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論文集コーナー


論文集抄録

〈Vol.34 No.9 (1998年9月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


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[論  文]

■ レーザ式変位計によるプリント基板のIC実装検査

拓殖大・岡部健二,金田 一

 レーザ式変位計は,三角測量の原理に基づいてレーザ光により非接触で物体の距離,寸法,形状などを測定するものである.しかし,光沢や凹凸のある面などでは測定値のばらつきが実際の面の凹凸よりもかなり大きく生じる.一方,電子部品を搭載するプリント基板の実装工程において,ICピンや基板上のはんだパターンの外観検査は重要な課題である.そこで本研究では,コンピュータ制御による3軸方向に移動可能な治具に変位計のセンサヘッドを取り付け,測定実験を行う.得られた3次元形状データは,ワークステーションに送りCG(Computer Graphics)化する.この実験装置を用いて,ICピンの曲りとプリント基板上のはんだの高さおよび幅の計測実験を行う.目標とする測定精度を分解能5 μmに設定している.測定データのばらつきは移動平均により除去する.この平均処理では,データの空間周波数fにたいして,移動平均の間隔としてD=1/(2πf)が目安となることを実験により確認している.この実験により,ICピンのような光沢のある微小物体の非接触オンライン計測が可能であることを確認している.


■ 2モード安定化レーザーを用いた高分解能光ヘテロダイン干渉計

日本無線・村上文夫,同志社・大村陽一,大田建久

 本論文では,2モード安定化レ一ザーのモード間ビート周波数を利用した光ヘテロダイン干渉計について報告する.

 まず,2モード安定化レーザーのビート周波数(740MHz)を,そのばらつきや変動に影響されることなく一定の中間周波数変換する方式について提案する.

 つぎに,中間周波数と同期した鋸歯状波をデジタル的に生成し,中間周波数に変換した測定信号のゼロクロス点でこれをサンプリングする位相測定方式を提案する.この方式では,瞬時振幅が位相に比例する鋸歯状波をデジタル的に生成しているため,非線形誤差は原理上発生しない.さらに,測定範囲を干渉縞間隔の整数倍に拡大できるという特徴を有する.

 これら2つの手法を用いた干渉計を構成し,微小変位検出実験を行ってその有効性を確認した.また,光ヘテロダイン干渉計において,偏光ビームスプリッタの偏光成分の漏れ,およびコーナーキューブにおける直交偏光成分の発生に起因する周期的な非線形誤差について理論的に検討した.


■ 非正規性の信号と雑音に対する観測フィードバックの最適化

大阪教育大・武内良樹

 確率システムの推定理論におけるフィードバックをもつ観測機構の最適化の問題は,通信理論においてもフィードバックをもつ通信路における最適伝送問題として議論されてきた.とくに,正規性の信号とそれと独立な正規性白色加法雑音をもつ観測モデルについては,フィードバック信号を原信号の最小分散推定値として選び,原信号との差に許容される最大のゲインをかけることにより最適な観測機構となること.また,その際の観測信号は,フィードバックを用いないときの観測に対するイノベーション過程となることが知られている.筆者は,すでに,非正規性の信号とそれと独立な正規性白色加法雑音の場合についても,これと同様にして最適な観測機構が得られることを示した.本論文では,より一般的な非正規性の加法雑音をもつ観測についても同様の結果が得られることを示す.すなわち,信号は任意の2乗可積分確率過程,加法雑音はこれと独立な連続2乗可積分マルチンゲールとした場合を対象として,上述の最適な観測機構の構成方法はこの場合についても変らないことを示す.


■ Robust Output Tracking Guaranteeing Exponential Stability for Uncertain Nonlinear Systems

広大・Yuki HASHIMOTO,広島県立大・Hansheng WU,広大・Koichi MIZUKAMI

   The problem of robust output tracking of uncertain single-input and single-output nonlinear systems is considered. Based on Lyapunov methods in conjunction with input/output linearization approach, a new approach to designing a class of continuous and bounded state feedback controllers using the possible bound of the uncertainty for uncertain nonlinear systems is proposed. It is shown that the state feedback controller developed in this paper can guarantee exponential stability instead of uniform ultimate boundedness for the trajectory error system of nonlinear systems with uncertainties. Furthermore, the proposed controller can guarantee the existence of the solution to the dynamical system in usual sense. Therefore, since we can also easily select the control parameters, the method can be expected to have good transient response. Finally, a numerical example is presented to demonstrate the effectiveness of the approach developed in this paper.


