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[論 文]
三菱電機・竹家章二,黒田 健,西口憲一,市川 晃
移動ロボットの研究において,全方位の視覚情報を獲得する問題は環境を理解したり,環境内でのロボットの位置を発見する上で非常に重要である.全方位の視覚情報を得るため,魚眼レンズや1枚の曲面鏡(双曲面鏡など)を用いる方法が提案されている.魚眼レンズを用いた場合,天井などの上方の被写体が取得画像の大部分を占めてしまい,水平方向の全方位画像は縮小されて歪んでしまうという問題が生じる.反射鏡を1枚用いた場合,反射鏡の曲面の性質からカメラに写る像はボケてしまい,特に暗いところでは明瞭な像が得られない.本論文では,実時間で全方位の視覚情報を得ることができる全方位視覚システムを提案する.本視覚システムは2枚の曲面鏡で構成されているので,曲面鏡を1枚のみ用いた視覚システムと比べて設計自由度が大きく,収差を補正することが可能であり,等距離射影などの射影方式にそった視野で設計することも可能である.反射鏡の曲面形状の計算方法と,反射鏡により生じる収差の計算方法を示し,これら計算方法を用いた光学系の設計方法を示した.そして,本手法による一設計例を従来例と比較し,その結果,画質において優れていることが確認された.
University of Tsukuba・Wei DAI, Kimio SASAKI
This paper newly proposes a telescopic microphone system that may establish the high sensitivity and SNR, and narrow directivity in 3D-space, by using passive dynamic focusing and spherical wave synthesis with a spherical sensor array. On this system, passive dynamic focusing and spherical wave synthesis are realized by compensating the amplitude attenuation of detected signals, due to wave propagation, with variable gain elements, adjusting the relative time delays among the signals with variable delay elements, so as to match the resultant signals with those propagated hypothetically from the source at a predetermined focused point, and summing up the resultant signals. As the result, the sensitivity of the system is enhanced, for a sound source at the focused point, by a multiplicative factor of the number of used microphones. For uncorrelated additive detection noises, the SNR of the system output is improved, for the source at the focused point, approximately by the same factor as the sensitivity. After the sensitivity 3D-distribution of the system and the SNR characteristics of a synthesized output being made clear, the relative RMS error spatial distribution of the system output is examined through computer simulations by assuming a FM wide-band source signal which covers audio frequency bands. All the results of theoretical or numerical analysis and computer simulations illustrate the effectiveness as well as the fundamental characteristics of the proposed telescopic microphone system, resulting in the possibility of constructing the intended telescopic microphone system.
阪大・吉岡宗之
一定圧と変動圧を共に測定する高感度で広帯域の圧力変換器には,柔らかくて軽い受圧要素を必要とするが,そのために要素とその前後の流体との関連が無視できなくなり,三者を一体として解析する必然性が生じてくる.そして圧力変換器の系としての特性を解析するには,受圧要素の特性をピストン振動板(2次系)で近似するのが最も現実的と目される.そこで本報では,まず円形膜の2種の変位の解を用いた近似モデルの作成に際して,非級数解は固有周波数の一致に配慮して近似し,級数解は近似と補正を行うと,両者に共通の近似モデルが得られる経緯を明らかにした.一方,円形板の変位の級数解を用いたモデルの作成においても,膜におけるのと同様の近似と補正により,非級数解の場合と同一の近似モデルが得られることを示した.また上記の膜や板の近似モデルとピストン振動板を比較し,固有周波数と一定圧による排除体積が共に一致するよう後者の質量とばね定数を定めるなら,それが受圧要素の2次系モデルとなることを示した.その上で放射インピーダンス,受圧要素の2次系モデル,キャビティからなる圧力変換器系の力学モデルを用い,前方の流体の付加質量と後方の空気の圧縮性の効果を明らかにした.
