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[論 文]
慶大・山崎信寿,佐藤拓史,田中大輔,中澤和夫,生命研・持丸正明
靴型の高適合化に必要な足の形状および寸法を自然立位かつ短時間で取得するために,三次元足型計測装置の開発を行った.本装置は3台の小型ファイバーグレイティング形状センサにより,100ms以内にすべての画像取得を行えるため,身体動揺の影響を受けずに足型特徴として重要な踵部と甲部形状を計測することができる.また,足を踏みかえることによって両足の計測が可能である.さらに,本研究では計測精度の向上のために,複数台のセンサ座標の合成誤差を最小化する方法論を新たに開発した.また,底面と側面には外郭投影像を捉えるカメラを配置し,離散的な形状センサのデータを補って高精度の寸法計測を実現した.センサ単体の計測精度は±1mm,複数センサで同一平面姿勢を計測した際の座標合成による誤差は±1.5°であった.また,寸法計測項目の再現性は±1mmであり,すべての計測項目において,靴型設計に十分な精度が得られた.
鹿児島高専・宮田千加良,熊本大・柏木 濶
等価入力グルーピング(IG)は関与入力(出力に関与する入力)と等価入力(お互いの入力信号を入れ替えても出力信号が変わらない入力)とを用いた論理構造の一表示方法である.IGは真理値表から求めることもできるが入力が多い場合は計算が膨大になる.一方筆者らが提案したM系列相関値から算出する方法では,わずかな算出誤りを許容すれば一部の相関関数だけからIGが算出できることをすでに示している.
本論文ではIGのより実際的な故障診断への応用として,論理回路で故障の起こりやすい箇所(故障候補)が過去のデータなどからわかっている場合に,IGを用いて故障箇所を各故障候補の故障確率として求める方法について提案した.さらに入力数をnとしてn個の相関関数から求めたIG(IGinp)を用いて故障頻度を算出した場合の誤り率,および故障箇所を見逃す確率について理論的検討およびシミュレーションを行った結果,これらの値は十分小さく,IGinpを用いて故障確率が算出できることがわかった.IGinpを用いる利点は,IGを算出するために記憶しなければならない相関関数の数を,全相関値数2のn-1乗に対してn個に激減できる点であり,本方法は実現上非常に有用であると思われる.
山口大・田中正吾,岡本昌幸
計測・制御の分野では,水道・ガスなどの配管関係を始めとし,管の長さを間接計測することが重要な役割を果たす場合がしばしば見受けられる.このような観点から,先に著者らは,鋼管内に音圧変動が生じると鋼管長に応じた定在波が形成されることに着目し,これを線形ダイナミックモデルで表わす方式により,音響センサを用いた鋼管長オンライン学習計測システムを提案した.しかしカルマンフィルタを適用する際,観測および遷移雑音分散について試行錯誤的に適切な値を選んでおり,そのためこの点が本手法の適用に際しての課題となっていた.
そこで本論文では,まず観測および遷移雑音分散に関しても未知パラメータとしてそれぞれ候補を設けた.つぎに,未知パラメータの増加に伴う計算量の増加を軽減するため,ダイバージェンスを考慮した最適候補決定を行うとともに候補空間における効率的な直線探索法を導入した.最後に実験より,わずかな計算時間により格段に高精度な管長計測(誤差率0.1〜0.25%)がなされることを示す.
統数研・宮里義彦
モデル規範形適応制御系を構成するためには,制御対象の相対次数が既知でなければならない.これはモデルマッチング制御の前置補償の次数を決定するためや,あるいは適応系の安定性を保証する強正実な誤差システムを構成するのに対象の相対次数の情報が必要とされるためである.しかし制御対象によっては相対次数を事前に規定できない場合も多く考えられ,そのような系にモデル規範形適応制御を拡張することが重要な課題とされている.強正実関数の相対次数を一意に固定して誤差システムを構成すると,正実化に基づく従来の適応制御の安定論では,適用できる対象の相対次数も一意に限定される.ところが連続時間系においては強正実関数の相対次数に一定の自由度があり,この自由度を利用すると,相対次数に同様の幅の不確定性が存在する制御対象について,単一の適応制御装置で適応制御系を構成することが可能になる.本稿では強正実関数の相対次数に−1〜1次の自由度があることを利用して,相対次数がγ〜γ+2次の範囲で不確定の対象について,単一の適応制御装置でモデル規範形適応制御系を構成する手法を述べる.特に相対次数が一般に3次の範囲の不確定性を有する以外は,従来の前提条件のままで,安定性と出力誤差の零収束性が保証される構成法を提案する.
