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論文集コーナー


論文集抄録

〈Vol.34 No.7 (1998年7月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


一覧


[特集論文]

■ H∞ループシェイピング法とLMI最適化に基づいたPID制御器の設計

三菱重工・宮元慎一

 従来からのPID制御系設計では設計の時点でロバスト性を考慮することは容易ではなかったが,本論文ではH∞ループシェイピング法とLMI最適化に基づきロバスト性の考慮を可能とする設計法を示す.H∞ループシェイピング法ではロバスト安定余裕とギャップによりロバスト安定性を考慮した設計が可能であるが,制御器の次数が制御対象の次数と同程度になり,そのままではPID制御器設計に適用することは困難である.そこで本論文ではH∞ループシェイピング法で用いるロバスト安定化問題をNehari拡張問題に変換し,制御器の構造を固定した上で自由パラメータをLMI最適化法により最適化するPID制御器の設計法を提案する.本設計法の特徴は設計時にノミナルな安定性のみならず,ロバスト性も考慮することができること,右半平面の極や零点をもつようなものを含む広い制御対象に対して設計が可能であることである.また,多入出力系や分散制御系などへの拡張も可能であるほか,複数プラントに対する制御器同時設計へも拡張可能である.


■ 周波数応答のモデルマッチングによる制御器の低次元化

東芝・千田有一,重政 隆

 H∞制御やμ設計などによる制御系設計では,ロバスト制御系が容易に設計できること,多変数制御系の設計が可能であることなどから,種々の実システムに適用されてきている.しかしながら,設計された制御器は高次元となるので,制御装置への実装を行う場合には必ずしも扱いやすいものではない.そのため,種々の低次元化方法によって低次元化した制御器が用いられることも多く,プロセス制御系などのように主としてPID制御器が用いられる場合も多い.本論文では,まず,H∞制御などによって設計した高次元制御系の一巡伝達関数を規範モデルとし,カットオフ周波数帯域での周波数応答がマッチングするように最小二乗法によってPID制御器などの低次元制御器を求める方法を示す.この方法は設計が容易であり,多変数制御器も設計可能であるという特徴をもつ.PID制御器については,さらに安定性を保証して低次元化する方法についても考察する.本方法の効果は,振動系を例としたシミュレーションによる性能評価により確認する.


■ PID制御を用いた高性能圧延機駆動技術の開発

新日鉄・原川哲美,東芝・中村利孝,黒沢良一

 PID制御は,鉄鋼プロセスのあらゆる場所で活用されている.その1つである熱間圧延機の圧延機駆動設備には,多慣性系の構成に起因するねじり振動が存在するために,製品品質要求への対応が不十分であった.著者らは実プロセスにもっとも適用が容易なPID制御を用いてこのねじり共振の抑制を行うことを考え,フィルターと組み合わせることで十分効果が得られることを見極めた.実設備での性能の確認を行い,さらに板厚制御の性能向上を実現し製品の品質向上を実現した.


■ 操作量制約を考慮したI-PDコントローラのロバスト調整方法

三菱化学・小河守正,片山 徹

 「むだ時間+1次遅れ」特性プロセスとI-PDコントローラを前提に,モデル誤差の定量化方法を明らかにすると共に,目標値変更に臨界制動応答を得るPID調整則を導く.そして,ISE(Integral of Squared Error)を最小にする最適調整則は,モデル誤差の影響を強く受け非実用的であることを,シミュレーションによって確かめる.その上で,最大操作量制約を考慮した,直感的でロバストなPID調整方法を提案する.


■ ニューラルネットワークを併用したセルフチューニングPID制御系の一設計

岡山県立大・山本 透,沖 俊任,兼田雅弘

 化学プロセスなどに代表されるプロセス制御系においては,PID制御法が主として用いられているが,PIDゲインをどのように調整すればよいかという問題が,現在もなお残されている.著者らも,先に一般化最小分散制御法との関連に基づいてPIDパラメータを自己調整するセルフチューニングPID制御法を提案した.しかしながら,本手法の適用範囲は,制御対象が線形モデルで記述される場合に限定されており,非線形システムに対する拡張が今後の課題として残されていた.

 そこで本論文では,先に提案した手法にニューラルネットワークを併用し,非線形システムにも適用可能なセルフチューニングPID制御法について考察する.これまでにも,適応制御法もしくはセルフチューニング制御法とニューラルネットワークを融合させた制御系設計法が提案されているが,本論文で提案する手法によると,ニューラルネットワークを構成する際に,システムのヤコビアンの計算が不要であるとか,適応制御部とニューラルネットワーク部における学習の相互干渉を除去する必要もなく,比較的容易に制御系を設計することができる.


