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[ショート・ペーパー]
神戸製鋼所・中山万希志,阪大・井口征士
本論では旋回溶融炉や熱分解溶融炉等の,オペレータがプロセスの状態を画像情報により判断し操作アクションを起こすようなプラントを想定し,オペレータの意志伝達や操作ノウハウの共有化支援,あるいは自動制御のための目標画像の生成を目的とし,その第1ステップとして流体,特に液滴の流下現象を表現する動的な形状変化モデルを構築した.本モデルは液滴流下の物理現象をマクロに捉え,楕円体部,くびれ部などの部分的なモデルの合成として構築したもので,そのパラメータのみを変更することにより,たとえば粘性の高く,くびれ部が非常に長い流下状態等,さまざまな形態を表現することが可能である.また本モデルの特徴は,液滴の流下現象をマクロに捉え,液滴が軸対象であることから,1次元の収束計算のない数式ですべて記述しているため,CGを作成するために2次元化して高速に演算すれば十分リアルタイムでビジュアライズすることが可能な点である.本論では最も基本的な物質として水滴を選び,これがガラス管から流下する観測画像を基に,まずある瞬間の液滴変化を表現するモデルを説明し,つぎにこれが時間とともにどのように変化するかのモデルの構築手法について述べた.本手法の妥当性を検証するために液体として牛乳を用い,液滴の流下する現象モデルにより生成される形状をビジュアライズしたものと物理計測画像とを対比したところ,誤差比率が約5%以内に収まっていることを確認した.
九工大・関本勝也,東大・岡部靖憲,九工大・緒方純俊
本研究は,北九州市において隣接した地点で観測された大気環境データの相互関係をKM2O-Langevin方程式論に基づいて解析したものである.この方程式論によれば,異なる2つの時系列信号の間にある因果律を非線型を含めた数式で表現できる.解析の結果,亜硫酸ガス(SO2)濃度の場合は1980年と1986年において強い因果律が見出された.また,2酸化窒素ガス(NOx)濃度についても1986年に同様の強い因果律が見出された.
都立科技大・泉 智紀,児島 晃,石島辰太郎
ハンケル特異値を用いた系の近似法は,保存させる入出力の対応が明確であり,また誤差の見積りが可能になるなど,制御系設計と整合させやすい性質をもつことが知られている.この近似法の有する特徴を積極的に取り入れるためには,系の入出力特性を記述するハンケル特異値が持つ性質をうまく利用する必要がある.
本稿では,状態にむだ時間を含む系に対して,ハンケル作用素に基づいた近似系の計算法を導く.このハンケル作用素は,系の入出力を有限時間区間に制限することで容易に構成することができる.つぎに数値例を求め,近似系の性質を調べる.
京大・田中秀幸,杉江俊治,片山 徹
本論文は2自由度制御系を用いて,目標値応答に対する構造系と制御系の同時設計について考察したものである.まず,目標値応答特性に対するシステムの評価方法を提案した.また,制御対象が固定された場合について具体的な補償器を設計する方法を示した.つぎに,フィードフォワードとフィードバックと制御対象の同時設計についても扱い,同時設計の場合にはフィードフォワード特性とフィードバツク特性が必ずしも独立に設計できないことを指摘した.数値例によって提案する評価方法の妥当性と非独立性を示す曲線を示した.
Univ. of Tokyo・Katsumi KONISHI, Seiichi SHIN
This paper gives a new design method for dynamical modular systems based on LMIs. The whole system consisting of dynamical modules may become unstable by connecting and disconnecting dynamical modules even though each module is stable. Therefore, we should study the stability of the whole system at connecting and disconnecting dynamical modules and investigate whether dynamical modular systems can have fault-tolerance from the viewpoint of stability. In this paper, the stability condition is provided, and it is shown that the whole system has fault-tolerance if the stability condition is satisfied. The design problem of connecting dynamical modules is formulated as a combinatorial problem subject to the stability condition, which can be described by LMIs, and the design method for optimal connections among dynamical modules is proposed.