熊本電波高専・大塚弘文,熊本大・水本郁朗,岩井善太
低次規範モデルを用いることができ,従来のMRACと比較して簡素な適応制御系構造となる適応制御手法としてSAC(Simple Adaptive Control;単純適応制御)手法がある.SAC法を非ASPR系に適用する手法としては,並列フィードフォワード補償器(Parallel Feedforward Compensator; PFC)を導入し,これと制御対象とを併合して得られるASPRな拡張系に対して制御系を構成する方法が提案されている.この場合,実制御対象出力のモデル追従はPFCゲインの微小化によって近似的に達成することができる.ディジタル制御機器を利用する場合には,離散時間形式によるSACアルゴリズムが有用となるが,ASPRな離散時間系は相対次数が零かつ最小位相な系に限定されるため,上記のようなPFCの設計は連続時間系の場合よりも非常に困難となる.
そこで,本報告では,制御対象と規範モデルのそれぞれに同構造のPFCを付加する構造の離散時間SAC系の構成法を1入出力系に対して提案し,従来法のようなPFCゲインの微小化を必要とせずに実制御対象出力のモデル追従が達成可能であることを示す.また,数値シミュレーションにより本手法の有効性を検証する.
防大・高橋一成,中内 靖,森 泰親
一般化予測制御(GPC)の出力予測値は,現在時刻におけるモデルパラメータに基づきDiophantine方程式と呼ばれる恒等式を用いて計算されるため,時変係数システムに対しては正確な予測値を計算することができず,GPCを適用することができなかった.これに対してO.P. Palssonらは,モデルパラメータの変化の仕方が既知であるという前提のもと,各時刻における出力予測値を1ステップずつ逐次計算して求める,時変係数システム用GPCを提案した.しかし,その報告の中では,簡単のためにモデルの次数や評価範囲を特定な値に設定したままであり,より一般的な形式への拡張はなされていない.
本研究は,この時変係数システム用GPCの予測値を一般形で表現し,予測値の計算の中で用いる行列を軽易に求められるようにするとともに,種々の目標値を与えたときの応答特性とオフセットを除去するためのフィルタの効果について,具体的な数値例を用いて検証した.
豊橋技科大・山田 実,徐 粒,千葉大・斉藤制海
実際のnD(多次元)システムの多くは,1つの独立変数を除いて他はすべて有限区間に制限されているという特徴がある.このことから著者らは,nDシステムの2つ以上の独立変数が同時に無限にならないというPracticalな意味でのnD制御理論の体系化を行い,PracticalnDトラッキング問題の解法とその応用などを示した.
上述のPractical漸近トラッキング制御では良好な定常追従特性が得られるものの,過渡応答において過大な追従誤差と制御入力が生じてくる現象がみられる.1Dの場合と同様に,このような問題に対する解決策の1つとして,規範モデルの応答に最適に追従させるモデル追従制御が考えられる.
本論文では,独立変数が1つは無限,もう1つは有限とした場合での2Dモデル追従サーボ問題を考える.まず,問題の定式化を行い,この問題は等価的に1DLQ問題に帰着でき,その可解条件や求解方法は本質的には1D制御理論の結果を用いて導出できることを示す.そして,その等価な1DLQ問題に対して得られた可解条件ともとの2Dシステムの(一方向に限定した)Practical可安定性,可検出性および可制御性,可観測性との関係を明らかにする.最後に,数値例により,提案した手法の有効性を示す.
