論文集抄録
〈Vol.37 No.11 (2001年11月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
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■ 心理実験手法と機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた計算処理における視聴覚の高次脳機能の計測
香川大・呉 景龍,山口大・水原啓暁,根来 清,橋田昌弘,小笠原淳一,山内秀一,松永尚文,斉藤 俊
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人間の視覚システムや聴覚システムは永い年月をかけて進化し,現在のような高度な情報処理機能を有するに至った.一方,現在の技術システムは,近年めざましい進歩を成し遂げてきたといえども,いまだに人間の情報処理機能に比して劣るものと考えられている.人間のような高度な情報処理機能を有する人工技術システムを構築するためには,人間の視聴覚情報処理過程を解明することが有意義であると考えられる.本論文では,計算問題における人間の視聴覚の高次脳機能を検討するために,実験刺激としての計算課題を構築し,人間の視覚および聴覚の計算処理特性を計測した.そこで,高次脳機能の特性を計測するための刺激を構築するため,計算課題を用いて計算処理における視覚および聴覚の反応時間特性を心理学実験により測定した.さらに,機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いることにより,これらの計算課題を視覚刺激および聴覚刺激として呈示したときの人間の脳活動部位を計測した.心理学実験とfMRIの計測結果にもとづき,視覚と聴覚の高度情報処理過程の差異について検討を行った.得られた結果は,人間の計算処理過程に関しては,聴覚についても,視覚についても同様の処理過程により計算処理されることが示唆された.この結果は,人間の視覚と聴覚情報処理の相関メカニズム解明,携帯電話による交通事故の原因究明,マルチメディア工学・人工システムなどへの応用に基礎データを提供している.
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■ InSARにおける位相情報処理システムの開発
法政大・香川昌己,花泉 弘
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本論文では,高精度なインターフェログラム,Digital
Elevation Modelおよび差分インターフェログラムを得るためのInSAR
位相情報処理システムを提案する.従来法においては,SLC画像間の重ね合わせ処理は地表の標高が一定であると仮定し位置ずれを画像全体で1つの線形関数として表わしていたが,画像中の山や谷の領域で重ね合わせ精度が低下しコヒーレンスが劣化していた.ここでは,位置ずれの大きさをz軸にとる三角形の網で位置ずれを近似する方法を導入する.この方法では山や谷の周辺で局所的に位置ずれが変化する場合にも重ね合わせ精度は低下せず高いコヒーレンスを保つことができる.また,従来ベースラインに関する情報(長さと傾き角)は定数として与えられてきたが,2つの軌道は正確には平行ではないためインターフェログラムの歪みの原因となってきた.ここではベースラインに関する情報をSLC画像から高精度に推定する方法を提案する.パラメータは衛星と地球の関係の幾何学的モデルとSLC画像間の位置ずれ情報とを合わせ込むことにより推定する.実際のInSARデータを本処理システムで処理した.得られた差分インターフェログラムは見かけ上の変動を従来法に比べ1/10に減少させた.
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■ あるクラスの非ホロノミックシステムに対するリャプノフ制御
京大・浦久保孝光,土屋和雄,辻田勝吉
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本論文では,あるクラスの非ホロノミックシステムの制御問題について述べる.対象とするシステムはm個の入力変数をもち,各入力に対応するベクトル場とその1次のLie括弧積によってあらゆる方向への運動が可能であり可制御となるものである.この種の非ホロノミックシステムはFirst
Order Systemsと呼ばれる.本論文は,このようなシステムに対して,リャプノフ制御にもとづいて時不変不連続状態フィードバック則を導出する.制御入力はリャプノフ関数の負勾配方向の入力と,リャプノフ関数の値を変化させない方向の入力を組み合わせることで構成される.得られた制御系においては目標点のみが安定平衡点となることが解析により示される.この制御則をいくつかの具体的なシステムに適用する.そして,原点近傍での振舞および原点への収束性にもとづき,制御則の調整を行う.設計された制御系の有効性は数値シミュレーションによって確認される.
