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[論 文]
[ショート・ペーパー]
日産・高橋 宏,黒田浩一
カメラやレーダなどの複数のセンサによって走行環境を検出し,適当な制御特性を選択する自動車制御システムに着目する.各センサ信号を空間軸とする空間内のベクトルとしてセンサ情報を表現し,前記ベクトルから制御のための内部変数を空間軸とした空間内のベクトルへの写像として情報融合を位置付ける情報空間変換型のセンサフュージョンを提案する.宣言型の関係記述で表現された階層型ファジィ積分を変換写像に適応することにより,センサフュージョン設計の煩雑さを回避した.さらに,ドライバ個々の走行環境に対する認識特性をアフォーダンスに対する知覚感受性ととらえ,ドライバ操作からλ−ファジィ測度を変化させることによって実現した.車両への適用をシミュレーションと実車実験によって評価し,基本的な適用手法としての妥当性を見出した.
NTTデータ・宮崎早苗,中川 透
従来から多くの可視・近赤外画像解析では,DN値(Digital Number;生の数値データ)を特徴量とした画像解析が行われてきた.本研究では,撮影環境の時空間変動に対するロバスト性向上をめざし,観測対象の反射率を特徴量とする解析手法を提案し,特徴量となる反射率を,衛星画像から放射伝達理論に基づいたモンテカルロ・シミュレーションによって合理的かつ精度よく推定する方法について詳しく述べた.また,手法の基本性能を明らかにするために,地形が複雑で陰領域が存在する,撮影環境が異なるLandsat TM画像から本手法を用いて反射率の推定を行い,推定した反射率を特徴量とした土地被覆分類実験を行った.その結果,本反射率推定法により得られた反射率は,DN値と比較すると,太陽の高度や地形の影響といった撮影環境の変動に対してロバスト性の高い特徴量であることが明確になった.また,推定した反射率を特徴量とした土地被覆分類実験を行った結果,反射率を特徴量とした場合の分類結果は,環境変動の影響を受けにくいことが確認できた.
倉敷紡績・小足克衛,重田修作,横田 博,木村雅昭
本報はライン用赤外線ゲージの測定方法と装置に関する.新規の技術のポイントはつぎの3点である.
(1) 光学干渉縞を生じないP偏光・偏光角入射法
(2) 延伸フィルムの赤外二色性効果を相殺する定量モデル
(3) サンプルの角度変動の影響を低減する光学系
赤外線ゲージは製造ラインで広く利用されてきたが,適用は比較的厚いフィルムの測定に限定されていた.薄い延伸フィルムに対しては,その赤外スペクトルは,薄膜に特有な干渉現象による強度変調を受け真のスペクトルが得られない.またフィルム厚さが同じであっても分子鎖の配向度によって赤外吸光度が変化する二色性効果によって厚さと吸光度の関係が一義的に定まらない不都合がある.これらの問題をP偏光・偏光角入射方式とP行列法の数学モデルで解決する.斜め入射の光学系のサンプルの角度変動の影響を受けやすい欠点は,偏光角入射・2回透過型の光学系で解決する.しかも,サンプル内の実質光路長は,サンプル厚さの2.4倍となるため,薄膜サンプルに対して有効である.また光源部と検知部の一体構造は,ラインへの取り付けやセンサヘッドの走行機構がシンプルに構成できる.
NTT・吉田浩隆,米田克哉,鉄矢 仁
通信用電柱などの設置には,地下設備輻輳地域などの特定箇所を除く大部分のエリアで,穴掘削機械(アースオーガ)が使用されている.しかし,掘削対象とする地下2mの範囲には,通信,ガス,電気,水道などの地下管路設備が埋設されている場合があり,工事中にこれら埋設管を破損することなく感知できる技術が望まれている.
本論文は,アースオーガを用いて穴掘削を行う際の地中物体センシング方法について述べたもので,アースオーガ先端部に特殊な形状のケーシングと加速度センサを装着し,穴掘削中における軸上下方向の加速度変化を監視することにより,地中物体との接触を検知できること,加速度信号の周波数領域情報(スペクトルパターン)から接触物体が埋設管か他物体(石,礫)なのかを判別できることを明らかにした.また,本センシング技術を用いた埋設物破損防止ユニットを試作し,実フィールドで適用可能なことを確認した.
Tsukuba Univ.・Harumi KAMADA and Nobuharu AOSHIMA
近年ウェーブレット解析は,多くの数学者,物理学者,工学者たちの手によって研究がなされている.しかし,研究の対象はそのほとんどがディジタル処理に限られており,アナログ処理においてその数学的手法や構成法を論じたものはあまり見られない.
