論文集抄録
〈Vol.37 No.1 (2001年1月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
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■ カオス変調レーザダイオードを用いた測距手法の基礎実験
茨城大・湊 淳,伊多波正徳,若狭雅哉,小澤 哲
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カオス信号の自己相関がデルタ関数に近い性質を利用すると,パワーモニタ信号と受信信号の相関関数は,パルス光を光源としたレーザ距離計の受信信号に相当する応答関数となる.筆者らはこのカオス変調レーザを用いた遠隔計測手法の提案と数値実験による評価を前報にて行った.本論文では,本手法の実験による評価を行った.抵抗,コイル,ダイオードによる電気的なカオス信号で半導体レーザを変調した.これにより簡単な回路構成で安定したカオス変調光源が得られた.この光源を用いて,光ファイバによる測距の室内実験を行った.この結果,2MHzの外部変調を用いた場合,往復光路の測距の精度として0.6mという値が得られた.
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■ スペースΔVLBIによる深宇宙軌道決定シミュレーション
東日本国際大・浅井義彦,東京工科大・西村敏充
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将来の深宇宙探査計画においては,搭載機器への負担軽減,搭載軌道決定への高精度な軌道要素の提供およびバックアップ,複数探査機の相対軌道決定などの役割を果たすために,地上での軌道決定に対しても,より高い精度が要求されている.一方では,VLBI技術の測地や天文分野での利用が急激に拡大し,関連技術の急速な発展を促している.さらに,「はるか」や月探査計画「SELENE」,2周波同時観測アンテナ「VERA」計画など,宇宙でのVLBIの利用が活発に推進されている.
効率的かつ効果的なVLBI観測を行うためには,国外観測局との連携が重要な課題となるが,特に,わが国にとっては,地理的制限のない宇宙へ基線を延長することで,国外に依存しない長基線VLBI観測を可能にし,安定した運用を確保することも重要な意味をもつと考えられる.著者らはすでに,軌道推定にVLBIデータを導入し,VLBIデータとRangeデータの共用による深宇宙軌道決定の高精度化を試行しているが,本研究では,ΔVLBIデータを取得する際の観測局の一方を衛星軌道上に置くことによって,基線延長による精度向上,可視期間の延長,さらに軌道面の相違による基線方向の相違が運用に有利な感度方向を選択できる可能性について,長楕円軌道と静止軌道を用いて検証する.
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■ マイクロホン感度の単一指向性を利用する3次元音源方向の検出
新潟大・岡田徳次,NSG・佐藤秀幸,日本精機・三富堅太郎
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本論文は,3次元空間内の音源方向検出の検出原理を提案する.一般に,音の伝搬時間,位相差,強度の違いなどがこの種の計測に使われる.本稿が目指す方法は,音圧一次傾度形単一指向性を有するコンデンサマイクロホンの特性を有効に利用して信号処理を簡単にすることにあり,音圧強度の違いに着目する.基本的なマイクロホンセットの最少数は,四面体状配置の構成に必要な4である.音圧強度差の間に成立する関係を定式化し,また,マイクロホンの後方に現れる望ましくない不規則な感度の影響を取り除く論理的信号処理法を紹介する.音源方向を導出する計算手続きを明らかにし,計測法の有効性を実証するための実験結果について報告する.
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■ 音波式ガス温度・流量計測における信号処理法と試験信号波形について
バブコック日立・深山幸穂,森本信夫,北山洋史,今田典幸,下平克己,沖村仁志
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高温,高ダスト環境,および,大径構造物への適用に好適な,可聴周波域を用いた音波式ガス温度/流量計の開発に係わり,信号処理法と試験音波信号に関する下記項目の研究成果を報告する.
