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[論 文]
[ショート・ペーパー]
法政大・花泉 弘,澤田陽以,国立環境研・横田達也
近年,オゾン層の破壊が深刻化しているが,破壊の速度を予測したり破壊が進まないように対策を立てる上でもオゾンとオゾン層内の化学反応に関連する微量(ガス)成分の高度分布を知ることは非常に重要である.そのため,これらの微量ガスの高度分布測定を目的として,1996年に打ち上げ予定のADEOSには太陽掩蔽法(so1ar occultation)を原理とするILAS(Improved Limb Atmospheric Spectrometer:改良型大気周縁赤外分光計)が搭載される.このセンサは,太陽を光源として大気の吸収スペクトルを測定するもので,可視域および赤外域にそれぞれl024,44素子分の観測波長帯をもち,可視域での分光透過率から得られた光路上の圧力・温度の高度分布情報を使用して,赤外域での分光透過率データから大気微量成分の高度分布を推定する.数%の精度での測定を目標としているが,このような高精度の測定を行うためには非線形スペクトルフィッティング法を用いる必要がある.この方法は逆問題を順問題として解くため吸収線の情報を基に各波長帯での分光透過率を計算する際に膨大な量のデータベースを多数回検索する必要があり,通常の計算機では非常に膨大な計算時間を要する.一方で,最適な演算法を確立するためにノイズや分光素子間のクロストークなどシステムにおける不確定要因の影響評価を厳密に行う必要があり,このための簡便かつ高速な処理システムが望まれていた.本文では,推定精度よりも不確定要因の影響評価を効率的に行うことに主眼を置き,バンドモデルに基づく簡易高速処理システムを構築している.透過率の計算にはバンドモデルに基づくLOWTRAN7やMODTRAN2を用いている.さらに,構築したシステムを用いて,検出器素子間のクロストークが気体高度分布の推定値に与える影響や,分光透過率測定値に含まれるノイズが推定値に与える影響の評価を行っている.本文では,LOWTRAN7を用いたシステムを中心に,原理と数値実験,および得られた知見について述べている.
豊橋技科大・合志和洋,田所嘉昭
本論文では,3素子センサアレイの各素子に入射する信号間の位相差から到来波の方位角と仰角を検出し,一受信点測位法に基づき移動体を追尾する手法の性能を明らかにする.一受信点測位法は,1つの受信点で検出された到来波の方位角と仰角からその送信源位置を決定する.各センサ素子に入射する信号の位相は,そのフーリエ係数から推定される.フーリエ係数の導出方法としては,任意周波数の解析が可能であるノッチフーリエ変換(NFT)および最尤推定について検討を行い,両者の測位精度の比較を行う.さらに,ノイズに弱いNFTの測位分解能を改善する手法として,基準素子出力と各アレイ素子出力との相互相関関数の位相をNFTにより推定し,到来波の方位角と仰角を検出する手法についても検討を行う.そして,これらの本論文で提案する手法の性能は,試作した超音波送受信システムで得られたデータにより評価する.制限された領域内での測位実験の結果,1回の測位に使用するサンプルデータ数を多くすると,平均化の効果により方位角と仰角の検出結果のばらつきを軽減でき,妥当な測位精度を得ることができた.また,追尾実験の結果,固定送信源の場合に比べ測位誤差は多少大きくなるが,その送信源の移動方向が認識できることを確認した.
新日鉄・有田秀●,大友雄二,森内真樹
CCDカメラ付きのレーザー・トランシットを用いて,コンパクトで高精度の3次元座標自動計測システムを開発した.このシステムは,レーザートランシット,画像処理ユニット,およびノートパソコンから構成されている.座標計測目標点上に設置したターゲットマークに対して,このシステムはCADデータに基づき,ターゲットマークを順次追跡しながら,距離,水平・垂直方向角および画像データを採取する.画像処理ユニットはビデオ画像データを入力とし,ターゲットマーク領域を検出し,ターゲットマーク図形としての楕円とそのパラメータを同定する.ホストのパーソナルコンピュータは,これらのデータを用いて,ターゲットマーク中心とオフセット点の3次元座標値を求め,それを出力する.工場での精度試験では,距離約27m,繰返し12回の計測で,3次元座標の各成分推定値の標準偏差が1.0mm以内であった.
