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論文集コーナー


論文集抄録

〈Vol.35 No.1 (1999年1月)〉

論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)

  〃   (会員外)8,820円 (税込み)


一覧


[論  文]

■ 定在波を用いた管長の高精度計測における最適モード選択

山口大・岡本昌幸,田中正吾

 音響センサを用いた管長計測に関し,著者らはこれまで,管内に生じる定在波を線形ダイナミックモデルで表わし,これにカルマンフィルタを適用する管長オンライン学習計測システムを提案した.その際,音圧変動が高周波ほど減衰が速いことを考慮し,定在波の基本モードから第3モードまでの3つの低次モードを使用した.ところが実際の音圧変動には,高次モードの定在波も少なからず含まれていることがわかった.これら高次モードは低次モードに比べ周波数が高いため,実際の音圧と予測値との間の隔たりを大きくでき,そのためこれらを利用することによりさらに高精度な計測が期待できる.

 そこで本論文では,まず最適モードを選択するための規範を(音圧変動に関する)確率距離「ダイバージェンス」の観点から与え,次に(前段階として求めた)低次モードモデルによる管長の計測値とこの規範を結合することにより,具体的な最適モードの選択法を与えた.最後に,こうして得られた最適モードモデルを用い,わずか0.2秒程度の音圧データにより,格段に高精度な管長計測(誤差率0.01〜0.08%)がなされることを示す.


■ 位相ドップラー粒子計測―偏光を利用した位相誤差の低減―

室蘭工大・横井直倫,根津佳永,三品博達

 位相ドップラー法(PDA)はレーザードップラー光学系を利用した微粒子計測法であり,移動粒子の速度と径の同時計測が可能な点が大きな特長である.しかしこの方法には,レーザービームのガウス状強度分布に起因して粒子からの反射光と屈折光が検出器上で干渉し合い,著しい位相変動誤差を生ずる問題があり,応用上の制約となっていた.本論文では,偏光特性の利用により反射光と屈折光を各々分離し単独検出することで,両者の干渉を回避し誤差低減を図る手法の有用性を理論と実験により明らかにする.これは,従来の光学系に単に偏光板を付加するだけで実現され,実用面で非常に優れる.まず,偏光に依存した位相変動特性を幾何光学理論並びに一般化Lorenz-Mie理論に基づく計算機シミュレーションで定量的に評価し,これを基に偏光分離のための最適光学系条件を考察する.次にこの条件を用いて,実際に標準粒子の径を測定する実験を行い,位相変動誤差を有効に低減できることを確認する.


■ 動歩行ロボット用レートジャイロのマルチセンサを用いた特性向上

東北大・江村 超,熊谷正朗,Lei WANG,デンソー・郷古倫央

 歩行ロボット,とくに動的にバランスを取りながら歩行する動歩行ロボットは,自らの姿勢を検出し,転倒しないように制御する必要がある.そのため,動歩行ロボットにとって姿勢センサは重要であり,応答性,安定性,高分解能が求められる.しかし,これら全てを満足できるものは一般に大型で重く,また高価であるため,歩行ロボットの姿勢センサとして使用するのに適するものが見あたらない.また,これらの要求を満たし,比較的小型である音叉型振動ジャイロは線加速度に対する感度が高く,歩行ロボットに使用した場合には着地衝撃の影響を大きく受ける.近年安価に提供されている小型の角柱型圧電振動ジャイロはおおよそ要求を満たし,線加速度の影響はほとんど受けないものの,一部の要求を満足できない.

 以上のことから筆者らは,複数のセンサ信号の特性の優れた信号成分だけをフィルタを用いて合成し,要求を満たす姿勢センサを構築する方法を考案した.さらに,この合成に適した処理法として,減算型フィルタと名付けた,フィルタと減算器からなる方法を考えた.また,この手法を実際に角柱型圧電振動ジャイロの信号の合成に適用し,ゼロドリフトが小さく,応答速度も十分で,かつ線加速度の影響を受けにくいジャイロシステムを構築し,その有効性を確認した.


