,逆問題の研究に従事.
受賞論文「マイスナー小体のせん断共振特性による同調曲線の導出」
<第39回計測自動制御学会学術講演会で発表>
生体の触覚受容器は,その実に特異な幾何的構造により,皮膚変形のセンシング機能を実現する.本論文では,速順応型受容器の一種であるマイスナー小体の神経軸索が,皮膚と水平方向にコイル状にとぐろを巻いて終端する,という構造に着目した.
このとき,1) コイル構造のせん断共振周波数は,縦振動共振周波数の1/10程度であり特徴周波数たりうること2)
軸索を挟むシュワン細胞が層構造をなすこと3)
シュワン細胞間に進入するコラゲン線維が水平方向に強制力を与えること4)
コイル構造は自身が受ける伸び/せん断変形を軸索表面のせん断/伸び変形に変換する作用を有するため,軸索表面のイオンチャンネルが面積変化に感度があるならば,小体は皮膚のせん断変形に感度が高いと推察されること,以上4点の理由から,コイル状軸索のせん断共振特性を解析した.その結果,生理実験により得られている同調曲線,及び軸索の弾性定数が理論的に得られることを示した.
AKARAWIT Limpiyamitr 君
(アッカラウィット リンピヤミット)
1977年6月2日生.タイ王国バンコク出身.2000年大阪大学工学部機械工学科卒業,同年大阪大学大学院工学研究科電子制御機械工学専攻博士前期課程進学,現在に至る.2000年日本機械学会畠山賞受賞.ロバスト制御理論,最適制御理論に興味をもつ.
受賞論文「周波数応答を考慮したl1制御」
<第29回制御理論シンポジウムで発表>
ロバスト制御系設計の1つであるl1制御はロバスト安定化問題,外乱除去問題などを扱い,優れた時間領域特性を与えるという特徴をもつ.それに加え,本研究では閉ループ伝達特性の周波数応答に関する制約条件を付加し,望ましい周波数応答が実現できるような多目的制御問題を考察する.
周波数応答制約条件を含むl1制御問題は無限次元線形計画問題に帰着することができる.最適解を求めるために有限次元近似法が必要となる.本研究は標準l1制御問題の解法の1つである遅れ拡大法(DA法)を発展させ,周波数応答を考慮したl1制御問題を有限次元の線形計画問題に近似して解く方法を提案した.複数の有限次元線形計画問題を解くことによって最適解の下界列が生成される.下界列を用いて,実行可能な上界列が構成される.ある仮定のもとに周波数応答制約条件を緩めて,新たな無限次元線形計画問題を定式化した.上界列 下界列にはその無限次元線形計画問題の最適解に汎弱位相に収束する部分列をもつことを示した.最後に,有限次元線形計画問題を解くことによって,任意の精度で最適解を近似することができることを示した.
にしら ひかる
西羅 光 君
1974年6月26日生.97年東京大学工学部計数工学科卒業,99年同大学大学院工学系研究科修士課程修了.同年日産自動車(株)総合研究所勤務,現在に至る.
受賞論文「適応観測器と周期ゲイン型σ−修正法を用いた路面状態の段階的推定法」
<第8回制御技術シンポジウムで発表>
車両制御において,路面の状態は車両挙動に大きな影響を与える重要な情報である.そのため,オンラインの路面状態推定法はこれまで数多く提案されてきた.従来法は,設計に労力がかかるマップベースの推定法や,高精度な車両モデルと測定信号が必要なモデルベースの推定法のどちらかであり,必ずしも利用しやすい手法ではなかった.本論文では,車両モデルをベースとしつつ,事前に典型的な路面情報を利用することで,モデル化誤差や観測雑音の影響を低減する推定法を提案している.具体的には,路面状態を擬似路面摩擦係数と転がり抵抗係数という2つのパラメータで特徴づけ,それぞれを適応オブザーバを用いて推定する.推定則に周期ゲイン型σ修正法を適用することで,事前に指定したパラメータの近傍に推定値を拘束し,観測雑音等の影響を吸収している.実車両の走行データに対して本手法を適用し,推定結果が観測雑音等の影響を受けにくくなっていることを確認した.
