論文集抄録
〈Vol.37 No.8 (2001年8月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
- ▲
■ Eye-Sensing HMDを利用したリアルタイム視点位置・瞬目検出
京大・小澤尚久,青竹雄介,下田 宏松下電工・福島省吾,京大・●川榮和
-
著者らは,健常者だけでなく高齢者・肢体不自由者にとってもバリアフリーな視線入力インタフェースへの応用を目標に,眼球運動や瞳孔運動を計測できるEye-Sensing
Head-Mounted Display(ES-HMD)を用いて実時間で視点位置と瞬目を検出する方法を検討した.まず本研究では,ES-HMDのCCDカメラ上での瞳孔中心位置の検出,その瞳孔中心位置をES-HMDのディスプレイ上での視点位置に変換する視点位置較正の2つの処理をリアルタイムで行い,同時に瞬目の発生も検知できるシステム:GAB-DESを試作した.このシステムでは,瞳孔中心位置の検出について,眼瞼や睫毛などのノイズ成分に対するロバスト性の向上を目的に,瞳孔輪郭線に円を近似して瞳孔中心を検出する手法を提案している.また,視点位置較正では眼球の水平・垂直方向の回転半径が異なると仮定し,水平・垂直方向の回転から任意の方向への眼球回転を合成する手法を提案している.さらに,瞬目生起の検出では,その持続時間の差から不随意性瞬目と意識的閉眼とを区別して検出する方法を提案している.これらの各手法を評価するために被験者実験を行い,その有効性を確認した.
- ▲
■ 複合材料の衝撃音波形の時間周波数解析
拓殖大・小川毅彦,金田 一,森きよみ東工大・坂田 勝
-
最近,複合材料試験片に与えた衝撃によって発生した衝撃音を解析して弾性係数を求める方法が提案されている.この方法は材料の弾性係数を非破壊的かつ簡便に推定することができるため,たとえば高温状態下での材料試験片の弾性係数を推定する際に有効である.従来は,衝撃音波形のスペクトルから振動の固有周波数を推定し,その固有周波数から弾性係数の推定を行っていた.しかし,本手法を高温状態下の複合材料に適用した場合,固有周波数の正確な推定が難しく,十分な推定結果が得られないという問題があった.
一方,時系列波形データの解析法として,短時間フーリエ変換やウェーブレット変換に基づく時間周波数解析法が知られている.本研究では,高温状態下の複合材料の衝撃音波形からの弾性係数推定において,時間周波数解析法を衝撃音の波形解析に用いることを提案し,実験により検討を行った.具体的には,高温炉内に宙吊りされた角棒状の複合材料試験片に衝撃を与える際に発生する衝撃音を,高温炉外部に設置したマイクロフォンによって計測し,得られた衝撃音波形を短時間フーリエ解析することによって振動の固有周波数を求めた.さらに振動の固有周波数から材料の弾性係数を求め,衝撃音波形の時間周波数解析の有効性を検討した.
- ▲
■ 無電源スタッフ用マーカを用いたドア制御による痴呆症老人の施設内徘徊抑止
湘南工科大・保坂良資
-
福祉施設内の特定区画内で生活する痴呆症老人の,新たな施設内徘徊抑止方法を開発した.本方法では,区画分離ドアの制御に長波帯RFIDを用いる.RFIDマーカは無電源で利用できる.マーカを老人に携帯させることは難しいが,看護婦らスタッフによるマーカの携帯は容易である.本方法では,マーカをナースキャップなどに装着する.マーカを着用した看護婦らがドアに接近すると,センサで検知される.その検知情報でドアが制御されれば,看護婦らは区画に入出できる.しかしマーカをもたない老人は検知されないため,ドアを通過できない.これにより相対的に老人の徘徊抑止が実現する.しかしRFIDの認識距離は小さいため,そのセンサアンテナとマーカアンテナを最適化した.第1段階は,2種類のセンサアンテナの試作である.これらは,1000mm×1000mmと880mm×150mmである.前者は天井に,後者はドアサッシ上部に設置する.第2段階は,新たなマーカアンテナの設計である.その寸法は60φである.実験結果より,天井設置型アンテナと新マーカではドアから880mm以上の認識距離が,ドアサッシ上部設置型アンテナと新マーカでも450mm以上の認識距離が得られた.この距離は区画分離ドアの制御に十分であり,応用現場を想定した実験でもその有用性が確認された.現場を想定した実験でもその有用性が確認された.
- ▲
■ 油封式湿式ガスメータの不確かさ解析
産総研・中尾晨一,シナガワ・比嘉 徹,産総研・高本正樹
-
湿式ガスメータは,基準流量計としてだけでなくきわめて広い分野で使用されている流量計の1つである.しかしながら,設置状態や液面調整など,測定精度に直接関係する要因が計測者の技量に依存すること,そしてそれら要因を適切に評価することが難しいことなどから,これまで湿式ガスメータの測定精度に関する研究はほとんどなされていない.