[特集ショート・ペーパー]

■ 舶用制御システムのゲイン自動調整について

富山商船高専・中谷俊彦,東京商船大・大津皓平,船舶技研・岡崎忠胤,近畿運輸局・森吉直樹

 船舶には,オートパイロットやガバナに代表される制御システムが搭載されており,その多くは,他の産業界の制御システムの場合と同様にPID制御則が主流となっている.この制御則を実装する場合,荷役によって変化する船体コンディションや気象・海象等の外乱に応じて制御ゲインを適切にチューニングする必要がある.代表的なチューニング手法である限界感度法は,比例ゲインをシステムが発振する直前まで上げる必要があるため,この方法を実海域を航行する船舶の制御系に適用することは大変危険である.また,船舶運航者が洋上で確実に実施できる方法ではない.そこで著者らは,リレー制御によるリミットサイクルから最適な制御ゲインを求めるA●stro¨mらの手法を,代表的な舶用制御システムである,オートパイロット系,スラスタによる船首方位制御系および主機関の回転数制御系に適用し,小型練習船による実海域実験を実施した.その結果,従来の限界感度法よりも安全かつ簡便に制御ゲインを航海中任意時刻に自動調整できるシステムを構成することができた.また得られたゲインによる制御実験では優れた制御成績を収めた.本報告は,その実船実験結果等についてまとめたものである.


[論  文]

■ 強度変調モアレによる三次元計測

阪大・Cunnei Lu,山口 証,井口征士

 モアレトポグラフィは1枚の画像で三次元計測できるが,モアレ縞の次数の決定問題が残っている.これにより,対象物体の表面形状の凹凸判別と奥行き計測は不可能であった.

 凹凸判別問題を解決するために,位相シフト法などの方法が以前から考えられている.しかし,位相シフト法は複数枚の画像を必要とする.そして2枚の画像によって,連続変化のモアレ縞の奥行き関係がわかるが,縞の不連続の部分の奥行き関係の決定は不可能である.この場合は,3枚以上の画像を必要とする.

 従来のモアレトポグラフィは二値画像処理に属する.本研究では,濃淡画像処理に属する変調投影光方式をモアレ計測に導入する.具体的には,指数型関数で変調した投影光と指数型関数で変調した観測格子を使うことにより,濃度は奥行きに正比例する変調モアレ縞を形成する.このとき,モアレ縞の濃度によってその次数を決定できることにより,対象物体の凹凸判別と奥行きの計測を同時に簡単に実現する.

 モアレ計測以外の二値画像処理式の計測にも,変調投影を使うと,計測精度や速度を向上できる.その例として,本稿では強度変調スリットパターン投影法について述べた.


■ 音速ノズルの直列接続による試験とその応用

計量研・石橋雅裕,高本正樹,関東学院大・中尾雄一,中溝利男

 大気圧状態にあるノズルの下流に別のノズルを直列に接続して共に臨界に保ち,上流側ノズルを基準として減圧状態にある下流側ノズルの流出係数を測定した.超精密旋盤で製作したベンチュリ型ノズルに関し,この方法で測定した流出係数のレイノルズ数依存性は,相似形ノズルを用いて大気圧状態で定積槽システムで測定した適合曲線と±0.04%で一致した.また,四分円型ノズルの流出係数は,ベンチュリ型よりも小さいレイノルズ数依存性をもつことを示した.さらに,上流側ノズルを基準として下流側ノズルの臨界流量の安定性を測定し,スロート直径が0.5〜13.4mmφ,レイノルズ数が1.7×103〜8.6×104であるノズルのすべてが,±0.02%で安定した臨界流量をもつこと示した.ノズルが減圧されてレイノルズ数が小さくなると,これらのノズルの臨界圧力比が理論値近傍の値から約0.5まで急激に小さくなることを示した.しかし,すべてのノズルの臨界圧力比は,1.7×103までのレイノルズ数において,これ以上急激に小さくなることはなかった.ディフューザが短いノズルに別体のディフューザを取り付けると,接続面に微小な段差があるにもかかわらず,ノズルの臨界特性が一体型とほぼ同じになることを示した.最後に,流量計と音速ノズルの間に圧力調整弁を取り付け,音速ノズルの上流側圧力を調整することにより,1個のノズルしか用いていないにもかかわらず,連続的な体積流量を発生してこの流量計を試験することができることを示した.


