SICE 社団法人 計測自動制御学会
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 会告:2010年度計測自動制御学会学術奨励賞の贈呈
学術奨励賞 研究奨励賞10君,学術奨励賞 技術奨励賞2君に贈呈された.

○学術奨励賞 研究奨励賞

こみや けんじ 小宮 憲司 君(学生会員)
 1987年生.東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程.変調積分型撮像法に基づく3D-Particle Image Velocimetryの研究に従事.

 受賞論文「変調積分型撮像法に基づくParticle Image Velocimetry:流速分布測定の単一フレーム3次元化の検討と基礎実験」
 (第27回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)
 流体の速度を定量的に計測する手法として粒子画像流速測定法(PIV)と呼ばれる計測法が広く用いられている.これは流体中に混入した粒子の移動量を高速連続撮影した画像などから画像処理に基づく統計的な手法で検出し速度を計測する方法である.本研究ではわれわれの研究室で独自に開発をしている時間相関イメージセンサ(CIS)の変調積分型撮像法に基づき,単眼単一フレームで3次元でのPIV計測を行う.CISを用いることにより1フレームで撮像した粒子の軌跡画像の各画素に時刻情報を記録することができる.さらに奥行き方向の位置情報を取得するためにシートビームによる奥行き方向の分布型照明を導入し,その位置情報および時刻情報から粒子の速度3成分を推定することができる.提案法に基づいて実際に数種類の流れ場に対してPIV計測実験を行い,確かに本手法で速度3成分が計測できることを示した.

きじ まさひろ 貴治 雅博 君(正会員)
 1979年和歌山県生.2004年和歌山大学大学院システム工学研究科博士前期課程修了.同年(株)ジェイテクト(当時:光洋精工(株))入社.07年よりFP研究部計測技術研究室(現職).おもに非破壊評価法の応用研究に従事.

 受賞論文「赤外線法による等速ジョイント応力分布測定に関する研究(第1報)」
 (第27回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)

  応力測定に関して,今まではひずみゲージによる測定が一般的であるが,これは点測定であり,応力集中部を見逃す危険性がある.一方でFEMなどの数値解析手法が進歩しているが,実際の製品において応力分布を正しく得られない場合も多く,信頼性の検証が不可欠である.等速ジョイントは小型軽量化設計要求が高いが,実際に作用する応力分布は明確になっておらず,解析結果の検証も十分なされていない.
 本研究では,赤外線応力測定法を用いて,等速ジョイントの応力分布実測に初めて成功した.それにより,外輪表面や保持器窓部,シャフトなどの可視部に作用する応力分布の様子を鮮明に捉えられた.赤外線測定法は応力分布の相対値や応力集中箇所の測定に,非常に有効であることを確認できた.さらに,ひずみゲージ測定値での校正により,絶対値も高精度に測定できることがわかった.これは,従来困難であったFEM解析結果の実験的検証に非常に有効である.

せきぐち かずま 関口 和真 君(正会員)
 1982年生.2010年東京工業大学理工学研究科機械制御システム専攻博士後期課程終了.博士(工学).10年同大学助教,現在に至る.非線形制御理論の微分幾何的アプローチに関する研究に従事.

受賞論文「相対次数構造に基づくシステムの系列表現を用いた近似線形化」
(第10回計測自動制御学会制御部門大会で発表)

 近似線形化を非線形システムに適用する場合,線形近似によって無視される高次の項というのは座標系の取り方に依存する.しかし,一般的に近似線形化が用いられる際,座標系の取り方についてはあまり考えられていない.そこで,本研究では近似線形化の近似精度を向上させるために座標変換や入力変換を設計する手法を提案する.まず始めに,著者らが提案してきた相対次数構造というシステムの幾何的な構造を足がかりにシステムの系列表現を定義する.ついで,線形近似で無視される高次の項がシステムに及ぼす影響が小さくなるように系列表現を修正する.修正した系列表現への変換が,一般の近似線形化では無視していた非線形部分の情報をより多く取り込んだ線形システムを得るための座標変換,入力変換になっている.提案手法をカートペンデュラムとして知られる非線形劣駆動システムに適用することで,広いクラスに適用できる近似精度の高い線形近似を得ることできることを示した.