しかし,近年,湿式ガスメータが使用されているこれら分野においても測定の時間的,空間的整合性が議論されるようになってきており,測定値の再現性だけでなく絶対値が問題にされるようになってきていて,湿式ガスメータによる流量計測の不確かさ解析が重要になってきている.
このような観点から,標準移転流量計校正装置を用いて湿式ガスメータをさまざまな条件下で比較測定しその実験結果をもとに湿式ガスメータの不確かさ解析を行った.その結果,一般的な使い方をする場合,油封式湿式ガスメータの拡張不確かさ(包含係数k=2)は0.2〜0.6%であるという結果を得た.
- ▲
■ 2個の音響センサを用いた管長および管内温度同時オンライン計測について
山口大・田中正吾
-
著者らはこれまで,直管に音圧変動が生じると管長に応じた定在波が形成されることから,管内定在波のいくつかのモードの音圧変動およびそれらの時間微分(粒子速度)を状態変数とみなした線形ダイナミックシステムに(管長および観測雑音分散を未知パラメータとして)カルマンフィルタおよび最尤法を適用することにより,1個の音響センサにより管長がオンライン計測できる計測システムを提案した.さらに,管長計測に際しては高次モードの定在波が高い分解能をもつことに着目し,ダイバージェンスの観点から最適モードの選択法およびこれに基づいたさらに高精度な管長オンライン計測システムを提案した.
しかしながら,この管長計測に際しては,音速を知る必要があることから,温度センサにより管内の温度を測ることを前提としてきた.したがって,温度が時間的にほぼ一定であれば,どのタイプの温度センサでも提案システムにより高精度な管長計測が可能であるが,管内温度が時間的に急激に上昇あるいは下降する場合には,通常の温度センサではその変化に追従できず,これまでの提案方式では正確な管長計測が困難である.
そこで本論文では,2個の音響センサを管内の異なった位置に設置し定在波の時間的な挙動だけでなく空間的な挙動も抽出することにより,管長および管内温度を同時にオンライン計測するシステムを提案する.
- ▲
■ 確率的ヴォラティリティーの推定について
東理大諏訪短大・相原伸一
-
数理ファイナンスにおけるブラック―ショールズモデルでは,株価の不規則性を支配する確率積分の係数であるヴォラティリティーは定数として与えられているが,これは実際の株価データよりモデル化されたものではないことはよく知られており,時変係数や確率係数など現在多くのモデルが提案されている.その中でも,よく使用される確率的係数をもつモデルとしてHull-Whiteが提案したモデルがある.ここではこのHull-Whiteの提案したモデルを株価を支配する数学モデルとして採用する.
このモデルを採用すれば,まず考察の対象となることは,どのようにして確率的に変動するヴォラティリティーを推定するのかということになる.確率過程論の立場からみると,この推定は非常に簡単で,ある時間区間内の株価の2次変動を計算すれば,その値はヴォラティリティーのその時間区間の時間積分に一致することが知られている.
本論文ではまずこの理論的な結果が,実際の株価のデータには適用できないことを示し,新たな推定アルゴリズムを提案し,さらに導出された推定方程式の数値解を求める一手法を提案する.
- ▲
■ 離散事象システムの言語安定性について
北陸先端大・平石邦彦,廬 吉錫
-
離散事象システムに対するスーパバイザ制御の枠組みにおいては,制御仕様は言語,すなわち望ましい動作を表わす事象列の集合,として与えられる.離散事象システムにおける安定性の概念は,制御仕様の構造化と捉えることができる.これにより,記述の手間を減らし,また仕様自体に含まれる矛盾を回避することができる.従来提案されてきた離散事象システムに対する安定性の概念は,2つの観点から分類することができる.1つは,安定性を定義する対象が何かということであり,もう1つはその対象に対するふるまいである.安定性を定義する対象としては,状態集合および事象列の2つが提案されている.また,対象に対するふるまいとしては,有限時間内に対象に収束するタイプのもの,および,無限の頻度で対象を訪れるタイプのものの2つが提案されている.本研究では残りの組合せである,事象列を対象にし,無限の頻度でその対象に訪れるタイプの安定性の概念を提案する.また,その安定性を判別するためのアルゴリズムを示し,さらには,制約最小の意味で最適なスーパーバイザとそれを実現するオンライン制御アルゴリズムを与える.
