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[論 文]
武蔵工大・高野英彦
製品の多様化と構造の複雑化等により,機械設計においてはより柔軟な機能と環境が要望されている.このような要請に答えるべく,クレイモデル等を実際に作成するかわりにバーチャルリアリティ(VR)技術を駆使し,コンピュータ上で作成したデザインモデルに力・フィードバック型ハンドを介して接触し,製品の使いやすさなどを考慮できるきわめて「高度で柔軟性を有する製品設計技術」の構築を考える.
このようなシステムの開発においては,解決しなければならないいくつかの課題がある.本論文ではその内の1つである仮想空間で仮想物体をいかに見やすく,かつ,位置精度良く表示するかについての理論解析とそれにもとずく計算機シミュレーションならびに被験者を用いての実験を行い,表示についての評価を行った.その結果,以下に示す結論を得た.@仮想物体提示においては視点位置から注視点位置までの距離Dsは視点位置からディスプレイ面までの距離Deよりも必ず大きくとる必要がある.A理想的には注視点はディスプレイ面にとるのが望ましい.これら2つの結果から,仮想物体提示に際してはDe=Dsと設定すればよいとの知見を得た.
徳山高専・山田英巳,九大・有福智之,山口大・古賀和利
トレーサー粒子等により可視化された流れ場の動画像に画像解析を施して速度ベクトル分布を自動計測する粒子画像速度場計測法として種々の方法が提案されている.このうち,計測対象画素とその近傍画素との輝度の時間変化の相互相関解析に基づき速度ベクトルを検出する時空間相関法は,解析のためにある程度のフレーム数を要するものの,速度検出に使用する解析画素領域が通常3×3画素と極めて小さく空間分解が高いため,定常流の速度計測には最適な手法の1つである.しかしながら,従来の時空間相関法では,原理的に解析できる速度が通常1[pixel/frame]程度以下の低い範囲に制限されている.
本研究では,従来の時空間相関法に対して,その解析のための画素領域の大きさを段階的に変化させるとともに,本来の流れ場の動画像中に時系列補間による人工の粒子画像を挿入することによって画像解析が可能な速度範囲を拡張できることを提案し,その有効性をシミュレーション実験により示した.さらに,粒子サイズや粒子濃度の計測対象となる粒子画像の条件が解析性能に及ぼす影響についても検討した.
住金・山野正樹
超音波Bスコープ画像における欠陥の定量評価を目的とした2次元信号処理手法を開発した.本開発手法の有効性を検証するため,空間分解能および欠陥像の画質を開口合成処理,ウィナーフィルタリング処理と比較した.
本開発手法では唯一の点広がり関数を用いているにも拘わらず,任意の深さの欠陥を高精度に再構成可能であることを確認した.得られる空間分解能は,欠陥深さに依存せずに超音波の波長λの1/5〜1/3であり,理想的な条件下でのウィナーフィルタリングで得られる分解能とほぼ同一である.また,開口合成の約3〜5倍程度向上している.本開発手法は,唯一の点広がり関数のみを必要とする点でウィナーフィルタリング処理より優れている.また,再構成像の分解能は開口合成処理の分解能を卓越している.しかしながら,欠陥像の画質は他の2手法に比べて劣化している.
三菱電機・小菅義夫,亀田洋志,真野清司
目標位置および目標距離変化率をレーダ観測値として,直交座標により,位置,速度などの目標運動諸元の真値を,拡張カルマンフィルタを使用して推定する追尾フィルタについて検討している.この場合,直交座標の三軸で独立に3個の追尾フィルタを使用する非干渉形フィルタ,および三軸が干渉する形で1個の追尾フィルタを使用する干渉形フィルタがある.演算負荷の軽い非干渉形フィルタが,厳密解である干渉形フィルタに近似できるための条件が明らかになれば,実用的な追尾フィルタの設計が容易になる.
本論文では,慣性座標を予測値(次サンプリング時刻に対する推定値)の算出に,目標位置ベクトルを一軸とするレーダ座標を平滑値(現サンプリング時刻に対する推定値)の算出に使用する.この場合,目標運動とともに座標軸に回転が生じるレーダ座標の回転が無視でき,目標の角速度が微少で,かつ駆動雑音(目標運動モデルの曖昧さを示すパラメータ)が座標軸間で独立で各座標で同一の値としたとき,干渉形フィルタは非干渉形フィルタに近似できることを証明した.この結果は,目標が低速度,目標距離が大,あるいは,目標がレーダに向かって直進しているとき,非干渉形フィルタが干渉形フィルタに近似できることを示したことになる.