宇都宮大・足立修一,米谷嘉子,本田技研・佐野 久
逐次最小2乗(RLS: Recursive Least Squares)法は,最もよく知られている適応同定法の1つであるが,観測雑音が統計的な仮定を満たしていない場合,高精度なパラメータ推定が行えない.一方,ディジタル信号処理などの分野では,最小平均2乗(LMS: Least Mean Square)法を利用する場合が多い.LMS法は最小2乗解を近似的に計算する方法として出発したが,近年LMS法はH2最適ではなく,H∞最適であることが明らかにされた.LMS法は,H∞最適性のおかげでロバスト性を有するが,一般にパラメータの収束速度はRLS法と比べると遅いという問題点を有する.
推定値の収束速度の速さと推定アルゴリズムのロバスト性は相反する要求項目であり,両者のトレードオフを図る必要がある.そこで,本論文ではRLS法を正則化法の観点から見直し,正則化を考慮したRLS法はロバストでしかも比較的速いパラメータ収束速度が達成できることを数値例とともに明らかにする.また,本論文ではさまざまな分野で議論されている正則化法をH∞フィルタリングの立場で考察し,正則化法はill-posed問題をwell-posed問題に変換するだけでなく,推定アルゴリズムのロバスト化にも役立っていることを明らかにする.
三菱電機・西馬功泰,東大・木村英紀
システムの持つむだ時間が変動し,かつむだ時間の大きさがリアルタイムで推定できるような対象に対する制御を考える.
目的は,連続時間のむだ時間が変動するシステムに対して,システムの動作状態から推定したむだ時間の大きさに応じてコントローラの切り替えを行うことによってロバスト安定性とL2ゲインで評価した制御性能を達成するゲインスケジューリングコントローラの設計を行うことである.
本稿のアプローチは連続時間時変むだ時間システムを離散時間LPVシステムで近似することに基づいている.
提案した手法の有効性を数値実験によって確認している.
三菱重工・宮元慎一,岩崎 聡,柴田昌明,高田克彦
本論文ではLMIループシェイピング法に基づいた制御系設計法を提案する.McFarlen&Gloverにより提案されたH∞ループシェイピング法は設計の見通しがよく,またその基礎となっている正規既約分解に基づいたロバスト安定化問題は保守性が少ないことが知られている.しかし,制御器の次数が高くなることや,特定の外乱に対する特性を改善することができないなどの問題がある.本論文では周波数重みつきの既約分解表現に基づいたロバスト安定化問題を考え,LMI最適化問題に基づいた解法を示すとともに,H∞-2Block問題へ拡張する.本設計法で取り扱うLMI最適化問題では制御器のパラメータが直接埋め込まれる形になるので指定した構造の制御器を設計したり,複数の仕様が与えられた問題に対しても対応が可能である.有効性を示すためコンクリートポンプ車のブームの制振問題に適用し,シミュレーション結果を示す.
京大・加納 学,神戸大・大野 弘,京大・長谷部伸治,橋本伊織
従来のモデル予測制御アルゴリズムを拡張することにより,ランプ状の外乱および設定値変更に対して偏差の残らない2型制御系を実現するためのアルゴリズムを提案した.具体的には,予測式中にフィルタを導入するとともに,制御区間を超える未来の操作量を一定の速度で変化させるという仮定を用いた.新たに導入した予測フィルタが満たすべき必要十分条件を導出し,最小二乗法を利用した予測フィルタの設計方法を提案した.さらに,制御シミュレーションによって,予測フィルタの次数が制御性能に及ぼす影響を明らかにするとともに,提案したアルゴリズムの有効性を確認した.なお,提案する2型モデル予測制御アルゴリズムは,安定プロセスおよび積分要素を有するプロセスに対して適用可能である.
