論文集抄録
〈Vol.37 No.6 (2001年6月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
ショート・ペーパー]
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■ 複数形状並列識別のための光アナログ計算システムの開発研究
茨城高専・清水 勲,加藤文武,砂金孝志,宇都宮大・長岡啓太
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文字列や複数形状を瞬時並列に識別する多重マッチトフィルタ(MMSF)法を骨格とした光アナログ計算システムを開発した.CCDカメラ,CRTディスプレイ,空間光変調器SLM,光導電プラスチックホログラム(PPH)自動現像装置等を組み込んだ文字列・複数形状識別用光アナログ計算システムを試作した.溶剤蒸気で現像するPPH自動現像器を用いてMMSFを作成することにより複数形状の識別アルゴリズムの簡便迅速なインストール法が実現できた.また,レーザ光源,MMSF作成光学系,などすべての光学系を1本の光学レール上に構築することにより,コンパクトで防振効果の高い光学システムを開発した.開発された光アナログ計算機を用いて文字列や複数形状の粒子群を識別した結果,迅速並列にそれらが識別されることが確かめられ,その有用性が明らかにされた.
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■ 多重反射波及び定在波モデルに基づく超音波センサによるコンクリート構造物の非破壊検査
山口大・田中正吾
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トンネル,橋梁など多くのコンクリート構造物に対し,コンクリートの剥離による事故がしばしば見受けられる.最近起こった山陽新幹線のトンネル壁面の度重なる崩落事故はまだ記憶に新しい.トンネル壁面だけでなく,橋梁やビルディングなど数多くの既成のコンクリート構造物に対しても,最近とみに劣化が叫ばれており,災害の予防および長寿命化の観点から内部の正確な非破壊検査が求められている.
これらのコンクリート構造物に対する非破壊検査手法としては,これまで@打音法,A電磁波法,B赤外線法,C超音波法,などの検査手法の開発が試みられてきたが,それぞれ信頼度が低く,これまで確固たるものは開発されていない.特に,Cの超音波法は,表面と剥離までの往復音波伝播時間により剥離の有無の検出や位置の計測を行う手法であるが,剥離と表面の間に多重反射波が生じ,これらが重畳しあうため,従来のように剥離からの第1反射波を抽出する方式では剥離までの往復音波伝播時間の計測が困難となる.
そこで本論文では,超音波センサを用いることを前提に,まずコンクリート中に(小石や鉄筋などの)骨材が含まれていない場合をおもな対象に,センサの物理特性を考慮することにより,剥離等からの受波信号波形の予測波形を作り,これと実際の受波信号波形とのパターンマッチングにより剥離からの往復音波伝播信号を計測し,これにより剥離の有無の検出や剥離の位置決定を行う手法を提案した.
なお,骨材が含まれており,かつ利用できる超音波センサの超音波の波長が骨材のサイズに比べて長くない場合は,超音波は伝播に際し骨材の影響を受ける.つまり,超音波センサより発信された超音波は途中の骨材に衝突し,散乱を繰り返す.したがって,この場合は,超音波センサに受波された受波信号に対し,剥離と表面との間の多重反射波モデルは適用できず,剥離の検出に際しては異なった計測原理を使用する必要がある.そのため,本論文では,引き続き,このような場合に対し,表面と剥離との間の定在波を用いる方法を提案した.
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■ あるクラスのIQC条件を満たす変動に対するロバスト制御―多重ループゲイン・位相同時変動への応用―
阪大・小原敦美,日本IBM・松本香奈子,三菱重工・井手政和
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さまざまな非線形要素や不確かさをもつフィードバック系の安定性解析を統一的に行える手法としてIQC(integral
quadratic constraint)に基づく方法がある.この手法をコントローラ設計に用いようとすると,ロバスト安定化条件は一般にBMI(bilinear
matrix inequality)で記述される非凸計画問題に帰着され解を得るのに多くの計算量を必要とする.
本稿では,このような問題点に対して,IQC条件をあるクラスに限定することにより,このクラスを用いたロバスト安定化条件がBMIに比べると非凸ではあるが効率よく解ける行列不等式の可解性と同値であることを示した.制限されたIQC条件はL2ゲインの有限性に起因する不確かさを記述するには,十分広いクラスのIQC条件になっている.また,ロバスト安定化のみでなく,極領域やH2ノルムなどのLMI(linear
matrix inequality)で記述できる他の仕様も同時に考慮できる点が実システムへの応用上有用である.