東工大・初澤 毅,岡村泰雄
マイクロマシン用構造部材の機械的性質については,バルク値を代表値として用いる場合が多い.薄膜の値については,プロセスによる変動が大きいため,実際の使用状況に即した構造により,適宜評価する必要がある.ヤング率などの評価については,微細加工によりはりを作製し,この共振周波数から推定する方法が提案されている.本論文でもシリコン酸化膜の片持ちはりの振動特性を測定することにより,ヤング率を推定する.ここでは,はりの振動変位測定のためはり自身にアルミ薄膜を蒸着しハーフミラーの役割を持たせ,フィゾー干渉計を構成しているため,測定系が簡便になる特長を有する.また,はりの基板に対する相対変位のみが独立して測定できるため,通常の機械加振系が使用可能である.熱酸化膜とTEOS-CVD酸化膜について測定を行い,両者とバルク値の比較を行うとともに,本手法の有用性などについて検討する.
電通大・西 一樹,東大・安部素嗣,安藤 繁
ピッチが緩やかに変化する調波性音脈(ストリーム)が複数重なってできた混合音から,各ストリームを個別に分離する問題(聴覚情景分析におけるストリーム分離問題)に対して,多重ピッチの同時追跡とストリームの個別再生を可能にするアルゴリズムを提案する.
その主要部分は,1)時変スペクトル構造の検出と個別ストリームの再構成アルゴリズム,2)混合音から複数のピッチ周波数候補を同時に検出するアルゴリズム,3)それぞれのピッチ候補を独立に追跡しつつ,唯一個のピッチ候補に最適収束させてゆくアルゴリズムからなる.1)についてはピッチ推定誤差の音質への影響を最小限に抑えるためにウェーブレット解析を導入し,2)については倍音和スペクトルで定義される尤度関数を用い,3)についてはピッチ候補の確率密度関数推定が可能なノンパラメトリック・カルマンフィルタを導入している.
合成音声や実音声に本アルゴリズムを適用し,ストリーム分離が可能なことを確認した.
金沢高専・南出章幸,金沢工大・得永嘉昭
本論文は,中小企業の現場で誰でもが使える光音響顕微鏡(SPAM)の設計・開発について述べたものである.SPAM開発に当たりSPAMを1つのシステムとしてとらえ,そのハードウェアとソフトウェアの両面から研究し,取扱いの容易さと低価格化に主眼を置いて開発を行った.開発したSPAMシステムを使って得られた画像および物性計測はつぎの通りである.
1. 快削性セラミクスの幅200 μmの表面傷を測定した結果,SPAM像が光学像とよく一致したこと,2. エポキシ樹脂の深さ1mm程度にある直径1mmの内部ドリル傷の形状および大きさについて十分検出できたこと,3. CFRPの炭素繊維束の分布状況についても検出できたこと,4. エポキシ系接着剤の熱拡散率がかなりよい精度で推定できたこと.
東北大・江村 超,千田陽介,檜山昌之,日立・金子哲憲,日工精機・荒川 章
車輪型移動ロボットのデッドレコニングの精度向上の研究に際して,移動車の軌道を正確に測定することは必要不可欠である.筆者らはビデオカメラの視線をサーボモータを用いて移動車に自動追従させることにより,カメラ画像とサーボモータの回転角から移動車の位置・軌道を測定するシステムを構築した.本システムは電動レンズを用いて視野角を小さく取ることにより高い測定精度と,カメラの視線を可変にすることにより広い測定範囲の両方を兼ね備えている.
本論では本測定装置の静的精度を測定し,誤差原因とその補正方法について考察する.考察の結果,測定誤差の主因はシステムの組み立て時の角度誤差であることをシミュレーションにより明らかにした.また誤差の補正手段として,テーブル参照法が効果のある手法であることを示し,実験によって確認した.その結果,システムの静的測定精度は4×3.5m内の平面において平均2.7mmを得た.さらに,移動車の軌道を実測し本システムが優れた実用性を有していることも示している.