■ 対象空間と観測信号空間の直積上での凸最適化演算を導入した疎アレイ音響ホログラフィ

佐賀大・寺本顕武,森 徳子,三井造船・上入佐光,高野 宰

 少数かつ疎に配列されたトランスデューサを用いて得られた観測信号より,対象を再構成することは,現実の医療診断や非破壊検査の分野において非常に重要である.本論文は観測信号場が属するベクトル空間(観測信号空間)および対象場が属するベクトル空間(対象空間)の直積上で,先験情報から構成されるすべての凸関数に対して同時に最適化を実施するSchittkowskiのアプローチに基づいた像再構成アルゴリズムを提案している.この直積上での最適化は観測信号空間および対象空間の双方に対して同時に先験情報による拘束を施すため,両空間の間での交互射影過程を除くことができ,最適解近傍での解の発振を回避することができるという特徴を備えている.また先験情報に基づいて観測された信号と矛盾しない範囲で伝達関数の未知の成分を同時に推定することが可能である.

 さらに提案アルゴリズムを5つの受信子からなる疎アレイ音響ホログラフィシステムに導入した結果,同アルゴリズムによって合成開口手法よりも高い分解能が得られ,同じ反復回数後の交互射影に基づく手法よりも不要ピークのレベルの抑圧されることが示された.


■ OTDRを用いたヘテロコア型光ファイバセンサ

創価大・渡辺一弘,松原茂明,久保田 譲

 レーリ散乱を測定する通常のOTDRを用いて,光ファイバ網による広域的構造物損傷モニタリングを行うための新しいセンサとして,ヘテロコア型光ファイバセンサを開発した.本方式では,1.3 μmのシングルモードファイバを低損失伝送路として使用し,伝送路の一部にコア径の異なるファイバを一部融着したヘテロコア部を設けている.試作したヘテロコア型光ファイバセンサには,低損失型センサと高感度型センサの2つのタイプがあり,これらのセンサの曲げ角度に対する損失の依存性を実験的に明らかにし,その動作原理について検討を行った.曲げ角度に対する感度は低損失型センサでは約0.09dB/deg.,高感度型センサでは約3.6dB/deg.が得られた.開発したヘテロコア型光ファイバセンサは,通常のOTDRを用いて光ファイバ網上の複数の観測点における情報を同時に監視できる多観測点型のセンシングに適した要素技術であり,自然環境,ビルなどの建築物,大型航空機,またトンネル,ダム等の大型構造物,セキュリティなどの広範囲な用途に対する構造物損傷モニタリングへの応用,さらに,温度,液体検知センサとしても期待できる.


■ 線遠近法による心理的な単眼立体視要因に対する瞳孔反応

松下電工・福島省吾,森川大輔,京大・吉川榮和

 本稿では,単眼での心理的な奥行き知覚要因となりうる線遠近法により描画した画像を用いて,心理的遠近感によって誘発される瞳孔反応について調べた.その結果,一部の被験者において通常の近見反応と同様に,心理的遠近感に対応した縮瞳もしくは散瞳反応が生じることが判明した.すなわち画像提示位置は同一にもかかわらず心理的に近くにある,という視対象を注視するときは縮瞳し,心理的に遠くにある,という視対象を注視するときは散瞳した.しかしそのような効果がほとんど現れない被験者もおり,心理的遠近感に対する瞳孔反応には個人差があることも明らかとなった.また輻輳角についても,心理的遠近感だけで変動することを示唆する実験結果が得られた.従来研究より輻輳運動にともない瞳孔の大きさも変動することが報告されているが,本実験結果の瞳孔変動量は輻輳運動のみによる瞳孔変動量よりも大きく,心理的要因が寄与しているものと考えられる.心理的効果を測定する尺度としてはアンケートなどの主観報告が中心であったが,本実験結果は奥行き感という心理的効果を他覚的測定により評価できる可能性を示した.今後は画像のもつ臨場感が与える心理的効果の定量評価などへの応用が期待できる.