1) 受信信号処理法の満たすべき条件の明確化
2) 前項条件に基づき,雑音スペクトルに応じた白色化とマッチドフィルタによる信号検出機能の構成
3) 送出試験信号波形の満たすべき条件の明確化
4) 前項条件に基づきM系列PRK(Phase Reverse
Keying)波の選定
5) ガス温度計測機能への有効性について,実験炉および国内最大級石炭だきボイラの火炉での稼働実績による検証
6) ガス流量計測機能への有効性について,実験用およびボイラ燃焼空気ダクトでの稼働実績による検証
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■ 単結晶サファイアを用いた静電容量式マイクロ圧力センサ
山武・増田 誉,添田 将,静岡大・渡辺健蔵
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近年,圧力計測の分野では機械式から電子式圧力計への置き換えが急速に進んでいる.電子式圧力計を大別するとダイアフラムの応力変化を電気抵抗変化として検出する方式と静電容量変化として検出する方式とに分類でき,後者の静電容量式圧力センサは高感度で微圧計測に優れているとされている.しかしながら,圧力測定媒体が腐食性のガスあるいは液体の場合には腐食対策を講じる必要がある.この対策として通常はオイルを耐腐食性の高い隔膜ダイアフラムで封入する構造としている2),3).この構造は外部空気から大気圧を導入するゲージ圧測定用静電容量式圧力発振器にも用いられ,ドリフトや破壊の原因となる空気中の水分やゴミがセンサ部に入らないようにしている.このような従来の構造では,オイルの自重と隔膜ダイアフラムのコンプライアンス特性,体積膨張と隔膜ダイアフラムのコンプライアンス特性等によってドリフトが生じ,微圧領域での検出精度が著しく劣化する.また,オイルの耐熱性,オイルの低温時の粘度上昇,オイルの蒸気圧,オイル室への外部空気の透過や漏洩,オイル室壁面や部品からの脱ガス等は低温や高温環境および真空環境での使用を困難にしている.
これらの問題を解決するため,電気絶縁性と耐腐食性に秀れた単結晶人工サファイアを用いたオイル・フリーの微ゲージ圧(4,903Pa●500mmH2O)測定用静電容量式圧力センサを開発した.圧力測定媒体は直接センサのチャンバー部に導入される.したがって,チャンバーの容量は圧力のみならず,媒体の温度・湿度によっても変化する.この温度と湿度による変化を検出するために,チャンバー内に別の1組の電極を設け,この容量とセンサ容量との相対変化を求めることによってセンサの温湿度補償を行うこととした.以下,センサの構造,温湿度補償のための信号処理手法,実測されたセンサの性能について述べる.
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■ 高速道路運転における頭部運動と視線挙動
職能開発センタ・藤森 充,東洋大・上迫宏計,川村幹也
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自動車運転の安全を考えるうえで,運転者の視覚認知についての検討が必要とされている.そこで,人間の視覚認知に関与する視線挙動をアイマークカメラと角速度センサの組み合わせシステムにより測定した.測定システムは頭部運動と眼球運動のデータを記録して合成し,視線挙動データとする.
実際に高速道路上を走行したときの運転者の視線挙動データ取得を試みた.運転条件として,直進走行中,右車線変更,左車線変更を設定した.運転経験の異なる4名の被験者について,測定条件による視線挙動の範囲と速度の特徴を明らかにした.
車線変更時に発生する頭部運動を測定した結果,ミラーなど位置が既知の領域を確認する場合がほとんどであった.したがって,このとき発生する眼球運動と頭部運動は学習した情報をもとに発生している.そこで,両者の関係について頭部運動分担比を定義し,解析を試みた.頭部運動分担比はシグモイド関数をモデルとした近似式にあてはめ,パラメータを算出した.この解析方法は,運転中における頭部運動と眼球運動がどのようなバランスで発生するかを定量的に検討することが可能で,被験者の特徴や運転条件との関連を示すことができる.
運転中の視線挙動は被験者や運転条件により異なることから,測定データを用いた運転者の運転適性評価への応用が期待できる.
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■ Design of Functional Observer in Input-Output
Relation
Tokyo Inst. of Tech・Tomomi SUZUKI,Tokyo
Denki Univ.・Katsuhisa FURUTAand Tokyo Inst.
of Tech.・Masaki YAMAKITA
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本論文では,離散時間線形時不変系に対して,まず有限長の入出力データから状態の線形関数を完全に再構成する再構成器の構成を示している.さらに,この再構成器が有限整定オブザーバであることを示し,これを基に指定した特性多項式をもつ状態の線形関数オブザーバの構成法を示している.また,汎関数オブザーバの低次元化について議論し,最後に例題を用いて設計法の詳細を説明している.