よしむら りょうた 吉村 僚太 君(学生会員)
 1986年生.2009年京都大学工学部物理工学科卒業.11年京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻修士課程修了予定..

受賞論文「マルチエージェントシステムのブロードキャスト制御」
 (第39回制御理論シンポジウムで発表)

 本研究では,マルチエージェントシステムに対する一制御手法として,「ブロードキャスト制御」を提案した.この手法は,多数のエージェントに同一の指令信号をブロードキャストすることで与えられた目的を達成させるようなものであり,各エージェントに送信機能を持たせなくてもよいという特長をもつ.著者らは,まず,このブロードキャスト制御の基本的な枠組みを構築した.つぎに,同一の指令信号をブロードキャストした場合,通常,すべてのエージェントが同一の動きをしてしまうことを示し,「確率的な」制御器の採用が必要となることを明らかにした.そして,ある確率的制御器を用いて,エージェント群に目的の達成度合いに関する信号をブロードキャストすると,確率1で,その目的が漸近的に実現されることを示した.さらに,7台の移動ロボットによる実機実験を行い,その有効性を検証した.

いぶき たつや 伊吹 竜也 君(学生会員)
 1986年生.2008年東京工業大学工学部制御システム工学科卒業.10年同大学大学院理工学研究科機械制御システム専攻博士前期課程修了.在学中.ビジュアルフィードバックによる協調制御の研究に従事.

 受賞論文「ビジュアルフィードバックによる姿勢同期制御の収束性解析」
(第10回計測自動制御学会制御部門大会で発表)

 安価で小型のセンサやネットワーク技術の発達により,複数の移動可能なセンサで構成されるモバイルセンサネットワークの応用が期待されている.ここでは,個々のセンサが限られた情報を用いて協調的に制御されることが望まれる.本論文では,モバイルセンサネットワークの協調制御問題の1つとして,3次元空間における視覚情報に基づいた姿勢同期問題を考察する.本問題では各剛体は自身の位置姿勢情報や近傍との通信による情報は得られず,近傍の視覚情報のみが取得可能であるとし,必要な視覚情報は各剛体から視覚センサで抽出可能な画像特徴量のみに限定する.まず,視覚による観測出力を有する複数の剛体に対して,視覚フィードバックによる姿勢同期を定義する.つぎに,視覚情報のみに基づく制御則を提案し,提案した制御則を適用することにより,適当な仮定の下で姿勢同期が達成されることを示す.さらに,シミュレーションおよび検証実験を行うことにより,本論文で得られる結果の妥当性を示す.

おおき けんたろう
大木健太郎 君(学生会員)

 1980年4月2日生.2006年慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒業.08年東京大学大学院情報理工学系研究科システム情報学専攻修士課程専攻修了.現在,同博士課程在学中.線形・非線形量子系の推定および制御の研究に従事.

受賞論文「線形量子系の構造と共分散指定制御」
(第10回計測自動制御学会制御部門大会で発表)

 近年,計測技術や制御技術の発展に伴い,微細な量子力学的現象を実時間で扱えるようになってきている.静的な量子力学的特性が半導体産業に大きく貢献したことから,量子現象の動特性を利用した量子計算や量子通信は,今後の産業に大きく貢献するものと期待されており,量子系の動特性を自在に扱えることが望まれている.本研究は,量子系の動的制御のために,基本となる線形量子系の特徴を解析したものである.その結果,線形な系と線形な測定による二乗規範に基づく量子系の推定および制御は,古典確率論で記述される系と本質的に変わらないことを証明し,量子系に対して従来の制御理論が直接適用可能であることを示した.また,状態空間実現の1つとそのブロック線図を提案し,線形量子系に対応する古典確率系の実現方法を具体的に示した.さらに,その応用として,共分散指定制御を利用することで,量子情報通信や量子計算で重要となるエンタングルド状態が生成可能であることを述べた.