■ 圧力計の直線性のみを利用した音速ノズルの高精度相対校正法

計量研・石橋雅裕,高本正樹,山田製作所・渡辺栄三

 すでに校正済みである音速ノズルを基準とし,未知の音速ノズルを相対的に校正する新しい方法を開発した.本方法は,2個の音速ノズルの直列接続において,ノズルの流量比とノズル間圧力がほぼ比例関係にあることに基づく.すなわち,2個の基準ノズルと被試験ノズルを,ある1つのノズルの上流側に交互に取り付けて共に臨界に保ち,それぞれの組み合わせにおけるノズル間圧力を測定し,基準流量の間を直線で近似して内挿することにより被試験ノズルの流量を求める.本方法における重要な測定値はノズル間圧力のみとなり,その測定のために用いられる圧力計は,限られた圧力範囲内で直線性のみが確保されていれば十分である.このため,本方法は精度を維持するための管理をほとんど必要としない.不確かさの解析結果によると,被試験ノズルの流量は,基準ノズルの流量の不確かさとほぼ同じ不確かさで測定することができる.このことは,定積槽システムによりすでに校正されている音速ノズル群を被試験ノズルとすることにより,実験的に確かめられた.このために製作された装置は,被試験ノズルの取り付け以外は自動化されている.測定時間は1本あたり約10分であり,非常に効率的であることが示された.


■ 時計用水晶振動子による表面形状測定用タッピングスタイラス

東工大・初澤 毅,セイコー・入江礼子,東工大・小池関也,丸山一男

 表面形状の測定のためには,現在,測定領域に応じて表面粗さ測定機などの機械・光学式測定機や,AFMなどの顕微鏡が使い分けられている.本論文では,これらの測定方法を補完し,サブ μm領域の凹凸形状が測定可能な新たな測定系として,時計用水晶振動子を用いた表面形状計測系を提案する.この系では,自由振動している水晶振動子の脚部が表面に近づくにつれ,周期的に表面をタッピングし,このときの水晶駆動回路の出力変化をセンシング情報として用いている.駆動回路出力が一定になるようにタッピング状態を制御することにより,タッピングモードAFMと同様の動作原理に基づく測定系を構成している.はじめに,水晶振動子の近接特性について明らかにしたのち,測定系の構成を示す.また,回折格子などの測定結果について,SEM写真,光学式測定機などとの比較結果を示す.これより,垂直方向に数nm,水平方向に数十nmの分解能をもつ頃が示されている.


■ 位相ドップラー粒子計測における位相変動特性

室蘭工大・横井直倫,相津佳永,三品博達

 位相ドップラー法(PDA)はレーザードップラー光学系を利用した微粒子計測法であり,移動する粒子の径と速度を同時に測定できる点が特長である.しかしこの方法には,測定条件によりレーザービームのガウス形強度分布に起因した位相変動が粒子径の誤計測を引き起こす問題があり,応用上の制約となっている.この効果は,特に比較的大きな粒子を測定する際に著しく現れる.本論文では,数値計算に基き位相変動の発生メカニズムを解明する.まず,位相変動特性を幾何光学理論を用いて解釈し,その予測を行う.つぎに,一般化Lorenz-Mie理論を用いた計算機シミュレーションでいくつかの代表的な場合の位相―粒子径特性を求め,予測した特性との比較を行い,その妥当性を示す.これらの過程を通して,位相変動の発生形態を明らかにする.最後に以上の結果から,位相ドップラー法の利用者が光学系を設定する際に必要な,位相変動の影響が少ない最適光学系条件を明確に提示する.


■ レーザ追尾式座標測定システムを用いたパラレルメカニズムの精度評価

機械技研・小関義彦,阪大・新井健生,日立・杉本浩一,計量研・高辻利之,後藤充夫

 本研究ではパラレルメカニズムの絶対的位置決め精度の向上のためにキャリブレーションを行った.キャリブレーションには手先の精密な測定が必要であるが,一般に手先の空間座標測定が困難であるため実用されることは少なかった.この問題に対してわれわれはレーザ追尾式座標測定システムを用いたキャリブレーション方法を提案する.