電総研・町田和雄,戸田義継,富士通研・村瀬有一
宇宙での精密作業に適した新しい三指機構と多重センサを特徴とする高機能ハンドを開発し,人工衛星「ひこぼし」に搭載し,宇宙環境での性能評価を行った.ハンドの各機構およびセンサは,過酷な宇宙環境で設計通りの性能を有することが確かめられた.三指機構,手首コンプライアンス機構およびそれらに集積した圧覚センサ,変位センサは地上と同等,もしくは無重力のためオフセットや外乱のない良好な機能,性能が得られた.レーザー式距離センサおよびハンドアイの画像センサは光学フィルタの採用により周回軌道の日照から日陰に至る幅広い光環境で,所定の性能を示した.画像計測では,画素数の少ない画像や光の照射方向の影響を受ける光学特性を持つ対象では注意が必要なこと,および,ハンドに組み込んだLED照明は日陰での画像計測に有効なことが示された.この多重センサハンドで軌道上精密作業が可能なことを,電気コネクタの着脱を例に示した.また,ハンド機構と多重センサを複合して用いることにより,作業環境計測およびモデル較正にも有効なことを示した.
岡山大・島田行恭,鈴木和彦
本論文ではバッチプロセスの運転支援システム構築を目的としたプロセスモデリング方法をポリ塩化ビニル重合反応プロセスに応用した例を紹介する.プロセスの運転とオペレータの操作の因果関係をペトリネットによりあらかじめモデル化し,システム構築のための情報を整理する.
バッチプロセスの操作手順,プロセス構成要素の挙動とオペレータによる操作の関係,およびプロセス状態変数の3種類のプロセスモデルを作成する.これらの3種類のモデルを組み合わせることにより,オペレータの操作とプラント運転の関係やインターロック機能をモデル化する.また,プロセスモデルにオペレータへの操作指示プレースを追加することで,正常時運転支援システム構築のためのモデルを作成する.さらに,プロセス異常発生時の異常伝播構造をモデル化する.この異常伝播モデルを基に,事故発生時など緊急時にオペレータが行うべき操作を指示するモデルを作成する.モデル化にはペトリネットを用いているため,容易にこのモデルのシミュレーションを行うことができ,運転支援システムの構築に有用な情報を得ることができる.
Kyoto Univ.・Ahmet ONAT,Tokyo Inst. of Tech.・Hajime KITA,Osaka Inst. of Tech.・Yoshikazu NISHIKAWA
Most algorithms for reinforcement learning face difficulty in achieving optimal performance when the state of the environment is not completely known. The authors have proposed a method for overcoming this problem by using recurrent neural networks in a learning agent. In this paper, we discuss the implementation of the proposed method using several types of network architecture and supervised learning algorithms. Further, the internal representation of the environment acquired in the learning agent is examined using a technique of cluster analysis. The results show that the learning agent achieves optimal performance in reinforcement learning tasks by constructing an accurate internal model, despite incomplete perception of the state of the environment.
ニコン・高階知巳,電通大・渡辺成良
複雑系としてのマルチエージェントシステムの振舞いの実験的な分析をするための道具立てとして,従来あまり取り扱われてこなかったエージェントの学習過程を定量化する手法を提案した.本手法は入力情報が行動の曖昧さを減らすのに意思決定がどれだけ貢献しているかを情報論的に表現した意思決定の情報量という概念を用いている.
本手法を多数の自律的学習エージェントから構成される人工株式市場において評価を行い,2つの有効性を確認した.まず,従来は経験的に決めていたエージェントの初期学習期間の決定を定量的に行えることを示し,つぎに,エージェントの意思決定に支配的な要因の分析が情報論的に可能であることを示した.本手法はマルチエージェントシステムの振舞いを実験的に分析する場合に有用な道具になると期待される.
渋谷高・森 與志秀,阪府大・吉岡理文,大松 繁
ニューラルネットワークを構築する際に,大きな問題となるのは,適切なサイズを決定することである.本論文では,ニューラルネットワークの中間層の数を決定する手法を論ずる.