都立高専・川嶋健嗣,東工大・藤田壽憲,香川利春
圧縮性流体は圧力のみならず温度によってもその密度が大きく変化することから,非定常流量の計測は大変困難である.よって気体用流量計の動特性を試験する有効な方法がない.もし非定常に基準となる流量を発生させることができれば,この基準流量と比較することにより流量計の動的な校正を行うことができる.著者らはすでに容器に金属製綿を封入し伝熱面積を増大させることで,容器内の状態変化をほぼ等温に規定できる等温化圧力容器を提案した.この等温化圧力容器を用いれば流量は圧力のみの関数となり,容器から放出される気体の定常および非定常な流量を圧力から計測できることを示した.そこで本研究では等温化圧力容器から圧縮空気を放出する際に容器内圧力を空気圧サーボ弁を用いて制御することで,非定常流量を発生する装置を提案する.実際に本装置で空気の定常および非定常な振動流を発生させた.実験結果より定常流量では目標値に対して1%以内の精度で流量が発生可能であることがわかった.また非定常流量では20Hzの振動流まで平均流量に対して2%の精度,瞬時値は最大流量に対して5%の精度が実現できることがわかり,提案した装置の有効性が確認された.
Univ. of Tsukuba・Lisheng CHEN and Nobuharu AOSHIMA
In this paper we presented a method of high precision load measurement by two freedom dynamic crane scale. The basic point of this approach lies in the idea that the sampling averages of dynamic load signal during a time interval between the maximum swing angles and other central parts of the time interval are functions of the maximum swing angle and the minimum swing angle. The mass of goods is a constant factor of these functions. By the sampling averages, the mass value of goods can be calculated under the dynamic condition. The simulation results indicated that the measurement precision of more than 0.1%F.S. can be achieved.
熊本大・柏木 潤,劉 旻,原田博之,山口晃生
信号処理の分野では,Fourier変換をはじめとして様々な信号変換が用いられている.Fourier変換では正弦波関数という正規直交関数を用いて任意の時間信号が種々の周波数の合成と考えることによって時間領域を周波数領域に変換している.このように正規直交関数を1つ決めればそれを用いた信号変換が可能であり,Walsh変換,Hadamard変換などもその例である.
本論文は,擬似不規則信号の1つとして知られるM系列の1周期に至る自己相関がデルタ関数に近いことに著目し,初期状態の異なるM系列同志が擬似的に直交していると考え,その擬似直交性を用いた新しい信号の変換をはじめとして数多くの変換があるが,いずれも何らかの正規直交関数系を用いて変換されている(Ronald, Chihara, kian, Tzafestas, Peter-k).例えば,Fourier変換では正弦波という正規直交関数を用いて時間領域を周波数領域に変換している.Walsh変換ではWalsh関数という直交関数を利用しており(Tzafestas),Hadamard変換ではHadamard行列の直交性を利用している(kian).正規直交関数を選ぶことによって新たな変換が可能であるということができる.
本論文は,M系列の擬似直交性を用いた新しい信号の変換(ここではM変換と呼ぶ)を提案し,その性質を述べ,線形系の同定への応用について述べたものである.はじめに,M変換の定義とその性質について述べており,ちょうど任意の時間信号が白色雑音があるフィルタを通過してきたものと考える(Prewhitening)ことができるのと同様に,任意の時間信号はM系列があるフィルタを通過してきたものと考えることによる新しい信号変換法であることを示した.次に,このM変換を線形系の同定に適用できることをシミュレーションと共に示した.すなわち,制御系の入力と出力が観測された場合,入力をM変換し,仮想的にM系列が入力された系と考えることにより,M系列相関法を適用して制御系のインパルス応答が求められることを示した.
山口大・田中正吾,武居輝好,川崎製鉄・山根 明
著者らは先に,溶鉱炉の安全管理および効率的使用の観点から,音響センサに基づく炉壁の厚み計測に関わる基本的なシステムを提案した.この方式は,超音波を外壁から内壁に向けて送波したときに得られる溶鉱炉内部の各点からの重畳反射波を,送受波器の物理特性に基づく基本反射波波形(単一波形)に基づき分離し,これにより内壁からの反射波を検出,厚み計測を行うものであった.本方式によれば,反射波の重畳が激しくない場合は高精度な計測が可能であるが,実際の溶鉱炉は鉄皮,キャスタブル,鋳鉄,耐火レンガなどの多層より構成され,しかも冷却用配管(鋳鉄中)や(ずれ防止のための)周期的突起部(耐火レンガ)などがある.したがって,各部位からの反射波が複雑に重畳することとなり,先の報告で用いた単一波形によるパターンマッチングでは,正確な反射波の分離,ひいては炉壁底面からの反射波の正確な受波時刻の検出が困難となる.さらに悪いことには,音波の透過性をよくするため送受波器を対象物に押さえつけるが,このときの重圧により,受波信号には各部位からの重畳反射波のみならず,時変バイアスが加わる.