 この測定システムはレーザ干渉計で定位置からの距離の変位を測定し,三角測量の原理で位置を測定するものである.三角測量には干渉計同士の相対位置が正確に既知でなければならないが,本測定システムでは冗長な測定を行うことで測定と同時に自己キャリブレーションを行い干渉計同士の位置を同定している.これにより厳密な設定を必要としない.

 この測定システムの特徴は非接触,高速にマイクロメータオーダの精密な測定が可能なことである.

 このシステムを用いて手先の精密な測定を行い,キャリブレーションによる絶対位置決め精度の向上とその評価を行った.その結果,絶対位置決め精度0.98mmを達成した.

 本研究ではこの測定システムを用いた手先位置・姿勢測定システムの概要と実験の方法,結果,考察について報告する.


■ スライディングモードによる自動車の縦方向制御

京大・熊本博光,坂元一郎,住友電工・天目健二,下浦 弘

 自動車の適正車間距離維持のための新たな制御器を提案する.利用可能な情報として2つの場合を考える.自車と先行車の位置と速度という一階微分情報までに基づく場合と,加減速度を加えた二階微分情報までに基づく場合である.加減速度は最近の車両間通信の進歩により利用可能になりつつある.先行車速度は可変とし,これに対応するため一次遅れ要素を導入して,適正車間距離を新たに定義する.車間距離偏差を横軸としその微分を縦軸とする位相面に,原点を通る切換線を導入し,一階ならびに二階微分情報のもとで,スライディングモード制御器を構成する.また,二階微分情報のもとで,末知バイアスパラメータの適応調節機構を伴った適応スライディングモード制御器を構成する.いずれの場合においても,制御器と適応則の安定性とロバスト性を理論的に保証する.適応制御器の適応則は,加減速度情報を用いており,従来のものとは異なっている.適応なしのスライディングモード制御器においても,二階微分情報まで利用する方が,良好な制御結果が得られる.これは先行車による外乱項が消失し,オフラインでもバイアスパラメータを小さめに推定できることによる.二階微分情報下においては,適応スライディングモード制御器は通常のスライディングモード制御器と比べた場合,良好な制御性能を発揮する.こればバイアスパラメータがオンラインで精度よく推定可能となることによる.シミュレーションに見られるように適応速度は速いので,周期的にパラメータをリセットすれば,外乱規模の時間変動に応じた,より細かな適応が可能になると思われる.


■ リッカチ不等式を用いた拡張H∞制御問題の可解条件の導出

千葉大・平田光男,佐藤隆之,劉 康志,東工大・美多 勉

 H∞制御でサーボ系の設計を行う1つの方法として,不安定重みを用いた手法がある.これは拡張H∞制御と呼ばれ,リッカチ方程式をベースにした解法がすでに提案されている.しかしながら,可解条件を導く際におかれている仮定は不安定定重みに対する条件を除いて標準H∞制御問題のものと同一であり,特異問題に対しては,そのまま適用できない.

 そこで,本論文では必要最小限の仮定のもとで拡張H∞制御問題の可解条件をリッカチ不等式を用いて導出し,制御器の1つを示した.そして,重み関数の不安定極に対応するG12およびG21の零点ベクトルが唯一に定まる場合,LMIを用いて解の存在条件を数値的にチェックできることを示し,その場合の具体的な解の導出手順を例題を用いて示した.これにより,G12,G21に対する有限および無限零点に対する仮定が満たされない場合でも解を求めることが可能となる.


■ 超多自由度マニピュレータの制御―曲線パラメータ推定に基づく形状トラッキング―

北陸先端大・望山 洋,示村悦二郎,法政大・小林尚登

 生物に見られる柔軟性・融通性の高いマニピュレータの存在に動機づけられて,超多自由度ロボットマニピュレータの実現を目指す多くの研究がなされてきた.超多自由度マニピュレータは,その豊富な運動学的自由度を有効に活用することによって,従来型のマニピュレータでは決して実現しえなかった高度な作業の達成が期待できる.本研究では,超多自由度マニピュレータを特徴づける本質がその形状にあるという観点から,動力学モデルに基づく超多自由度マニピュレータの形状制御を提案してきた.

 本稿では,形状トラッキング,すなわち時間と共に変化する曲線を追従する制御方式を考え,形状トラッキングを達成するための制御則の導出法を与える.本稿で提案する導出法は曲線パラメータ推定に基づくもので,直接的に逆運動学を解く手法よりも実時間性に優れている.2次の曲線パラメータ推定器をマニピュレータと結合したシステムを考えると,そのシステムはマニピュレータの重要な性質を再び保持している.この結果,結合システムをマニピュレータシステムであるかのようにみなして,従来のマニピュレータに対するトラッキング制御則を利用して,曲線パラメータ推定則を含んだ形で形状トラッキング制御則を導くことができる.