防大・高橋一成,中内 靖,森 泰親
一般化最小分散制御(GMVC)は制御量,操作量,目標値を用いた評価関数を最小化することで制御則を導出しており,評価関数に含まれる多項式や重み係数を適切に設定することによって特性改善を行う.しかし,操作量の消費量を抑えるため重み係教を正の値にとると目標値のステップ変化に対して制御量にオフセットが発生し,また,操作端にステップ状に変化する外乱を印加した場合も同様にオフセットが残る.これはさまざまな不確定外乱が存在する実プラントの制御において無視できない問題であり,オフセットの除去についての研究が望まれている.
そこで本研究では,GMVCにおける目標値追従性と操作端外乱の抑制性を検討する.まず,GMVCはオフセットが発生することを指摘する.つぎに,これを除去するための手法として従来から一般に用いられてきたさまざまな方法を適用,その有効性を検証する.
北大・榎本隆二,島 公脩
代数的位相幾何学的な大域的制御理論の試みのひとつに,特異点配置の理論がある.そこでは,複数個の孤立特異点および孤立閉軌道の存在を許容するフィードバック制御系の問題が取り扱われる.この特異点配置の理論に基づき,ひとつの孤立特異点もしくは孤立閉軌道にほとんど至るところ大域的に漸近安定化する制御器の設計問題を考察した.フィードバック制御系における大域的(コンパクト)アトラクタとその構成法が検討される.与えられた制御系の零多様体の特性と局所安定化可能性,大域的漸近安定化不可能性との一連の関係が議論される.また,つぎのようにして大域的漸近安定化定理のひとつの表現を得た:古典的なPoincare-Hopfの定理は制御された系が大域的アトラクタを許すひとつの条件であるが,それだけでは入出力多様体上に大域的アトラクタを形成できない;大域的アトラクタが満足すべき内部構造はConley指数理論におけるホモロジー接続行列の積定理が保証している;この2つの定理からわれわれが必要としている定理が得られる.付随する技術的課題の解決のためには接続写像の理論が有用である.支点にトルクの作用する単振子を例にとって,状態フィードバック・補償器併用の出力フィードバックによる大域的漸近安定化制御系の設計手順が具体的に検討される.
佐賀大・中村政俊,萬谷清高,池上康之,上原春男
海洋温度差発電(OTEC, Ocean Thermal Energy Conversion)とは,海洋の温海水と冷海水の温度差を利用して発電を行うシステムである.現在OTECの研究は,海洋部分を熱源装置で代用したパイロットプラントを使って行われている.
本研究では新しい熱源システムとして適温適量水循環式瞬時供給システムの提案を行い,システムの動作性能が,OTECプラントの要求に合うように改良するための理論的手順を検討する.適温適量水循環式瞬時供給システムは,従来の1槽型熱源システムとは異なり,高温槽,低温槽の2槽で構成されているため,各槽からの温水の流量の調節により混合温水の流量と水温を目標値に瞬時に追従させることができる.さらに,水路が循環式になっているため長時間の作動が可能である.また,システムの性能評価にはいくつかの手法があるが,本研究では適温適量水瞬時供給システムの特性解析を行い,それをもとにシステムの動作範囲と制御精度の理論的な評価を行う.この方法はシステムの性能を決定づける要因を陽にとらえることができるため,装置の改良を行う際の手順を理論的に示唆することができる.
佐賀大・中村政俊,萬谷清高,池上康之,上原春男
著者らが過去に実系の制御器設計を行ってきた方法を非線形分離制御法の形で整理して,その非線形分離制御法をもとに非線形のきわめて強い適温適量水循環式瞬時供給システムの制御器設計を行い,望ましい制御性能をシミュレーションと実験で確認した.非線形分離制御法の基本的考え方は,非線形ダイナミックシステムの制御器設計において,非線形スタティクス部分を分離して,残りのダイナミクス部分を線形あるいは弱い非線形ダイナミクス系とみて,その部分に制御理論を理想的に適用するものである.適温適量水循環式瞬時供給システムは所望の温度の水を適量なだけ瞬時にしかも長時間の間供給する熱源システムで,このシステムは海洋温度差発電の実験プラントにおいて熱交換器の特性試験を行うときにとくに重要な役割を果たす.しかし,このプラントには2つのポンプによって供給される温水量と冷水量の間に強い干渉があり,非線形性の強い系である.このプラントに対して,非線形分離制御法に基づいた制御器設計を行い,実験を行ったところ,所望の流量,所望の温度が変化したときにおいても,遅れなしに所望の温度と流量の供給が可能となった.本方法は,本プラントのみならず現実に存在する多くの系の制御器設計法として,広く有効に利用できるものと思われる.