つぎに,航空機の制御系設計などで重要な多重ループ系のゲイン・位相変動に対するロバスト安定化問題に対して本手法を適用し,従来見通しよく設計することが難しかったこの問題に対し有効であることを数値例で確認した.
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■ 柔軟構造物に対するモデル集合同定とアクティブ制震制御
京大・福島宏明,日本IBM・Yue WU,京大・杉江俊治,京東大学校・Gi-Hwan
BAE,京大・鈴木祥之
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本論文では,ロバスト制御に必要なモデル集合同定法を柔軟構造物の制震制御に適用し,その実用性を検討する.制御対象が減衰の遅いシステムであるため,新たに過渡応答による同定誤差の上界を評価し,入力が白色雑音に近い性質をもつ場合に従来よりも上界の保守性が低減されることを示す.また,公称モデルを有理伝達関数とすることにより,従来のモデル集合同定法よりも低次のモデルの同定を行っている.さらに,同定されたモデル集合を用いてロバスト制御系の設計が系統的に行われることを実験によって検証する.
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■ 時間応答制約を含むl1最適制御
阪大・太田快人,川崎重工・東出善之
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本論文では,固定入力に対する応答に時間領域の制約が加わったとき,閉ループのl1ノルムを最小化する多目的制御問題を考察する.具体的にはこの問題を有限次元の線形計画問題に帰着して解く計算方法を提案する.閉ループのl1ノルムを最小化する標準的なl1制御問題で提案されていたDA法は,そのままでは時間応答制約のある場合には適用できないが,新たな修正を加えることにより時間応答制約のあるl1制御問題に適用できることを示す.計算の難しい階数補間条件を用いなくともよいこと,有限インパルス応答の可能解の存在を仮定しなくてもよいことというDA法の2特長は,この修正によっても保存されている.最後に例を用いて本手法の有効性を示す.
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■ Testing the Controllability of Discrete-Time
Linear Systems with Input Constraints
Kagoshima Univ.・Hiroshi YOSHIDA, Tetsuo
TANAKA and Kazutomo YUNOKUCHI
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This paper gives necessary and sufficient
conditions for multiple input discrete-time
linear systems to be controllable with input
constraints due to saturation and positiveness.
These input constraints are very important
because they are often encountered in many
practical control applications such as optimal
drug administration problem, tracer kinetics
in medical system, electrically heated oven
system, population dynamics, or ecology,
etc. Furthermore a simple method to test
whether a given system is controllable or
not with input constraints is proposed based
on the Jordan canonical form by using the
elimination method of Gauss and transforming
the state and input variables into some particular
form. The particular form proposed here
contains more informations about the structure
of controllable systems with input constraints
than that obtained earlier. The results
obtained here are expected to become basic
frameworks to solve many practical control
problems mentioned above.
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■ フィードフォワード側の自由パラメータを活用したILQ設計法の拡張
三菱電機・酒井雅也,阪大・藤井隆雄
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ロバストサーボ系設計法の1つであるILQサーボ系設計法は,これまでフィードバック制御をベースに種々の改良や拡張が行われてきた.一方,ロバストサーボ系の設計法については,周知のようにフィードフォワード制御も用いる2自由度制御系の一般的な構成が明らかにされている.そこで本論文では,これまでILQ設計法で利用していなかったフィードフォワード側の自由パラメータも活用し,これと密接に関連する目標値追従特性に注目してILQ設計法のさらなる拡張を行う.ただし,これまでの一連の拡張と同様に,この拡張に際しても,ILQ設計法に特有な「目標値追従特性の非干渉化指定」と「設計結果の解析表現」という2つの利点は継承する.拡張の結果,1)
これまで目標値追従特性の指定については,対応する伝達関数の極の数と零点の指定に自由度がなかったが,この制限が大幅に緩和された.2)
状態フィードバックで非干渉化できない制御対象についても,従来法で不可能であった非干渉化指定が1型サーボ系について可能になった.さらに,3)
ILQ法に限定しない一般的なロバストサーボ系の設計についても「目標値追従特性の非干渉化指定」の観点からILQ法との比較を行い,指定可能な伝達関数のクラスに本質的な相違がなく,したがって拡張されたILQ設計法が一般性を有することを示す.
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■ Dissipativity and LQ Optimal Control of
Linear Implicit Systems
Kyoto Univ.・Kiyotsugu TAKABA
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This paper considers the linear quadratic
optimal control problem for linear implicit
systems based on the dissipation inequality.