■ 同定誤差とシステムの不確かさに関して

千葉大・津村幸治,伊藤 晃,齋藤義夫

 同定とロバスト制御系設計の整合を考えるとき,後者が不確かさの最悪状況を想定しているため,同定誤差としても最悪同定誤差を考慮する必要がある.そのような確定的考えに基づく同定手法に関する研究があるが,そこで想定されているノイズは,入出力データに対して相対的に小さなものであり,大きなノイズのデータへの混入が一般的である実システムに対して,厳密な最悪同定誤差を計算し,それを設計に用いることの意義については,十分議論する必要がある.

 以上の状況をふまえて本研究ではまず,最悪同定誤差におけるノイズの影響の大きさについて説明する.そして最悪同定誤差がノイズに対して敏感であり,一般にそれが非常に大となることを示したうえで,不確かさの最大値を必要とする従来のロバスト制御理論の考え方の問題点について論ずる.以上の状況に対して提案されたデータ分布依存ロバスト制御について説明し,その手法に対して有用な情報を与えるべく,確率的同定手法である最小2乗法における,同定誤差の保守性について解析し,その結果を用いた制御系設計の数値例を示す.


■ むだ時間補正型修正繰り返し制御系の一設計法

福井大・杉本英彦,鷲田一夫

 従来,修正繰り返し制御系では,ローパスフィルターの帯域をできる限り広げられるようにこの制御系の前置補償器を設計することが制御性能の改善につながると考えられてきた.しかし,制御性能は,本来,目標値や外乱がもっている主な周波数帯域における制御系の感度関数に依存するから,感度関数で評価するのがよいと考えられる.そこで,本論文では,まず,修正繰り返し制御系とむだ時間補正型修正繰り返し制御系の感度関数を求めた.その結果,ローパスフィルターの帯域を広げられても感度関数が改善されるとは限らないことが明らかになった.つぎに,感度関数を評価関数としても,比較されるいくつかの感度関数が交差する場合が発生し制御性能の優劣を正確に判断するのは困難であるので,新たな設計指針として,シミュレーションにより偏差面積IAEを求め,この評価関数を最小化する観点で設計する設計法を示す.また,修正繰り返し制御系を,筆者らが提案したむだ時間補正型とし,この設計法により設計すれば制御性能が大幅に向上することを示す.これらのことより,修正繰り返し制御系は,むだ時間補正型とし,その設計は,評価関数IAEを最小化する観点で設計する設計法を提案する.


■ マルチプライアとLMIに基づく状態フィードバック制御系のμ解析と設計

阪府大・陳  幹,京大・杉江俊治

 構造化特異値μは構造的な不確実さを有するシステムの解析や設計に有効であることが知られているが,μの真値を計算することは困難であり,一般にその上界値が用いられる.近年,これに関して,マルチプライアに基づく保守性の少ない上界の計算法や,これと強正実補題を組み合わせることにより,動的システムのμ設計問題をBMI(双線形行列不等式)に帰着させる方法などが提案されている.しかし,そこでは設計者がマルチプライアの基底や次数などをあらかじめ指定しなければならず,その結果としてマルチプライアの選択に制限を加えることになるので,保守性の増加が考えられる.

 本論文ではパラメータ依存マルチプライアを用いることにより,設計者がマルチプライアを選択することを必要とせず,かつ上記の従来法よりも計算量・保守性がともに少ないμの上界の計算法を提案している.具体的には,パラメータ依存のマルチプライアを用いることで保守性を軽減した上で,制御対象と同一次元のマルチプライアを用いれば,任意の高次元のマルチプライアを用いた場合と同等の保守性でμの上界がLMI(線形行列不等式)により計算できることを示した.また,このとき保守性を増加させることなく,条件式からマルチプライアのダイナミクス(A行列)を消去し,上界計算に用いるLMIの次元を減少させた.さらに,この結果に基づき,一般にはBMI問題になる状態フィードバックμ補償器の設計問題がLMI問題に帰着できることを示した.数値例によりその有効性も検証している.