■ 出力フィードバックによる周期係数離散時間システムの遷移行列設定

三菱重工・鈴木達雄,宮崎大・河野通夫

 従来から,定係数離散時間システムの制御方式としてデッドビート制御はよく知られている.これは,閉ループシステムのnステップごとの状態遷移行列を零行列とすることに等価である.(ただし,nは状態空間の次元である).本論文で提案している遷移行列設定問題とは,この概念を一般化し,nqステップごとの状態遷移行列をあらかじめ指定された任意の行列に一致させようとするものである(ただし,q≧1は整数である).

 本論文では,周期係数離散時間システムに対して出力フィードバックによる閉ループシステムの遷移行列設定問題を考察する.具体的には,nω時刻ごとの状態を推定するオブザーバを構成し,推定された状態量を用いてサンプル状態ホールド制御を構成する.結果として,オブザーバの構成条件や,具体的なオブザーバゲインの計算方法,オブザーバを用いて閉ループシステムの遷移行列が設定できるための条件が与えられる.

 数値例では,本手法を適用した設計の一例を示した.


■ パラメータ依存リアプノフ関数に基づくディスクリプタシステムのゲインスケジューリング

京大・陳  幹,杉江俊治

 パラメータ変動を有するシステムに対する有効な制御手法にゲインスケジューリングがある.この手法においてスケジューリングパラメータの抽出は重要な問題であり,より自然な形で取り出せることが望ましい.ディスクリプタ表現は物理モデルを自然な形で表現できる手法であり,スケジューリングパラメータの自然な抽出が期待できる.しかし,ディスクリプタ形式のモデルに対するスケジューリング補償器の設計に関する研究はまだ少ない.特にE行列とA行列が同じスケジューリングパラメータをもつ場合は問題が難しくなる.そこで本論文ではパラメータ依存リアプノフ関数の手法をもとに,E行列とA行列が同じスケジューリングパラメータをもつディスクリプタシステムに対するスケジューリング補償器の設計法を提案する.パラメータ依存リアプノフ関数に陽にE行列を含ませることで,補償器設計のための条件をスケジューリングパラメータに対して多項式形式に依存するLMIに帰着させ,補償器をパラメトライズする.さらに数値例によりその有効性を示す.


■ Solution of Constrained Linear Quadratic Optimal Control Problem Using State Parameterization

北陸先端大・Hussein JADDU, Etsujiro SHIMEMURA

   An algorithm is proposed to solve the linear quadratic optimal control problem subject to terminal state constraints, state and control constraints and interior point constraints. The algorithm is based on parameterizing the system state variables using a finite length Chebyshev series of unknown parameters, and the control variables are obtained as a function of the approximated state variablessuch that the system differential equations are satisfied. After reformulating the problem using the proposed algorithm, the constrained optimal control problem is converted intoa quadratic programming problem which can be solved easily. Moreover, by using the proposed algorithm there is no need to integrate the system or costate differential equations.


■ リップルフリートラッキング

名工大・加藤久雄,舟橋康行

 近年の計算機技術の発展により,自動制御の分野においてサンプル値制御系が広く用いられてきている.これに伴い,その理論的解析も重要度を増してきているといえるが,その課題のひとつとしてリップルがあげられる.これはサンプル時点では望ましい応答をしているにもかかわらず,サンプル時点で無視しえない偏差を生じるという現象のことで,その存在自体は以前からよく知られていたものである.この現象に対しては,比較的近年,いくつかの研究がこのリップル現象を回避する条件について考察している.これらはデッドビート条件を課したものと,そうでないものに分けられる.

 本稿は,この文献3)と同様にデッドビート条件を課さないリップルフリートラッキング問題を"C∞級への収束”という新たな概念を導入して議論するものである.これは,サンプル値系においてサンプル点間では,外部入力とホールド出力が滑らかな場合,応答も常に滑らかになるが,これが時間がたつにつれてサンプル時点でもより“滑らか”になるという概念である.これによりリップルフリー達成のための条件,連続時間内部モデルの必要十分性が異なったかたちで証明される.その際,より議論が簡潔になっていると思われる.