そこで本論文では,アナログ複素1次系をカスケード接続することにより,アナログフィルタリングでガボール変換を行う手法を提案する.
前半部では,カスケード接続された複素1次系のインパルス応答を中心周波数と実効的な窓関数の積とみなす.その窓関数部分が,近似的にガウス関数になることから,全体的な応答がガボール関数になることを証明する.
後半部では,提案した理論にもとづいて実際にフィルタを製作し,理論値との比較を行っている.製作したフィルタの特性が十分なものであるかどうかは,今後の研究課題であるが,提案した手法の理論を裏付けるものである.
計量研・小畠時彦,大岩 彰
近年,産業各分野において,より高精度な変動圧力測定への要求が高まっている.そのためのさまざまな圧力センサ,計測器がつぎつぎと開発され,圧力計測の現場で用いられてきている.しかしながら,変動圧力の測定方法,圧力計の動特性評価法などの“共通”の技術基盤は確立されているとはいえない状況である.
現在,計量研究所では回転バルブ型の変動圧力発生装置を用いて高精度で変動圧力を発生する技術を開発中である.本手法を用いる目的は,校正可能な変動圧力の振幅・周波数の限界範囲の拡大ではなく,むしろ,実際に負荷圧力を加えられたセンサの特性を高精度に評価できるより実用的な校正技術の確立にある.今回,新たに製作した装置では従来とは構造の異なる回転バルブを用いる.本論文では,開発したバルブの動作原理,試作した発生装置について詳しく述べる.また,予備実験として,本装置により圧力差5kPa,発生基本周波数が1Hzから100Hzの矩形変動圧力を発生させ,半導体圧力センサによって測定した結果について示す.
実験で得られたデータから,供給した2つの圧力の差と平均に対応する電圧,またringingの振幅に対応する電圧を各発生周波数ごとに求め,以下の結果を得た.
(1) 各周波数におけるそれぞれの値の標準偏差は,供給した圧力差(5kPa)に対応する電圧のおよそ0.5%未満であり,繰返し性の良い実験結果が得られた.
(2) 供給した2つの圧力差に対応する電圧の変化量は40Hz以下の範囲で1%未満,50Hz以下では3%未満であった.
(3) 供給した2つの圧力の平均値に対応する電圧の変化量は40Hz以下の範囲で1%未満,50Hz以下で2%未満であった.
以上は使用したセンサとアンプの特性を含めた結果であるが,50Hzまでの周波数範囲ではほぼ一定の振幅と平均値をもった矩形変動圧力の発生が可能であることを示した.
茨城大・湊 淳
本論文ではカオス信号の自己相関性を利用したレーザ遠隔計測手法の提案を行う.カオス変調されたレーザ光は,大気中を伝播し散乱体により後方散乱される.望遠鏡により集光した散乱光とカオス変調されたレーザ光のパワーモニタ信号を同時に記録する.カオス信号の自己相関がデルタ関数に近い性質を利用すると,パワーモニタ信号とレーザレーダ信号の相関関数は,通常のパルスレーザを光源としたレーザレーダの受信信号に相当する応答関数となる.数値実験を行った結果,実際にレーザレーダ計測が可能であることが明らかになった.
東大・出口光一郎
多数の視点から物体を撮影した複数枚の画像の系列や,移動する対象をとらえた動画像から対象物体の3次元形状を再構成する問題で,カメラの視点位置は未知であり,対象の形状等に関する制約もない場合の手法の1つに,Tomasi-Kanadeらによって導入された因子分解法がある.この手法は,各画像上の対応点の位置を成分にもつ計測行列Wを,カメラまたは対象の運動を表現する行列Mと対象の形状を表現する行列Sの積にW=MSと分解することで,多視点の画像系列から対象形状と各視点の相対位置を同時に求める.
ただし,画像の形成に正射影などの線形近似をすることで,この因子分解は可能になるとされてきた.したがって,正射影近似がよく当てはまる条件下ではよい形状復元が可能になるが,奥行きの大きいシーンの復元では誤差も大きくなることが指摘されてきた.
しかし,実はこのような線形近似を導入せずに,完全な透視投影の元でも,多視点画像系列から得られた対応点の画像座標によって構成される観測行列を,それらの点の空間座標の組と各視点の透視投影行列の組に因子分解することが可能である.本稿ではその理論を示し,さらに,異なるカメラによる多視点画像に対しても有効である画像からの対象形状と運動の同時復元の手法を示す.この手法によれば,画像形成に対する近似を含んでいないので,奥行きのあるシーンや任意のカメラ運動に対しても,正確な形状復元が可能となる.