■ Gradient Flowによるシステム空間の解析

千葉大・津村幸治,トキコ・村田修一,千葉大・齋藤義夫

 工学上の問題の多くは,何らかの評価関数の最適化問題として定式化できる.しかし多くの場合,さまざまな理由から最適解のみならず,その近傍についての情報が必要となる.これに対して著者らは,システム空間の幾何構造を解析することを目的とし,物理パラメタの相違を反映する線形システムの実現の集合に,工学的に意味のある隔たり度を定義し,そしてその隔たり度によるグラミアン指定問題,最適実現問題を解いた.ただし最適解近傍における,パラメタ表示を伴ったシステム集合の表現は与えられていない.

 本論文の目的は,隔たり度に基づくグラミアン指定問題,最適実現問題の結果を,グラディエントフローを用いて再考することにある.それらの最適化問題の解が,微分方程式の収束点として与えられ,同時に微分方程式の解として,システムのパラメトリゼーションが得られることを示す.さらに工学上の関連するいくつかの問題を,グラディエントフローを用いて解析する.


■ 剛結合された2本のビームのモデリングとロバスト制御

東工大・松野文俊,川崎重工・平嶋 理

 本論文では,トラス構造のような閉ループ機構をもった宇宙構造物の構成要素の一例として,剛結合された2本のビームのモデリングと制御について考察している.2本のビームの端がそれぞれ駆動用のモータの回転軸に固定されており,もう一方の端が共通の負荷に結合されている場合を考える.

 まず,拘束条件に対応するラグランジュ乗数を導入し,ハミルトンの原理を用いてモータの回転の方程式とビームの振動方程式を導く.ビームの振動方程式の境界条件は非同次なものとなる.この境界条件を同次化した分布定数系に対応する固有値問題を解くことにより固有値と固有関数を求める.これらを用いて分布定数系を有限次元化し,システムの状態方程式と出力方程式を導く.つぎに,ビームの振動を抑制するための制御器を高域遮断特性を持たせた最適レギュレータとH∞制御を用いて構成する.シミュレーションにより,構成した制御器が対象システムに対して有効に働くことを検証し,それぞれの制御器の振動抑制効果を比較,検討する.


■ 分布減衰を持つ有限梁の想定による柔軟梁の波動制御

京都工芸大・澤田祐一,大住 晃,小野 彩

 柔軟梁に対する従来の波動制御法は,その境界に取り付けた制御器により半無限梁と同等の波の伝播特性を実現し,梁上の進行波をその制御境界で吸収してしまう手法である.これは,梁と制御器による波動吸収器の機械的インピーダンスを一致させることによって実現される.

 これに対し,本論文では柔軟な片持ち梁に対する新たな波動吸収制御の考え方を提案する.その手法は分布減衰力をもつ有限長の梁を,制御対象とする片持ち梁の自由端に仮想的に接合したと考え,(実)片持ち梁上に存在する波のエネルギーをその仮想梁で吸収しようとするアイデアである.もちろん,仮想梁の数学モデルは計算機上でのみ構築され,それによって計算される仮想梁の(実片持ち梁との)接合点における反力を制御量(制御力および制御モーメント)として生成し片持ち梁の自由端に加える.分布減衰力の大きさを左右する減衰定数は仮想梁上の波のエネルギーの吸収効率が最大になるように決定する.

 本論文では,仮想梁の分布減衰力として粘性減衰およびKelvin-Voigt型減衰を考え,両者に対する梁の挙動をシミュレーションにより比較している.


■ 構造的不確かさを持つ系に対するロバスト繰返し制御

東京工科大・Jin-Jua She,東工大・中野道雄

 本論文では,構造的不確かさを持つ連続な制御対象に対してロバストデジタル繰返し制御系の一設計法を提案する.系のフィードバック特性と追従特性に関する設計仕様が独立に達成できるために,繰返し制御系に二自由度制御構造を持たせることが重要である.このとき,フィードバックコントローラの設計において,連続な制御対象の不確かさを離散的な見積りを行わず,サンプル値H∞制御理論により直接に扱い,系のロバスト安定性を保証するように設計する.また,フィードフォワードコントローラの設計において,まず,そのパラメートリゼーションを与え,つぎに,過渡応答を最適化するようにフリーパラメータの設計法を与える.この手法の有効性をシミュレーションにより検証した.