この観点から本論文では,受波信号が時変バイアスと多数の複雑な反射波の重畳波形の和で与えられる場合にも,各部位からの反射波の受波時刻が正確に検出される計測システムを提案し,これにより溶鉱炉内壁を診断することを考えた.具体的には,時変バイアスを局所的に2次関数でモデル化し,これと複数の基本反射波波形を一次結合したものを,実際の受波信号波形とパターンマッチングし,これにより炉壁の各部位からの反射波の受波時刻を正確に検出し,厚み計測を行う.また,各反射波の伝播経路確定に際し,各基本反射波の一次結合係数の値と符号(つまり,位相)を利用し,診断の信頼度を上げることも考えた.最後に,実験により提案システムの有効性を示した.
大阪電通大・木村一郎,服部敦彦,京都工芸大・黒江康明,阪大・加賀昭和
流れの可視化情報計測において,そのおもな計測対象は速度ベクトル分布であり,計測方法として,トレーサ粒子追跡法や,濃度差法,相関法などが報告されている.
しかし,トレーサ粒子追跡法ではトレーサ粒子の存在しない領域での情報の欠落,そして濃度差法や相関法では,時間的対応の誤りに起因する過誤ベクトルの発生という問題点を抱えている.
そこで本報告では流れの条件式を内在したニューラルネットワークを用いて,速度ベクトル分布の画像計測結果から,流れ場全体の速度ベクトル分布を推定する方法を提案する.これは流れの連続の式を満足する速度ベクトル場をニューラルネットワーク上に構成することにより,任意の場所における速度ベクトルおよび流線を推定する方法である.この方法をPIV(粒子画像流速測定法)システムの性能評価のためにインターネット上に公開されているPIV標準画像に適用することにより,その有用性を定量的に実証する.さらに実験により得られた平板後流の可視化画像への適用例を示す.
千葉大・劉 康志,日立製作所・大橋哲也
サーボ機構は閉ループ系のバンド幅を狭めるなどの望ましくない性質をもつので,サーボ系を設計するときは可能な限り少ないサーボ機構でサーボ機能を実現することが望まれる.このために,制御対象の既知の構造を活用することは重要となる.
本論文では,三角構造をもち,しかも,各非零ブロックがノルム有界型の不確かさを有するプラントについて,目標値へのロバスト漸近追従問題を考える.ここでは,より低次のサーボ機構でロバスト漸近追従を実現するために,プラントの三角構造を生かせる分散制御構造が用いられている.この分散制御構造のもとで,ロバスト漸近追従のための必要十分条件が導出されている.得られた条件に基づいたサーボ系設計では,内部モデル原理を直接用いる場合より,次数の低いサーボ機構が構成できる.
Hiroshima University・Yuki HASHIMOTO, Hiroshima Prefectural University・Hansheng WU, Hiroshima University・Koichi MIZUKAMI
The problem of adaptive robust stabilization for a class of uncertain single-input and single-output (SISO) nonlinear systems is considered. It is assumed for the uncertainty to be bounded. The bound, however, may be unknown. Based on Lyapunov method and input/output linearization approach, adaptive control laws are developed so that no prior knowledge of the bounds on the uncertainties is required. By updating these upper bounds, we desgin a class of continuous state feedback controllers. It is shown that under the proposed controller with adaptive laws the states of the controlled system converge to zero as time approaches infinity. Because of its continuity, our continuous controller can guarantee the existence of the solution to the dynamical system in usual sense. Finally, a numerical example is presented to demonstrate the effectiveness of the approach developed in this paper.
都立大・渡辺隆男,安田恵一郎
現実のロバスト制御系設計問題においては非標準H∞制御問題として定式化される問題が数多く存在する.積分型ロバストサーボ系の設計問題はその代表的な問題の1つである.この問題に対しては近年多くの研究が行われ,標準H∞制御問題に変形する間接的な解法が知られている.その場合,制御対象の分離や求解後の補償器の修正および最小実現による低次元化を要する場合があり,設計が複雑となる.また,元問題とは若干異なった標準問題の解を用いる場合もある.