■ 解の凸結合によるハミルトン・ヤコビ不等式の近似解の改良法

広大・井村順一,児玉龍郎,東工大・三平満司,広大・佐伯正美

 本稿は,非線形システムに対する非線形H∞制御問題において現れるハミルトン・ヤコビ不等式の数値解法の研究に関するものである.従来からハミルトン・ヤコビ不等式の近似解を求めるためのいくつかの手法が提案されてきているが,実際には有効領域の広い近似解を得ることができないなど多くの問題が残されている.そこで本研究では,従来の近似解法によって得られた近似解を適当な重みのもとで凸結合することによって近似解の有効領域を広くする手法を提案する.また,級数展開による手法については,ある正定値関数をハミルトン・ヤコビ不等式に加えることによって従来法より広い有効領域をもつ近似解が得られる手法,および計算量の少ない解法も提案する.さらに2次系の簡単な数値例および,倒立振子系の外乱除去問題に生じるハミルトン・ヤコビ不等式に本手法を適用し,その有効性を確認する.


■ メカトロサーボ系の最適同期化経路制御

神奈川大・江上 正,依田一宏

 経路目標値を一定の傾きの直線経路に限定した場合,各軸の位置出力の同期化比率を一定に保つことにより直線経路に正確に追従する同期化制御法が提案されている.とくに最適同期化制御系は各軸自身の位置差と各軸相互の位置差を両方とも評価して同期化を図るものであり,つねに安定性が保証される方法である.しかし,この方法は同期化比率を制御系のパラメータとして用いているために,空間上に与えられた目標点間を直線補完した経路の場合のように直線経路の傾きが変化する場合には,同一の制御系では対処できないという問題点が見られた.そこで本論文においてはこの同期化比率を状態変数に含めることにより,同期化比率が変化しても同一の制御系で対処可能となる最適同期化経路制御系を提案している.この方法は各軸の座標系を同期化比率が常に1になるように変換することと等価になる.そしてこの方法によれば空間上に与えられた目標点間を直線補完した任意の経路に対して同一の制御系での対処が可能となる.本論文ではまず各軸ごとに位置決め制御系を構成し,その上でもう1つ上位の階層で最適同期化経路制御系を構成している.このようにすることにより経路目標値の中に曲線経路が含まれている場合や各軸単独に動かす場合にも対応が可能となる.


■ 耐故障性を有する多変数制御系の一設計法 ―l-部分インテグリティ条件―

東大・濱田吉郎,新 誠一,九工大・瀬部 昇

 多変数制御系では,正常時に系全体の安定性が保証されていても,制御系を構成する要素の故障によって系が不安定化するおそれがある.これは複数の入出力が互いに複雑に干渉しているためである.構成要素が故障した場合の安定性を考慮して制御系を設計することは,実用上重要である.構成要素の故障に際しても安定性などの制御性能が保証される性質を,制御系の「耐故障性」と呼ぶ.

 本稿では耐故障性を表わす新しい性質として「l-部分インテグリティ」を提案し,制御系がこの性質を有するための設計問題を扱う.ここでl-部分インテグリティとは,あらかじめ指定したループ内のアクチュエータ(またはセンサ)における,最大l個の故障によって閉ループの経路が断線しても,制御系が安定性を保つ性質である.これはすでに提案されている「インテグリティ」などの耐故障性を一般化したものである.ここではH∞制御の手法を用いて,制御系がl-部分インテグリティを有するための条件を導出する.さらに状態フィードバック系において,導出した条件がLMI(線形行列不等式)で記述できることを示す.LMIを制約条件とする問題は数値的に解くことができるので,この条件を満たすように制御系設計を行うのは容易である.


■ Lyapunov関数に基づく非線形ロバストH∞補償器の一構成法

上智大・申 鉄龍,田村捷利

 この論文は,不確かさを有する非線形系に対して,閉ループ系が大域的ロバスト安定でかつ外乱入力から評価信号までのL2ゲインが不確かさに関して一様的に1以下に抑えられる状態フィードバック補償器の一設計法を示し,ここで考える不確かさは状態のゲイン有界な未知関数として表現されるものとする.一般的にL2ゲイン設計はHamilton-Jacobi不等式(または方程式)の解に頼るものが多いが,本論文で提案する設計法はHamilton-Jacobi不等式または方程式の解を必要としない.その代わりに系の零ダイナミクスが安定または可安定である仮定を必要とし,そのLyapunov関数をもとに系全体の安定性とL2ゲイン条件を保障するLyapunov関数と座標変換およびフィードバック則を同時に繰返し設計する方法である.これは適応制御等に用いられるバックステッピング手法の拡張である.