筑波大・佐々木公男,平田克巳
近方場定常不規則音源の3次元位置推定は,機械工場内などでのロボットの環境認識において重要な問題である.音源の3次元定位に資する従来の研究は,主として発話者の定位を目的としているため,確定的信号を対象とし,応用上不可欠な観測雑音の影響を考慮していない.そのため,観測雑音下での不規則音源定位への適用は困難である.
著者らは,近方場では,従来の検出信号間の相対的時間差の情報に加えて波動の振幅減衰の情報も利用可能なことに着目し,検出器の付加的回転を伴う両耳聴取法による近方場定常不規則音源の3次元位置推定法を提案したが,ロボット系への応用では,検出器を固定する方が簡便である.
そこで,本論文では,3点検出法を導入した定常不規則音源の3次元位置推定法を提案し,その原理と位置推定精度を理論数値解析により検討した.前提条件の明確化の後,同時検出した2組の2点検出信号の自己および相互パワースペクトル解析により,観測雑音の影響を相殺して音源の3次元位置を推定する方法を定式化するとともに,両スペクトルの推定精度に基づき,種々の実際的条件と指定した確率の下で位置推定値が分布する領域を理論数値解析的に評価することによって,提案手法の基本的特徴と有効性を明らかにしている.
計量研・小林正信,坂手弘明,佐久間史洋,小野 晃
測定波長数が112の放射温度計を試作した.32素子のSiリニアアレイフォトダイオードと32素子のGeリニアアレイフォトダイオードを隣接させた複合検出器を用いることにより,0.55〜1.6 μmの広い波長範囲を1つの回折格子で分光した.また,5.3 μmまでの長波長側には48素子のInSbリニアアレイ検出器とLiFプリズムを用いた.これらによって,可視から熱赤外までの分光検出部が2系統のみで構成される,部品数が少なく,かつ機械的動作部分のない光学系を実現した.さらに,112回路の初段増幅器とFETスイッチを用いた電子波長走査により,112波長を最短265 μsで測定可能とした.
温度可変の黒体炉を用いた評価試験により得られた放射温度計の温度分解能は,1052℃で増幅器の時定数を100msとした場合,波長0.55 μmの出力が0.16℃,0.65 μmが0.08℃,1.2 μmが0.09℃であった.また,450℃で同じ時定数の場合,2.0 μmが0.86℃,5.0 μmが0.11℃であった.
長波長側では水蒸気などによる吸収が問題となるため,測定対象と等距離に置き,600℃に保持した小形平面黒体炉を参照放射源として用いた.測定ごとに参照放射源を観測することで,吸収が非常に強い数波長以外では光路吸収を良好に補正することができた.
東工大・初澤 毅,井上尚紀,早瀬仁則,計量研・坂野憲幾
触針式表面粗さ計の校正は,従来,ステンレス片やガラス表面に機械的な加工を行い,これを基に縦軸の倍率校正を行う方法が一般的であった.本論文では,シリコン単結晶の異方性エッチングを応用して,断面曲線が連続三角山形状をもつ基準片を提案し,山の高さを用いて縦方向の倍率校正が,ピッチを用いて横方向の寸法校正が可能な方法を提案している.この基準片では算術平均粗さRa,最大高さRy,局部山頂の平均間隔S等が三角山の高さやピッチに対応しているため,校正が行いやすい.また,ピッチを変えても深さが結晶方位より自動的に決まるので,製作のためのパラメータが少ないという利点も有する.さらに素材シリコンを用いたため,従来の試料よりも硬度が高く,ダイヤモンド触針に対する耐性が高いのも特長である.
ピッチが30 μmから3 μmまでの試料を表面粗さ計で評価した結果,ピッチおよび高さの標準偏差はサブ μmレベルに納まっており,校正基準片として十分な性能をもっていることを確認した.
東工大・大山真司,清華大・曹 麗,東工大・小林 彬
本論文は,囲い込み信号場を用いた位置計測において,ズーム的機能を導入することによって測定精度の向上を目指して検討した結果について述べた.
まずはじめに,計測系を議論する上で基本的な計測方程式からズーム的機能に至る考え方を示した.それによれば,囲い込み信号場のような能動計測系において,計測系の感度を変えることができ,しかも,感度を変更することにより観測量の雑音の大きさが変わらないときにはズーム的機能により偶然誤差を低減できる効果がある.