いぐち わたる
井口 亘 君
1974年7月9日生.98年新潟大学工学部情報工学科卒業.2000年電気通信大学大学院情報システム学研究科博士前期課程修了.同年より(株)日立製作所
情報制御システム事業部に所属.上下水監視制御システムの設計に従事.
受賞論文「適応的情報統合を用いた移動型異質センサ群の信頼性解析」
<第12回自律分散システムシンポジウムで発表>
大規模システムにおける安全監視システムでは,誤動作(誤作動や不作動)の回避が重要な問題となる.センサが”安全”か”危険”かの2値で監視対象を判断する場合,ノイズなどがなくても,安全(危険)であるにも関わらず,センサが”危険”(”安全”)と判断する誤動作が生じる.これは,監視対象の2状態の境界とセンサの判断する境界のずれに起因するもので,同一のパラメータで監視するセンサの多重化によって解消されえない.
本研究では,センサの閾値設定によって起こる「モデル誘発型」の誤動作の減少を目指し,異なったパラメータを有する異質センサ群による安全監視システムを考察した.期待損失最小化の観点から,2種類の異質センサの組合せでの最適な監視情報統合方策とそれを支える条件を解析的に導出した.さらに,センサに”安全”とも”危険”とも判断できない状態を設定し,判断の難しいときに必要数だけ別のセンサを呼び寄せる適応的システムに拡張し,最適な呼集センサ数を数値的に導出した.
はしくら まさふみ
橋倉 雅史 君
1977年5月24日生.2000年熊本大学工学部知能生産システム工学科卒業,同年同大学大学院自然科学研究科博士前期課程入学,現在に至る.音を利用した計測の研究に従事.
受賞論文「偏自己相関を用いたパイプモニタリング」
<第39回計測自動制御学会学術講演会で発表>
音声分析の分野で声道断面積推定に用いられる偏自己相関(PARCOR)技術を利用したパイプモニタリングシステムを提案した.
パイプの片端から白色雑音を放射し,他端で検出された音圧信号
とのPARCOR係数を計算する.このPARCOR係数から,声道断面積の推定と同じ手法を用いてパイプの断面積関数を求める.パイプ内に詰まりやピンホールなどが存在すると,パイプ断面積に不連続な変化が生じることから,これらの欠陥を推定することができる.本法は,パイプの軸上の位置の関数としての断面積を,パイプ端で検出した音響信号のみから推定できるという特徴を有する.
アクリルパイプの片端にスピーカー,他端にはマイクロフォンを取り付け,パイプ中央部に「詰まり」「広がり」「ピンホール」の三種の欠陥を設けて模擬実験を行った.その結果,本法によってこれらの欠陥を検出できることが確かめられた.
かめだ せいじ
亀田 成司 君
1974年5月15日生.96年九州工業大学情報工学部制御システム工学科中退,同年同大学大学院情報工学研究科博士前期課程入学,98年修了,同年同大学院博士後期課程入学,現在に至る.98年度日本神経回路学会奨励賞受賞.シリコン網膜,高次視覚処理チップの研究に従事.
受賞論文「シリコン網膜を用いた自然照明下での実時間画像処理」
<第17回センシングフォーラムで発表>
網膜は視覚系のフロントエンドに位置し,外界の画像を受容,処理する.最近この網膜の構造と機能をアナログCMOS集積回路によって実現するシリコン網膜の研究がさかんに行われている.しかしながら,このような完全アナログシリコン網膜は,アナログ回路のボトルネックである素子特性のばらつきによる出力信号劣化のため,現在までのところ実用の段階には至っていない.今回,この問題を克服した疑似2次元型シリコン網膜を開発した.本シリコン網膜は1次元ラプラシアン−ガウシアン型受容野を形成し入力画像の水平方向に対して平滑化および輪郭強調を超並列に実時間で行う.画素数は144×63画素である.工学的に十分な精度および解像度が得られたことを確認した.さらにこのシリコン網膜に光順応機構を付加し,多様な視覚環境に柔軟に対応できる視覚デバイスを開発した.視覚デバイスを用いて,自然照明下において画像の輪郭抽出や対象物追従を行った.