■ 離散時間レギュレータの多項式ILQ設計とサンプル値LQ制御の逆問題

名大・佐藤 淳,杉本謙二

 ILQ法はLQ制御の逆問題の解を利用した設計手法で,試行錯誤なくLQ最適制御系を設計可能である点で実用上非常に有用である.

 これまでILQ法は連続時間系において提案されてきたが,本論文では多項式ILQ法の離散時間系への拡張を示す.これは与えられた離散時間系について,閉ループ系の一部の極を単位円内の指定点へ正確に配置するゲインのパラメータ表示を行い,同時に最適性を満たすようなパラメータ調整を行うものである.最適性条件は離散時間LQ逆問題の解である修正円条件で与えられる.

 つぎに,サンプル値系の観点から,得られた離散時間ゲインの性能を評価する.得られた離散時間ゲインがサンプル値系においても最適であるか,すなわち何らかの連続時間評価関数を最小化するかどうかの評価を行う.サンプル値系の最適性条件はLMIを含む可解性問題として表わすことが可能であり,数値的手法を用いて最適性の評価を行う.


■ DyCE原理に基づくモデル規範形適応制御系の一構成法とその安定性

防衛大・板宮敬悦,山野太資,鈴木 隆

   Dynamic Certainty Equivalence(DyCE)原理に基づくモデル規範形適応制御系(MRACS)は,従来のCertainty Equivalence(CE)原理に基づくMRACSよりも過渡応答が改善できる,ある種の非線形系にも適用可能である,安定解析が容易であるなどの利点を有している.従来の構成法は制御対象の双線形表現を利用しているため,MRACSの実現には制御対象の未知高周波ゲインの上限情報を必要とする.これは,安定なMRACSを実現するためにはHigh Order Tuner(HOT)の時変フィルタの固有値が高周波ゲインに依存するからであるが,高周波ゲインの値を事前に正確に知ることは困難であるため,安定なMRACSを実現に際しては高周波ゲインの上限値を大きく見積もらざるをえない.しかしながら,このような保守的な見積もりは,しばしばHOTの数値的実現を困難にしてしまう問題を生ずる.

 本論文は上述の問題を回避するため,割算をともなう入力合成則と零割りを回避できるProjection型のHOTを導入し,高周波ゲインの上限情報を必要としない安定なMRACSの一構成法を提案するとともに,その安定性を証明するものである.


■ 入力にむだ時間をもつ多変数系に対する一般化安定化器の設計

山形大・伊豆田義人,我妻敏正,渡部慶二

 むだ時間がある系のロバスト安定化問題に対する解法が数多く報告されているが,むだ時間をもつ多変数系の混合感度問題に対しては,まだ体系的な解法が得られていない.

 そこで本稿では,入力にむだ時間をもつ多変数系に対し,1入力1出力内部モデル制御のように,フィルタの時定数や,減衰定数・固有振動数の調整で混合感度仕様を満たす制御系を設計する方法を,不安定系,多変数系の取り扱いが容易な状態予測形一般化安定化器を用いて実現する.まず,一般化安定化器のオブザーバゲイン行列と自由パラメータと通常のリカッチ方程式を用いて,相補感度関数の核となる部分を,任意に設定できるフィルタを対角要素にもつ対角行列とインナー関数の積にする方法を提案する.つぎに,感度仕様を満たすために感度重みの虚軸上の極を感度行列の零点で消去する補償器の設計法をWatanabeらのスミス法の外乱補償の考えを拡張し状態空間上で提案する.これらをまとめ,フィルタがある条件を満たせば解があることを示し,そのようなフィルタの求め方を与える.


