論文集抄録
〈Vol.37 No.2 (2001年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
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■ “重ね合わせ原理”に基づく非線形制御系の最適化
バブコック日立・伊丹哲郎
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非線形ハミルトン・ヤコビ方程式を線形理論の枠組みで研究する方法を提案する.このために状態空間内の経路に「線形波動方程式」に従う「重ね合わせ可能な複素数の波」を随伴させる.経路に及ぼす波の作用の強さを表現する新しい制御定数HRを導入し,これをゼロに移行することで最適経路が得られると考える.このために非線形最適制御系を「ディラック括弧式」により拘束力学系として定式化する.その代数構造を満足するようにカノニカル変数に1対1対応する「線形演算子」を定義し,これを使って波の力学を表現する.線形演算子から「ハミルトニアン演算子」を構成し,これにより経路とそれに随伴する波の情報を含む複素数値の「波動関数」の線形波動方程式を設定する.その実数部射影はハミルトン・ヤコビ方程式に波の作用を追加した「一般化されたハミルトン・ヤコビ方程式」となることがわかる.したがって追加項を十分小さく設定することで線形波動方程式の解により非線形最適フィードバックを近似することができる.概念を明確にするため1入力1状態変数の単純な非線形最適制御系を対象としてシミュレーションを行い,線形波動方程式に基づく非線形最適フィードバック制御の妥当性を数値的に確認する.
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■ フィードバック指数受動性に基づく多入出力非線形系に対する適応出力フィードバック制御
熊本大・水本郁朗,岩井善太,小原浩司朗
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システムの受動性(passivity)は非線形系の安定性を解析する重要なツールとして知られているが,ほとんどの実システムにおいてこの受動性は満足されない条件となっている.この点に関して,フィードバックによるシステムの受動化可能(feedback
passive: FP)条件が明らかにされているが,これらの条件もまだ実システムにとっては厳しい制約条件となっていた.線形系においては,上述のFP条件はASPR(almost
strictly positive real)条件として知られており,ASPR条件のもと出力フィードバック形式の構造の簡単な適応制御系が設計できることが明らかにされている.また,ASPR条件を緩和するための1つの解決策として,並列フィードフォワード補償(PFC)の導入が検討されており,具体的な設計法もいくつか提案されている.このPFC導入の概念は,最近1入出力非線形系に対して一部導入されているが,現在までのところ,多入出力非線形系に対する十分な検討はなされていなかった.本報告では,出力フィードバック指数受動(OFEP)性のもと多入出力非線形系に対して出力フィードバック形式の適応制御系が簡単に設計できることを示す.さらに,OFEP条件を緩和するための多入出力非線形系に対する具体的なPFCの設計法の提案を行う.
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■ 将来の入出力の不確かさを考慮した二元予測制御の評価関数とその計算法
帝京大・芳谷直治
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本論文では,制御対象プラントが不確かなパラメータを含む線形ARX(auto-regressive
and exogenous)モデルで表わされる場合の,二元予測制御の新しい評価関数とその計算法を提案する.二元制御とは,パラメータや状態変数の値の不確かさ,および将来の不確かさ変化を予測して,制御をcautious(用心深く)にするとともに推定を促進するように,制御入力信号(操作量)を算出する制御方式である.
本論文では制御の厳密な評価関数は,一般化予測制御(GPC)の評価関数をBellman方程式の形で表わして設定した.しかしこのままでは最適解を求めるための計算量が膨大になるため,近似的な評価関数(準最適評価関数)を新しく導出した.導出に際しては将来の入力不確かさの影響を新しく考慮して,従来よりも最適性に優れた準最適評価関数を得ることができた.ただしこの評価関数は種々の統計的分散の予測値をいくつか含み,そのままでは計算困難である.そこでいくつかの近似を工夫して導入することにより,評価関数の計算法を新しく考案した.この中でモデルのAR部分の出力不確かさも新しく考慮した.提案する手法を用いた制御は,従来法よりも制御性能とロバスト性の向上が可能であり,数値例でそれが示された.
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■ 状態にむだ時間を含む系における最適メモリーレスレギュレータのLMIによる構成と円条件
徳島大・久保智裕
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さきに著者らは,状態にむだ時間を含む系に対しメモリーレスフィードバック則を構成するための一方法を提案した.この方法によって構成される閉ループ系は,結果としてある2次形式評価関数に対する最適レギュレータとなる.このような制御系を最適メモリーレスレギュレータと呼んでいる.