つぎに,具体的にこの考え方を囲い込み信号場による位置計測に適用する方法を考案した.これは,従来の点灯関数に,新たな操作パラメータとして初期位相と輝度比を加え,これらを適切に変更することにより,所定の位置で所定の感度を得ることができるとともに,この操作を用いて2次元位置座標をズーム的に測定する方法を示した.
さらに,線状光源と光センサを用いた測定実験系を作成してこの効果を確認した.実験では,600×600[mm]の測定領域で設定感度を1から16まで変更して位置座標を繰り返し測定した.その結果,測定値のばらつきに関して,設定感度8では設定感度1のときの約1/5の標準偏差になり,偶然誤差をズーム的機能により低減できることを示した.
岡山大・増田士朗,NTT・岡本 太,岡山大・井上 昭
ハイブリッド適応制御は,連続時間制御則に対し,離散時間でパラメータの調整を行う適応制御手法である.この手法では,連続時間の制御対象に離散時間制御則を用いた場合の不安定零点の誘起などの問題点がなく,また,間欠的にパラメータを更新するので,計算負荷の減少が期待できる.このようなハイブリッド適応制御系の構成法として,Narendraにより,推定誤差の積分値を用いて適応更新を行う手法が提案されている.しかし,サンプル点(適応更新時刻)間の信号の積分値を計算する必要があるため,計算負荷の軽減には限界があった.それに対し,板宮らは,積分型評価ではなく正規化された同定誤差の最大値を用いる演算時間の少なくしたハイブリッド適応制御系を構成した.しかし,同定誤差の最大値を計算するためにはサンプル点間のすべての点における同定誤差を計算し,その最大値を求める必要がある.そこで本論文では,ハイブリッド適応制御系の制御パラメータの更新に,サンプル点での回帰ベクトルと正規化された推定誤差のみを用いる手法を提案する.一般には,サンプル点の信号値のみ用いて適応更新では,応答の劣化や不安定化を引き起こすが,本論文では固定補償要素を導入し,ハイブリッド適応制御系の安定性を証明する.なお,本論文の有効性は,数値例を用いて示されている.
名古屋大・佐野滋則,尾形和哉,大同工大・藤井省三,名古屋大・早川義一
近年,ロバスト制御のための同定を行うための手法は数多く提案されている.そのような手法の中でセットメンバーシップ同定法を用いた手法がある.これらの手法において,パラメータは時不変な定数であるとしている.したがって,実際のパラメータが時変である場合や非構造的な不確かさがある場合には十分に対応することができない.本稿ではセットメンバーシップ同定法の「モデルのパラメータが時不変である」という仮定を取り除くことを目的とする.そこで,1サンプルの間のパラメータ変動の幅の上界が既知であるという仮定の下で,「得られたパラメータの集合の中のあるパラメータ(時変であるかもしれない)によって,各時刻における入出力関係が説明できる」という意味でデータに適合するモデルを求めることを考える.そのようなパラメータ集合は無数にあるので,そのようなパラメータ集合の中で集合の大きさが最も小さくなるものを求める.そこでノミナルモデルが既知である場合と未知である場合の双方について問題を定式化し,アルゴリズムを与える.最後に簡単な例を用いて結果を考察する.
九州大・内山剛志,今井 純,和田 清
ロバスト制御理論の発展に伴い,ロバスト同定に関する研究が近年盛んに行われている.ロバスト同定は,数式モデルとして正確に把握できない部分,もしくは環境によって変動する部分をプラントの不確かさとして認め,それをH∞ノルムの基準で評価するものである.時間領域におけるZhou and Kimuraの研究ではデータ数の有限性により生じる高次の不確かさのインパルス応答列をCarathe´odory-Feje´rの定理により補間し,不確かさのH∞ノルムの上限を最小にするようなノミナルモデルの推定手法を提案している.この手法ではモデルの分母の係数は既知としているが,実際にはこのような仮定は成り立たず,何らかの方法で分母の係数を推定しなければならない.
本論文では,まずToeplitz行列の性質を用いて漸化式を導き,分母と分子における反復計算により不確かさを最小にする推定値を求める手法を提案する.つぎに雑音を考慮していないロバスト同定手法に対し,外乱としてシステムに付加する観測雑音が推定値にどのような影響を及ぼすかを数値的に検討する.さらにその影響を軽減する方法として1)適当な入力を用いる方法,および2)最小2乗法で推定したシステムのインパルス応答列を用いる方法について考察する.また数値例により,これらの手法は観測雑音が付加した場合も低周波数域におけるゲイン特性に関して有効であることを確認する.