■ 自己組織型ファジィニューラルネットワークによる薬品投入制御

Korea Water Resources Institute・Woo-Seop CHUNG,Sueg-Young OH

 本論文では浄水処理工程でいちばん重要な工程中の1つである薬品投入制御のための自己組織型ファジィニューラルネットワークを提案する.原水水質による学習の場合,プラント運営者によって調整されることができる自己組織型ファジィニューラルネットワークが効果的である.このために学習率の動的調整方式およびFCMアルゴリズムを利用する前件部メンバシップ関数の設定方法を考案して,パラメータの調整が必要ないとき収束誤差と学習安定度が向上されて,浄水場の水質データを利用するシミュレーションの結果も優秀な性能が表われた.PLC,電磁流量計,制御弁で構成された薬品投入装置にこのアルゴリズムを搭載して知能的である薬品投入が実現された.


■ Two-position Alignment of Strapdown Inertial Navigation System

Seoul National University・Jinwon KIM,Agency for Defense Development・Heung Won PARK,Kwangwoon University・Chan Gook PARK,Seoul National University・Jang Gyu LEE

   An observability analysis for the two-position alignment of strapdown inertial navigation system (SDINS) is performed using an analytic approach utilizing the nonsingular condition of the determinant of a simplified stripped observability matrix. It is then confirmed by employing a numerical calculation of the error covariance propagation using a twelve-state stationary error model of SDINS including a vertical channel. Based on the results, completely observable conditions and degree of observability are introduced for the two-position alignment.


■ ファジィアブダクションにおける説明の存在条件と近似解法

長岡技科大・山田耕一,明大・向殿政男

 アブダクションとは与えられた知識の下で観測された事象の集合を説明する仮説集合を導く推論である.求めた仮説集合は説明と呼ばれる.われわれはすでにファジィ理論を用いてこの推論を拡張したファジィアブダクションを提案し,その解法を示した.そこでは与えられた事象とそれを説明する仮説をファジィ集合で表わし,その両者を結び付ける知識を[0,1]間の真理値をもつ含意集合で表現する.しかし提案したファジィアブダクションではファジィ説明が常に存在する保証がない.そこで本論文では,ファジィ説明が存在する必要十分条件を明らかにし,ファジィ説明が存在しないときにその近似解を求める方法を提案する.なお,ファジィアブダクションはファジィ関係式の逆演算と似た演算となるが,ここで提案する近似解法は,これまでに提案されているファジィ関係式の逆演算の近似解法と異なり,繰返し収束演算を必要としないという特長をもつ.


■ リズム運動の環境適応に関する数理的モデルについて

理化学研・伊藤 聡,湯浅秀男,羅 志偉,伊藤正美,柳原 大

 歩行運動などの自動的な運動には周期的な運動が多く,その周期運動のリズムはCPGと呼ばれる脊髄の神経振動子で生成されている.このとき上位からの指令は基本的には必要なく,環境に応じたリズムパターンの生成は自己組織的で,神経振動子間の相互作用にもとづいている.このような自律分散的なリズム生成のモデル化に関しては多くのモデル化が行われてきたが,環境が変化したときに生成されるリズムがどう適応するかについては十分な議論がなされていない.

 除脳ネコを左前脚の速度のみ速いトレッドミル上の環境でしばらくの間歩行させると,歩行パターンがその環境にあうように変化し記憶される.したがって,環境適応とは記憶したパターンを環境に合うように変えていくことであると考え,この立場からネコの歩行運動のモデル化を行う.シミュレーションではネコの実験と似た結果が示される.

 この例にもとづき,一般的なリズム運動の環境適応について考察する.適応のためには環境からの作用が一定であること,適応のダイナミクスが運動のダイナミクスよりも十分遅いこと,運動の繰返しが重要であることなどが結論できる.最後に環境適応モデルの新しい枠組みを提案する.


■ ファジィ評価と2次微分を考慮した一般化学習ネットワークによるロバスト制御

九大・大林正直,平澤宏太郎,利光克之,村田純一,胡 敬炉

 対象システムの数式表現が不可能または可能でも非常に複雑な場合は,数学的制御理論のみで制御器を構成することは困難である.このような場合,ニューラルネットワーク(NN)を用いて制御器を構成することは大変有効である.なぜなら,NNは非線形システムの非線形性や複雑性に容易に対処できる能力を有するからである.このNN制御器はあるシステム環境下で評価関数を最小化する学習を通して構成される.しかしながら,NN制御器は,学習時と非常に異なるシステム環境下においては,その汎化能力に頼るのみではあまり適切には動作しない.