豊田高専・齋藤 努,松井孝誌,豊橋技科大・本多英基,田所嘉昭
本論文においては,くし型フィルタを用いた採譜のための音階検出法を提案し,これに基づく音階検出をリアルタイムに行うシステムをDSPを用いて開発したので報告する.楽器音などの採譜においては,倍音が多く含まれていることが,採譜の処理を複雑にしている.本文では高調波成分をくし型フィルタにより除去し,音階検出を行う方式を検討する.くし型フィルタは周波数領域において基本周波数の整数倍の点に零点を持つため,基本周波数と同時にその倍音も取り除くことができる.つまり,ある音階に対応したフィルタの出力のみが零となる場合,その音階がフィルタによって取り除かれ,その音階が存在したことがわかる.和音についても,くし型フィルタの縦続接続により単音に分離し処理することで音階の推定ができる.くし型フィルタの処理は加減算のみで実現でき,高速処理が可能である.はじめに,くし型フィルタによる音階の検出原理を示す.つぎに実際にシステムを実現する際に実現しやすいオーバーサンプリング法によるくし型フィルタの構成を示す.つぎに和音の処理方法について検討を行い,和音処理が可能なことを示す.最後にDSPを用いて実現したリアルタイム音階検出システムと実音データの処理結果を示す.
防大・高橋一成,中内 靖,森 泰親
一般化最小分散制御(GMVC)の応答特性の改善は,評価関数に含まれる重み多項式を適切に設定することによって行われるが,目標値に対しオフセットなく追従させるため,その設定にある条件が課せられる.この条件の下では,目標値追従性と外乱抑制性を独立して調整することができず,厳しい設計仕様に対応することができない.
この問題に対処するため,本論文では外乱特性を重視してフィードバック特性を設定したのち,さらに目標値追従特性の改善を独立に行うことのできる2自由度GMVCを提案する.このGMVCは,2自由度制御系を構成するための最も簡単な手法であるフィードフォワード要素を,従来のGMVCに付け加えた構造になっている.フィードバック特性を操作量重みによって設定する際に,閉ループ極を指定領域に配置する操作量重みの範囲を計算し,その中から最も良好な外乱特性を示す値に決定する.フィードフォワード要素は,2自由度GMVCの目標値から制御量までの伝達特性を,立ち上がり時間および減衰振動特性によって規定される離散時間系の参照モデルにマッチングすることによって設計する.これにより目標値追従特性のみを独立に改善することができる.
和歌山大・安田一則,神戸大・中辻喜久
スライディングモード制御は,システム行列の不確かさに対してロバストであることが知られている.しかし,入力行列の不確かさについては,ほとんど検討されていない.
本論文では,システム行列にも入力行列にもマッチング条件を満たさないノルム有界型の不確かさをもつ線形多入力系に対して,スライディングモード制御系の設計問題を考察している.まず,状態が直接利用できる場合について,スライディングモード制御が達成できるための条件と制御則を与えた.この結果,入力行列に不確かさがない場合と違い,状態フィードバックによる二次安定化可能条件に加えて入力行列の不確かさが小さいことを要求する条件が必要であることがわかった.さらに,状態が直接利用できない場合についても検討し,外乱除去オブザーバが構成できるときには,出力フィードバックによるロバストスライディングモード制御が実現できることを示した.
阪大・太田快人,東京都立大・児島 晃
本論文は,複数のむだ時間をもつ入力むだ時間系のハンケル特異値を計算する方法について考察している.固有値計算の方法が明らかにされている準分離型の積分核をもつ積分作用素の性質を利用することにより,特異値を計算することができることが示される.
具体的には,つぎのような結果を得ている.まず入力むだ時間系の入出力グラミアンを計算したのちに,その積分作用素の核が,準分離型とよばれる構造をもつクラスとなるための手続き的な条件を明らかにする.つぎに,その手続き的な条件をむだ時間の大きさに関する簡単な十分条件と必要条件として与える.最後に,準分離型の積分核のグラミアンをもつ系について,そのシステム行列からつくられるハミルトン行列の指数関数を用いたハンケル特異値のための超越方程式を導く.