はら すすむ
原 進 君
1970年3月24日生.92年慶應義塾大学理工学部機械工学科卒業,94年同理工学研究科修士課程修了,96年同後期博士課程修了.博士(工学).95年4月より2000年3月まで日本学術振興会特別研究員.98年5月より99年2月まで米国カリフォルニア大学バークレー校機械工学科訪問研究員.2000年4月より豊田工業大学助手.おもに運動と振動の制御に関する研究に従事.
受賞論文「ハードディスクドライブの2自由度制御のための目標軌道設計手法」
<第42回自動制御連合講演会で発表>
ハードディスクドライブヘッドの高速シーク制御を実現するには,目標軌道の設計が特に重要となる.本研究においては,2自由度制御系の適用を前提とした,ハードディスクドライブヘッドのための新しい目標軌道設計手法を提案している.本設計法はつぎの2段階よりなる.第1段階として,減速時間を短縮できる,逆起電力の影響を考慮したVoice
Coil Motorモデルに基づくオフラインシミュレーションを行う.さらに,第2段階として,前段階の結果を参照し,同モデルに対するオンライン軌道生成と終端誤差に対するSMART
(Structural vibration Minimized AcceleRationTrajectory,
Mizoshitaら,1996)を用いたオンライン補正を組み合わせて行う.この補正により,あらゆるトラックへのシークを可能とする.
以上により高速シーク制御を実現する目標軌道を見通しよく容易に設計できる.従来のモード切り換え型制御法との比較も含め,数値計算ならびに実験により本手法の有効性を明らかにしている.
おの なおあき
小野 直亮 君
1973年5月7日生.98年東京大学総合文化研究科広域科学専攻修士課程修了,同年,同研究科博士課程に進学,現在に至る.人工生命モデルを用いた生命の起源と進化のシミュレーションに関する研究に従事.
受賞論文「原始細胞の発生と進化の抽象モデル」
<第20回システム工学部会研究会で発表>
分子の自己複製能力の獲得と並んで生命の発生と進化の過程で不可欠なイベントに,自己維持が可能な細胞の発生が挙げられる.原始地球上でどのようにして最初の細胞が発生し,分裂をはじめるようになったのかについてはこれまでさまざまな仮説が提唱されているが,化石等の物証が実質残されていない上に,実験的に再現するのも困難であるため,決定的な結論はまだ出ていない.
われわれは原始細胞の起源とその役割を考えるため,単なる境界条件としての細胞膜ではなく,内側に閉じこめられた自己触媒反応によって動的に代謝される構造としての細胞膜をもつような原始細胞のモデルを構築し,その振舞いをシミュレーションした.
本論文では,このモデル上で,特別な構造のない一様な初期条件から,自己維持と自己複製が可能な原始細胞として振る舞うことのできる構造が自発的に形成されてくることを示した.この結果は,細胞が生まれる以前の化学進化の中から原始的な細胞が形成された過程が幸運な偶然等ではなく,進化的な必然であった可能性を示唆していると言える.
はまもと けんいち
浜本 研一 君
1971年1月16日生.97年京都大学大学院工学研究科修士課程(応用システム科学専攻)修了,2000年同大学院情報学研究科博士後期課程修了(システム科学専攻).同年日本学術振興会特別研究員,現在に至る.反復学習制御,最適計画法を用いた制御系設計の研究に従事.博士(情報学).