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■ 可変拘束制御による水中移動体の位置・姿勢制御
東工大・池田貴幸,深谷正和,美多 勉
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本論文は,すでにわれわれが提案した可変拘束制御と呼んでいる制御手法を水中移動体の位置・姿勢制御に適用し,その有効性を示したものである.水中移動体の研究としてさまざまな研究がすでに行われている.しかし,これらの研究で提案されている手法を用いると水中移動体の位置・姿勢制御を局所的には実現できるが,姿勢表現による特異点,Chained
Formなどの標準系への変換で生じる特異点や制御を行うことにより生じる特異点などが存在し大域的な可制御性・安定性が保証されていない.本論文では,水中移動体の位置・姿勢制御の一手法として,(1)姿勢表現としてオイラーパラメータを用い,(2)Chained
Formなどの標準系への変換は行わない,(3)可変拘束制御を用いる,制御手法を提案し,この制御手法を用いることによって水中移動体を特異点にひっかかることなく位置・姿勢制御できることを示した.
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■ H∞制御と非線形適応制御機構を有するアクティブサスペンション
京大・深尾隆則,住友電工・山脇 明,京大・足立紀彦
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H∞制御機構と非線形適応制御機構を有するアクティブサスペンションの設計法を提案する.アクティブサスペンションは油圧アクチュエータを備えており,車体本体部分とアクチュエータ部分に分離して考えることができる.そこで,車体部にはH∞制御設計を行い,アクチュエータ部は非線形適応制御手法で対処するという方式をとる.これにより,車体部は乗り心地改善のための周波数成形を行うことが可能になる一方,車体部に適切な力を伝達するという重要な役目をもつアクチュエータに対しては,その非線形性,不確定性が考慮可能になり,高精度の制御が可能となる.H∞制御と非線形適応制御を結び付けることは,非線形制御や適応制御において非常に強力な手段であるバックステッピング法を改良することにより可能となる.最後に,シミュレーションにより本手法の有効性を確認する.■
人型2脚ロボットの斜面歩行に関する研究―ステレオビジョンによる斜度推定とその斜面歩行への応用―
東北大・熊谷正朗,江村 超
人間環境における移動手段として2脚歩行ロボットが研究されている.しかし,多くの研究は平地に限られており,不整地への適応性向上が必要である.そこで不整地の一種である斜面への適応性向上を目的として本研究を開始した.
ロボットが起伏地形を歩行するには,斜面で歩行可能な歩容をもつことと,斜度情報を得ることの2つが必要である.本研究では前者のためにセンサのフィードバックを主体にした外乱に強い歩行アルゴリズムを採用し,後者のためにはステレオビジョンを用いた一種の三角測量を行った.斜度を推定するためには,水平より一定角度下方に見える路面上で視差を観測し,直接変換をした.この変換のためには,事前に2つの斜度における視差値だけを教示してある.同時に,ステレオビジョンを用いて事前に教示した目標の方向と,目標における視差を取得し,進路を変更することで目標追尾歩行も行った.いずれの場合も,視差を直接距離情報として扱うため,精密なキャリブレーションを省略している.
検証実験には人型の自由度を有する2脚歩行ロボットを用いた.ステレオビジョンによる斜度推定と,それに基づく歩容の変更を行うことで,ピッチ方向に斜度の変化する起伏地形における連続した歩行を実現した.
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■ 逆動力学計算に基づくクレーンのフィードバック制御
九州大・柳井法貴,山本元司,毛利 彰
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クレーン機構は工場や建設現場で重要な役割を果たしているが,揺れやすく目標位置に正確に位置決めできないなどの問題点がある.本論文では,逆動力学計算を用いてクレーンの吊り荷位置に関する動的制御を行うことにより,吊り荷の位置とその揺れを同時に制御する手法を提案し,シミュレーションと実験によりその有効性を示す.この手法により,与えられた目標軌道に吊り荷を揺れることなく追従させることがでるため安全であり,かつ作業時間を短縮することができる.また,提案する手法は仮想的な内部モデルを用いて吊り荷の応答特性を決定するため,ロープ長などのパラメータが大きく変化しても極配置は一定である.また,内部モデルに対するオブザーバを設計することにより吊り荷の状態を推定しているため,測定値にノイズが多く含まれる場合にも適用可能である.
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■ 外乱補償形オフセット除去2自由度極配置制御の構成法
帝京大・芳谷直治
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極配置制御(PPC)において,未知外乱やモデル誤差により生じる定常偏差(オフセット)の除去のためには,従来,制御ループ内に積分器を挿入する方式(積分方式)がおもに用いられてきた.著者は前報で,積分器を主制御ループ内では用いずに,外乱オブザーバによりモデル誤差を含む定値性外乱を推定して補償する方式(外乱補償方式)を提案した.