やなぎさわ だいち 柳澤 大地 君(学生会員)
 1983年生.2010年東京大学大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了.博士(工学).現在,(独)日本学術振興会 特別研究員 PD.渋滞学や群集運動の理論研究(セルオートマトン,待ち行列理論),および実験研究に従事.

受賞論文「Theoretical and Experimental Study on Excluded Volume Effect in Pedestrian Queue」
(SICE Annual Conference 2010で発表)

 待ち行列理論は,ネットワークや生産システムなどの設計において,いまや欠かすことができない理論となっているが,排除体積(人の大きさ)効果が考慮されていないという点で人の待ち行列の設計に対しては必ずしも有効な理論とはいえない.そこで本研究では待ち行列理論に排除体積効果を導入し,待ち人数,待ち時間,人と人の間の距離も考慮した待ち行列の長さを厳密に求めた.排除体積効果が導入されると,列に並んでいる人は自分の前の人が動いて空いたスペースができたときに初めて移動することができる.そのため列を詰める時間が発生し,待ち行列のサービス率が到着率よりも大きい場合であっても,待ち行列の長さが発散してしまう場合があることが理論解析からわかった.また,特にサービス時間が列を詰める時間に対してあまり長くない場合に,列を詰める時間による待ち時間の増加が顕著であることも調べられた.さらにわれわれは実際の人による実験も行い,上記の現象を確認することにも成功した.

いしかわ てつや 石川 徹也 君(学生会員)
 1988年生.2010年東京工業大学制御システム工学科卒業.同年同大学大学院情報理工学研究科情報環境学専攻修士課程進学,現在に至る.

受賞論文「アドホックネットワーク上のGossipingと情報の近似伝達率」
(第10回計測自動制御学会制御部門大会で発表)

 パーコレーション理論は1960年頃から研究が行われている確率分野での理論であり,現在では人やもの,コンピュータなどのつながり方を表現する手段として注目を集めている.パーコレーション理論では臨界確率と呼ばれる値を求めることが大きな課題の1つとなっているが,その厳密解は特定のグラフについてしか知られていない.本研究では,通信工学の分野で用いられているGossipingアルゴリズムとパーコレーションの類似性に着目し,Gossipingアルゴリズムにおける情報伝達率の臨界確率とサイトパーコレーションの臨界確率が等しいことを理論的に示す.さらに正方格子上のGossipingアルゴリズムの情報伝達率を近似することで正方格子上のサイトパーコレーションの臨界確率の導出を試みる.

のだ あきひと 野田 聡人 君(学生会員)
 2005年東京工業大学制御システム工学科卒業.同年(株)インクス情報工業研究所エンジニア,自動金型生産工場の設備開発に従事.2010年東京大学大学院システム情報学専攻修士課程修了,同年同専攻博士課程進学,日本学術振興会特別研究員DC1.二次元通信による電力伝送の研究に従事.

受賞論文「二次元通信による低漏出ワイヤレス電力伝送」
(第27回センシングフォーラム 計測部門大会で発表)

 本研究の目標は,受信デバイスを大面積のシート状媒体の上に置くだけで電力伝送が可能なシステムを実現することである.これを実現するために,シート状の導波路を伝搬するマイクロ波を高Q値の共振体によって取り出す手法を用いる.シート上に受信機とそれ以外の物体が混在している状況下で安全に送電するためには,受信機だけに選択的に電力が吸収される必要がある.本研究では,単純な導体の平板がシート表面に密着し共振した場合にシートから取り出す電力を一般の物体による不要な電力吸収の代表とみなし,この電力の低減と特定の受信カプラによる効率的な電力取得とを両立させるための一手法を提案した.具体的には,シート表面を厚い絶縁体層で覆うことと,受信カプラを1/4波長チョークで取り囲み高Q値の共振構造とすることである.シミュレーションと試作機での実験によって,提案手法により選択的な電力伝送システムが設計可能であることを実証した.

すずき しんじ 鈴木 慎治 君(学生会員)
 1986年生.2009年東北大学工学部機械知能・航空工学科卒業.同年同大学大学院工学研究科バイオロボティクス専攻に進学,現在に至る.在学中,歩行支援システムに関する研究に従事.