 NNを用いたロバスト制御は,一般化学習ネットワークの2次微分を用いた方法がすでに提案されている.その方法はパラメータがある基準点まわりで微小変動することを前提とし,その変動に対するパラメータ感度を最小化するものである.

 本論文で提案する方式は,パラメータ変動が微小ではなくある有限な範囲で生ずるとし,その変動範囲で制御性能を保証する制御系設計法に関するものである.具体的には,パラメータの変動の範囲をカバーする多数の基準点を仮定し,これらの点におけるパラメータ感度を小さくする.また各基準点での感度を小さくする割合はメンバーシップ関数を用いることによりシステムの要求に応じて設定できるようにしている.

 従来法と比較したシミュレーションにてその有効性を明らかにしている.


■ 環境にナビゲートされた自律移動体の創発的行動形成と教示戦略

京大・塩瀬隆之,椹木哲夫,片井 修

 行動ベースロボットの設計指針としてアフォーダンスに代表される生態学的アプローチが注目されている.本研究では,単に特定の行為の選択可能性を有するある環境の形状特徴をしてアフォーダンスとする狭義の解釈に留まらず,相互作用の累積に伴う行為者―環境間の関係性の変遷そのものをも方向づけるような有用な情報として広義のアフォーダンスを定義する.本研究では,超音波センサを有する自律移動体を想定し,恣意的な埋め込みを仮定せずとも,人間が熟練的に獲得するような注視点の遷移が見られることを確認するため,環境知覚概念の一般化・特殊化オペレータを導入した進化型計算を用いて計算機上で模擬する.そして獲得された行動形質の異なる環境間での転移の成否と進化における多様性維持に関する考察とから,ロボット行動形成の進化を方向づける教示環境の与え方(教示戦略)について考察する.


[ショート・ペーパー]

■ 並列積分器を用いた新しい繰返し制御とその安定性

NTT・酒井孝次,三菱電機・井上 徹,三菱重工・井手和成,東工大・Vichai SAECHOUT,中野道雄

 産業界においては,実装の容易さ,構造,設計の簡潔さから依然としてPI制御系の需要が大きい.PI制御系はステップ状の信号に対しては優れた制御性能を有するが,周期信号に対しては十分な性能を満足できないという問題点がある.一方,周期信号に対する制御問題に有効な繰返し制御系があるが,安定化問題は難しく,繰返し制御器とは別にフィルタ,安定化制御器を必要とするので構造が複雑になる.

 そこで本論文では,PI制御系の構造の単純さと,周期信号への優れた制御性能を有する並列積分器を用いた新しい繰返し制御系を提案する.

 並列積分器は,1つの積分器のステップ状信号に対する学習効果を利用したものであり,閉ループ系を構成したとき周期信号に対する学習効果が生じる.そこで,従来のPI制御系における積分要素を並列積分器で置き換えた,構造が単純な並列積分器系に対して,連続系と離散系が混在するサンプル値系への等価交換を行い,並列積分器系の安定条件を求める.さらに,得られた安定条件を満足するパラメータを用いて,周期外乱抑圧制御実験を行い,本論文で提案する並列積分器系の有効性を検証した.


■ 非線形システムの偶数次及び奇数次Volterra核の分離同定

熊本大・劉  旻,西山英治,柏木 濶

 筆者らは非線形システムのVolterra核の同定法として,M系列を入力として加え出力との相互相関関数を求めるとM系列のシフト加法性により,3次までのVolterra核のすべての断面を求めることができる方法を報告した.その際,相互相関関数に現れるVolterra核の断面が互いに重ならないように適切なM系列の特性多項式を選ばなければならないという制約があった.このため,M系列の次数は16〜18とかなり大きくならざるをえなかった.

 本論文は,低次のM系列を用いるとき生じるVolterra核の断面の重なりを,偶数次と奇数次のVolterra核を分離同定することにより解決する方法を提案するものである.提案した方法により,Volterra核が互いに重なり合った相互相関関数しか得られないような場合でも,偶数次と奇数次のVolterra核を分離同定することにより非線形系の特性を同定が可能であることがわかった.


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