本論文では,混合感度問題による積分型ロバストサーボ補償器の設計問題を,外乱の次元よりも多次元の観測出力を有する一般化制御対象の非標準H∞制御問題として定式化し,非標準問題固有の特徴を活用した新しい設計法を提案する.また制御対象がjω極をもたない場合ともつ場合について考え,直接的な解法を与える.本設計法はAREの解を用いる手法に基づいており,一般化制御対象と同一次元の補償器を中心解とする積分型ロバストサーボ補償器のクラスを陽に与えているところに特徴がある.また,元問題と異なった問題を解いたり制御対象の分離や補償器の修正を行う必要がないこと,および制御対象がjω極をもたない問題ではAREの疑似安定化解を求める必要がないこと等も本手法の重要な特徴である.
上智大・武藤康彦
インタラクタとは線形多変数系の無限零点の別表現とも見なせる多項式行列である.また,状態フィードバックによる逆インタラクタ化手法により,閉ループ系の入出力構造をインタラクタの構造としてとらえることができるので,種々の非干渉化,外乱分離,モデルマッチングなどにおいて利用価値が高い.インタラクタは本質的には構造アルゴリズムと等価であるが,フィードバックに対するsystem invarianceとしての多項式行列のすべての集合を与えている点が異なる.このため,この集合から自由パラメータを利用して制御系に適したインタラクタを選ぶことも可能であり,特に未知プラントに対する安定インタラクタのパラメトリゼーションが可能であることは多変数適応制御系のための事前情報として欠くことのできない性質でもある.
近年,微分幾何学的手法によりaffine型の非線形系に対する議論がさかんに行われている.特に,入出力線形化を中心とした制御問題では非線形構造アルゴリズムを用いて,線形系と平行した多くの結果が得られている.このことは,線形系において,構造アルゴリズムと等価で,それ以上の情報を含むインタラクタが非線形系においても同じ意味で有用となりうることを示唆している.本論文の目的はaffine型非線形多変数系に対してインタラクタを定義し,このインタラクタを通した非線形系の解析や制御系設計が可能であることを示すものである.特に,線形系においてインタラクタがもっている多くの性質がほとんどそのまま非線形系においても成立することが示される.
Tottori University・Yoshifumi OKUYAMA, Hong CHEN, Fumiaki TAKEMORI
This paper describes a graphical evaluation of the robust stability in a frequency domain based on the results from our previous papers in which Popov's criterion was expressed in an explicit form. The control system described herein is a feedback system with one time-invariant nonlinear element (a sector nonlinearity) in the forward path. Considering the application to a computer-aided control system design, we will present an evaluation method of the robust stability in connection with the size of sector nonlinearity and the gain margin on a gain-phase diagram (i.e., a modified Nichols chart). We will show two results as numerical examples: one is where Aizerman's conjecture was approved, and the other is where it was not.
神戸大・藤崎泰正,段 一然,阪大・池田雅夫,神戸大・福田美佐子
制御理論では,伝達関数や状態方程式など対象システムの数式モデルに基づき,種々の数学的手法を利用した合理的な制御系設計の枠組が確立している.しかし,このことは,合理的な制御系設計のために,伝達関数や状態方程式などが不可欠であるということを意味しない.対象システムが生成しうる入出力データは,そのシステムのダイナミクスにより抱束されている.この事実に基づき,適当なだけ集めた入出力データから直接操作入力を求めるような,入出力データ空間での閉じた取り扱いによる合理的な制御方式があれば,それでよいはずである.
このような観点から,本論文では,入出力データ空間におけるシステム表現を提案する.そして,そのシステム表現に基づいて,いくつかの最適制御問題が取り扱えることを示す.その1つは,ある与えられた目標となる振舞いに,2次形式評価関数の意味で最も近い振舞いを,入出力データから直接計算するものである.それは,有限時間最適レギュレータ問題を含む.もう1つは,ある与えられた目標となる振舞いに有限時間で一致する振舞いの中で,2次形式評価関数を最小とするものである.それは,最適有限整定制御を含む.
