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[論 文]
電総研・築山俊史
1台のTVカメラと2個の光源で構成されるビジョンセンサを並進させ,2箇所の観測点で光源を交互に点灯し,シーンの画像を取り込む.光源がカメラに対して適切な位置にあれば,光源により生じる輝度分布のピークの画像上での位置は,面の形状ならびに位置情報を表わす.本論文では,輝度分布の画像計測を使い,平面と円柱面で構成されるシーンの3次元的な構造を推定する手法について述べる.輝度分布のピーク位置は簡単な画像処理で精度よく推定できる.光源には通常のストロボを使い,ビジョンセンサは特殊な機構を必要としない.提案する方式は簡便であり,室内を移動するロボットのビジョンシステムなどに適している.
熊本大・原田博之,西山英治,柏木 濶
入出力関係がVolterra核を用いて表現できるような非線形系の同定法として,M系列信号を入力とし,非線形出力との相互相関関数を計算することにより,非線形系のインパルス応答とVolterra核の断面を同時に求める方法が提案されている.しかし,この方法では相互相関関数上に現れるVolterra核同士が互いに重なり合わないようなM系列を用いらなければならないため,システム同定に使用できるM系列の次数が高くなり,相互相関関数を求めるのに要する時間が長くなるという欠点がある.そこで本研究では,M系列を用いて得られたVolterra核をもとに,非線形系の多項式近似を行い,1次Volterra核に対する2次Volterra核の相対的な大きさを表わすパラメータにより非線形系の動特性を記述する方法を提案する.
本研究で提案する方法では,非線形系を記述するパラメータを求めるとき,必ずしも相互相関関数のすべての値を必要としない.したがって,相互相関関数上でVolterra核同士が重なり合う場合でもパラメータの同定が可能となる.このため,非線形系の同定に使用するM系列の次数を下げることが可能となり,同定に要する時間を短くすることができる.提案する方法を非線形な化学プラントの同定に適用した結果,低次M系列を入力として用いたため相互相関関数上でVolterra核が相互に重なり合う場合でも,パラメータの同定が可能であることが示された.
千葉大・津村幸治,住友重機・森田 洋,東工大・齋藤義夫
有限時間整定制御とは,制御信号を有限時間で完全に0とする制御手法であり,連続時間系における有限時間整定制御系の設計法が,近年延山らによって提案された.この手法を用いて,短い整定時間で有限時間整定を達成する制御系を設計することにより,制御系の時間領域における性能改善を期待することができる.一方,周波数特性を考慮した制御手法としてH∞制御がある.本論文では,時間領域と周波数領域の両方の特性改善を目指した混合問題として,連続時間系の有限時間整定制御とH∞制御との混合問題を考え,それを達成する補償器の設計法の1つを提案する.具体的には,H∞準最適制御系における補償器の自由度を用い,目的とする制御信号が有限時間整定するための補間条件と,H∞準最適制御系であるためのノルム条件を,同時に満足するように設計する.また数値例を示し,提案する手法の有効性について考察する.
長岡技科大・村田 剛,川谷亮治
ループ整形設計法(LSDP)は,閉ループ伝達行列の周波数整形を基本とする設計法であり,それのもつさまざまな特長から有望な設計手法のひとつと考えられる.実システムに対する適用例も数多く報告されている.ところでその際に,通常,中央解と呼ばれる制御器が用いられるが,その次数は設計モデルの次数+重み伝達行列の次数×2となるため,選定した重みの次数によっては比較的高次となりやすい.これがLSDPの欠点の1つとして挙げられていた.本論文では,自由パラメータを適切に選択することにより,制御器の集合の中により低次の制御器が含まれることを示す.特に,本論文で対象としたメカニカルシステムの標準構造をもつ可制御可観測な1入力系に対しては,ある条件の下で1次+重みの次数の制御器を構成可能である.得られた低次元制御器は,解集合の1つの要素であるので,ループ整形性能が失われることはない.また,その低次元制御器が,拡大系に対して汎関数観測器の構造をもつことを示す.さらに,ここで提案した設計法の有効性を検証する目的で,代表的な不安定メカニカルシステムの1つである二輪車の安定化制御問題に対して本設計法を適用し,シミュレーションならびに制御実験において良好な結果を得た.
京大・田中秀幸,杉江俊治
システム設計において,仕様が複雑かつ高度になるにつれて構造系と制御系を別々に設計するのではなく,両者を同時に考慮した設計が必要となる.従来より,このような構造系と制御系の同時設計問題について研究がなされているが,システム表現の一般性,物理的制御条件の考慮,制御系最適化手法との整合性といった点からは十分とはいえず,これらの問題に対して基本的な解答を与えていない.上述の観点から,本論文では同時設計問題の一般的な枠組みを提案し,具体的な解法を与える.第1にLFT(線型分数変換)の優れた表現能力に基づいて同時設計問題の一般的枠組みを提案する.第2にディスクリプタ表現を適切に用いることにより,これがBMI(双線型行列不等式)問題に帰着できることを示している.さらに同時設計問題の特有性に基づくBMIの一解法を与え,数値例によりその有効性を検証している.
三菱電機・山田克彦,吉河章二
人工衛星の姿勢制御は通常3個以上のホイールを用いて各軸独立に行われる.しかしホイールの数が故障などで2個になった場合にも3軸の姿勢制御は可能である.本論文はこのようなホイールが2個の場合の人工衛星の3軸の姿勢制御について考察したものである.2個のホイールが同時に回転する場合には,それらの回転軸とは直交する軸の回りにも姿動変動がおこりうる.ここで用いる方法はこの現象を利用したもので,最初に2個のホイールの回転にともなう衛星本体の微小姿勢変動の近似式を導く.つぎにこの近似式をもとに衛星本体の離散的なフィードバック姿勢制御則を導く.得られた制御則の有効性を数値シミュレーションによって検証する.