和歌山大・安田一則,神戸大・能宗文子
実パラメータに不確かさのあるシステムを表現する際,ディスクリプタ方程式は状態方程式よりもパラメータの不確かさを厳密に評価することができるため,ディスクリプタシステムを対象としたロバスト制御について多くの研究がなされている.
本論文では,ディスクリプタ変数の微分の係数行列が非正則でかつ不確かさをもつ一般的なクラスのディスクリプタシステムを対象に,外乱減衰ロバスト安定化する問題を考察している.まず,このようなシステムがディスクリプタ変数の静的なフィードバックにより外乱減衰ロバスト安定化可能であるための十分条件と,安定化のためのフィードバックゲインを導いている.つぎに,出力フィードバックにより外乱減衰ロバスト安定化可能であるための十分条件と,動的な出力フィードバックコントローラを導いている.ここではコントローラが状態方程式で与えられているので,プロパー性が保証されている.また,ここで得られた条件は,状態方程式に対する結果や不確かさをもつディスクリプタ方程式に対するこれまでの結果を特別な場合として含んでおり,この意味で従来の結果の自然な拡張になっている.
上智大・申 鉄龍,武藤康彦,田村捷利
最近未知パラメータを有する非線形系に対して,バックステッピング設計法による適応制御系の構成法が注目されているが,線形系のロバスト適応制御のように,設計モデルにおける不確かさに対する対策はあまり議論がなされていない.この論文は,モデルの不確かさが状態の非線形摂動として表現されるシステムに対して,適応機能を有するロバスト制御系の一構成法を提案する.まず,レギュレーション性能のみを考える場合の適応ロバスト補償器の構成法を示し,つぎに,外乱抑制仕様として設けるL2ゲイン条件を考慮したレギュレーション問題を考える.本稿では,相対次数1の場合のみを扱うが,相対次数が1以上の場合への拡張も容易にできる.また,本論文で考える不確かさはマッチング条件を必要としないところが特徴である.
京大・十河拓也,足立紀彦
連続時間線型システムを一定の有限時間区間上で考えるならば,その伝達関数が不安定零点をもつ場合でもその逆システムに発散する変数は生じない.しかしながら,そのサンプル値系を有限時間区間上で考える場合は発散する変数が生じるかどうかは明らかではない.なぜなら,サンプル周期を短くすればサンプル点の数が増大し,離散時間システムが発散する可能性が考えられるからである.本論文では,伝達関数の相対次数が0または1の場合に0次ホールダを用いたサンプル値系の逆システムを考えれば,発散する変数は生じないことを示す.また,この性質はサンプル値系の零点の安定性に依存しないことも明らかにする.さらに,この結果はディジタル反復制御系を出力のサンプル点における誤差を最小化するアルゴリズムとして定式化することの妥当性も保証していることを示す.
阪府高専・土井智晴,阪府大・大須賀公一,小野敏郎,長岡技科大・川谷亮治
外乱オブザーバとは入力に加わる外乱を操作量と出力および制御対象の逆システムを用いて外乱を推定し相殺するオブザーバである.しかし,このような外乱オブザーバ設計法の多くは安定系に対する外乱除去を主眼としたものであり,閉ループ系のロバスト安定性を考慮した設計法でないことが多い.また,制御対象にステップ的に加わる外乱のみでなく,制御対象のパラメータ変動をも推定し相殺できるとも示されている.
そこで,本研究ではステップ外乱とパラメータ変動外乱とを区別して扱うことにより,閉ループ系のロバスト安定化を2次安定性により考慮した2次安定化問題を考え,そのようにして得られたコントローラが外乱オブザーバを内包した2次安定化コントローラであることを示す.そして,本コントローラおよび従来法による外乱オブザーバのロバスト安定性を考察する.最後に磁気浮上系に本コントローラを適用し,その有効性をシミュレーションにより確認する.
神戸大・金 英福,阪大・池田雅夫,神戸大・藤崎泰正,小林真樹
本論文では,2自由度積分型サーボ系のロバスト安定性に関して,状態が直接測定できず,オブザーバを用いて状態を推定する場合において考察している.そして,2自由度積分型サーボ系に,積分補償の効果を調整するゲインに独立なロバスト安定性があることを示している.すなわち,制御対象の不確かさがあるリアプノフ不等式条件を満たすとき,ある形の任意の積分補償ゲインに対して,制御系がロバスト安定であることを明らかにしている.つまり,積分補償ゲインの大きさに独立に制御系の安定性が保たれるための,制御対象の不確かさの許容範囲をリアプノフ不等式を用いて与えている.