受賞論文「実験反復による補償器調整法を用いた2慣性共振系の位置決め制御」
<第8回制御技術シンポジウムで発表>
入出力データに基づく制御系設計の1つにIterative
Feedback Tuning (IFT)がある.IFTは対象システムを安定化する補償器を基に,与えられた評価関数に対して最適な補償器を実験の反復によって求める手法であり,これまでにさまざまな研究成果が発表されている.しかし,従来のIFTは対象システムシステムの線形性に大きく依存しているため,摩擦などの非線形性がある場合,効果的なチューニングを行うことかできない.
そこで本研究では,無視できない摩擦を有する2慣性系共振系実験機を対象として,位置決め制御補償器を調整するIFT法を提案している.提案法では,従来のIFT法では扱いにくい非線形性に対して,フィードバック補償器とフィードフォワード補償器の調整をそれぞれの特性に対応した評価関数に基づいて行うこと,およびパラメータ更新則に準ニュートン法の1つであるBroyden-Fletcher-Goldfarb-Shanno(BFGS)法を利用することで対処している.また,提案法の有効性を実験によって検証した.
○学術奨励賞 技術奨励賞
だいぼう まさひろ
大坊 真洋 君
1965年8月19日生.88年東北学院大学工学部電気工学科卒業,同年同大学大学院工学研究科博士前期課程入学,90年修了.同年新日本無線(株)入社,94年退社.同年岩手県工業技術センター入所,96年岩手大学大学院工学研究科博士後期課程入学,99年修了,現在に至る.98年応用物理学会講演奨励賞受賞.現在,非破壊検査に関する研究に従事.
受賞論文「レーザー励起スクイド顕微鏡の開発」
<第17回センシングフォーラムで発表>
スクイド(SQUID:超伝導量子干渉素子)は,現在のところ最も感度の高い磁気センサである.スクイドの応用分野の1つとして,微弱な磁場分布を計測するスクイド顕微鏡があり,材料評価や非破壊検査に有効である.しかし,その構造上,スクイドと試料と近づけることが困難であるため,従来は室温の試料に対する空間分解能がミリメートル程度に制限されていた.
本論文では,集光したレーザー光を試料に照射して,スポット付近の微小領域で誘発された磁場変化をスクイドで計測することにより,空間分解能を大幅に向上させるレーザー励起スクイド顕微鏡を提案した.高温超伝導スクイドグラジオメータと位相検波により,磁気シールド外での動作を可能とした.シリコン基板試料を用いた実験で,p-n接合付近の光磁気分布を,1pT/cm以下の磁場勾配,20μmの分解能で画像化した.非接触センシングの特徴から,電極を必要とせず,汚染することなく,微小領域での半導体の検査が可能となる.
たけとし なおゆき
竹歳 尚之 君
1969年6月23日生.94年慶應義塾大学大学院理工学研究科物理学専攻修了.同年,工業技術院計量研究所.2001年独立行政法人産業技術総合研究所研究員.薄膜熱物性計測技術の開発に従事.
受賞論文「サーモリフレクタンス法を用いた薄膜・微小領域の熱物性計測技術」
<第17回センシングフォーラムにて発表>
近年の科学技術の進展に伴い,厚さサブマイクロメートル以下の薄膜や広がりサブマイクロメートルの微小領域における熱物性値が求められるようになってきた.これらの情報はエレクトロニクス分野においては,半導体素子や光・光磁気ディスク等の記録メディアの集積度の向上,作動速度の高速化を実現するための熱設計に不可欠である.
このような薄膜・微小領域の熱物性値を計測するために,試料表面温度変化による反射率の変化(サーモリフレクタンス)を測定する技術の研究を進め,厚さサブマイクロメートルオーダーの薄膜の熱物性値を計測可能な.「ピコ秒サーモリフレクタンス法薄膜熱拡散率測定装置」ならびに,材料表面の2次元的な熱物性値の分布を10マイクロメートル以下の分解能で測定可能な「熱浸透率顕微鏡」を開発した.これにより,今まで計測が困難であった薄膜・微小領域の熱物性値の定量的な測定が,サーモリフレクタンス法を用いることにより実現可能であることを示した.
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