筆者らは,関数を近似するときにKolmogorovの,ε-エントロピーとε-容量をニューラルネットワークに導入することを提案する.そして,中間層に部分的に線形な入出力関数をもつニューラルネットワークでリプシッツ連続な関数を近似するときの,ε-エントロピーとε-容量を実際に計算する.
つぎに,得られたε-エントロピーがユニット数決定に重要なかかわりを持つことを命題の形で提案する.さらに,提案した命題が役に立つことを,誤差逆伝播法によるマルチレイヤーパーセプトロンによる三角関数の近似のシミュレーションによって実証する.
[ショート・ペーパー]
法政大・山本貴弘,花泉 弘
遠隔計測画像を重ね合わせるには,画像間の相対的な位置ずれを記述する座標変換関数を決める問題がつきまとう.この問題を解決するために,与えられた対応点対を頂点とする三角形領域に画像を分割し,位置ずれの大きさを3次元空間に射影したときの曲面を三角形領域で線形近似することによって画像を精度良く重ね合わせる手法を提案してきた.このとき,三角形領域への分割はより正三角形に近い三角形が一意に得られるデローネイ分割手法が最適である.デローネイ三角形分割を得るにはボロノイ・デローネイ分割手法がよく用いられている.しかしながら,この手法によるとボロノイ図作成を経る必要があるため処理速度が低下するという問題が生じた.画像の重ね合わせのアルゴリズムによっては対応点対が動的に増えることもあり,その場合ボロノイ図作成から処理を繰り返さなければならないため処理効率の点でも問題があった.
そこで本研究では,対応点対が動的に増える重ね合わせ処理に応用する観点から,単純な演算によって適応的にデローネイ三角形分割を得る手法を提案する.この手法はデローネイ対角変形と呼ばれる作業を単純な辺の置き換え規則に変換することによって適応的な分割処理を実現している.
計量研・寺尾吉哉,高本正樹
カルマン渦流量計の渦発生体の台座部と周囲の測定管の間に間隙を設けることにより,渦流量計の特性が大幅に向上することを見いだした.この間隙は管内径Dが151mmのとき,幅1mm,最大深さ10mmという微小なものである.まず,間隙を設けた管内径D=102,151,249,390mmの4台の流量計に対して管レイノルズ数が105〜2.3×106の範囲でストローハル数を測定したところ,間隙のない場合はストローハル数がレイノルズ数の関数となるのに対し,間隙を設けた場合はストローハル数が一定となることがわかった.レイノルズ数にかかわらずストローハル数が一定値と見なせると,レイノルズ数算出に必要な測定流体の密度,粘度が不明でも正確に体積流量を測定することができ,流量計として大きな利点となる.さらに,上流(5D〜55D)に立体二重曲がりを配置して,流量測定値に生じる誤差を調べたところ,間隙を設けない場合には1.5%を超える誤差が生じるのに対し,間隙を設けた場合では,誤差が0.4%以下であった.すなわち,間隙を設けることによって上流配管の影響が大幅に低減されることがわかった.これらの結果を利用して,渦流量計による流量測定の精度を大幅に向上することができる.
大分大・松尾孝美,電通大・中野和司
最近われわれは,強正実条件のかわりに1本のRiccati方程式条件を満たす誤差システムにおいて,内部信号の有界性を保証するパラメータ調整則を提案した.しかしながら,これらの論文において,安定性の証明に不備があった.さらに,出力誤差の有界性のみが保証され,漸近安定性がいえなかった.このため本報告では,これらの改善のために,適応制御誤差信号の周波数帯域に制限を加えることにより,以前提案したパラメータ調整則でも全信号の有界性を保証し,かつ出力誤差が漸近的に安定になることを証明する.さらに有限のパワーをもつシステム外乱を伴う誤差システムに対して,誤差が有限のパワーをもつことを保証するRiccati方程式条件を導出する.また,導入されたパラメータ調整則の出力誤差に対する外乱抑制性能をパワーに関する不等式として表わす.最後に,われわれの提案しているRiccati方程式の性質についても言及する.
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