九大・毛利 彰,平野 剛,山本元司
複数台のマニピュレータを協調的に使うことにより,細長い重量物を移動させる場合等,単一マニピュレータでは機構的に苦手な作業でも,1台あたりの負荷が軽減され比較的容易に作業が行えるようになる.
そこで本論文では,複数台のマニピュレータが協調して1つの物体を運ぶ場合の近似最適な経路および各関節トルクを求める方法について述べる.ここでは経路パラメータsという無次元数によってマニピュレータの関節経路を表現し,この経路パラメータと時間を対応づける曲線λ(s)と移動経路をB―スプライン曲線によって近似する.これらにより系のダイナミクスを表わし,探索により近似最適化する.B―スプライン曲線を用いるのは,得られる最終経路がなめらかな曲線となるためで,これにより現実的な軌道を計画できる.また,力の冗長自由度であるyも近似最適化することによりさらなる軌道時間の短縮をはかる.
長岡技科大・櫻井達也,川谷亮治,大阪府立高専・土井智晴
制御対象の軽量化などに伴って,構造物の柔軟性により生じる弾性振動が問題となり,それを制御する必要性が高まりつつある.このような制御問題に対して,ロバスト制御理論の適用により,スピルオーバ現象を起こすことなく高い制振能力をもつ制御器の設計を行うことができ,これまでにも多くの報告が行われている.しかし,その多くは制御の対象となる振動モードは正確にモデル化されていることを前提としている.これに対して,実際の柔軟構造物においては,経年変化や質量移動などの影響から,制振対象となる低次の振動モードにおいてもパラメータ変動といった不確かさが存在する.したがって,このような状況下でも性能を維持する制御器の設計は実用上重要といえる.本研究では,柔軟構造物の一例として両端単純支持された弾性はりを対象として,その振動制御問題を議論する.特に,モデル作成時に無視した高次振動モードに加えて,集中質量の付加による構造的なパラメータ変動の存在のもとでの制御問題を扱う.前者に対しては,非構造的不確かさに対するロバスト安定化問題,後者に対しては2次安定化問題を適用し,これらを混合することにより希望する性能を有する制御器の設計を行う.また,その有効性をシミュレーションならびに実験により検証する.
九工大・揚 子江
近年,システム同定の分野で,部分空間同定法が精力的に研究され,脚光を浴びている.これまで発表された部分空間同定法はほとんど離散時間モデルに基づいている.しかし,離散時間モデルでは,サンプリング周期が小さいとき,モデルの極が単位円に近づくので,連続時間モデルとの対応が悪く,モデルが同定しにくくなる.また,入力信号が比較的なめらかである場合,同定問題は悪条件になりやすい.そのため,連続時間状態空間モデルに対する部分空間同定法も考えられていた.これは,システムの入出力信号の微分を状態変数フィルタで処理した後,部分空間同定法を適用する方法である.しかし,特にシステムの次数が高い場合,たとえ前処理フィルタで処理されたとしても,信号の高次微分値の低次微分値の振幅が非常に異なるので,同定問題が悪条件になり,同定結果は著しく劣化する恐れがある.本論文では,前述の問題点を解決するため,演算子ω=(p−α)/(p+α)(ただし,pは微分演算子である)を導入し,同定対象と入出力関係が等価なω演算子状態空間モデルを導出する.そこで,部分空間同定法を適用し,システムのω演算子状態空間モデルを同定する.同定されたω演算子状態空間モデルを逆変換すれば,普通の連続時間状態空間モデルが得られる.ω演算子はラゲールフィルタと対応しているので,システムの次数が高い場合でも,同定に使われるデータ行列の条件数が著しく大きくなることがなく,精度のよい同定結果を得ることができる.ω演算子の極を決める定数αを選定する指針についても考察し,提案される手法の有効性を,デシメーションを用いた間接同定法および状態変数フィルタを用いた直接同定法との比較を通じて明らかにする.