琉球大・上里英輔,阪大・池田雅夫
近年,種々の制御系解析・設計問題が線形行列不等式(LMI)に帰着され,その解を求めることによって解かれるという形が定着してきた.ディスクリプタシステムの安定条件についても,最近は安定化法への展開が容易なLMI型のものがよく用いられるが,それらは等式制約を含む条件であるため,解の存在性の確認が困難になる場合が多い.本論文では,ディスクリプタシステムに対する安定条件を,等式制約を含まないLMI条件として与えている.そして,それに基づいて,ディスクリプタ変数の線形フィードバックによる安定化可能条件をLMI条件として与え,安定化フィードバックゲインはそのLMIの解を用いて計算できることを示している.さらに,係数行列にポリトープ型の不確かさを含むシステムのロバスト安定化問題への応用を考えている.そのために,閉ループ系がロバスト安定性に関して等価で,ディスクリプタ変数の微分の係数行列には不確かさを含まない拡大システムを考える.そして,もとのシステムに対するロバスト安定化可能条件をLMI条件として導き,安定化法を与えている.
東工大・岡林亮爾,古田勝久
本論文では,古くから知られた難問である線形システムに対する動的補償器による極配置問題(動的極配置問題)に対し,新たなアプローチを提案する.本手法は近年Rosenthal and Wangによって提案された手法とは異なり,補償器として線形関数観測器の構造を前提とすることにより,動的補償器の構成問題を静的出力フィードバック極配置問題(静的極配置問題)に帰着させるものである.この結果,静的極配置問題に対して近年提案されたWangのアルゴリズムが動的極配置問題に対しても直接適用することが可能となるとともに,任意極配置を達成するための観測器(補償器)の次数条件が容易に導かれる.更に同様の手法は双対観測器に対しても適用でき,その結果,動的補償器としていずれかの観測器の構造を仮定した場合の次数条件が自然に導かれる.この条件はRosenthal and Wang の結果と較べて見通しがよく,またある穏当な仮定のもとで両者は同じ最小次数を与えることが示される.
長岡高専・外川一仁,長岡技科大・小野塚保,川谷亮治
ループ整形設計法(LSDP)は,ロバスト制御器を設計するための有力な一手法である.しかしながら,そのアルゴリズム上,通常使用される中央解が高次となりやすい.本論文では,LSDPにおける基本問題の解集合の中に定数出力フィードバック制御器が含まれる可能性を議論し,そのための自由パラメータに対する条件を示した.この条件を満たす制御器が存在する場合,その次数は拡大系を構成する際の重み伝達行列と同じ次数のみをもつ.得られる制御器は,LSDPの解集合に含まれているので,中央解と同等のループ整形性能が保証される.このような低次の制御器は,平衡化打ち切り法などの低次元近似法では一般に得られないものである.
得られた結果の有効性を検証する目的で,両端単純支持された柔軟ビームのロバスト振動制御問題に本設計手法を適用した.3次振動モードまで考慮した設計モデルに対して,2次の重み伝達関数を用いた場合,その中央解は10次となるが,本設計手法を用いると2次の制御器が得られる.そして,その制御器が中央解とほぼ同等の性能をもつことをシミュレーションならびに制御実験により確認した.
東京理科大・矢島尚人,黒川一夫
ここに提案する設計法は,制御対象が振動性をもたない定位性高次遅れ要素とむだ時間要素からなる系に対する制御系設計法である.制御対象の同定法として,周波数特性に着目し,多重1次遅れ要素の次数を実数で表す実数次遅れとむだ時間系という近似系に同定する方法を示す.この仮の近似系を制御する補償器は,1次の積分要素と多重零点,多重極を持つ位相進み遅れ要素で構成しており,この位相進み遅れ要素の次数もここでは実数として取り扱う.この補償器を実用するために,補償器の特性をインパルス応答で表現することを試み,Γ関数を用いた級数展開で得られることを示す.このインパルス応答と偏差信号とでたたみ込み和を行うことで操作量を算出する.このたたみ込み和の演算量は,一定量の積和計算から実行できることから十分実用可能であること,さらに実際の制御時に用いる適切なサンプリング時間の選び方の目安についても述べる.共に実数で表した補償器と近似系で,周波数特性と目標値応答シミュレーションから試行錯誤により補償器パラメータの最適調整を行う.設計例をとおし本制御方式の有効性を示す.