■ 積分型位置敏感比例計数管と画像検出への応用

法政大・武藤彰英,長谷川賢一

 近年,PL法の施行に伴い,異物検出の分野においてX線画像検出システムの必要性が増している.物体の移動速度が既知である場合や自由落下する物体の画像検出には,必ずしも2次元検出器を用いる必要はなく,1次元位置検出器で対応可能である.本論文では,積分型位置敏感比例計数管(CIPSPC)と名付けた高速X線透過画像検出器の開発結果を示す.全長128mmを320chに分けていて,これを最高1msで読み出す.この検出器は,10keV程度のX線での利用を目的としていて,被検体の密度や厚さによっては,CTなどに使用されている電離箱や半導体検出器よりも,低エネルギー,低強度(数)のX線で,高速の透過画像検出ができる.

 性能評価実験として,自由落下するハサミの画像検出実験を行い,金属部分とプラスチックの部分を区別した2値化画像を得た.また,直径0.3mmのワイヤを検出することができ,X線強度・測定時間によっては,針などの異物を検出できる可能性も示している.

 CIPSPCはガスを検出物質としているので,半導体検出器と違って,専用の製造装置を必要としない.その構造は簡易であり,製作は容易で,そのコストも低い.

 論文では,検出器の飽和特性やその補正法なども記載している.


■ ポテンシャル関数にもとづく倒立振子の非線形制御

名工大・山川聡子,加藤久雄,篠田紀正,舟橋康行

 倒立振子は非線形性を含む制御対象であるため,いろいろな非線形制御法が研究されている.その中で,倒立振子を台車部分と振子部分とからなる直列システムと見なし,2段階に分けて制御則を決定する手法が提案されている.この手法では,台車と振子を分離して考えることにより,非線形な振子部分の取扱いが比較的容易になる.

 本論文では,この手法を一般化するために,振子部分の安定化を線形制御の範囲に限らず,ポテンシャル関数にもとづいた非線形制御まで許すことで台車加速度の仮想目標値のクラスを広げる.このとき,台車加速度の目標値が連続関数になるための条件を示す.この条件を考慮することで,振子が水平になるときにも,制御入力が理論的に有限値となる制御則が構成できる.このことから,より広い範囲の振子角度に対する制御を論ずることが可能となる.また,この手法を用いることにより,振子が水平位置より上側にある場合に,従来法よりも入力量を小さくすることが可能であることを示す.最後に,シミュレーションによって提案する制御則を従来法と比較し,その効果を調べる.


■ 非線形非標準H∞制御問題

奈良先端大・今福 啓,山下 裕,川崎重工・榛葉貴博,北大・島 公脩,奈良先端大・西谷紘一

 本論文では,非線形非標準H∞制御問題が可解であるための十分条件と,解の一つを与えている.非標準H∞制御問題とは,制御入力から評価出力への直達項と,外乱入力から観測出力への直達項がランク条件を満たしていないという問題である.ここでは,Zhou and Khargonekar(1988)やSampei, Mita and Nakamichi(1990)で得られている線形系の結果を非線形系に拡張することで解を求める.具体的には,グラム・シュミットの直交化法を用いて,ランク条件を満たさない直達項を列フルランクな行列と,直達項の基底を構成する行フルランクな行列に分解するという手法を用いている.まず最初に,状態フィードバックによる制御則を示し,次に出力フィードバックによる制御則と,状態観測器のゲインを示す.状態フィードバックによる解は,制御入力から評価出力への直達項と,外乱入力から観測出力への直達項が非零である場合にも適用可能である.また,出力フィードバックによる解は,外乱入力から観測出力への直達項が非零である場合にも適用可能である.


■ インパルスを考慮したインプリシトシステムの安定性解析

神戸大・増淵 泉,北陸先端大・示村悦二郎

 非因果的な逆システムやスイッチング動作を行う動的システムなど,厳密な意味での状態変数をもたない(すなわち状態空間表現をもたない)システムが存在する.これらを取り扱うために,システムの変数xおよびその微分x●の満たす関係式(インプリシトシステム)のみに基づくシステム解析が行われている.本論文では,インプリシトシステムの安定性として,システムの初期値応答:

  Ex●=Ax+Ex0δ

の安定性を考える(E,A{q}{n},δはDiracのデルタ,x0は初期値).安定性は,解xがインパルス成分を含まず,かつ指数的に0に収束することと定義する.この定義は(q=nの)ディスクリプタシステムにおいて用いられてきた安定性である.本論文では,q=nとは限らないより一般的なクラスのシステムについてこの安定性を議論する.