このロバスト安定性の結果は,定常状態への到達を早める効果があると期待される積分補償のハイゲイン化を,制御対象の不確かさのもとで可能にする.そこで,そのハイゲイン化の極限における制御系の過渡応答の振舞いを,特異摂動法を使って計算している.また,積分補償ゲインを大きくするほど,制御出力の定常状態への到達が速くなることをシミュレーションで確かめている.
名古屋大・杉本謙二
本論文では,主要極を配置したサーボ系の2次安定化に関する一手法を提案する.この方法では,公称システムに対して積分器を併合した1型ロバストサーボ系の状態フィードバック則を以下の手順で設計する.まず,望ましい応答のモデルを主要極として設定し,そこに閉ループ極を配置するゲインをパラメータ表示する.このパラメータを調整することにより,与えられた不確かさに対する2次安定化を達成する.ただし,これは主要極の仕様に応じて決まる十分条件が満たされたときのみ可能となる.この十分条件の意義について,数値例を用いて考察する.
防衛大・板宮敬悦,鈴木良昭,鈴木 隆
本論文では,コントローラのパラメータを直接調整する形式(直接法形式)のモデル規範形適応制御系を対象として,非モデル化動特性と雑音からなるモデル化誤差の存在にロバストに対処しうるシステム構成法を提案すると共にこのシステムの安定性を論ずるための新しい解析法を示す.提案のシステム構成法では,不感帯付きの適応則と積分性の固定補償要素が伴用される.前者は雑音の存在に起因するパラメータのドリフトを防止するためのものであり,後者は不感帯付き適応則の使用により生ずるパラメータの調整ずれに起因する制御性能の劣化を改善するためのもので,両者の併用によりモデル化誤差の存在下でも満足な制御性能が達成できる.提案のシステムの安定性は,適応則により保証されるパラメータ変化率の£2性を基に,£2δノルムとよばれる系内信号の指数重み付きエネルギーを評価し,その結果にGronwallの定理を適用することにより論じられる.この解析法は,従来の解析法と異なり,モデル化誤差の有無にかかわらず同一の考え方で安定性を論ずることができる.提案のシステム構成法の有用性はノミナル部が1次のプラントを対象としたシミュレーション実験により検証されている.
Seoul National University・Jinwon Kim,Agency for Defense Development・Heung Won Park,Kwangwoon University・Chan Gook Park,Seoul National University・Jang Gyu Lee
An observability analysis for the two-position alignment of strapdown inertial navigation system (SDINS) is performed using an analytic approach utilizing the nonsingular condition of the determinant of a simplified stripped observability matrix. It is then confirmed by employing a numerical calculation of the error covariance propagation using a twelve-state stationary error model of SDINS including a vertical channel. Based on the results, completely observable conditions and degree of observability are introduced for the two-position alignment.
北大・加島 正,石動善久
ヒトが上肢を運動するときには力学的・生理的に合理性のある運動決定基準のもとで軌道を生成していることが指摘されている.このようなヒトの軌道を生成するにはヒトの生理的特性を反映した運動モデルおよび評価関数を定める必要がある.本研究では筋肉の生理的・力学的性質に基づいて運動中に消費するエネルギーに直接関係する筋肉の収縮力と上肢運動の関係を統一的に記述する運動モデルを構築した.つぎに,この消費エネルギーを用いて評価関数を定義し上肢運動における軌道生成手法を提案している.
また,ヒトの上肢運動の動作実験を行い,実験結果と本研究で提案する手法で生成した軌道の比較・解析を行った.その結果よりヒトの生成する軌道の生理的利点を検証すると共に従来までの研究では必ずしも明らかにはされていないヒトの生成する軌道の個体差の要因を筋肉の生理的観点から推察している.
神戸製鋼・中山万希志,前田知幸,北辻佳憲,阪府大・馬野元秀,阪大・井口征士
旋回溶融炉において現在オペレータが常時モニタリングしているスラグ流下状態を示す画像をとりこみ,画像処理に基づく物理的な特徴量からファジィ理論を用いてオペレータが操業時によく用いる言語情報(オペレータ言語)に結び付け,これに基づいて溶融するためのバーナの油量を修正することにより溶融を自動制御することを提案する.
本手法では事前にさまざまな燃焼状態の画像に対してオペレータのヒアリングとアンケートを実施しておく.“パラパラ流れる”などの具体的なオペレータ言語を表現する画像処理に基づく物理的特徴量の候補の抽出はエンジニアが行い,その候補から“流れがよい”などの抽象的なオペレータ言語で表現される最終的な評価との関連付けをファジィID3により構築する.また画像からの溶融の評価だけでなく,温度などのプロセスデータからも溶融の状態を評価することも考慮し,画像+プロセスデータからオペレータの日頃のアクション例を参考にして最終的な操作量を推論する.本手法を実機に適用した結果良好な効果が得られた.