We derive a necessary and sufficient condition
for the dissipativity with respect to a quadratic
supply rate in terms of a linear matrix inequality
(LMI) condition with an equality constraint.
Based on this constrained LMI condition,
the optimal control law is given by an implicit
algebraic constraint among system variables.
We also show that the present constrained
LMI condition easily reduces to an LMI without
any equality constraints.
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■ 行列積固有値問題(MPEP)大域最適化の計算量解析
Caltech・山田雄二,東工大・原 辰次
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行列積固有値問題(MPEP)は,数理計画問題としてはBMIのサブクラスではあるが,BMIに帰着される多くの実用的な制御問題を記述することができる一般的な枠組の1つである.MPEPに対して著者らは,大域最適解を精度ε>0の範囲で求めるための必要計算回数(凸部分問題の数)が,非凸条件における行列のサイズを固定した場合に,解精度の逆数1/εの多項式以下で与えられるアルゴリズムが存在することを示してきた.本論文では,MPEPの計算量に関してさらに考察するとともに,BMIを含む他の非凸最適化問題に対する大域最適化とMPEP大域最適化との比較を行い以下の3点を新たに示す.
1. 行列積の条件がスカラの場合のMPEPに対する大域最適化アルゴリズムの計算量解析結果が,凸乗法計画問題に対する分枝限定法の最悪ケースの計算回数の最小値を与えること.
2. 同じくスカラの場合において,計算回数の上下限を見積もることが可能であること.
3. BMI分枝限定法との比較を行い,平均計算量,最悪計算量の両方において,MPEPに対する大域最適化の方が効率よくε-最適解に収束していること.
3番目に関しては,緩和問題に着目した比較を行い,MPEPに対する緩和問題の方がBMIに基づく緩和問題に比べ子問題となるLMI問題の行列のサイズおよび変数の数が少なく,結果として子問題を解く効率がよいことを示す.さらに数値実験を行い,MPEPに対する大域最適化アルゴリズムの方がBMI分枝限定法よりも,大域解を得るまでのトータル反復回数およびCPU-時間が低く抑えられることを検証する.
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■ あるクラスの3状態2入力の非ホロノミックシステムの制御系設計と小惑星サンプルリターンロボットの姿勢制御
東工大・松野文俊,シマノ・齋藤 啓,三菱重工・鶴崎淳嗣
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本論文では,あるクラスの3状態2入力の非ホロノミックシステムの制御について考える.まず初めに,ドリフト項をもたない3状態2入力の対称アフィンシステムを取り上げ,1つの正準形であるChained
Formに変換するためのアルゴリズムを提案する.また,得られたChained
Formに対し,時間軸状態制御形を用いて制御系を設計する.つぎに,ドリフト項をもつ3状態2入力のアフィンシステムを取り上げる.まず,提案した対称アフィンシステムに対するChained
Form変換アルゴリズムを適用し,対象システムを,新たに提案するドリフト項とChained
Formの和の形で記述される拡張Chained Formの形に変換する.また,拡張Chained
Formに対して正弦波入力を用いた開ループ制御則を提案する.つぎに,ドリフト項をもつ3状態2入力のアフィンシステムを時間軸状態制御形に直接変換するための手法を提案し,状態制御部の厳密な線形化を用いた制御系を設計する.最後に,具体的な例として小惑星サンプルリターンロボットについて考え,本論文で設計した制御系を用いて実験を行い,提案した制御則の有効性を検証する.
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■ 配送車の積付問題に対する自律分散型アルゴリズムの提案
富士電機・東田伸郎,京工大・飯間 等,三宮信夫,FFC・小林靖宜
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組合せ最適化問題は難解であるのでさまざまな解法が提案されているが,得られる解の精度,計算時間,汎用性,設計の容易さなどの要求に応えられる解法は少ない.これらの要求を満たすことが期待される解法として,分散型のアルゴリズムが生産スケジューリング問題に対して提案されている.著者らもその一手法である自律分散型アルゴリズムを提案し,その有効性を検討してきた.
分散型アルゴリズムは生産スケジューリング問題に対して良い性能を発揮しているので,他の組合せ最適化問題にも有効性を検討する必要がある.そこで,本研究では,配送車の積付問題に対する自律分散型アルゴリズムの適用可能性を考察する.この問題は配送車の複数のパレット上への荷物の積載状態を決定する問題である.本問題には2つの重要な要求が存在する.1つは荷物の運搬時の安全性を考慮し,荷物をできるだけ平坦に積み付ける要求である.もう1つは荷物の搬入,搬出の容易さを考慮し,荷物をトラックの高さいっぱいに積み付ける要求である.本論文では,これらの要求に適した自律分散型アルゴリズムをそれぞれ提案する.また,実事例に対する計算結果を,現在現場で使用されている遺伝アルゴリズムと比較し,本手法の有効性を評価する.