佐賀大・中村政俊,萬谷清高,池上康之,上原春男
著者らが過去に実系の制御器設計を行ってきた方法を非線形分離制御法の形で整理して,その非線形分離制御法をもとに非線形のきわめて強い適温適量水循環式瞬時供給システムの制御器設計を行い,望ましい制御性能をシミュレーションと実験で確認した.非線形分離制御法の基本的考え方は,非線形ダイナミックシステムの制御器設計において,非線形スタティクス部分を分離して,残りのダイナミクス部分を線形あるいは弱い非線形ダイナミクス系とみて,その部分に制御理論を理想的に適用するものである.適温適量水循環式瞬時供給システムは所望の温度の水を適量なだけ瞬時にしかも長時間の間供給する熱源システムで,このシステムは海洋温度差発電の実験プラントにおいて熱交換器の特性試験を行うときにとくに重要な役割を果たす.しかし,このプラントには2つのポンプによって供給される温水量と冷水量の間に強い干渉があり,非線形性の強い系である.このプラントに対して,非線形分離制御法に基づいた制御器設計を行い,実験を行ったところ,所望の流量,所望の温度が変化したときにおいても,遅れなしに所望の温度と流量の供給が可能となった.本方法は,本プラントのみならず現実に存在する多くの系の制御器設計法として,広く有効に利用できるものと思われる.
九州大・古賀 勝,平澤宏太郎,大林正直
ランダムサーチの一種である新しい最適化の手法として,Likelihood Search Method(L.S.M.)が提案され,その有効性がすでに報告されている.L.S.M.は,微分情報を活用し,探索の集中化と多様化を統一した枠組みで実現する手法である.
本論文は,先に提案されたL.S.M.につぎの2つの改良を施した改良版L.S.M.についての提案である.
[改良1] 既提案のL.S.M.では学習パラメータの変更は評価値の改善があったときのみであるのに対し,本提案では評価値の改善の有無にかかわらず探索のつど変更する.ただし,それまでの最適評価値を実現する学習パラメータは記憶する.
[改良2] 無限大の変更等の無用な探索を探索範囲から除外する.
以上の改良を施したL.S.M.を用いて,ニューラルネットワークの学習においてB.P.M.とL.S.M.との最適評価値探索能力の比較を行い,L.S.M.が通常用いられているB.P.M.よりも良い結果が得られることを明らかにする.
シミュレーションでは,階層型ニューラルネットワークを使用した,非線形関数実現問題を考え,通常のB.P.M.,モーメント法によるB.P.M.とL.S.M.の最適評価値探索能力を比較検討した.その結果,L.S.M.は探索の集中化と多様化の能力により,通常のB.P.M.,およびモーメント法によるB.P.M.より,学習速度,学習性能の点ですぐれていること,また今回提案のL.S.M.の改良は非常に有効であることを確認している.
山口大・呉 景龍,立命館大・中畑政臣,川村貞夫
HMD(Head Mounted Display)は人工現実感(Virtual Reality)工学において幅広く応用されつつある.ところが,それらのHMDでは両眼視差が視野の全領域にわたって均等的な値を設定しているので,広視野HMDを構築するときに種々の問題が生じると予想される.本研究では,広視野HMDの視野中心から周辺にわたって自然な立体感を実現するため,周辺視における両眼奥行知覚特性と両眼明るさ知覚特性を測定する.測定結果より,両眼立体感度および両眼明るさ感度は網膜中心窩より周辺に移るに伴い低下することが示される.ただし,両眼奥行感度に比べ,両眼明るさ感度の低下はかなり緩やかである.
この結果は,広視野HMDを設計するとき網膜周辺に映る映像に視差を設定する必要がないことを示している.しかし,逆に大きな視差を網膜周辺に与えると映像が立体的に見えずに二重に見える問題点を確認した.そこで,広視野HMDの両眼視差を適切に設定するため,実験結果の解析より両眼奥行知覚特性の数理モデルを示し,そのモデルを用いて,広視野HMDのための視差設定法を提案した.提案した方法では,眼球の運動にしたがって視差重みウィンドウが移動し,常に適切な視差が設定される.
日大・佐藤祐司,石井引允
近年,内海や沿岸部における船舶交通量の増加にともない,船舶同士の衝突事故防止が,船舶の安全運航上の重要な課題となっている.そこで筆者らは,現在,操船者が目視観測で取得している相手船の情報を,赤外画像から取得し,これをレーダ情報と複合して使用する船舶衝突防止システムの研究を進めている.これまで赤外画像の処理により船舶画像の抽出と,画像情報に基づく相手船運動の計測ならびに危険度の評価について研究を行ってきた.
今回,船舶の操船において重要な相手船の船種の識別のために,赤外画像の情報処理からの船種を判別する方法について検討を行った.
船種の判別には,船舶の3次元グラフィックスモデルから船舶画像の特徴パラメータを算出し,この特徴パラメータによって学習させた階層型ニューラルネットワークを用いた.このニューラルネットワークによって,赤外画像から抽出した船舶画像について船種の判別を試みた結果,船種の判別が可能であるとの見通しを得た.
この赤外画像からの船種の判別は,船舶衝突防止に有効であると考える.