- ▲
■ 一般化正準変換を用いたハミルトニアンシステムの軌道追従制御
京大・藤本健治,桜間一徳,杉江俊治
-
本論文では,一般化されたハミルトニアンシステムの軌道追従制御法を提案する.一般的な軌道追従を実現する方法として,追従誤差を状態とする誤差システムを設計することで,軌道追従問題を安定化問題に帰着させるものがある.提案法では,一般化正準変換を用いることで,この誤差システムをハミルトニアンシステムの構造と特徴を保持したまま設計する.この方法によって設計された補償器は,広いクラスの物理システムに適用可能で,受動性に基づく制御手法の自然な拡張なのでロバスト性が期待される.この考え方に基づいて,誤差システムを実現するための一般化正準変換の条件を明らかにし,これを得るための手法を与える.さらに,ハミルトニアンがある種の2次形式で表わせるシステムに対してこれを適用し,誤差システムを構成する具体的な手順を示す.最後に,非ホロノミックシステムを対象とした数値例を用いてシミュレーションを行い,提案法の有効性を検証する.
- ▲
■ 連結車両後退運動操作のための制御系設計
広島大・佐伯正美,富士通・小林泰山東工大・井村順一,広島大・木村純壮
-
トラクタ・トレーラに代表される連結車両系の操縦は,普通乗用車などの単体車両の操縦と比べて難しい.特に連結車両の後退操作では,トラクタ・トレーラの連結部分が大きく折れ曲がるジャックナイフ現象があるために操縦が非常に困難である.いままでも,車両の軌道追従制御問題が連結車両についても研究されているが,位置制御という問題の性格上,車両の位置情報を利用していた.われわれは,新しい問題設定として,操縦者にとって不慣れな連結車両の操縦を単体車両の操縦感覚に置き換えて容易に実現できる人間機械システムの構築を検討してきた.本論文では,単体車両を後退運動させる操作入力を連結車両に与えると,連結車両が単体車両の仮想軌跡に追従するように後退運動するような非線形フィードバックシステムを提案する.有効性をシミュレーションと実験で示す.システムの構築にあたって,制御入力の構成に用いる情報は,測定しやすい車両の速度と車体の折れ曲がり角のみであり,これによりさまざまな環境での実装が可能となる.
- ▲
■ RCA洗浄システムの熱モデルと洗浄液の適応予測温度制御
九工大・黒木秀一,西田 健,信友宏樹,坂本貴子小松エレクトロ・三股 充,伊藤勝美
-
RCA洗浄法は半導体製造工程でシリコンウエハを洗浄する最も標準的な手法であり,その洗浄液の温度制御は安定な洗浄性能を得るために重要である.この温度制御においては,多くの洗浄液が非線形かつ時変の発熱反応を伴うこと,腐食性のある洗浄液を扱う特別な機器構成を行っているためシステムのむだ時間が大きくかつ変動すること,などに制御の困難さが存在する.本稿ではまずこの洗浄システムの熱モデルの構築すなわち制御対象のモデル化を行う.このモデル化においては洗浄液としてよく用いられるSPM(硫酸と過酸化水素水の混合液),APM(アンモニアと過酸化水素水と水の混合液),HPM(塩酸と過酸化水素水と水の混合液)の発熱化学反応をDSC(示差走査熱量計)で解析し,反応次数rの発熱反応モデルにより近似できることを示す.つぎに洗浄液の温度制御を行う手法として適応予測制御法を示す.この方法は非線形かつ時変の制御対象を適応的に同定するための方法と,むだ時間が大きい制御対象に有効な予測制御法を統合したものである.またオーバーシュートと定常偏差を抑えるための目標軌道を使用し,計算に必要なメモリサイズを節約するための仮想サンプリング法を導入する.最後にシミュレーションと実機実験により,提案した熱モデルの有用性と制御法の性能を確認する.
- ▲
■ 未知ダイナミクスを含む非ホロノミック力学系の軌道追従制御
豊田工大・鈴木 昭,成清辰生,H.D. TUAN,原 進
-
非ホロノミックシステムとは,可積分でない微分関係式で表わされる拘束条件を有する力学システムのことであり,一般にその制御が難しいことが知られている.本稿では,非ホロノミックシステムの制御問題のひとつとして,未知ダイナミクスを考慮した軌道追従問題を検討する.低次元化した動力学モデルと,非ホロノミック系のひとつの正準形であるchained
formによりシステムを表現し,さらに線形変換を施した追従偏差を導入する.n状態,m入力,m-1
chain,1-generatorのchained formで表わされる非ホロノミックシステムに対して,適応機構を用いた追従偏差のフィードバック則を構成し,追従偏差の収束性はLyapunov関数を用いて厳密に証明する.提案する制御則をfire
truckと呼ばれる牽引システムに適用し,その有効性を示す.