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■ 制約充足問題解決のための確率的リペア操作を内包した共進化型遺伝的アルゴリズム
岡山大・半田久志,京大・片井 修,日本IBM・渡部克之,岡山大・小西忠孝,馬場 充
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本論文では,筆者らが提案してきた新しい遺伝的アルゴリズムである共進化型遺伝的アルゴリズムに制約充足問題解決のための確率的リペア演算子を導入した方法を提案し,その有用性について検討する.この遺伝的操作はCSPに内包される局所的制約構造をもとにスキーマの制約整合性を高めるものである.本論文では,共進化型GAを構成するGA集団のひとつであるスキーマを探索するGA(P-GA)に対して,この遺伝演算子を導入することにより,P-GAがより整合性の高いスキーマを保持し,その結果,効果的な探索が実現できると考える.さらに,本論文では,制約密度と制約拘束度という指標によって分類される一般制約充足問題について実験を行うとともに,構造化された制約充足問題についても計算機シミュレーションを行い,提案手法の有効性が確認された.
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■ 人道的地雷除去のための対人地雷探知技術
東京高専・下井信浩
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本論文は,人道的対人地雷除去の活動の実施にあたり,地雷探知および除去活動の中で困難である理由について述べる.
世界中の国には,戦闘が終了した現在も約80万個の対人地雷が埋設されたまま放置されている.この結果,多くの非戦闘員が平和時に地雷のために死亡し,また地雷除去のために多くの費用を要している.この論文を通じて,私たちは,この問題を解決するための技術について提案する.
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■ A Remark on Symmetries in Linear Control
Systems
Keio Univ.・Reiko TANAKA and Kyoto Univ.・Kazuo
MUROTA
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Two different concepts of “symmetry”
are found in the literature of control systems
theory, one related to reciprocity and the
other to group symmetry. For robust stabilization
of symmetric plants in either sense, symmetric
controllers are known to be more effective.
This paper shows a common mechanism of this
phenomenon.
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■ 複素左半平面の与円内に存在する多項式の零点について
山口大・藤井文武,和田憲造
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本稿では,与えられた多項式f(s)が複素平面の原点を中心とする単位円内部に有する零点の個数を該多項式の係数情報から判別可能とするMardenのアルゴリズムに対してこれを拡張し,複素左半平面内にあり実軸上に中心を有する任意の円Dの内部に与多項式が有する零点個数を,その係数情報を用いて判別する方法を検討した.その結果,Mardenのアルゴリズムに表われる漸化式において利用する,f(s)に伴って定義される多項式f*(s)を,f(s)零点のDの円周に関する反転を用いて定義することで,アルゴリズム本体を修正することなく上記問題の解が得られることを示した.また,この結果の直接の帰結として,f(s)の全零点を円領域D内部に拘束する場合にその係数が変動を許される領域を,係数空間において定式化して表現することが可能となった.得られた条件式は区間係数摂動を有する制御対象に対するロバストD-安定化問題の解設計を検討する上で有用であると考えられる.
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■ ERダンパを用いたゴム人工筋マニピュレータの減衰補償
岡山大・則次俊郎,岡山工技センタ・辻 善夫
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近年,介護支援ロボットやリハビリ支援ロボットの開発が求められている.これらのロボットは人と作業空間を1つにするため人間に対する安全性を重視した人間共存型ロボットの開発が行われている.空気圧ゴム人工筋マニピュレータは軽量かつ柔軟であるため安全性に優れているが,構造的な減衰力不足のため,高ゲイン制御時に安定な応答を得ることは難しく,人間共存型ロボットへの実用を考えた場合,さらなる制御性能の向上が求められる.
本研究では,印加電圧の大きさによって見かけ上の粘性が瞬時に変化する電気粘性流体を作動流体として用いた減衰力可変ダンパを空気圧ゴム人工筋マニピュレータ関節部に装着し,マニピュレータの減衰性能を調整する.ステップ応答実験を行うことにより,高ゲイン制御時でもPID制御のみでは実現できない安定な応答を得られることが確認できた.また,減衰力可変ダンパを装着することにより高周波外乱に対する抑圧性能も向上することを確認した.
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