■ 位置関係が未知の複数視点からの距離画像の重ね合わせ手法

東大・清水郁子,出口光一郎

 レンジファインダを用いて,全周囲方向に対する物体の完全な三次元形状データを得る方法を示す.ひとつの視点からの距離画像だけでは,完全な形状は得られないので,多数の視点から距離画像を得て,これを統合する必要がある.本論文では,位置関係がわからない多数の視点から測定した距離画像をもとに,得られた複数の距離画像自体から視点間の位置関係を求め,それらを統合する手法を述べる.

 複数の距離画像から,測定を行った視点の位置関係を正確に決定するためには,データの誤差を考慮しなければならない.本論文の方法はこれを行っている.

 具体的には,まず,対象物体の各視点での距離画像を,それぞれ三次元凸包で覆う.凸包を用いることにより,対象が複雑な形状であっても,平面の対応を用いて視点間の位置関係を求めることができる.面積と隣接関係をもとに,凸包の各面を視点間で対応づけ,その対応から,視点の相対的な位置関係を求める.視点の位置関係は,回転行列と並進ベクトルによって表わされる.この回転行列を求める際,適切な拘束(行列式の値が1の正規直交列)のもとで求めることにより,データの誤差が大きい場合にも,適切な位置関係を求めることが可能である.このようなことを可能にする数値計算の方法を示す.


■ センサベーストナビゲーションにおいて移動ロボットが目的地付近まで到達できる誤差の条件

大阪電通大・登尾啓史,吉岡 孝

 本稿では,まず,移動ロボットの位置や姿勢の誤差に対応できるよう,従来のセンサベーストナビゲーションアルゴリズムを修正する.従来のアルゴリズムは,内界センサ(ジャイロコンパスやエンコーダなど)で計測される自己位置・姿勢情報,そして,外界センサ(超音波・光センサなど)で計測される未知障害物の形状情報を利用するが,本稿ではそれらの役割を明確にしながら従来のアルゴリズムを修正する.つぎに,初期地と目的地を結ぶパスが未知空間に存在しないとき,移動ロボットはそのことをデッドロック(無限ループ)に陥ることで自動的に認識し,そうでなければ,移動ロボットはデッドロックに陥ることなく目的地付近まで到達できる性質をグロスデッドロックフリー特性と定義する.そして,修正センサベーストナビゲーションアルゴリズムがグロスデッドロックフリー特性を維持する必要十分条件は,誤差により誕生する真の位置と偽の位置の間の写像が同相写像となることであることを理論的に証明する.最後に,これらの特性をグラフィックスシミュレーションで確認する.


■ ニューラルネットワークを用いた音楽コード進行に対応する感性モデルの解析

徳山高専・大西 巌,大阪電通大・木村一郎,三菱重工・武井 努,京都工芸大・黒江康明

 心の豊かさを求める21世紀の感性社会では,工学のさまざまな分野で人間と技術の融合性を高めることが重要になると考えられ,そのためにはまず「感性」なるものを工学的な立場からモデル化し,技術体系として一歩一歩積み上げていくことが必要である.人間の感性に直接訴えかけてくるものは数多く存在するが,特に音楽は感性に最も強く影響を及ぼすものの1つである.

 本研究では,音楽感性システムの実現への第一歩として,音楽に対応する感性の本質的な部分をモデル化することを目的とし,複数の楽音を重ねて音楽の表現を豊かにするハーモニーに注目し,音楽の全体的な雰囲気を作るといわれるコード進行から「明るい―暗い」,「協和―不協和」という2つの形容詞対を感性情報として取り出すモデルをニューラルネットワークを用いて構築する.さらに,学習によってネットワーク上に獲得した内部表現の解析を行うことにより,この音楽コード進行に対応する感性モデルの応答を音楽理論の知見と比較,検討する.


■ 神経振動子を用いた2足歩行運動生成への記述関数法の適用

神戸大・片山 修,北村新三

 セントラルパターンジェネレータとして,4つの神経素子を結合させた神経振動子を構成し,2足歩行ロボットの運動生成に用いた.神経振動子は非線形の微分方程式で表わされ,適当な2足歩行運動を行う各関節の軌道を生成するために,微分方程式の未知パラメータを決定する問題が生じる.この問題に対して,神経振動子に記述関数法を適用し,周期解が存在するための条件式を求めた.さらに,この得られた条件式に遊脚の動作によって表わした歩行パターンを加えることによって,未知のパラメータを決定できる.ここで提案した2足歩行運動を設計する手法の有効性を示すために,小型2足歩行ロボットを用いて実験を行った.