本稿では,状態にむだ時間を含む系に対し最適メモリーレスレギュレータを構成するための,もう1つの方法を提案する.前に提案した方法では,フィードバックゲインを計算するためにある方程式を満たすパラメータの組をみつけなくてはならなかったが,そのみつけ方はごく限られた場合にしか与えられていなかった.これに対し本稿で提案する方法では,1つのスカラーパラメータを選んでLMIを構成すると,この解からただちにフィードバックゲインを得ることができる.LMIの解法はすでに確立している手法を用いることができるので,制御系設計がよりスムーズに行える.また本稿では,このようにして構成された最適メモリーレスレギュレータが円条件を満足することを示す.これにより,このレギュレータが有限次元系に対する最適レギュレータと同様のロバスト性をもつことが確かめられる.
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■ 引き込みを利用した回転型2重倒立振子の振り上げ制御
釧路高専・梶原秀一,室蘭工大・橋本幸男,北大・土谷武士
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メカニカルシステムに周期的な入力を加えると,システムを動的に安定化できる場合がある.本研究ではこのような観点から倒立振子の振り上げ制御問題を取り上げた.論文ではまず,周期的な入力により振子を効率よく励起できるタイミングを解析する.つぎに,振子と周期入力のタイミングを合わせる方法として,非線形振動子の引き込み現象を利用した方法を提案する.このタイミングは,振子の角速度が入力されたvan
der Pol方程式の周期解を利用して周期入力を構成することにより実現される.最後に,本研究の手法により,回転型2重倒立振子の選択的な振り上げ制御が実現できることを示す.
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■ 伝達関数の既約分解の非線形補間によるモデリング
阪大・牛島淳博,池田雅夫,阪府大・村松鋭一
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動作環境によって動特性が変化する制御対象のモデリングを行う方法として,複数の代表的な動作点においてその制御対象の伝達関数(以下,基準モデルと呼ぶ)を同定し,それらを補間したものをモデルとすることが考えられる.本論文では,そのような補間モデルとして,基準モデルの安定かつプロパーな既約分解の分子伝達関数と分母伝達関数のそれぞれを,動作環境を表わすパラメータの非線形関数を用いて補間したものを提案する.一般に伝達関数の既約分解は一意でないため,この補間モデルは基準モデルの既約分解の選び方に依存する.また,当然,補間する非線形関数にも依存する.したがって,非線形補間関数や基準モデルの既約分解は,補間モデルが制御対象をよく近似するように選ばなければならない.本論文では,補間区間の途中に参照モデルが与えられているとし,補間モデルがその動作点で最適な近似になるように非線形補間関数と基準モデルの既約分解を求めることにする.こうして,補間区間全体で制御対象のよい近似となる補間モデルが構成できると期待する.従来は,分子伝達関数と分母伝達関数とも線形に補間するモデルが考えられていたが,非線形補間を採用することにより,よりよい近似を得ることができる.
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■ 1段トラッキング機構を用いた光磁気ディスク装置の高精度トラック追従制御
富士通研・渡辺一郎,河辺享之,富士通・大塚伸一,富士通研・小林弘樹,市原順一
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光磁気ディスク装置のトラック追従制御系では,通常トラック追従精度を高めるため,粗動ポジショナとレンズ微動アクチュエータによる粗微動2段のトラッキング機構が用いられている.筆者らは低コスト化を狙って,ポジショナのみでトラック追従を行う1段トラッキング機構を有する光磁気ディスク装置を開発している.この装置ではポジショナの案内部におけるクーロン摩擦が,トラック追従精度確保のための大きな課題となる.本論文ではクーロン摩擦外乱の周期性に着目し,学習制御系を含むトラック追従制御系を提案している.この学習制御系では,ディスク1回転周期分の外乱補償信号関数を等時間間隔に配置したN個の矩形関数の加重和で近似表現し,トラック追従制御中にシンプルな加重更新学習を行うことにより,外乱補償信号関数を学習獲得する.シミュレーションと実験により,クーロン摩擦を含む周期性外乱に対して,本手法が非常に有効であることを示している.本手法では制御系のサンプル周期とは独立に,補償したい外乱の周波数帯に応じてメモリ長Nを設定でき,メモリ長を減らして近似する周波数帯を制限した場合には,それに応じて学習収束時間を短縮できるという特徴をもつ.