京工大・川上 肇,黒江康明,森 武宏
本論文は,画像に混入するランダム変動に対してロバストな新しい画像認識法について述べている.従来の画像認識法では,あらかじめ記憶している画像群のなかで観測される画像との相互相関係数が最大となる画像をみつけたのち,観測された画像はみつかった画像と同じ種類であると認識する場合が多い.この方法は,撮像環境が整備されておれば有効であるけれども,ランダム変動が混入するような画像をこの方法で認識すると誤認識の生じることが問題となる.そこで,この問題を解決するため,観測される画像がある部分画像を単位とする局所的な周期構造で構成されるテクスチャなどを含むような場合,観測される画像と上記部分画像から算出される相互相関係数が最大値をとる位置の近傍で,相互相関係数に点対称性が現れるという特性に着目する.われわれは,この対称性が乱れる程度を測るための尺度を導入し,それがランダム変動に対してロバストであることを示す.そのうえで,この尺度によって照合すべき画像対を識別することを特徴とした新しい画像認識法を提案する.ランダム変動が混入する画像群を計算機で認識する実験を行い,提案する画像認識法の有効性を確認した.
関西大・兼田昌子,川田 明,林 重雄,三菱電機ビルテクノ・徳井一雄
エレベータワイヤロープの素線断線や局所的な摩耗等の検出には,ロープテスタを用いる方法がとられている.これは,磁石によってワイヤロープを磁化し,損傷部分を漏れ磁束として検出するものである.損傷部分はパルス状信号を発生するが,ワイヤロープの踊り等による漏れ磁束の変化が雑音となり,S/N比はきわめて悪い.現在の検査法は,記録された波形データを検査員が目視により判断するのであるが,熟練と根気を必要とする作業である.
本論文では,ウエーブレット解析を用いて,雑音の中からパルス状信号を検出するデータ処理法を提案している.ロープテスタを用いて測定したデータの処理にこの方法を適用した.実測データにハール基底を用いた多重解像度分解を行うことにより,パルス状信号と雑音の特徴をとらえ,それを基に両者間のしきい値を設定する.これを診断基準として損傷部分の有無を判断した.その結果,検査員の目視により損傷と判断された3箇所すべてを検出することができた.このほかに,検査員が見落としたかもしれない1箇所を検出している.すなわち,損傷の疑いのある箇所を100%見つけ出しており,検査として安全側にある.
ここで提案する手法の有効性が確認でき,従来,目視に頼っていたデータ処理の作業を自動化できる見通しを得た.
ダイナックス・大倉典子,東大・前田太郎,舘 ゙
両眼視空間において,主観的額面平行面上で直線に見える水平線(主観的額面平行線)が必ずしも物理的な直線とは一致せず,その形状が被験者からの距離に依存するという現象は,ヘルムホルツのホロプタとしてよく知られている.著者らは距離に関する音源定位の基礎実験を行い,両耳聴空間においても同様の現象が生じること,すなわち聴空間上の主観的額面平行線の形状が音源までの距離に依存することを確認した.また一方で著者らは,「スカラ加算モデル」と呼ぶ神経回路網モデルを提案し,視空間や触空間におけるホロプタの距離依存性を,その知覚の手がかりとなっている生体内情報を変数として,後天的な空間位置知覚機能の獲得過程における学習の限界によって生じたずれとして説明した.
そこで本論文では,音圧と両耳間時間差を変数として,聴覚ホロプタを説明するスカラ加算モデルを定式化した.さらにこのモデルを用い,種々の学習領域についてシミュレーションを行い,以下の結果を得た.(1)音圧と両耳間時間差を用いて聴覚ホロプタの距離依存性が説明できる.(2)聴覚ホロプタの形状の違いは空間位置知覚の学習領域の差により説明できる.(3)聴覚ホロプタを説明するモデルと視覚ホロプタを説明するモデルでは,空間位置知覚の学習領域が異なる.
