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三菱レーヨン・佐伯正裕,山口大・田中正吾
著者らは先に,ボイラ壁に取り付けた送波器,受波器間の音波伝播時間を測定することにより,CT手法を用いてボイラ内温度分布を計測する手法を報告した.
温度分布を高精度に計測するためには,当然,ボイラ壁間の音波伝播時間を正確に計る必要があるが,これまではパルス波の到達時刻を波形のマッチング法により求めることにより行っていた.したがって,必然的にボイラ内雑音の影響を受けやすかったり,あるいは音響センサの動特性やボイラ内雑音特性の同定を伴うなど音波伝播時間計測システムが複雑になるなどの欠点があった.
そこで,本論文では,この煩わしさをなくすため,入力信号として周波数を何回か変えた正弦波連続音を発信することにより,各周波数ごとに入力信号と定常状態時の受波信号との間の位相差を計測することにより,音波伝播時間を高精度に計測する新たな方式を提案した.
バブコック日立・伊丹哲郎
非線形ハミルトン・ヤコビ方程式を線形理論の枠組みで研究する方法を提案する.このために状態空間内の経路に「線形波動方程式」に従う「重ね合わせ可能な複素数の波」を随伴させる.経路に及ぼす波の作用の強さを表現する新しい制御定数HRを導入し,これをゼロに移行することで最適経路が得られると考える.このために非線形最適制御系を「ディラック括弧式」により拘束力学系として定式化する.その代数構造を満足するようにカノニカル変数に1対1対応する「線形演算子」を定義し,これを使って波の力学を表現する.線形演算子から「ハミルトニアン演算子」を構成し,これにより経路とそれに随伴する波の情報を含む複素数値の「波動関数」の線形波動方程式を設定する.その実数部射影はハミルトン・ヤコビ方程式に波の作用を追加した「一般化されたハミルトン・ヤコビ方程式」となることがわかる.したがって追加項を十分小さく設定することで線形波動方程式の解により非線形最適フィードバックを近似することができる.概念を明確にするため1入力1状態変数の単純な非線形最適制御系を対象としてシミュレーションを行い,線形波動方程式に基づく非線形最適フィードバック制御の妥当性を数値的に確認する.
九工大・黒木秀一,西田 健
複数のモデルを用いる切り替え型適応制御は環境や動作条件などによりパラメタ値が大きく変化するプラントを制御することを目的として研究されている.この制御の安定性はすでにいくつかの研究により解析されているが,非効率モデルの問題はほとんど解析されていない.そこで本研究では複数のモデルの学習と切り替えを行うためのCAN2(Competitive Associative Net 2)と呼ばれるWTA(winner-take-all)型競合ニューラルネットを示し,非効率モデルの問題をネットのエネルギ関数の最小化問題として定式化し,その最小化問題を解くための逐次的な学習アルゴリズムを提案する.まずCAN2-1およびCAN2-2と呼ばれる2種類のCAN2を示す.前者は非線形プラントの力学を区分的線形近似するものであり,後者は時変プラントの力学を適応的に線形モデルとして近似するものである.つぎにCAN2のエネルギ関数とその最小化のための逐次的学習アルゴリズムを示す.さらにこれらを従来の内部モデル予測制御に適用したものをそれぞれAPC1(Adaptive Predictive Controller 1)およびAPC2と呼び,それらの有効性を検討する.計算機シミュレーションの結果,APC1は非凸な非線形プラントの制御,APC2は線形パラメタが時間的に変化する時変プラントの制御に有効であることが示される.
長岡技科大・小林泰秀,阪大・浅井 徹
むだ時間を含む制御系を設計する場合,むだ時間要素を有限次元近似してその近似誤差に対するゲインスケジューリングを行う手法が知られている.しかし,この手法で設計した補償器を実装する際には,近似誤差も実装しなくてはならず,その実装は困難である.これに対して本論文では,むだ時間を含む制御系の設計問題において,むだ時間要素の入力が観測出力として利用可能で,かつ,むだ時間要素の有限次元近似モデルが近似誤差のLFTとして与えられた場合に,むだ時間要素と有限次元システムから構成される実装可能な補償器の設計法を提案している.具体的には,(1)与えられた問題を,近似誤差の出力が観測出力として利用可能であるとした,等価な問題に帰着できることを示し,さらに,(2)導出された等価な問題に対して,近似誤差に対するゲインスケジューリングによって補償器を設計する場合,近似誤差をパラメータとしてもたない補償器が設計可能であることを示している.