広大・向谷博明,水上孝一,Hua Xu
A22-1が存在する標準特異摂動システムにおけるH∞制御問題において,確立した設計手法の1つに,full-order systemをslow systemとfast systemの2つの時間領域に分ける特異摂動法がある.この手法では,構築された制御器はO(ε)程度の近似解であり,最適な制御を行うことは難しい.また,近年,high-orderである正確な制御器をえるためのアルゴリズムの研究報告があるが,補助的な状態変数を導入しなければならないため,システムの次元および,計算が増加するなどの傾向がある.
従来,係数行列であるA22-1の存在が仮定されていない非標準特異摂動システムにおいて,H∞制御問題に関する研究はほとんど扱われていない.また,制御器を構成するために解く必要があるリカッチ方程式の再帰的アルゴリズムを利用した数値解法もほとんど研究されていない.そこで本論文では,標準,非標準特異摂動システムにおけるH∞制御問題に対して,再帰的アルゴリズムの手法を利用した制御器の構築を提案する.再帰的アルゴリズムを利用することにより,特異摂動法を用いずに,直接full-order systemにおけるリカッチ方程式の解をO(εk)の高精度でえられることを示す.また,再帰的アルゴリズムによってえられた制御器は,設計仕様のγに対してγ+O(εk+1)を保証することを示す.最後に,アルゴリズムの有効性を検証するため,数値例に適用し解を求める.
金沢工大・小林伸明,岐阜職業能力開発短大・櫻井光広,足利工大・中溝高好,保土ヶ谷化学工業・矢野靖仁
標準的最適レギュレータ問題の解を,加法的に外乱が印加される系に適用した場合,最小位相系では2次形式評価関数の重みを操作すると,外乱の影響は小さくなるが,その外乱除去特性について十分には明らかにされていない.
そこで本論文では,標準的最適レギュレータ問題における2次形式評価関数の出力に関する重み行列を無限大へ極限することによって得られる最適レギュレータの極限解の外乱除去特性について論じる.
まず,加法的に外乱が印加される最小位相系に対する,最適レギュレータの極限解による外乱除去特性を示す.つぎに,非最小位相系に対しても,システムが安定な外乱分離条件を満足するとき,最適レギュレータの極限解が完全な外乱除去を達成することを明らかにする.またこのとき,制御入力は過大とならないことを示す.このことから,零点に関する条件が,最適レギュレータの極限解によって外乱の影響を除去できるための本質的条件であり,外乱分離条件が制御入力を過大としない実現上の制約条件であることを明らかにした.最後に数値例により本論文で得られた結果の妥当性を示す.
奈良先端大・山下 裕,北大・島 公脩
本論文では,Hamilton-Jacobi偏微分方程式を解く新しい方法を提案した.Hamilton-Jacobi偏微分方程式は,非線形H∞制御問題や非線形最適制御問題の解析・設計において重要な役割を果たしている.あるHamiltonian関数から生成されるHamiltonian systemの安定多様体は,Hamilton-Jacobi偏微分方程式の解V(x)の微分p=dV(x)を表現していることはよく知られている.また,Hamilton-Jacobi偏微分方程式の最低次を取り出したRiccati代数方程式の解が,その安定多様体の原点における接平面を表わしていることも同様に知られている.そこで,本論文では,その上を動く軌道を補間することによって,dV(x)を近似的に得た.その軌道の初期値は,Riccati代数方程式の解によって表現された安定多様体の原点における接平面上の原点近傍の点にとり,その上でHamiltonian systemを逆時間に解いた.その際の初期値の選び方・軌道の上を動く時間区間は,線形近似したダイナミクスをもとに決定した.得られた軌道を,Bezier補間式を用いて近似した.ただし,原点においてdV(0)=0でなくてはならないので,制約付きの最小二乗法を用いてBezier補間式の係数を決定した.さらに,数値実験により良好な結果が得られることを確認した.