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■ 新しい統計的プロセス管理手法の化学プロセスへの適用
京大・加納 学,神戸大・大野 弘,京大・長谷部伸治,橋本伊織
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最近提案された2種類の多変量統計的プロセス管理(MSPC)手法をTennessee
Eastmanプロセスに適用し,それらの異常検出性能を主成分分析に基づく従来法の性能と比較するとともに,各手法の特徴について検討した.移動主成分分析による運転監視手法(MPCA)の性能は,監視する主成分および窓幅の選択に強く依存する.また,大規模プロセスを対象とする場合には,各主成分の変化を個別に監視するよりも複数の主成分が張る空間の変化を監視することによって,高い異常検出性能を達成できる.一方,データの非類似度に基づく運転監視手法(DISSIM)の設計パラメータは窓幅のみであり,比較的容易に高い性能を実現できる.Tennessee
Eastmanプロセスへの適用結果は,従来法と比較して,変数間の相関関係やデータの分布状態に着目した新しい監視手法であるMPCAとDISSIMが特に小さな変化を検出する能力に優れていることを示している.さらに,監視指標である非類似度が管理限界を超えて異常が検出された際に,その異常値への寄与が大きな変数を特定するために,非類似度への各変数の寄与を新たに導入した.シミュレーション結果は,提案した各変数の寄与から異常原因の特定に有用な情報が得られることを示している.
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■ ニューラルネットワークを用いたDirect-Vision-Based強化学習―センサからモータまで―
大分大・柴田克成,東大先端研・岡部洋一,東工大・伊藤宏司
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視覚センサを有するロボットを学習させる際に,視覚センサ信号を階層型ニューラルネットに直接入力し,強化学習を行うDirect-Vision-Based強化学習を提案する.これにより,運動系だけでなく,認識などを含むセンサからモータまでの過程を合目的的,調和的かつ効率的に学習できることを主張する.
シミュレーションによって移動ロボットが可変サイズの目標物を捕らえたり,障害物を回避して目標物を捕らえるという比較的難しいタスクを学習することができた.その際に,中間層で,両眼立体視による大きさによらない物体の位置や,障害物の後ろに目標物が隠れるという状態といった抽象的な空間情報を必要に応じて適応的に認識する必要があることがわかった.
また,視覚センサは,大域的な空間情報を個々の局所的な受容野によって局所化する働きをもっており,これによって,学習が高速化,安定化することがわかった.また,従来,シグモイド関数を用いたニューラルネットと強化学習を組み合わせると,学習が不安定になるという指摘があるが,上記の理由により,センサ信号を入力とする場合は,学習が不安定にならないことを示した.
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■ 連鎖散乱表現で記述されたモデル集合の包含関係と等価性の解析
東大・軸屋一郎,木村英紀
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連鎖散乱表現で記述されるモデル集合を取り扱う.つまり,H∞制御において取り扱われている非構造的なモデル集合を取り扱う.制御系設計そのものに重きをおくのではなく,ロバスト制御の観点からみて重要である包含関係と等価性について解析した.まず,モデル集合間に包含関係が成り立つための生成因子に関する必要十分条件を求めた.また,包含関係の特殊な場合として,モデル集合が等価となるための生成因子に関する必要十分条件を求めた.これはモデル集合の表現が本質的に一意であることを意味する.■
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■ アクチュエータの動特性を考慮したロボットマニピュレータのL2ゲイン外乱抑制型ロバスト軌道追従制御
足利工大・石井千春,上智大・申 鉄龍
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近年,アクチュエータの動特性を考慮したロボットマニピュレータの軌道追従制御問題が展開されている.しかしながら,これまでの研究では,システム全体の安定性解析にしか焦点をあてておらず,追従性能に対する評価指標は与えていない.本論文では,不確かさを有するモータ駆動ロボットマニピュレータに対して,L2ゲイン外乱抑制による追従性能の評価を考慮したロバスト軌道追従コントローラの設計法を提案する.具体的には,バックステッピング設計に基づき,Dawsonら(1992)で示されているリアプノフ関数を拡張して,誤差システムのロバスト安定性ばかりではなく,外乱から追従誤差までのL22ゲインを小さくする外乱抑制性能も保証する消散不等式を満たすリアプノフ関数を構築する.
提案した設計法により,外乱抑制性能を有していない従来の設計法に比べ,はるかに追従性能が改善されることがシミュレーションにより示される.
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