阪府大・泉田 啓
本論文では,速度・加速度冗長性利用法という,冗長マニピュレータの動力学制御を提案している.速度・加速度冗長性利用法では,エンドエフェクタの目標軌道を満たすという第1サブタスクと,姿勢に対する評価基準を最適化するという第2サブタスクを,ともに満足する目標関節軌道を計算する.つぎに,得られた目標関節軌道を用い,計算トルク法に基づいて動力学制御を実現する.第2サブタスクは,関節変数の速度と加速度が有する冗長性を利用して達成される.また,提案する速度・加速度冗長性利用法を,分解加速度制御やインピーダンス制御にも拡張する.一般的に使われるコンフィギュレーション制御や加速度冗長性利用法と比較し,速度・加速度冗長性利用法は,他の制御方法の問題点を克服できることを示す.最後に,提案手法の有効性を数値シミュレーションによって示す.
九工大・ウメルジャン サウット,花本剛士,辻 輝生
本論文では,摩擦を含む非線形システムに対して摩擦を不確定な変数として,外乱オブザーバを組み込み,外乱およびスライディングモードオブザーバを用いて,遺伝的アルゴリズムによるシステムの同定が良好に行えることについて述べる.さらに,同定された系に対してスライディングモード制御の適用によりこの非線形システムを良好に制御できることについても述べる.具体的には,フレキシブルアームの制振制御系に対して提案手法を適用する.ここで,フレキシブルアームシステムは駆動モータの回転軸に無視できない摩擦が存在し,アームの角位置制御に大きな影響を与えることが実験により示されたので,この実験システムをモデルとして具体的な同定および制御法について示す.この場合,観測はモータの角位置のみであり,上述のように,外乱およびスライディングモードオブザーバによる推定が良好な実験結果を示し,さらにスライディングモード制御に関しても良好な実験結果を得たので報告する.
東北大・張山昌論,山口文武,亀山充隆
高速な衝突チェックは,知能ロボットが衝突なく作業を遂行するための基本的な処理である.複雑な形状の物体間の衝突チェックを精密に行うためには,その計算量が膨大となる問題がある.本稿では,専用プロセッサ化という観点からこの問題を解決する手法を提案する.座標変換と照合演算の繰り返しに基づく規則的かつ並列性の高いVLSI向きアルゴリズムに基づき,照合演算を並列に行う連想メモリ(CAM)と座標変換演算要素(PE)を,それぞれ複数個用いた並列アーキテクチャを提案する.CAMおよびPEの稼働率が100%の条件下で,最適設計問題は1個のCAMと1個のPEの面積・時間積最小化に帰着されることを見出している.CAMの面積・時間積を最小化するために,ロボットの形状は既知であることに着目し,ロボット表面の離散点の座標情報を固定的にCAMに記憶するアルゴリズムを提案する.これにより,ROMセルを用いた高性能CAMを実現している.PEの面積・時間積最小化のために,PEはゲートレベルでの稼働率を100%にできるパイプライン構成となっている.実際に0.5 μmCMOS設計ルールを用いてプロセッサを試作し,汎用プロセッサと比較して3桁以上の高速化が達成されることを実証している.
京大・深尾隆則,富士ゼロックス・大村亮祐,京大・足立紀彦
Q-learning は強化学習の有名なアルゴリズムの1つである.このアルゴリズムで用いられるQ関数を表現するには,一般的にlook-up table型のQ-tableが用いられるが,事前知識なしにその状態空間の離散化幅を特定するのは難しいことである.そこで,本論文では確率的な状態遷移が少ない環境に限定した上で,エージェントが経験したデータを蓄えることにより,Q-learningにおける状態空間を適応的に分割する方法を提案する.本手法の有効性を経路計画問題に適用してシミュレーションを行うことにより確認する.さらに,explorationとexploitationのトレードオフを解決するパラメータを自動的に設定する方法を提案する.