- ▲
■ 仮想キャッチング作業における人間の作業準備インピーダンスの解析
広島大・辻 敏夫,ソニー・野口裕史,広島大・金子 真
-
人間は手先の機械インピーダンスを巧みに調節することでさまざまな作業をこなしている.ボールのキャッチング作業を例にとると,ボールをキャッチする際に手先を必要以上に硬くすればボールの勢いをうまく吸収できず弾いてしまい,逆に柔らかくしすぎるとボールの勢いに負けてうまくキャッチングできないだろう.人間はボールの速さ,重さ,大きさなどさまざまな作業条件に応じて手先のインピーダンス特性を調節してキャッチング作業を行っていると考えられる.
本論文ではこのような動的な接触作業に対する人間の手先インピーダンス特性を解析するため,作業の準備段階におけるインピーダンスを人工現実感技術を用いて計測する方法を提案した.そして,仮想的なボールのキャッチング作業を取り上げ,人間が作業に応じてどのように手先の作業準備インピーダンスを変化させているかを解析した.その結果,
(1)人間の作業の特徴をインピーダンスモデルにより表現できること
(2)人間の手先インピーダンスは作業の熟練度により異なること
(3)人間が手先インピーダンスを作業中に変化させていること
などの点を明らかにすることができた.
- ▲
■ 不確実さを含んだ距離情報と輝度情報のセンサフュージョンによる物体検出
日産・高橋 宏,藤本和巳,下村倫子科技団・小泉智史,東工大・廣田 薫
-
レーザーレンジファインダから得られる距離情報と輝度情報から,前方の障害物を的確に検出するセンサフュージョンアルゴリズムを提案する.
現行の障害物検出アルゴリズムは,データの不確実性を陽に扱っていないため,存在しない物体を誤って検出したり,存在しているのに検出できない場合がある.そこで,上記距離情報で,物体が路面上に存在しない場合の近傍から遠方に向けての距離情報変化のしかたと物体が存在する場面での変化のしかたを相関分析し,相関値からその場面における物体存在可能性を連続値として算定する.つぎに,輝度情報において,輝度変化の水平方向(左右方向)の連続性を輝度のヒストグラム類似性から算定し,水平方向における分布類似性指標値を求める.
上記両指標を用いて,距離情報と輝度情報をセンサフュージョンし,前方観測空間内の物体を0から1までの連続値である存在可能性指標として算定する.
実際に人間と自動車に関する観測データを本手法によって処理し,所望の結果を得た.
- ▲
■ シンセシス支援のための物理因果説明構造とその導出法
京大・川上浩司,松下システム・野村大輔,京大・須藤秀紹中国能開大・小西忠孝,京大・片井 修
-
物理システムの定性的な因果説明構造について考察するとともに,その導出方法を提案する.まず,因果論的説明と目的論的説明の対象に基づいて因果と時間・粒度・含意との関係を調べ,因果説明構造のあり方を考察するとともに,因果説明構造を構成する基本単位に対して一般性・断片性・客観性をもつ書式を与える.これを用いた事例の“解析”によって得られる因果説明構造を環境とのインタラクションを考慮した人工物の“シンセシス”に利用することを考慮に入れると,非目的論的な現象までを推定できる必要がある.このとき,断片的因果関係とそれらが結合したネットワークである因果説明構造全体が相互規定することが導かれる.そこで,このような場合にでも断片から全体をボトムアップに導出する方法を,CMS(Clause
Management System)を導入して実装した.CMSを導入することによって,因果と含意を混同するときに生じる問題に抵触しない限界点をPrime
Implicantsの導出とみなし,その後に続く1つの処理だけに論理に反する部分を凝縮させることを可能にしている.さらに本稿は,実装した試作システムを用いた因果説明構造の導出ならびに表層的構造情報の変更に伴う因果説明構造の効率的な更新に関する実験結果を示している.
- ▲
■ 分数次微分方程式の時間応答の数値計算法
都立大・池田富士雄,川田誠一,小口俊樹
-
非整数階の微分,すなわち分数次微分は,粘弾性体などのダイナミクスを適切に表現できることが知られており,分数次微分方程式モデルの時間応答を求める数値計算法がこれまでにいくつか提案されている.従来の数値計算法は,刻み時間を粗くとると誤差が大きくなり,そのため刻み時間をある程度細かくとる必要があり,結果として計算時間が多くかかってしまう問題があった.これに対し,本論文では状態空間表現された分数次微分方程式モデルの時間応答の数値計算法を提案する.本手法は,比較的粗い刻み時間でも誤差を小さく抑えることができ,厳密解に近い値が得られる利点がある.また本手法は状態空間モデルに対する数値計算法であるため,著者らがこれまで提案している状態空間表現されたシステムの制御系設計法などにおける有力な計算手法であると考えられる.
|