上智大・申 鉄龍,田村捷利
最近受動性理論によるロバスト安定化手法が提案されているが,そのほとんどはパラメータ摂動型不確かさしか考えていない.本論文は不確かさが状態の未知関数として表わされる場合のロバスト安定化問題を考える.本論文の主な結果はそのような不確かな非線形系のロバスト受動性条件を明らかにし,その条件に基づいて大域的ロバスト漸近安定化補償器の一構成法を与える.
まず,公称値モデルは入力に関してAffine系とし,不確かさはゲイン有界な非線形摂動関数によって表わされるとする.このとき,与えられたコンパクトな集合に属するすべての摂動関数に対して,システムが適切なC1蓄積関数に関して受動的となるための必要十分条件は,その蓄積関数がスケーリング関数をもつHamilton-Jacobi不等式を満たすことである.つぎに,この結果を用いて大域的ロバスト漸近安定問題の解を与える.すなわち,非線形系はすべての不確かさに対して最小位相特性を有すると仮定し,系の正準系モデル(Normal form)に基づいて,閉ループ系が入力から出力までロバスト受動的となる状態フィードバックを与えてから,さらに適切な出力フィードバックを加えることによって,ロバスト安定化補償器を構成する.最後に数値例を示す.
北大・榎本隆二,島 公脩
配位空間上の制御理論と呼ぶ理論的枠組みと特異点配置と呼ぶ新しい大域的制御の概念と方法を提案し,具体的な応用例を示した.フィードバック制御系の大域的位相幾何構造の表現は,近年,急速に発展しているホモロジー代数的Conley指数理論に基礎を置く.状態空間と入出力の属する空間の直積を制御系の配位空間と呼ぶ.状態方程式は配位空間上に引き戻された状態空間上のベクトル・バンドルの断面を定めており,その右辺は配位空間の部分多様体である零多様体を定めていると解釈する.フィードバック制御された系が双曲型特異点をもつならば,この零多様体上にのみ存在する.フィードバック制御則(入力方程式)を定めることは,配位空間の部分多様体である入力多様体を定めることであり,これと出力方程式の定める出力多様体との交わりを入出力多様体と呼ぶ.入出力多様体と零多様体との交点は入出力多様体上のベクトル場,すなわち制御された系の特異点であるから,制御則を定めることは零多様体上に適当な性質の複数個の特異点を配置して,系の位相幾何構造を定めることとみなされる.制御された系が取りうる位相幾何構造を制約する不可制御不変零多様体,分離零多様体,零多様体の射影次元等を定義し検討した後,特異点配置の具体的手順を例示した.
広大・有尾一郎,東北大・池田清宏
本論文は,対称性を持つ線形制御系に対するブロック対角化法の枠組みを概説し,その数値解析効率を評価するものである.適用例として,二面体群Dn不変なシステム(軸対称構造系)の振動問題を取り上げ,本手法の数値解析効率の高さならびに精度の高さを検証した.
阪大・湯本真樹,大川剛直,薦田憲久,山武・宮坂房千加
ビル空調設備のように,物理的諸量を定量的に把握・関係づけることが難しい対象に関する故障診断には定性推論による不具合検知方式が有効である.著者らの提案している確率的定性推論では,定性推論によって推定される状態ごとに存在確率を付加し,確率の低い状態の切捨てによって状態の爆発的増加を抑えている.この故障診断で問題となるのはモデルの作成方法である.ここで用いられる確率付定性モデルは多くの変数をもち,それを客観的に決定する方法がない.
そこで本論文では,これらの変数の自動調整を行うための前段階として変数を少数のパラメータでまとめて表現することを試みた.つぎにそのパラメータ値の変化が,モデルと実測値との一致度を示す測定値一致度にどのように影響するか検討した.この感度解析の結果,パラメータの変化によって測定値一致度が滑らかに変化し,最急勾配法によって最適な値への自動調整が可能であることがわかった.