京大・藤本健治,杉江俊治
近年,線形制御理論で広く用いられている既約分解の概念を非線形のクラスに拡張しようという研究が盛んに行われている.とくに非線形の左既約分解としてkernel表現が提案され,多くの興味深い結果がすでに報告されているが,状態空間での安定化補償器のパラメトリゼーションへの応用に関しては満足のいく結果が得られていなかった.そこで本論文では,線形での左既約分解が状態観測器を用いて特徴づけられることに注目して,観測器に基づくkernel表現を提案する.これを用いることで非線形既約分解を用いたものとしてははじめて,状態空間でのすべての安定化補償器のパラメトリゼーションを与える.また閉ループ系に付加的な外乱が加わる場合へこの結果を拡張し,そのような場合の補償器のパラメトリゼーションを与える.さらに状態空間での直接的な方法による結果と本論文での枠組みとの関係を明らかにし,入出力アプローチと状態空間アプローチを結びつける結果を与える.
東工大・Paulo S. A. WANGHAM,美多 勉
本論文では無限遠や虚軸上に零点をもつ縦長な伝達関数行列G(s)の特異スペクトル分解問題を扱う.このようなスペクトル分解は,D12やD21がフルランクでなかったり,G12(s)やG21(s)が虚軸上に零点をもつ場合の特異H2制御問題,あるいは,特異H∞制御問題を解くための基礎となる.
特異スペクトル分解問題に関しては,原らは正方のG(s)について,一般化リカッチ方程式を使って問題を解いている.縦長なG(s)については,Copelandらがゼロ補償器なるものを使って解いている.しかし,解が複雑でしかもスペクトル因子の次元がG(s)の次元より大きい点で,結果を直接H∞制御等に応用することは難しい.また,標準問題と同様にして特異制御問題を解くためには,原らと同様に一般化リカッチ方程式を経由してスペクトル分解を求めておくと便利である.栗山,美多は縦長なG(s)に対して一般化リカッチ方程式を使ったスペクトル因子表現を求めているが,対応するハミルトンペンシルの一般化固有値問題を完全には解いていない.これは,特異スペクトル分解問題ではハミルトンペンシルの虚軸上,および,無限遠点の一般化固有値の固有基底の分割が標準問題と同じように扱えないためである.
そこで,本研究ではまずハミルトンペンシルの解の性質を見直し,一般化リカッチ方程式との関係を明確にし,固有基底の適切(非対称)な分割問題を見いだした.そして,その結果を使い,一般化リカッチ方程式は常に解をもち,特異スペクトル分解が常に可能であることを示すとともに,スペクトル因子,および,関連する特異インナー・アウター分解問題を解いた.
以上の結果は今後特異H2制御,特異H∞制御の解の導出のみならず,線形システム論の基礎としても有効に使えるものと思われる.
京大・熊本博光,坂元一郎,住友電工・天目健二,下浦 弘
スライディングモード制御の低次元化と特定の前方注視点の導入により,定速走行自動車の操舵制御のための新たな制御器を提案する.非線形車両の線形化により,5次の状態方程式を得る.状態変数は車体角,ヨーレート,横すべり角,横位置,横速度である.前方中視点を車両の基準位置とし,目標コースからの横誤差を定義する.通常のスライディングモード制御では,多次元の切換超平面が必要となり,制御器が複雑になる.そこで,スライディングモード制御の低次元化を計り,横誤差と横誤差速度を座標軸とする位相面とその上での切換線で扱えるように工夫し,簡単な構造で複雑な数値計算が不要な制御器を導出する.車両パラメータが既知の場合と未知の場合を考える.まず,既知の場合に,有界操舵による位相面原点への収束性を保証し,低次元化の正当性を示す.つぎに,前後輪のコーナリングフォース係数が未知の場合を考え,特定の前方中視点の導入により,既知の場合と同様にして,低次元化の正当性を示すとともに,パラメータ誤差に関するロバスト性を明らかにする.最後に,非線形車両を用いた計算機シミュレーションにより,車線変更と車線保持制御を行い,圧雪路での熟練運転手の逆ステアと類似の操舵が再現されることなどを示し,提案した制御器の有効性を明らかにする.