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■ 支点垂直駆動型倒立振子の制御―周期入力による漸近安定化―
釧路高専・梶原秀一,室蘭工大・橋本幸男,北大・土谷武士
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メカニカルシステムに周期的な入力を加えると,システムを動的に安定化できる場合がある.本研究ではこのようなシステムとして支点を鉛直軸に拘束して動かす倒立振子の制御問題を取り上げ,周期的な入力によりシステムを制御することを考えた.論文ではまず,周期入力による振子の安定性を解析し,振幅を変調した周期入力を加えるとシステムはパラメータ励振系となることを示す.つぎに,パラメータ励振を抑制するタイミングで振幅を変調すると振子を漸近的に安定化できることを理論的に示す.このタイミングは,振子の角度と角速度からなる非線形フィードバックにより,振幅を振子の倍周期で変調することで実現される.最後にその有効性を実機により検証した結果を示す.
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■ 周波数特性に基づく実数次位相進み遅れ補償器を用いた制御系設計法
東理大・矢島尚人,黒川一夫
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むだ時間要素を含む安定な定位性高次遅れ系を制御対象とし,実数次位相進み遅れ補償器を用いた制御系設計法の1つとして周波数特性に着目した設計法を提案する.その設計法は位相余裕とゲイン余裕さらにピークゲインをあらかじめ指定しておき,その値を設計後の系がもつようにニコルス線図を用いて行う.まず,指定した位相余裕,ゲイン余裕およびピークゲインをもつための条件式を求め,つぎにそれらの方程式を満たす補償器パラメータを探索により決定する.得られた特性と設計仕様との比較および系のステップ応答から望ましい特性を得る適用範囲を定める.補償器パラメータが適用範囲内にあるかどうかによってその妥当性を判定する.本補償器の特性から仕様条件を満たす位相余裕,ゲイン余裕およびピークゲインについての相互の関連性も示す.設計例を示し本設計法の有効性を確認する.最後に,本設計原理をPID補償器を用いた制御系設計法に適用した場合を示す.
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■ SIRMs動的重視度結合型ファジィ推論モデルによる並列型二重倒立振子システムの安定化ファジィ制御
マイコム・易 建強,湯場崎直養,東工大・廣田 薫
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並列型二重倒立振子システムの安定化制御にSIRMs(Single
Input Rule Modules,単一入力ルール群)動的重視度結合型ファジィ推論モデルを適用し,シンプルな構造を有する安定化ファジィ制御器を提案する.本安定化制御器は,台車の位置と速度,両振子のおのおのの角度と角速度を入力項目として,台車を移動させる駆動力を出力項目とする.各入力項目に対し,並列型二重倒立振子システムの特徴に合わせてSIRMと動的重視度を設定する手法を詳しく述べる.SIRMと動的重視度を用いることによって,両振子の制御と台車の制御が制御状況に応じて優先順位を自動的に切り替えながら並列的に行われることを明らかにする.制御シミュレーションによって,本安定化ファジィ制御器の有効性を示す.
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■ 遠隔操作による宇宙ロボットのベース姿勢安定化制御
豊田工大・成清辰生,岡田 進,H.D. TUAN,
Nguyen V.Q. HUNG
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本研究では,オペレータによって操作されるマスタロボットを用いた遠隔操作による宇宙ロボットのベース姿勢の安定化制御について考察する.手先軌道をオペレータによって操作されるマスタロボットの手先軌道に追従させ,かつ内部状態と考えられるスレーブロボットの衛星ベース角速度を完全に安定化する制御系を設計する.この制御目的を達成するため,新たに姿勢反力(attitude
reaction force)という概念を導入する.この力をオペレータへフィードバックすることによりオペレータが角運動量保存則を力覚として認識することができ,ベース姿勢を変動させるオペレータ力が抑制される.閉ループ系の安定性は受動性の定理を用いて厳密に証明される.提案する制御系の有効性と操作性の確認のため,オペレータが実際に宇宙ロボットを操作しているような臨場感を有する実時間遠隔操作シミュレータを開発し,実験を行い,良好な制御性能と操作性を得た.
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■ スキーマを抽出する部分適合度関数を利用した共進化遺伝的アルゴリズム
福岡工大・鶴岡 久
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スキーマの効率的抽出と集積を目指す単純な構成の共進化遺伝的アルゴリズムを提案している.適合度関数を最適解の構成に必要なスキーマの所有を判定できる部分適合度関数に分解し,これによる評価の有無を染色体上に表現した評価個体と対象個体で共進化システムを構成する.両個体の互いに逆関数で定義された適合度によって,すでに得られたスキーマを保存しながら,新しいスキーマを集中して探索する.