受賞論文「パッシブロボティクスに基づく杖型歩行支援機の開発」
(第10回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表)

 近年,高齢者や身体障害者の歩行支援を目的として多くのロボット研究者が歩行支援システムの開発を行っている.開発されたシステムの多くはサーボモータを用いてシステムの運動を制御することで歩行支援を実現しているが,サーボモータを適切に制御できなかった場合に,システムが使用者の意図しない動作をすることで使用者に危害を加える可能性がある.本研究ではこのような危険性の少ない安全なシステムの開発を目的として,パッシブロボティクスに基づき軽度の歩行困難者を支援対象とする杖型歩行支援システムを開発した.本システムではサーボモータを一切用いておらず,使用者がシステムに加える操作力をサーボブレーキを用いて制御することでさまざまな機能を実現する.本論文では機能の1つとして使用者の運動能力に適応した歩行支援と歩行中の転倒を防止する機能を実現し,1人1人の使用者が容易にかつ安全に扱うことが可能な歩行支援システムを実現した.


○学術奨励賞 技術奨励賞

うえだ こうじ 上田 紘司 君(学生会員)
 1984年横浜生.2010年東京工業大学大学院機械宇宙システム専攻修士課程修了.同年同大学大学院機械宇宙システム専攻博士課程所属,現在に至る.レスキューロボットの研究に従事.

 アーム搭載クローラロボットHELIOS\の研究
 (第10回計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会で発表)

 生物,化学テロなどで被災した建物内に,事前に情報がない状態でレスキュー隊員が進入することは危険を伴うため,ロボットによる支援が望まれている.著者らは,レスキュー隊員の遠隔操作によって建物内を移動し情報収集を行うために,階段昇降,ドアの開閉,不審物のハンドリングも可能な「アーム搭載クローラロボットHELIOS IX」を開発している.本研究では,高度な操作性が要求されるドアの開閉に着目し,開閉時の手先にかかる力を計測し余計な内部力を逃がすための力センサと,対象物との3次元位置関係を計測するためのレーザレンジファインダ(LRF)を導入する.力センサは,市販の小型軽量の3軸力センサを採用し,これに,バネ性をもつ起歪体を並列に取り付けて,測定可能範囲を拡張する手法を提案する.また,モニタ上に映し出されたLRFの3次元画像のドア平面やドアノブを数点マウスでクリックし,ドアノブの位置や回転軸をロボットに簡単に指示する方法を提案している.最後にこれらの手法により,操作性が向上したことを実験的に検証している.

さかた こういち 坂田 晃一 君(学生会員)
 1984年生.2006年横浜国立大学工学部電子情報工学科卒業.2008年同大学大学院工学府物理情報工学専攻博士課程前期(修士課程)修了.同年同大学大学院工学府物理情報工学専攻博士課程後期(博士課程)に進学.モーションコントロール,ナノスケールサーボに関する研究に従事.

受賞論文「超精密ステージにおける複数センサを用いたフィードバック制御系の高帯域化」
(第39回制御理論シンポジウムで発表)

  半導体や液晶パネル製造装置や加工機械などの産業機器では,キャリッジ上にテーブル機構を有するXYガントリステージが主流である.また,高速・高精度位置決め制御は,生産性や製品の精密化に大きく関わる重要な技術である.しかしながら,その構造とステージの大型化により共振モードは避けられず,フィードバック制御系の高帯域化の大きな妨げとなっている.
 年々厳しくなる要求仕様を満たし続けるには,与えられた制御対象に対する制御器設計には限界があり,近年,機構と制御の統合化設計に関する研究が盛んに行われている.これは制御性能の大幅な改善が期待できるが,大型ガントリステージでは,機構の複雑さから追加的に構造変更することは困難である場合が多い.
 そこで本研究では,構造変更することなしにセンサを追加するだけでフィードバック制御系の大幅な高帯域化ができることを,超精密ステージを用いて実証した.さらに,本提案手法は共振モードの変動に対して非常にロバストになるメリットを有する.
copyright © 2010(社)計測自動制御学会