東北大・酒井正夫,本間経康,阿部健一
リカレントニューラルネットワーク(RNN)を用いて生物のような柔軟な認識機構を実現するためには,動的ダイナミクスの複雑さを考慮することが重要な1つの方法になりうることが指摘されている.RNNの動的ダイナミクスの複雑さを表わす一指標である最大リアプノフ指数は,シナプス結合強度などのRNNの構造により定式化されるものである.これまでにRNNの最大リアプノフ指数を,降下法を基に直接的に制御する方法が提案されているが,RNNの構成ニューロン数が増えると膨大な計算コストを必要とし,また,RNNがカオスダイナミクスをもつ場合は,その不安定性により正しく学習が行えないというBPTT法,RTRL法と同様な問題が指摘されている.本稿では,動的ダイナミクスの複雑さを操作するRNNの構造上のマクロパラメータを導入し,そのマクロパラメータと最大リアプノフ指数の関係を統計的に解析し,両者の近似的定式化によってカオスの不安定性を誘因する微係数の時間発展を必要としない新たな方法を提案する.シミュレーション結果より,この提案法が膨大な計算コストを低減し,RNNがカオスダイナミクスをもつ場合でも精度の高い複雑さ制御が可能であることを示す.
東京電機大・杉木明彦,畠山省四朗,古田勝久
本論文では,カオス生成回路であるChua回路と等価なリレーフィードバック系を提案する.Chua回路はカオス分野において,よく知られたカオスシステムの1つであり,そのカオス特性は理論および実験の両側面から実証されている.本論文においては,Chua回路に双線形変換を適用することでカオス的リレーフィードバック系を導出する.さらに,リレーフィードバック系への変換の利点として,オリジナル回路に比べて,より長いサンプリング周期での離散時間化においてカオス生成が可能となることを示す.さらに,提案するリレーフィードバック変換によって,Chua回路の非線形フィードバック特性をリレー回路を用いて実装可能となることを示す.
三菱電機・吉河章二,西口憲一
月や惑星に無人の探査機を軟着陸させるキー技術の1つに,画像情報を用いた航法誘導制御技術がある.その技術検証には,探査機の高度,姿勢,太陽光の入射方向などを変化させたときの搭載カメラの模擬画像を生成するのに十分な分解能をもったDEMデータが必要である.ところが,探査対象となる天体の粗いDEMデータはあっても,このような高い分解能のデータを入手できない場合が多い.
そこで,実際の観測データに近くしかも高度が低い場合に細部を拡大することが可能なDEMデータの生成方法を提案する.実際の月面データに基づいた粗いDEMデータに欠落している細かな起伏をフラクタルモデリングの手法で復元し,さらにクレータの形状および分布を過去の観測データに合うように決めて追加する.月面のDEMデータに上記手法を適用したところ,適用前に比べて欠落していた細かな起伏やクレータが復元されて観測写真との類似度が高まった.また,同じDEMデータをもとに光造形でジオラマを作成した.ジオラマの写真も観測写真との類似度が高く,計算機内部のモデルを忠実に反映できたと考えられる.
名大・橋爪 進,小野木克明,東邦大・西村義行
半言語はペトリネットの並行的な動作を正しく表現することができる.著者らはこれまでに,仕様として半言語が与えられたとき,それが表わす動作のみを行うような条件/事象ネット(ペトリネットの1つのサブクラス)を構成する問題を定式化し,その可解性および解法に関する考察を行ってきた.その結果,補助事象を追加することなく解となる条件/事象ネットが得られる場合や,仕様が有限個の半語からなる半言語で与えられた場合の実用的な解法を提案してきた.実際の生産システムではある動作を繰り返し行う場合が多い.本論文では,仕様が半語の有限集合の繰り返しで与えられた問題に対する解法を提案する.提案する解法は,まず半語の有限集合が表わす動作のみを行う条件/事象ネットNを作り,つぎに繰り返しのためのサブネットをNに追加することによって仕様を満たす条件/事象ネットを作ろうとするものである.そのためにNが満たすべき条件を明らかにし,それらの条件を満たすようにする方法を提案した.
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