スキーマの有無を対象個体の染色体上で判定できる理想的な部分適合度関数をロイヤルロード関数と2ビット最大化問題に設定し,共進化GAの最適解到達世代の限界をマルコフ連鎖解析等により調べた.この結果GA困難問題や騙し問題において,単純GAより最適解への到達世代で有利になる適合度分布条件と,提案の共進化GAが評価個体突然変異率の影響を受けにくいことを明らかにした.
部分適合度関数の選択法と共進化GAの有効性をニューラルネットの設計問題で検証した.出力の部分集合が望ましい出力と一致するか,を判定する関数を部分適合度関数にとると,4-2-4エンコーダ・デコーダでは完成回路を発見するまでの実行時間は単純GAの2.0%,4ニューロンBlinker問題では15.3%まで短縮可能であることが示された.
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■ 空気圧シリンダのピストンシールにおける油膜圧力の測定
広島市大・小嵜貴弘,佐野 学
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シールのしゅう動面における密封の維持と摩擦・摩耗の低減のための適正な潤滑は,空気圧シリンダにおいても必要不可欠であり,その性能を支持している.しゅう動面の摩擦抵抗の問題は,高出力用途の多い油圧シリンダでは時には無視してもさしつかえない場合もあるが,空気圧シリンダに対しては重要度がきわめて高い.空気圧シリンダの摩擦特性に関しては,従来マクロな立場から論じられてきたが,本論文では,より根本的な潤滑油膜に視点を転じ,シリンダ駆動時のピストンシールにおいて動的に形成される油膜の圧力を測定し,圧力分布から油膜厚さの推定と,弾性流体潤滑理論との整合性とともにそれらの結果に基づく摩擦特性の検討を行った.その結果,油膜圧力分布はシール形状に依存し,流体潤滑下では摩擦力は主として速度と圧力分布に支配されることが確認された.
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■ 受動性理論による一般的な非線形システムの動的フィードバック制御
慶大・伊藤和幸,志水清孝
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Non Affine非線形システムに対して,受動性理論にもとづく,2つの動的フィードバック制御手法を報告する.この論文での動的フィードバックとは,速度型制御入力を意味する.1つめの制御手法はいくつかの仮定のもとで,大域的漸近安定を実現する制御手法であり,2つめの制御手法は前述の仮定が満たされないときのアプローチを論じている.このアプローチは標準形と零ダイナミクスの概念にもとづいている.
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■ 移動ロボットによる文字情報を利用した環境地図の生成
名大・加藤祥史,劉 詠海,大西 昇
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移動ロボットがもつ環境地図内に,ランドマークを記載することにより,自己の定位やデッドレコニングの累積誤差の補正が可能となる.本研究では,ランドマークとして実環境中の看板などの文字情報を利用するため,あいまいな場所表現でなく正確な定位が可能となる.文字情報は解釈の曖昧さがなく人間が簡易に使用できる表現なので,「事務室に行け」などの人間が慣れている記述によるロボットへの指令を可能とする.また,ロボットのもつ環境地図を人がそのまま電子地図として使用することができ,イメージ等を使用する環境地図に比べ,データ量が少なく更新が容易という利点が挙げられる.
ロボットは屋内の廊下環境を徘徊し,交差点において情報(スタート地点からの相対座標,交差点の形状,各通路の通過回数,看板の有無および種類と方向)を獲得する.情報をもった交差点間を結ぶネットワーク構造の環境地図を生成する.また,文字および文字列のもつ一般的特徴を利用し,シーン内の文字列を抽出する.
実験では,超音波距離センサとCCDカメラを備えた車輪型ロボットを使用した.回廊状の実廊下環境を徘徊させ,看板情報と距離情報を用いた環境地図の自動生成実験を行った.移動ロボットを用い,実環境で看板情報を利用した環境地図の自動生成実験を行い,文字情報がランドマークとして有用であることを示した.
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■ A Decoding Procedure with Embedded Heuristic
Rules in Genetic Algorithms and Its Application
to Scheduling of a Metal Mold Assembly Process
Kyoto Inst. of Tech.・Zhao YONG and Nobuo
SANNOMIYA
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In this paper, an improved decoding procedure
with embedded heuristic rules is proposed
to generate better active schedules in applying
genetic algorithms to a scheduling problem
of a metal mold assembly process which is
modeled as a large-scale jobshop with additional
constraints. An experiment result shows
that the proposed algorithm outperforms the
algorithms proposed previously and gives
better suboptimal solutions for real data.
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