大阪工大・加瀬 渡
本論文では,Wolovichによって提案された多項式行列の割算アルゴリズムを拡張する.このアルゴリズムは,制御対象の状態表現を利用したものであり,多項式行列の演算を制御対象の状態表現を利用して計算する上で有用なものである.Wolovichの論文では,任意の多項式行列を正則で列プロパーな多項式行列で形式的に割算した場合の商と剰余を求めるアルゴリズムが示されている.それに対し,本論文では任意の多項式行列を伝達関数行列で乗算した場合の商と剰余を求める方法を示す.制御系の解析や設計では,必ず伝達関数行列があらわれるので,本論文で提案する割算のほうが,より制御系解析および設計に密着しているものと考える.また,このアルゴリズムを利用して,すべての安定化制御器のパラメトリゼーションの別表現を導く.
東工大・松野文俊,富士ゼロックス・高野高史,田中美和子
宇宙開発の進展に伴い,大型宇宙構造物のモデリングと制御の研究が盛んになされてきた.大型宇宙構造物は,軽量化された構成要素を宇宙空間において組み立てることにより構築される.したがって,その結合部には不確定な柔らかさが存在する.大型宇宙構造物は,構成要素のもつ分布的な柔軟性と結合部分のもつ集中的な柔軟性をもつことになり,外乱により容易に振動が励起される.
柔軟構造物の振動抑制制御においては,剰余モードや物理パラメータの不確かさに起因するスピルオーバ不安定性を補償する制御系設計が重要である.そのために,無限次元であるシステムを有限近似し,不確かさを考慮したロバストな制御系設計を構成することが提案されている.しかしこのような設計は,分布定数系としての性質がすべて反映されているわけではなく,また得られたコントローラは次数が大きくなり,宇宙における実装に向かない.したがって,実装が容易でロバストな制御系設計が望まれる.
本論文では,構成要素と結合部に柔軟性をもった大型宇宙構造物の最も簡単な例としてバネ結合された2本の柔軟なビームについて考える.まず,ハミルトンの原理を用いて動特性方程式を導出する.次にシステムがもっている分布定数系の特徴をいかし,リアプノフの方法を用いて,センサ出力の直接フィードバック制御法を提案する.不変原理と偏微分作用素の性質を用いて,分布定数系としての閉ループ系の漸近安定性を証明する.
最後に,提案する制御系の有効性を検証するために実験を行う.また,結合部の集中的柔軟性や構成要素の分布的柔軟性の不確かさに対する提案した制御則のロバスト性を実験的に検証する.
三菱電機・今井祥人,三宅英孝,竹下光夫,尾藤浩司,東工大・Vichai SAECHOUT,中野道雄
放電加工は非接触加工であるため,切削加工のように大きな加工反力は発生しないと思われがちである.ところが電極面積が大きくなると,加工液の粘性や放電により発生する気泡に起因する力により,放電加工機に大きな機械変形が生じる場合がある.その場合,指令した加工深さよりも浅く仕上がるので,所望の加工精度を実現するためには追加工が必要となっていた.
本論文では,この問題を解決するために従来の放電加工機の制御系に外乱オブザーバを付加し,推定した機械変形量により加工深さ指令値を補償する新しい制御系を提案した.モード解析により放電加工機の機械系をモデル化し,そのモデルを用いて加工反力をステップ状外乱とみなし,外乱オブザーバを設計した.シミュレーションおよび実加工にて,設計したオブザーバにより機械変形量を良好に推定できることを確認した.さらに,提案する制御系により,実際の多段加工において従来の制御系で発生していた数十〜数百 μmの加工深さ誤差を数 μm以下に改善することができた.その結果,追加工を不要にし,約40%の加工時間短縮を実現した.
三菱重工・大野正博,山口恭弘,畑 剛,高浜盛雄,航技研・宮沢与和,NASDA・泉 達司
小型自動着陸実験(ALFLEX: Automatic Landing Flight EXperiment)は無人の有翼宇宙往還機HOPE(H-2 Orbiting PlanE)の自動着陸技術の確立を目的とした実験プログラムである.1996年7月から8月にかけて,豪州Woomera飛行場にて合計13回の我が国初の自動着陸飛行実験を実施し全実験を成功し終了している.
ALFLEXの飛行制御則は無人無推力,チップフィン形態という特殊性から,より厳しい応答性とロバスト性を同時に必要としている.この応答性とロバスト性を実現するために,ロバスト性を考慮した右半平面に零点を有しない制御量の選定を行った.また,MDM/MDP(Multiple Delay Model and Multiple Design Point)法により多数の飛行状態においても無理のない応答特性を設定し,これを基本の応答特性としH∞EMM(H∞control design method combined with Exact Model Matching)法により感度特性と相補感度特性のトレードオフを実施することによりロバスト化を行った.