阪大・湯本真樹,有本慎司,大川剛直,薦田憲久,山武・宮坂房千加
ビル空調設備のように,物理的諸量を定量的に把握・関係づけることが難しい対象に関する故障診断には定性推論による不具合検知方式が有効である.著者らの提案している確率的定性推論では,定性推論によって推定される状態ごとに存在確率を付加し,確率の低い状態の切捨てによって状態の爆発的増加を抑えている.しかし,この方法は,推定挙動の枝分かれそのものを制限するのではないため,対象モデルが大きくなると,爆発的に枝分かれした推定挙動を把握することが困難になり,推論を進めることが事実上不可能になる.
そこで本論文では,この確率的定性推論方法をさらに大規模のビル空調設備の故障診断にも適用することを目的に,効率的定性推論方法を提案する.この手法では,起こり得にくい挙動として消去する際に基準となる最小存在確率をモンテカルロ法を用いてあらかじめ推定し,推定挙動の枝分かれそのものを制限する.また,測定値系列データを先読みすることにより将来起こり得ない状態へ向かう状態をあらかじめ消去する.この手法により,従来不可能だった大規模モデルに対しても診断を行うことが可能になった.
大阪電通大・吉岡 孝,登尾啓史,富永昌治
移動ロボットにとって,障害物を回避し目的地へ到達するナビゲーションは重要な機能である.本稿では,予測不可能なできごと,たとえば,突然障害物が現れても,臨機応変に対応できるセンサベーストナビゲーションについて考察する.一般に,この臨機応変さは,“ゴール方向をセンシングしたとき,障害物がなければゴールに直進し,そうでなければ障害物を辿る”という物理的条件によりもたらされる.しかし,これだけではデッドロック(無限ループ)に陥ることがある.このため,従来のセンサベーストナビゲーションアルゴリズムは,デッドロックを回避するため,距離条件や位相条件,または,幾何的な条件を保持している.しかし,位置や姿勢の誤差は,物理・距離・位相・幾何的な条件に強く影響し,移動ロボットをデッドロックに陥れることがある.本稿では,移動ロボットが十分な距離を保ち障害物を辿れない場合を考える.このような場合でも,センサ誤差がなく,かつ,位置や姿勢の誤差が上限づけられれば,移動ロボットをゴール付近まで確実に誘導できるアルゴリズムを提案し,そのデッドロックフリー特性を理論と実験の両面から検証する.
山口大・呉 景龍,立命館大・中畑政臣,東芝・川村貞夫
HMD (Head Mounted Display)は人工現実感(Virual Reality)工学において幅広く応用されつつある.ところが,それらのHMDでは両眼視差が視野の全領域にわたって均等的な値を設定しているので,広視野HMDを構築するときに種々の問題が生じると予想される.本研究では,広視野HMDの視野中心から周辺にわたって自然な立体感を実現するため,周辺視における両眼奥行知覚特性と両眼明るさ知覚特性を測定する.測定結果より,両眼立体感度および両眼明るさ感度は網膜中心窩より周辺に移るに伴い低下することが示される.ただし,両眼奥行感度に比べ,両眼明るさ感度の低下はかなり緩やかである.
この結果は,広視野HMDを設計するとき網膜周辺に映る映像に視差を設定する必要がないことを示している.しかし,逆に大きな視差を網膜周辺に与えると映像が立体的に見えずに二重に見える問題点を確認した.そこで,広視野HMDの両眼視差を適切に設定するため,実験結果の解析より両眼奥行知覚特性の数理モデルを示し,そのモデルを用いて,広視野HMDのための視差設定法を提案した.提案した方法では,眼球の運動にしたがって視差重みウィンドウが移動し,常に適切な視差が設定される.