■ 仕様に階層表現を用いた条件/事象ネットの構成

豊橋技科大・松谷 豊,橋爪 進,名大・小野木克明,東邦大・西村義行

 著者らはこれまでに条件/事象ネットの構成問題を,“望ましいネットの動作が半言語を使って仕様として与えられたとき,その動作だけを行う条件/事象ネットを構成せよ”という問題としてとらえることを提案してきた.本論文では,一連のまとまった動作を表わす半言語を1つの事象で表わす,という形で仕様が階層表現されたときの条件/事象ネット構成問題を考える.そこでは,まず初めに,この構成問題の解と各レベルごとの構成問題の解との関係を明らかにする.つぎに,この結果をもとに,それぞれ独立に求められた各レベルごとの構成問題の解から,この問題の解を構成するための1つの方法を提案する.これによって,離散事象システムの階層的な設計が期待される.


■ 組合せ多目的最適化問題に対するメタ戦略型満足化トレードオフ法

阪大・田村坦之,柴田智裕,鳩野逸生,富山伸司

 本論文では,満足化トレードオフ法に,集合による探索という特徴をもつ遺伝的アルゴリズム(GA)を利用して,多目的組合せ最適化問題のパレート最適解集合を生成することにより,複雑な多目的組合せ最適化問題に対する選好解を短時間で得るメタ戦略型満足化トレードオフ法を提案する.本手法では,GAによるパレート最適解集合の探索を行い,そのパレート解集合をmin-max問題の解候補とする.そして,満足化トレードオフ法の手続きを,意思決定者と対話的に行うことにより,選好解を選定する.また本手法では,基本的に逐一min-max問題の解を探索するのではないため,短い時間で解の探索を行えることが期待できる.またGAによる探索にFamily Elitistの概念を導入することにより,より良好で多様なパレート最適解集合の中から選好解を選定できることが期待できる.本論文では,このような手法をフローショップスケジューリング問題に対して適用することにより,その有用性を検討する.


■ 技能動作の複数手本軌道に対する時刻対応づけ

京大・吉川恒夫,井村順一,高崎真哉

 ロボットに技能獲得をさせる場合,実際に人間が動作の例示を行い,それに基づいて行わせる方法は獲得の容易化のために有効である.特に同一動作において複数回の例示を用いれば,それらからより有効な情報を見つけられると考えられる.

 複数試行の例示動作を利用する場合には,試行間どおしでの時刻的な対応づけがまず必要になるが,本論文では技能動作の場合に適したその一手法を提案する.

 またそれをけん玉に適用し,その有効性について検証する.


■ ニューラルネットワーク集団における相互交信機能による交叉型状態遷移の実現とその組合せ最適化問題への応用

慶大・大谷正明,相●英太郎,堀江亮太,馬渕 崇

 遺伝アルゴリズムの交叉演算は,複数種類の状態間の情報交換により新状態を創発させる演算機能とされているが,本論文では,最小化関数が2次関数の0-1組合せ最適化問題において,この交叉演算に相当する状態遷移則を複数のニューラルネットワーク集団の相互交信機能により実現している.この遷移則は,複数ビットの情報交換によって生成される新状態が,旧状態より良い0-1組合せ状態かを,ニューロンの帰還入力量に対する入出力特性によって自動的に判定するものである.また,複数のニューラルネットワークを相手として同時交信したとき,それによって得られる複数の新状態のうち,最良の組合せ状態を受理するいわゆる「競合原理」に基づく状態遷移則も提案している.このようなシステムによるアルゴリズムと遺伝アルゴリズムとを同条件で,簡単な組合せ問題に対して比較することによって,前者の方が大域的最適解への収束効率の点でより良好な計算結果が得ることを確認している.


[ショート・ペーパー]

■ 多目的線形計画問題に対する非ピボット法に基づく有効解生成

京大・井田正明

 多目的線形計画問題においては有効解集合を求めるために有効端点をいかに効率よく生成するかが重要となる.従来のピボット法に基づく有効解生成法では有効性判定のため副問題として線形計画問題を解く必要が生じる.本論文では多目的線形計画問題に対し非ピボット法に基づく有効端点生成の基礎的考察を行った.これにより有効端点と有効端線間の関係および効果的な有効性判定法などに関する成果が得られた.これらを利用することにより有効端線(点)生成アルゴリズムを構成することが可能となる.まこれにより大規模な多目的線形計画問題や係数に不確かさを有する多目的計画問題などへの応用を考えることができる.


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