 まず最初に,システムのペンシルのクロネッカ形における安定条件を示す.これに基づき,安定性にたいする必要十分条件をリアプノフ方程式/不等式およびペンシルのある種のランク条件の形で示す.これらの条件により,スイッチングなどによるインパルスをもち得るインプリシトシステムの解析・設計のためのひとつの基礎が与えられる.


■ サンプル値制御系のγ-正実性と位相特性

名大・杉本謙二,鈴木正之

 制御系において正実性は重要な性質の一つであるが,これを拡張したγ-正実性の概念が最近,注目されている.本論文では,このγ-正実性をサンプル値制御系に導入し,その設計法を与える.これは,閉ループ系をCayley変換し,サンプル値H∞制御問題に帰着させることによって達成されるが,その際,リフティングアプローチが本質的な役割を果たす.さらに,γ-正実性と関連して連続時間多入出力系,ならびにサンプル値制御系の位相特性について論じる.


■ H∞予見制御則の構成

都立科技大・児島 晃,石島辰太郎

 制御系の設計において,目標値信号の先見情報が利用できる場合,良好な追従特性をもつ制御系の構成が可能になることが知られている.本研究では,目標値信号の先見情報を観測量に含めた H∞予見制御問題に注目し,無限時間区間におけるFI(Full Information)問題の解法を明らかにした.問題の可解条件(必要十分条件)はRiccati代数方程式の解に基づいて与えられ,適当に定めた行列の正則性と安定性から確認できる.また制御則は,先見情報の有限時間積分を含む構造をしており,記述に必要なパラメータは全て解析的に与えられる.つぎに,H∞予見制御の特徴を数値例を用いて示し,1) 予見時間と達成可能なH∞制御性能,2) 予見時間と得られる閉ループ系の周波数特性,の関係について紹介した.ここで扱った予見FI問題は,H∞予見制御の最も基本的な場合であり,一般の出力フィードバック問題に適用することができる.


■ バックステッピング設計手法を用いた磁気浮上系のロバスト非線形制御

九工大・楊 子江,立石道孝

 磁気浮上系は,吸引力が浮上体―電磁石間のギャップの非線形関数となっている.したがって,近似線形モデルでは,安定化できる範囲が動作点近傍に限定されるので,広範囲な位置制御を行う場合には,システムが不安定になる恐れがある.そのため,システムの物理パラメータ誤差や非線形特性などを考慮した線形または非線形ロバスト制御器がよく用いられている.本研究は,電流帰還型アンプを有する磁気浮上系の非線形モデルにパラメータ変動または誤差がある場合,バックステッピング設計手法を用いたロバスト非線形制御系を提案する.具体的にいえば,まず,モデリング誤差などで生じた速度誤差による位置誤差を除去するために,PI制御を用いた仮想入力を設計する.つぎに,パラメータ誤差によるモデリング誤差に対して,適切な非線形減衰項を設計して速度誤差の安定化をはかり,高性能なロバスト非線形制御系を構築し,そのInput-to-state stable(ISS)特性を理論的に示す.実機実験の結果より,浮上体が広い範囲にわたって,複雑な位置指令値を精度よく追従できることを確認した.


■ 熟練運転員の経験とノウハウに基づくファジィスーパバイザ制御システムの構築と石油精製装置間での水素純度制御への適用

出光興産・谷 哲次,小林隆広,筑波大・宮本定明

 石油精製では,品質向上のために,ガソリン原料,灯油・軽油や重油から,硫黄分を水素を使用して硫化水素の形で脱硫する操作が種々の装置で行われている.これら水素を消費する装置群と水素を製造する装置群とはパイプラインで複雑に結ばれており,同時並行的に脱硫操作を行っている.