筑波大・鎌田晴海,アンリツ・保坂恭男,筑波大・青島伸治
音声合成に関する研究は,半世紀以上ものあいだ実に多岐にわたってなされてきた.現在ではその中でも線形予測によるARモデルやPARCOR,LSPなどといったものがおもな研究対象であり,実用上の問題を含めて総合的にLSPが最も優れているといわれている.板倉の研究によると,情報圧縮の見地からみれば,ARモデルにおける伝達関数の分母を因数分解して極表示をしたものが最も優れているとしている.しかし,この方法は計算に膨大な時間がかかることで実用的ではないとみなされ,近年ほとんど報告された例をみない.
本研究では,Levinson-Durbin法によって求めたARモデルの分母をDurand-Kerner法によって因数分解する.さらに留数の定理を用いることで,部分分数展開し,複素1次系によって再合成を試みる.結果として本手法は,DSPを用いることで充分リアルタイム処理の可能なスピードが得られることを確認した.また合成音の品質に関しては,ARモデルよりも若干劣るが大差はなく,実用上問題がない程度の合成をすることができた.
富山大・畠山豊正,白 英
MFA(movable finite automaton)モデルを用いて,T4バクテリオファージの尾部を規範とした自己組織化の計算機シミュレーションを行った.各MFAモデルは蛋白質を想定して,形状は球とし,内部状態として分子認識の機能と幾何学的形状を加味した接合点(BS)を1カ所以上もつ.各BSは自身の状態を示す1つのBSN関数をもつので,MFAモデルの状態関数はBSの数で分割されるBSN関数で構成される.また,状態遷移関数には,Thompsonらと同様に蛋白質のアロステリック効果を考慮すると同時に,われわれがここで物理化学的に考察を行った“創発的効果”を新しく取り入れた.
T4ファージの尾部は基盤と尾に分けられる.前者は8種類,後者は3種類のMFAモデルで自己組織化のシミュレーションを実行した.状態遷移関数にわれわれのいう創発効果を閾値関数の形で導入したので,自然のT4ファージと同様に,尾の長さが一定となった.また,自己組織化の最も重要な過程である,尾部が完成した後,それに頭部が接合し,最後に尾毛が接合する現象もはじめて説明できた.完成した尾部はThompsonらのものと比較して,かなり自然のものと類似していた.
大阪教育大・馬場則夫,佐藤 剣
ニューラルネットの学習アルゴリズムとしてよく知られているものに,逆誤差伝搬法(BP法)がある.このアルゴリズムは,さまざまな分野においてインテリジェントシステムの構築に大きな貢献を果たしてきたが,いくつかの問題点をもっている.
BP法の問題点を克服するために,これまで,改良型アルゴリズムがいくつか提案されてきた.中でも,慣性項を用いたBP法は非常に強力であり,最近では,もともとのBP法よりもこの手法が利用される場合がはるかに多くなっている.
しかしながら,この慣性項を用いたBP法にも1つの大きな問題点がある.それは,慣性項の割合を定めるパラメータの値αならびにステップ幅ηにその学習性能が大きく依存するということである.
本論文では,慣性項の割合を定めるパラメータαならびにステップ幅ηの適切な値を選択するために,階層構造確率オートマトン(HSSA)を適用することを提案している.そして,EX-OR問題および大気汚染予測に関する計算機シミュレーションにより,提案手法の有効性を確認している.
岡山県立大・倉重賢治,亀山嘉正,岡山大・宮崎茂次,村田製作所・船戸 謙,岡山大・佐山隼敏
本研究では,AHPにおいて意思決定者がもっている一対比較結果に対する確信度を考慮した,相対的重要度決定法を提案する.さらに,確信度を考慮した整合性の指標も提案し,従来の固有ベクトルから得られる整合度との相関関係を明らかにする.また,数値実験によって,本解法の有効性を示す.
阪大・吉岡宗之,三菱重工・隆杉茂樹
流体計測・制御系を構成する管路系には,オリフィス・絞り・ノズル・バルブなど,各種の流体抵抗(絞りと総称)が存在する.これらの系で管路の断面積と絞りの面積の比が適切でない場合,接続点での反射により圧力変動が発生して系の動作に影響を及ぼすので,その設定は静特性ばかりでなく動特性の観点からも重要である.さらに絞りでの反射に関しては,入射波が小さい領域でも,変動幅の増加につれて反射係数も大きくなる.この現象は絞りにおいては線形域が狭く,非線形域が支配的であることに基因する.それゆえ適切な面積比の設定には,非線形特性の定量的な評価を必要とする.そこで本報では,管路の終端に位置する絞りでの1回の反射による非線形応答を解析的に求め,絞りの特性を線形化した既存の近似応答と対比しつつ,両応答の性質を吟味した.また非線形応答に基づいて,無反射整合の条件とその近似的な実現法を明らかにした.