バブコック日立・田沼正也,沖村仁志,芝田健二,川崎隆世
4000要素以上のブロック線図で表現される発電用の変圧・貫流ボイラモデルの多面的解析を実現するため,非線形ブロック線図の安定かつ効率的な解析法である準状態変数法の拡張と実装法の検討を行った.準状態変数法の拡張に関しては,固有値解析,周波数応答解析などの線形解析を可能とする線形状態変数モデルの自動生成法の導出とグラフ指向アプローチを用いて時間応答,定常解析と合わせて3種類の計算モデル生成スキームの統一を図った.さらに,準状態変数法を実装したブロック線図シミュレータXsimを試作した.Xsimはデータ作成支援インタプリタ,グラフアルゴリズム利用前処理,時間応答解析機能・定常解析機能・線形状態変数モデル生成と係数行列テキストファイル出力機能を有する.この出力機能を利用して,MATLAB(The MATHWORKS Inc.社製)と接続して,線形解析機能を実現した.Xsimにより大規模・非線形かつ固い(スティッフ)系である発電用の変圧・貫流ボイラモデルの時間応答解析を行い,高次モデルを用いても安定なシミュレーションが実現できることを確認した.また時間応答解析モデルをベースにMATLABにより固有値解析や周波数解析等の線形解析が行えることを示す.
大阪工大・久保田直行,名大・福田敏男
本稿では,遺伝的アルゴリズムの新しい枠組として,ウイルス進化論に基づく遺伝的アルゴリズムを提案する.GAは,基本的にネオ・ダーウィニズムによる進化論を模倣しているが,現在に至るまでネオ・ダーウィニズムのほかに,中立進化説,断続平衡説,ウイルス進化論などが提案されている.ほとんどの進化論が交叉と突然変異による環境適応と自然選択による適者生存を主軸にしているのに対し,ウイルス進化論では,ウイルスと媒体とした種間の遺伝子の水平移動による進化を主軸としている.そこで,本稿では,ウイルス進化論に基づく遺伝的アルゴリズムを提案する.基本的な枠組は,宿主個体群とウイルス個体群の2種類の個体群の共進化を模倣したものである.宿主個体のもつ遺伝子の部分列をウイルスの逆転写機能により水平伝播するようなモデルであり,遺伝による遺伝情報の垂直伝播とウイルス感染による水平伝播を合わせもつ手法である.この提案する手法の有効性を示すために,巡回セールスマン問題に適用し,数値シミュレーションを通して考察する.
筑波大・伊藤 誠,稲垣敏之
本論文は,大規模複雑プラント安全制御とその決定支援のための,意思決定者の認識更新機構に関する証拠理論的考察である.意思決定者の認識の更新手法としては,証拠理論の()基本確率割当の統合規則と,()ビリーフ関数の条件付けに基づく更新規則とを取りあげる.
意思決定者が安全制御方策(Safety-Preservation方策およびFault-Warning方策)を混合戦略として確率的に選択する場合を考える.本論文では,混合戦略が与えられたもとで,プラントが被る損失を最小にする意味で最適な統合規則および更新規則を明らかにする.また,つぎの2点を示す.すなわち,(1)最適統合規則は意思決定者の戦略や統合する情報に依存するので,情報統合を行う時点ではじめて統合規則を選択できること,および(2)最適更新規則は意思決定者の戦略や統合する情報とは無関係に定めることができること,である.このことは,統合規則の最適性は時刻によって異なりうるという動的な側面をもつのに対し,更新規則の最適性はむしろ静的であるという本質的な相違を示している.