 各脱硫装置での水素純度制御は,対象が大規模であり,操作に対する結果の把握に時間遅れがあるなどの理由から,PID制御単独では制御困難であり,熟練運転員の勘や経験に依存していた.そこで本研究では,この熟練運転員の運転方法とPID制御との複合的な活用という考えに基づいて自動化を検討した.開発した制御方法は,熟練運転員が行っていた必要水素量の予測や純度の運転調整を,統計モデルとファジィ制御を組み合わせたスーパバイザに置き換える.そして,このスーパバイザをPID制御の上位に設け,PID制御の制御目標値を適切に変更する方法である.さらに,本制御方法を実プラントに適用してその有効性を実証した.結果をまとめると次のようになる.

 (1)大規模で,時間遅れが大きく,非線形の強い対象を制御できた.

 (2)熟練運転員の運転方法を模倣したが,その熟練運転員のそれを越える制御性能を示した.

 (3)省力化,省エネルギーなど経済的効果だけでなく,環境対策(CO2ガス発生の抑制)にも効果があった.


■ 移動型マニピュレータの安定性と作業性を両立させた協調運動計画

機械技研・Qiang HUANG,谷江和雄,早大・菅野重樹

 これまで,安定性を考慮した移動型マニピュレータの協調運動に関する研究はほとんど見られない.本論文では,安定性維持と作業の両立を考慮した移動型マニピュレータの協調運動の方策として,マニピュレータの要素を考慮したヴィークルの運動計画と,安定性補償を含むマニピュレータの運動計画を組合せた協調運動の計画方法を提案する.

 具体的には,4自由度人間形アームと1自由度身体回転機構を有する冗長マニピュレータ,および非ホロノミックなヴィークルから構成される移動型マニピュレータを対象とする.まず手先の目標軌道に対し,マニピュレータの作業範囲とシステム全体の安定性を考慮した上で,ヴィークルの加速度総和を最小にする動特性の最適問題を非線形計画問題に帰着させ,射影勾配法を用いてヴィークルの運動を導出する.次に,計画されたヴィークルの運動を実行する際に,安定性補償と作業姿勢の両方を考慮したマニピュレータの姿勢変化を導出する.最後に,シミュレーションにより本手法の有効性を示す.


■ Systematic Analysis and Design on Two-Inertia System

Osaka University・Guoguang ZHANG and Junji FURUSHO

  The servo control system driving a load through a flexible shaft or transmission system is widely used in industrial applications. Our purpose is to develop systematic analysis and design methods for two-inertia system. A conventional PI speed control system with a torsional load is redesigned, and the damping characteristic of the system is derived for a variety of inertia ratios. It is shown that the dynamic characteristic of the system strongly depends on the inertia ratio of load to motor. Three kinds of typical pole assignments with identical radius/damping coefficient/real-part are analyzed and compared, and the merits of each pole assignment design are concluded. Furthermore for small inertia ratio, we present how to improve the damping by introducing a feedforward filter or a derivative feedback.


■ 分散と協調に基づく熱延仕上ミル張力・ルーパ制御

川崎製鉄・浅野一哉,山本和宏,市井康雄,野村信彰

 熱延仕上ミルにおける圧延材の張力とルーパ角度の制御は,安定な圧延操業のために重要である.従来,張力とルーパの間の干渉が制御上の問題点とされ,さまざまな多変数制御が適用されてきたが,構造が複雑で現場調整がしにくいものとなっていた.本論文では,この干渉を制御対象の不確かさとみなして構造化特異値を用いて指数化し,適切な入出力の組み合わせを選べば干渉の影響は無視でき,分散制御が適用可能であることを示す.次に,この結果に基づき,張力系とルーパ系との間にまたがる制御要素を廃し,サブシステムの制御系に2自由度IMCを適用した分散制御系を提案する.さらに,ルーパ系にインピーダンス制御を導入し,ルーパを張力変動に対して協調的に動作させることにより,さらなる張力変動抑制を図る.本制御系は,分散制御系であること,およびサブシステムのコントローラをメインコントローラ(PI制御器),IMC,インピーダンス制御の各機能モジュールから構成することにより,従来の多変数制御系では困難であった個別の設計,調整,保守を可能としており,特にオンライン調整が非常に容易であるという特長を持つ.本制御系は,千葉第3熱間圧延工場に適用され,同ミルの安定稼働,品質向上,世界初の熱間連続圧延の実現に大きく寄与している.