本論文では,PPCにおいて外乱補償方式が,オフセット除去のための包括的方式であり,その最も簡単な場合が積分方式と等価になることを示す.外乱補償方式では,外乱に対するフィルタの設計自由度を用いて,入出力変動の分散抑制や,モデル誤差に対するロバスト性向上を実現することが可能である.このためには一般に,外乱補償部分を低域通過フィルタにすればよい.しかしながら,外乱とモデル誤差それぞれの大きさや周波数特性を推定しながらより厳密に設計するには,外乱補償部分を2自由度コントローラの1つと見なして,所定の評価関数を最適化するように求めることが望ましい.このための最適設計法を本論文で提案し,数値例で有効性を示す.外乱オブザーバは物理的意味が明確であるため,理解が容易で現場調整を行いやすい.したがって提案する手法は,極配置制御の有用性を高めるものと思われる.
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■ 多関節ロボットアームの主軸と従軸のダイナミクス遅れ補償を施した主軸位置同期輪郭制御
佐賀大・中村政俊,国松 穣,後藤 聡,近畿大・久良修郭
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本研究では,多関節ロボットアームを高速で動作させる場合に,高精度輪郭制御を実現するために,主軸と従軸の両者にダイナミクス遅れ補償を施した主軸位置同期輪郭制御法を提案する.本方法は,主軸と従軸のダイナミクス遅れの補償をそれぞれに対して施し,その補償法としては著者らの一部が提案した教示信号修正法を適用する.このことによって,高速動作時においても,実験装置の制約条件を考慮したダイナミクス補償要素の設計が可能となり,高速高精度輪郭制御を行うことができる.本方法の有効性をシミュレーションおよび実機ロボットによる実験によって示した.本方法は,ロボットアームのハードウェアの変更を必要とせず,ソフト的に簡単なアルゴリズムを組み込むだけで実現できるので,産業界でも容易に採用することができる.
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■ 事例汎化とニューラルネットによる制約指向型ファジィルールの獲得
サンモアテック・佐藤 剣,京大・片井 修,松江高専・堀井 匡京大・井田正明,川上浩司
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本研究は,あいまいさをクリスプな制約区間の集合組織体であると考える区間制約ファジィ集合の概念に基づいて,ファジィルールを制約領域の近似としてとらえることによって,ファジィルールの学習獲得法を提案するものである.まず,観測,試行などにより得られる制約条件を充足している少数の事例から,一般化された知識(制約充足の保証された領域の存在範囲)を獲得する方法を,この制約条件を規定する述語の凸性の概念を導入することによって導く.つぎに,この得られた知識を効率的に集約化,組織化することによって区間制約ファジィルールが構成可能であることを明らかにする.この集約化,組織化を行う方法として,最適化手法の1つである相互結合型ニューラルネットを用いた方法を導入する.対象とする領域がファジィな(制約)領域とクリスプな領域それぞれについて,本手法の有効性を具体例を用いて明らかにする.
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■ 操作と状態の様相性に着目した人工物表現モデルの提案―人との関わりを重視したシステムの設計に向けて―
京大・須藤秀紹,川上浩司,片井 修
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本研究では,人とのインタラクションを重視した対話型人工物の,真理論的様相・義務論的様相・時間論的様相の視点に基づく記述モデルを提案する.提案モデルは,それぞれの視点により切り分けた3つの層によって構成されている.3層の真ん中に位置する中心層は人工物を操作する人の自由な操作による状態遷移をペトリネットを用いて表わすものである.これに対し,上位層は使用手順といった,設計者の意図からなる目的論的必然性を,様相論理表現を組み込み拡張したペトリネットを用いて表わす.下位のベース層では物理現象に内在する因果論的必然性を,物理因果連鎖のネットワークを用いて表わしている.これら3つの層のインタラクションにより,「設計者の意図」・「オペレータの操作」・「物理現象の波及」間の緊密な関係性が表出されるため,人間の固有の特性を配慮して設計される対話型人工物の表現モデルに適するものである.