設計した制御則は,構造連成振動や空力係数の不確定性を含む制御対象の特性変動に対しても十分ロバストであることを飛行試験により確認した.
岩手大・恒川佳隆
本論文では,FADDEEVAアルゴリズムを用いて処理を高度に並列化した,滞在時間最小型カルマンフィルタのアーキテクチャを提案する.滞在時間は,フィードバック制御系のシステムにおいて安定性を損なうという問題を生じる.提案するアーキテクチャにおける滞在時間の最小化は,カルマンフィルタのパラメータ計算の並列化,FADDEEVAアルゴリズムの並列化,さらに演算レベルの並列化,そしてFADDEEVAアルゴリズムにより逆行列計算を短時間で計算することにより行われる.また,データの流れが非常にスムーズであり,タイミング調整が不要であることも滞在時間を最小にしている大きな要因である.滞在時間を比較すると,次数1000に対してシストリックアレーは3.00[msec],DSPは154.05[sec]であるのに比べ,提案するアーキテクチャはわずか153.2[ μsec]と非常に小さい.また,構成は非常に単純・規則的であり,わずか9種類の処理ブロックで構成可能である.そして,異なる次数に対しても処理ブロックを構成する基本モジュールと乗・除算器を規則的に追加・削除するだけで対応することができるため,VLSI実現に非常に適している.
豊橋技科大・橋爪 進,松谷 豊,名大・小野木克明,東邦大・西村義行
半言語はペトリネットの並行的な動作を正しく表現することができる.著者らはこれまでに,仕様として半言語が与えられたとき,それが表す動作のみを行うような条件/事象ネット(ペトリネットの1つのサブクラス)を構成する問題を定式化し,それに関する考察を行ってきた.大規模なシステムを記述するにあたっては,それを各レベルごとに適当な細かさで記述することが望ましい.本論文では,離散事象システムの望みの動作が階層表現された仕様として与えられたとき,その動作を行うような条件/事象ネットの構成法を提案する.そのために,まず初めに仕様を階層的に記述するための表現方法について検討し,半言語における詳細化とは1つの事象をいくつかの半語で置き換えたものであると考え,これに従って階層化半言語なる概念を定める.つぎに,階層化半言語はどの事象を置き換えるかの順序に依存せずにただ1つの詳細化された半言語に変換できることを示す.そして,階層化半言語が仕様として与えられたとき,その詳細化された半言語が表す動作のみを行うような条件/事象ネットを構成する問題について考察し,この問題の解が存在するための1つの十分条件を明らかにする.また,この構成問題の1つの解法を提案する.
福井大・金 珍祐,アンリツエンジニアリング・猪股 宏,福井大・岡崎耕三,阪大・田村進一,京大・鳥井清司
従来のオプティカルフローは2次元画像での見かけの動きの算出である.トレーサーなどを流体中に混入しないでコンピュータビジョン的手法により見えない部分を含む3次元速度場推定はなされていないばかりでなく,従来法では不可能であった.本稿においては流体の境界と流路条件の知識の条件の下での全く新しい手法である物理モデルに基づく3次元オプティカルフロー推定法を提案する.オプティカルフローはナビエストークス方程式の拘束条件を用い,更に推定データと観測データの差異を拘束条件とし,各項の誤差2乗和の最小値をオイラーの方程式により求めることにより得る.本手法を検証するためシミュレーションデータを用い,人工的にオプティカルフローに欠落データを作って本手法を適用することにより欠落部分の修復が可能であることを示す.次に観測可能な表面流および境界条件の知識を用いて画像処理的手法により,観測不可能な部分も含めて3次元オプティカルフローが求まることを示す.
岩手大・大坊真洋,田山典男,岩手県工業技術センター・長谷川辰雄,南幅留男
この論文では,工業製品の欠陥検出のためのX線CT(計算機断層法)の新しい方法を述べる.われわれが提案する高速モデル再構成CT法は,2つのアイディアからなる.第1は順問題として,標本化定理に則した平面で,2次元のsinc関数をX線の経路に沿って線積分したことである.第2は逆問題として,線形逆問題を打ち切り特異値分解で解いたことである.われわれのアルゴリズムは,高速計算に好都合である.なぜならば,画像ベクトルは,疑似逆行列(一定)と投影データベクトルとの,単純な行列の掛算で得られるからである.これは,マルチプロセッサーによる並列計算とも整合性が良い.標本化定理と特異値分解を組み合わせたことにより,それぞれ補間と最小二乗による最適化が働き,少ない投影データからでも滑らかな画像の再構成が可能である.