■ 産業用多関節ロボットアームのトルク制限を考慮した輪郭制御性能の限界とその実現法

佐賀大・中村政俊,青木重人,後藤 聡,近畿大・久良修郭

 組立,切削,溶接,塗装作業などに利用される産業用ロボットアームに関して,その作業の多様化に伴って,要求される動作に忠実に追従する高速高精度な輪郭制御性能が必要とされている.このような要求を実現する上で問題となるのは,パワーアンプの電流制限やロボットアームのアクチュエータであるモータの仕様などからくるトルク制限や,ロボットアームを構成する各リンクの特性の相違などによる輪郭制御性能の低下である.本論文では,多関節ロボットアームの発生トルク,輪郭制御精度,動作速度の3者の関係を理論的に導き,トルク制限下における輪郭制御性能の限界を明らかにする.さらに,トルク制限を考慮した軌道生成と教示信号修正法に基づく多関節ロボットアームの輪郭制御性能限界の実現法を提案する.提案法は,トルク制限による輪郭制御性能劣化を避けるためにトルク制限にかからない範囲でロボットアームを動作させるものであり,トルク制限が生じない軌道を作業座標系で生成し,関節座標系でロボットアームのダイナミクスの遅れを補償するものである.本方法は,ロボットアームのハードウェア変更を必要としないため産業界で有効に利用でき,この手法を用いることにより,指定された作業精度を満足させ輪郭制御性能の限界を達成することが可能となる.


■ 潜時変動を有する誘発脳電位の非同期加算平均による波形劣化特性と波形復元法

福岡工大・西田茂人,佐賀大・中村政俊,京大・柴崎 浩

 誘発電位波形のSN比向上を図るために,刺激を起点にした加算平均法が広く用いられている.しかし,外部刺激に対する認知や期待など脳の高次機能に関連した電位である事象関連電位(event-related potential: ERP)などは,被検者の刺激に対するなれや心理状態によって刺激ごとに頂点潜時(刺激時刻から電位の波形の頂点に達するまでの時間)が変動する.これらを刺激を起点にして加算平均した場合,誘発電位の頂点に関しては非同期加算平均となるために,加算平均波形は劣化する.

 本研究では,誘発電位の頂点潜時が正規分布に従って変動すると仮定したときの非同期加算平均波形の劣化特性を理論的に求め,それに基づいて劣化波形を補正することによって,原誘発電位波形を復元する方法を提案した.さらに,復元波形の推定精度の理論値を導き,それを用いた原誘発電位波形の区間推定法を提案した.本方法を原誘発電位波形が既知なシミュレーションデータに適用し,復元波形とその推定精度の理論値の妥当性を示した.さらに,頂点潜時の変動が観測された健常成人7名のERPに対して本方法を適用し,良好な結果を得た.


■ 神経回路網ダイナミクスの複雑さの制御法

東北大・本間経康,酒井正夫,阿部健一,東北学院大・竹田 宏

 リカレントニューラルネットワーク(RNN)は,階層型ネットワーク(FNN)に比べパラメータ自由度が高く,優れた表現能力をもちうるが,生物のようなより柔軟な認識機構を実現するためには,従来のRNNで考慮されてないネットワークダイナミクスの複雑さを,生物がカオスを利用した認識機構をもつという実験結果を参考に設定することも重要な一つの方法になりうる.また,RNNに対する学習法は,FNNの学習法を基にしたものが多く,RNNのダイナミクスの複雑さが学習対象の複雑さに近い保証はない.