岡山県立大・亀山嘉正,倉重賢治,トヨタ・大倉 輝,大学入試センター・林 篤裕,プロセスマネージメント研・佐山隼敏,岡山大・宮楓ホ次
システムの信頼性,安全性解析において,フォールトツリー解析(Fault Tree Analysis=FTA)がよく用いられている.このフォールトツリーにおいて,効果的にトップ事象の発生を抑制するために,クリティカリティ重要度が定義されている.ところで,複数のトップ事象を検討する場合,これらのトップ事象に関係するフォールトツリーには,共通の基本事象が含まれていることは十分考えられる.そこで,本研究では,複数のフォールトツリーに対して,総合的にクリティカリティ重要度を評価する方法を提案する.さらに,小型エンジンに対して,この方法を適用した.その結果,これらのフォールトツリーに含まれている基本事象に対して,改善すべき優先順位が明らかになった.
東大・江村 暁,舘 ゙
手と目の間に遮蔽物があるために環境情報の収集を触覚にのみ依存するような場合でも,われわれは日常的に触っている物のおおまかな形状や硬さ,それが動いているかどうかを知覚できる.ロボットの分野においても,これに対応する機能として力覚センサや関節角・関節トルクセンサをもちいて対象物との接触点や対象物の形状を検出する方法がいくつか研究されているが,いずれの研究においてもロボットの検出動作中に,対象物は移動しないことが前提とされており,動きを有する対象物に関する考察や研究はなされていない.
本論文では,圧力の2次元的分布を計測できるセンサを搭載して対象と接触するロボットアームを想定する.そして,対象の運動とこれに伴う接触面楕円パラメータの変化に注目し,2本のアームで対象に接触している場合の触覚情報からの運動推定の可能性を考察する.そして位置姿勢の異なる2つのセンサにより観測された圧力分布変化から,(1)対象物の硬さが既知であれば,並進および回転運動の大きさが推定可能なこと(2)硬さと曲率の未知な対象物についても対物速度の検出が可能であれば,対象の6自由度の運動・硬さ・曲率が推定可能であることを示す.
理化学研・向井利春,名大・大西 昇
透視投影によって得られた2次元動画像から3次元的な動きや対象の構造を復元することはコンピュータビジョンの重要な課題である.その1つとして,オプティカルフローから運動パラメータと対象の構造を復元する方法があげられるが,いままで報告されているこの分野の研究は,まだ十分満足できるものではない.なぜなら,これらを実際に用いる場合には,特別な仮定を設けない限り,非線形連立方程式を繰返し法を用いて解く必要があるからである.これは多くの計算コストを必要とし,また,解の一意性が保証されていない.そこで,本論文で著者らは,剛体的な運動をする点から透視投影で得られたオプティカルフロー画像を使って運動パラメータと構造を復面するための新たな方法を提案する.問題を簡単にし良い見通しを得るために,球面上の投影面を持つカメラモデルを採用し,線形な方程式を導く.その結果,非線形方程式を解く必要はなくなる.さらに,われわれの方法では解の一意性が保証され,また,観測点を増やすことによる精度の向上も容易である.加えて,復元の信頼度を与える量の提案も行う.最後に,シミュレーション実験の結果を報告する.
東京農工大・阿刀田央一,中村雄一,前橋工科大・冨澤眞樹,生命研・横山一也,東京農工大・今田忠博
人体程度のスケールの3次元空間内での6自由度変位を磁気的に実時間計測する装置,すなわち磁気式モーションキャプチャ装置の設計法について論じる.この計測は,空間内にいくつかのコイルをおいてこれを適当に励磁することによって,何とおりかの異なる磁場を時分割で形成し,計測対象物に取り付けた磁気センサがそれ自身の座標系上に得る磁場ベクトル各成分強度をもとに,センサの空間内の座標,およびセンサ座標系への回転行列を計算することによって行う.既知位置のセンサの得る磁場ベクトルの強度は,古典物理学によって容易に計算されるのに対し,ここではその位置を未知とした逆計算である.本論文では,所与の計測領域に対する磁気式モーションキャプチャ装置の設計を,適切なコイル配置の設定と逆計算アルゴリズムを得ることからなる問題として一般的に定義した.回転に不変な量からのニュートン法の利用によって上記二者を分離し,座標決定後に回転行列を求めることにより,比較的容易に発見的な解を得る1つの方法を提示する.さらにこの解法に基づいて得た簡単でかつ有用な解の例を示す.この解に基づく実験例では,0.75×0.75×1mの計測領域に対し,1〜3mmの分解能を得た.