マイクロフォーカスX線テレビにより収集した投影データから,再構成した断面画像の実験結果を示す.さらに,現実的な打ち切りランクについて,分解された特異ベクトルの画像化や,特異値の分布を示しながら議論する.
三菱電機・中川隆志,北村雅司,仲谷善雄,関西電力・楳田義一
大規模システムの高信頼化には,携わる人間の信頼性をいかに確保するかが重要であり,これは運転の領域だけでなく保守・保全の領域でも同様である.筆者らは,原子力発電所の保守設備インタフェースを設計段階で様々な指標に基づく評価・分析を行う手法を構築し,これをシステム化したDIASシステムの開発を行った.本論文では,設備インタフェースの評価手法について報告を行う.評価手法の特徴としては,操作員の行動を再現するシミュレータ,設備のマンマシンインタフェース機能を再現するシミュレータにより設計中のマンマシンインタフェースと操作員との動的な相互作用を再現し,これをもとにして,THERPを用いた人的過誤率の算出と,動線移動経路・経緯,注視点移動経路・経緯,視野状況,類似盤面選択エラー危険度等の算出を行う.この手法を実際の発電所の変圧器保護リレー盤の盤面機器配置,室内レイアウトに適用し,本手法の有効性を確認した.
東大・小山佳宣,古田一雄,近藤駿介
本論文は,プロセス制御を適用対象として,プラント運転員の操作意図に基づいて適切な情報表示を提供できる知的ヒューマンマシン・インタフェースの概念を提案するものである.運転タスクの目標階層において推論された運転員の意図を用いて,表示画面の特定化情報チャンネルに提示する画面の表示形態を選択する.提案した概念をDURESS(2重水槽系シミュレーション)プラントに適用し,インタフェース設計の評価のために実験を行った.その結果,作業成績の点で意図推論に基づく画面自動選択方式が手動選択方式よりも優れており,本研究で提案した知的インタフェースが運転支援に有効であることを示す結果が得られた.
都立科技大・齋藤 宏,児島 晃,石島辰太郎
フィードバック制御により安定な制御系を構成する場合,制御器の初期状態など設定に自由度が残されることが多い.そして,これらの値は過渡応答と関係しているので,印加される目標値に応じて適切に決定できれば,より好ましい応答が達成できると期待される.
本稿では,初期状態の一部に設定の自由度がある制御系について考え,初期値の設定と発生可能な出力の関係を考察した.そして発生させたい出力波形を任意に定めたとき,これに最も近い自由応答を発生させる状態の設定法を与え,また設定時刻を一般化した結果が同様に導かれることを明らかにした.つぎに数値例を用いて,サーボ系に含まれる積分器の状態設定と過渡応答の関係を調べ,1)応答改善の効果は内部状態の設定時刻に依存すること,2)要求する応答波形に応じて,最も適切な設定時刻が存在すること,を示した.
本稿で用いた手法は,制御器の状態を複数回変更する場合にも適用可能であり,また予見補償入力の設定に用いることができる.
阪大・池田雅夫,神戸大・松本純明,和歌山大・● 貴生,神戸大・藤崎泰正
本論文は,大規模システムを対象に,サブシステムごとにフィードバック制御を施して,閉ループ全体システムを安定化する分散安定化問題を考えている.分散制御はシステムの運用を分散で行おうというものであるが,従来の研究では,制御系設計も分散で行ってきた.それに対して,本論文では,制御系の設計には分散アプローチを採っていない.結合を含む全体システムが分散安定化可能であるための双線形行列不等式 (BMI)型の必要十分条件をそのまま用いている.そして,そのBMIの解法として,ホモトピー法の考えを適用している.すなわち,対象システムである大規模システムを,結合のないものから与えられた結合を持つものまで徐々に変形しながら解を求めている.BMIを解く有効な方法が確立していない現状では,この方法が有用であることを報告している.