 本論文では,生物に近い認識機構の実現に応用可能な完全結合型RNNと,写像関数の近似能力に優れるJordan型RNNについて,ダイナミクスの複雑さ(リアプノフ指数)を逐次的に制御する方法を提案する.また,構成ニューロン数の多い完全結合型RNNに対する提案手法の高い計算コストを低減するための近似計算法を示し,その性能についてもあわせて報告する.さらに,Jordan型RNNの学習過程におけるネットワークダイナミクスの複雑さに関して考察し,提案手法と従来の学習法の組合せにより,対象ダイナミクスの複雑さに,より近いモデルが構築できることを示す.


[ショート・ペーパー]

■ GM型冷凍機を用いたネオンの三重点の実現

計量研・櫻井弘久

 ネオンの三重点は,従来,液体ヘリウムを使った低温環境で,気体試料を液化,凝固させて実現されていた.一方,冷却手段としてのクローズドサイクル冷凍機は,低温での特殊技術が不要であり,また,熱流の処理が比較的簡単で,自動化が可能であるなどの特徴を持っている.しかし,機械的振動や温度揺らぎが大きいため,精密な温度測定や温度定点の実現に利用された例は少なかった.ここではクローズドサイクル冷凍機(Gifford-McMahon冷凍機)と密封定点セルを使って,断熱カロリメトリーによりネオンの三重点を精密に実現することを試みたので報告する.

 すでに報告してある平衡水素の三重点の実現と同様の方法で,ネオン定点セルを除振し,冷凍機の温度揺らぎや振動を緩和した.冷凍機内部の温度分布は冷凍能力で決まるため,蒸発に伴ない液面が低下する液体槽に比べ,その変動が小さく,精密な熱平衡状態の実現が可能であった.この結果,白金抵抗温度計を使ってネオンの三重点を実現する際の標準不確かさが0.06mKとなり,従来の液体ヘリウムを使う冷却法に比べて,より精密な測定結果を得た.さらに,冷凍機では測定時間の制約がないため,融解曲線の測定では同位体の空間分布の影響と推定される緩和時間の長い現象が観測された.この現象は液体ヘリウムを使った従来の測定では見過ごされていた.

 冷凍機は操作が簡単で,自動化が可能であることのみならず,精密な三重点の実現や精密な温度測定に適していることがわかった.


■ H∞制御による自動車の自動変速機の過渡応答改善

千葉大・岡島一道,劉 康志,日立・箕輪利通

 近年,自動車の性能を向上させるために,さまざまな電子制御装置が使われている.その目的の一つは,乗り心地の改善である.とくに,オートマチック車では変速するとき,自動変速機の変速ショックが生じ,乗り心地を悪化させている.

 本論文では,フィードバック制御を施すことによって変速ショックを低減することを考える.このために,トルクセンサで出力トルクを検出し,自動変速機の油圧を制御することによって変速ショックを減らす方式を提案する.

 設計においては,油温やスロットル開度の変化にロバストな制御系を構成するため,H∞制御を用いた.実験では,イナーシャ相の変速ショックを大幅に低減できることを確認できた.

 この研究で得られた結果は,新たな設備を導入せずに,既存のものを用いて制御を加えるだけで変速ショックを大幅に改善できることを示した.これによって,変速ショック制御装置の実用化への道が開かれた.


■ 近似逆フィルタを用いた人間の活動量の抽出

金沢大・広林茂樹,山碕雅和,木村春彦,金沢経済大・大薮多可志

 空間制御において,人の活動を認知することは重要な問題である.本論文では,鼻覚情報を用いたモニタリング構築のための基礎研究として,室内空間を線形システムによってモデル化し,可燃性ガスセンサを用いて空間環境変動を解析した.その結果,(a)ガスセンサの観測信号から部屋固有のガス減衰係数が推定されること,(b)ガス伝搬路特性がガス減衰係数のみによって近似できること,(c)推定された空間伝達特性の逆フィルタリングによりセンサ観測信号からガス発生情報信号が求められることがわかった.また,日常生活の変動を測定した実測実験では,被験者によって申告されたガス発生機器の稼働時間に同期したガス発生信号が本提案手法により得られた.これにより可燃性ガスセンサを用いた振舞い認知において見通しを得た.


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