阪大・池田雅夫,富士ゼロックス・林 直樹,神戸大・藤崎泰正
現在の制御理論では,対象システムを伝達関数や状態方程式のような数式モデルで表わして,それに基づいてコントローラを設計するのが,当然と考えられている.しかし,制御の目的がシステムに所望の振舞いをさせることという原点に戻るならば,システムを数式表現することに必然性はない.システムから得られる動作データを処理することによって所望の制御目的を達する操作入力が発生できれば,それで充分なはずである.
このような研究動機に基づき,本論文では,1入力1出力線形離散時間システムを対象に,その入出力データから,追従制御のための入力を,数式モデルを用いずに,直接計算する方法を提案している.つまり,システムの動特性による入出力信号の振舞いの拘束を,信号そのものの空間で考え,データを直接処理して操作入力を発生する方法を与えることにより,従来のモデリングと制御器設計に分かれていた制御系設計を一体とすることを提案している.
University of Chiba・Sergio B. Villas-Boas, Kang-Zhi Liu, Tokyo Institute of Technology・Tsutomu Mita
When an MIMO plant has zeros at s-0, it will be shown that this imposes a constraint on the steady state output of the plant. In the control design using unstable weight, the strcture of unstable weight can not be selected freely in this case. The required structure is exposed in this note. We then propose a particular generalized plant structure for an optimal servo design such as the one using H∞ control.
福井大・杉本英彦,鷲田一夫
目標値や外乱が周期的である制御系に対して,従来,修正繰り返し制御系が提案されている.
修正繰り返し制御系は,安定性を確保するために付加されたローパスフィルタに起因して,ゲインが極大値となる周波数が目標値や外乱の周期分の1の整数倍からずれてしまい,ゲインを大きくしたい前述の周波数では,ローパスフィルタで決定されるゲインしか得られない.
そこでゲインが極大値をとる周波数を,本来望んでいる前述の周波数にあわせる,あるいは近づけるため,目標値や外乱の周期と等しくしてあるむだ時間を,小さく設定するむだ時間補正型修正繰り返し制御系を提案し,この特性とむだ時間補正の設計法を示す.この制御法では,安定性を維持したまま,むだ時間を補正するだけで,任意の指定する周波数でゲインが極大値となるように設定できる.その結果,目標値追従性や外乱不感性を大幅に改善できる.提案する制御系の有用性を,電動機の速度制御系の設計例とそのシミュレーション結果により具体的に示す.
名大・近藤敏之,石黒章夫,内川嘉樹
近年の半導体技術の飛躍的な進歩により,プログラム可能論理素子(FPGA)が開発され,進化的計算手法との組合せにより進化するハードウエア(EHW)と呼ばれる適応型ハードウエア研究が注目を集め始めているが,従来のEHW研究のほとんどが既知環境への適応を前提としているために,ロボットのコントローラのように設計時に動作状況を特定することが難しい分野には適用することが困難であった.
本研究では,生物の発生過程に見られる表現型可塑性の概念を参考に,環境の変化に追従してコントローラの構造を変更することで適応する新しいオンライン学習機構を提案する.提案手法の妥当性を検証するため,自律移動ロボットの壁回避問題に適用し,計算機シミュレーションを行う.環境の照度変化に伴って,自律移動ロボットのセンサ特性が大きく変化するにもかかわらず,ロボットが瞬時にコントローラの構造を変更して適応する様子を確認した.
また,提案するニューラルコントローラは,NAND論理素子とフリップフロップで構成される基本ブロックの組合せで表現されるため,提案手法のハードウエアへの実装も容易に実現可能であると考えられる.