山形大・湯浅哲也,星野充紀,渡部裕輝,富樫 整,尾形健明,赤塚孝雄,鎌田 仁
電子スピン共鳴法(ESR; Electron Spin Resonance)は不対電子をもつ物質(ラジカル)を直接的に検出する唯一の方法である.近年の生命科学の発展で,生体内のラジカルが代謝・老化・生体防御などといった生体内での多くの現象に深く関与していることが明らかにされてきた.したがって,これらの挙動を解明することは生体内の未知の現象の化学的機序を明らかにする鍵を与えるという点で医学的に大きな意義をもつ.これまでにわれわれは,良好な再構成画像を得るためのESR-CT再構成処理アルゴリズムの検討を行い,形態を描出することに関しては,解剖学的知見と一致したという点で満足する結果を得ている.しかしながら,これまでの処理方法は形態情報を抽出するには有効であるが,定量計測という点で限界をもつ.本論文では,この問題の原因を明らかにした後,この問題に対処するための方法を提案する.提案する方法は,測定データのもつべき物理情報に基づき測定データをモデル化し,投影を推定するものである.計算コストは膨大ではあるが,定量性の回復という点で本方法が有効であることを物理ファントムとマウス肝臓からのデータに適用することにより示す.
電総研・永田和之,トステム・慶野知治,東工大・小俣 透
本論文は,把持物体が多面体である場合について,多指ハンドによる把握・物体操作の過程で把持物体の形状モデルを獲得する多指ハンドシステムについて述べる.本多指ハンドシステムでは,あらかじめ対象物情報が十分得られていないことから,接触点情報のみを用いて把持力パターンの選択,物体操作モードの選択を行う.また,把持物体の形状モデル獲得は,指先力覚センサのデータを用いて接触面を観察し,指が新たな面に移動すると,その面をモデルに付加することにより行われる.指先の接触面移動の監視は以下の3つの判定基準により行った.(a)接触法線の変化.(b)法線間の角度.(c)重心と接触面間の距離.ここで獲得された形状モデルは,過去に指が触れたことのある面のみから構成される.つまり,多指ハンドによる物体操作に必要な情報のみから構成され,操作に不要な冗長な情報は獲得しないという特徴がある.また,獲得した形状モデルは,把持物体の位置姿勢の計算に用いられ,つぎのステップの物体操作に利用される.最後に実機による実験結果を示し,有効性を確認した.
筑波大・星野 力,湊 宗篤
階層システムにおける創発と関連する工学的な課題として,下位における分散した利己的な行動が,上位の全体状況における望ましい協調を達成するかどうか,という問題がある.本論文では,下位の分散したシステムの一例として,カー・ナビゲーション・システム(通称,カーナビ)を搭載した自動車を想定する.たとえカーナビの行動が車の所要時間をできるだけ短くするという利己的行動であっても,全体の交通状況へ適応し協調するカーナビが,遺伝的アルゴリズム(GA)の援用によって可能であることを示す.
ここで提案するカーナビ・システムは,時々刻々変化する交通状況へ適応する経路選択戦略をもつ.各システムはいくつかの経路選択の戦略に付随した重みベクトルをもち,道路の各分岐点で,交通情報にこの重みをかけて,行くべき方向を選択する.遺伝的アルゴリズムによって,この重みベクトルを,カーナビ集団中で選択淘汰し,突然変異を加え,交又させる.
シミュレーションを,典型的な2つの道路網を想定して行った.その結果,経路選択の適応的戦略は,多くの車が相互に影響しあっている交通状況に適応し,また偶然発生した交通渋滞を解消することに成功した.
Kyushu Inst. of Tech.・Ru LAI, Fujio OHKAWA
This paper presents a new discrete-time robot model which has very simple structure and independent to nonlinear force terms and external force term. Both pole-placement control scheme and adaptive control scheme are designed and implemented in controlling a 2-link manipulator disturbed by unknown external forces.
久留米高専・江頭成人,佐賀大・中村政俊,近畿大・久良修郭
産業用ロボットやNC工作機械などのメカトロニクス機器で用いられているメカトロサーボ系において輪郭制御を行う場合,その応答に速度変動などの制御性能劣化が発生することは好ましくない.メカトロサーボ系においては,目標軌道の計算にディジタルコントローラが使用されていて,サーボ系の動作速度にはその指令時間間隔ごとの変動が発生する.著者らは先に定常状態における速度変動とサーボ系の特性の関係を明らかにした.現実の作業においては,メカトロサーボ系の動作は定常状態だけで使用するのではなく,過渡状態の連続による動作である場合が多い.
本研究においては,メカトロサーボ系における指令時間間隔ごとの過渡的状態における速度変動に関して考察し,定常状態において速度変動の発生を抑制するように構成されたメカトロサーボ系のコントローラにおいても,過渡状態においては速度変動が発生することを示す.その結果を実際のDCサーボモータと負荷を結合したメカトロサーボ実験装置(DEC-1)を用いた実験によって検証した.この結果は,輪郭制御性能に応じた指令時間間隔の決定やメカトロサーボ系の設計に利用することができる.