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■ 共創出コミュニケーションとしての人間―機械系
東工大・三宅美博,野村総研・宮川 透NTTソフトウェア・田村寧健
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従来の人間―機械系では,あらかじめ機能集合を機械側に用意しておき,状況に応じて人間側が選択使用するという形式が用いられてきた.これは,人間と機械の一方向的な作用関係に基づいており,「探索」としての機能のあり方に対応する.そのため使用状況が複雑化すると機能集合も複雑化し,人間にとってのユーザビリティーが低下するという問題が生じている.本研究では,このような事態を克服するために,人間と機械がインタラクションを介して共に機能を創り上げる「共創出」としての新たな人間―機械系を実現することを目標とする.具体的には,人間―人間系における共創出的コミュニケーションを支える「二重性」に着目し,それを人間―機械系に構成する方法を研究した.このとき二重性モデルは,人間と機械の間での開かれた相互作用を実現する身体モデルと,それを閉じた一方向的作用として解釈する内部モデルの2つのダイナミクスから構成される.そして,それらの間での相互拘束プロセスを通して,リアルタイムの共創出過程を実現することになる.本論文では,最初にモデルの基本的構造を提示した上で,計算機シミュレーションによってその動作を確認した.さらに,歩行介助ロボットとして人工システムを構成し,その人間―機械系における妥当性を調べた.
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■ 皮膚表面画像を用いた肌診断システム
慶應大・竹前嘉修,斎藤英雄,小沢慎治
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近年の化粧品業界の動向として,化粧品の肌に対する効果,効能を測定するのに,画像処理技術が応用されている.それは,肌を評価するために皮膚表面上の特徴をなんらかの手段で抽出しなければならないが,画像処理技術はCCDカメラとPCなどの比較的簡易な装置で定量的な処理を行えるという利点をもつため,化粧品の肌に対する有効性評価に数多く応用されている.たとえば,皮膚表面レプリカ画像解析システムなどがある.しかしながら,こういった化粧品の肌に対する効果,効能の測定は,まだまだ,専門家である美容技士の視感評価(感覚)に頼る部分が非常に多い.美容技士とは,化粧品会社の研究所に所属し,熟練した勘や経験に基づいて,「くすみ」「透明感」「はり」などの肌の状態を診断できる専門家のことである.さらに,顧客の立場からすると,デパートなどの店頭で,自分の肌が迅速かつ正確に診断され,その場で,自分の肌質に合った化粧品が提供されることが望ましいと考えられ,リアルタイム処理で肌の状態を評価する必要性がある.本論文では,専門家である美容技士の視感評価(感覚)に基づいて行われる肌診断に着目し,それをリアルタイム処理で行うシステムを提案する.本システムは,CCDカメラで取り込んだ皮膚表面画像から抽出した画像特徴量と美容技士による視感評価(感覚)を,階層型ニューラルネットワークの教師信号として,バックプロパゲーション学習アルゴリズムによって学習させた.さらに,学習後のニューラルネットワークを用いて,肌の状態を自動的に推定する.そして,本システムの有用性を確認するために,学習に使用していない皮膚表面画像に対して,本システムが与えた評価値と美容技士が与えた評価値を比較する実験を行った.実験の結果,学習に使用していない皮膚表面画像に対してもリアルタイム処理で肌の状態を推定できたことから,本システムの有用性が示された.
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■ 画像によるプラットホーム縁端の検知
京工大・西部優奈,呉 海元,塩山忠義
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現在,視覚障害者の歩行にはおもに白杖が用いられている.しかし,白杖で操作できる空間は限定されたものであり,また白杖だけでは下方段差を検知するのは非常に困難である.そこで本論文では広範囲における大量の情報を非接触で取得できるイメージセンサを用いて下方段差を検知する方法を提案している.特に,下方段差の中でも最も危険なものの1つである駅のプラットホーム縁端を検知する.提案手法はプラットホーム縁端上方にある照明灯の両端の直線と駅構内の行き先表示板の水平方向の直線を利用してプラットホーム縁端までの距離とその方向を計算するものである.まず,入力画像から駅構内の天井にあるプラットホーム縁端上方の照明灯の両端の直線を抽出する.そしてプラットホーム平面の法線ベクトルを求めるために駅構内の行き先表示板の水平方向のエッジ直線を抽出する.3次元空間でのこれらの直線の関係に基づく制約式を用いて複数のプラットホーム縁端の直線候補の中から真のプラットホーム縁端だけを選び出し,プラットホーム縁端までの距離とその方向を計算する.最後に実画像を用いた実験を行い,この手法の有効性を確認した.
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