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[論 文]
[ショート・ペーパー]
工技院・上野直広,広大・金子 真
センサ機能を持たないフレキシブルビームの固有振動が外部環境との接触位置の関数になることから,永久磁石と2個の電磁石から構成される加振機構によって触角の振動を励起し,ビームの振動のみを計測して接触位置の同定を行う自己加振型動的能動触角を提案する.加振機構は電磁石を駆動する電流の符号の組合せによって触角を加振する加振機能および電磁的な保持を行う保持機能を発現する.この2つの機能によって対象物に接触した触角は,ビームの振動に対する境界条件が異なる拘束モードと通常モードの2つのモードを持つことができる.拘束モードと通常モードの固有振動数の比較から,単調関数ではない一次モードの固有振動数のみを用いて接触位置を同定することが可能である.加振機構の2つの機能およびそれを利用した接触位置同定法について実験的に検証し,その有効性を確認した.
岐阜・川崎晴久,清水年美
作業により手先の拘束を受けるロボットや閉リンク機構を含むロボットを対象に,多項式イデアルの完備化アルゴリズムを応用したベースパラメータの解析方法を提案し,解析例を示す.閉ループの拘束条件を多変数多項式で表わし,多項式イデアルのグレブナ基底をブフバーガ・アルゴリズムで評価し,グレブナ基底をもとにロボット動的モデルのregressorをリダクションし,ベースパラメータを求める.regressorの列ベクトルの独立性とベースパラメータの可同定性の関係,regressorの列ベクトルが独立でないときの計算効率用のよいパラメータ編成法,ブフバーガアルゴリズムを分割して適用できる条件等を明らかにしている.本方法は,閉ループの拘束条件から仮想的な木構造リンク機構の関節変数をロボットの一般化座標の関数として陽に求める必要がなく,任意の閉リンク機構を体系的に解析することが可能である.手先の作業拘束を受ける3自由度ロボットと閉リンク機構を有する6自由度ロボットの解析例を示す.
京大・平田健太郎,山本 裕,Allen TANNENBAUM,片山 徹
安定な無限次元プラントのH∞問題に対するskew Toeplitzアプローチについては,他の標準的な解法との関係や状態空間を用いた解の表現方法などが明らかになっている.ロバスト制御の観点から不安定系への理論の拡張は不可欠であるが,不安定プラントのH∞問題に対するskew Toeplitz解法は離散時間の場合についての結果がO¨zbayらによって報告されているものの,表記が繁雑でかつ冗長な条件を含んでいる.後のFoiasらによる成書で必要十分な形での解の記述が試みられているが,計算の指針を与えるにとどまり,最終的に陽な形での解法を与えるには至っていない.本論文では連続時間の場合に対して,特異値方程式のパラメータ表現を用いることによって,この問題の完全かつ簡潔な解法を導く.
山形大・大久保重範
従来非線形レギュレータは無限級数展開による近似的な方法によって設計されていた.本論文ではべき状態ベクトルを使うことによって有限次の多項式フィードバックにより厳密に設計することが可能であることを示す.線形系のリカッチ方程式に対応するものは長方行列を解に持つような2次行列方程式になり,これを拡張リカッチ方程式とよぶ.拡張リカッチ方程式を要素ごとに分解すれば変数の個数より方程式の個数が多いため評価関数の荷重行列を任意に与えたのでは一般に解が存在しない.本論文では解行列を数値的に与え,荷重行列が正定になるように解行列を探索する方法をとる.探索法にはエリート選択を取り入れた遺伝的アルゴリズムをつかう.荷重行列の主座小行列式の最小値を適応度関数にとり,一定の回数の探索の後,適応度関数が正であれば大域的に安定な非線形レギュレータが設計されたことになる.制御対象が(2N-1)の次の多項式からなる非線形系に対して,(2N-1)次のべき状態フィードバックとして構成され,N次のべき状態ベクトルの2次形式からなるリアプノフ関数が存在する.数値例では比較的容易に正定になる解が見つかり,本方法が非線形レギュレータの設計に有効であることを示す.
香川県工業技術センター・高原茂幸,筑波大・宮本定明
本稿では,1枚のシートを有効に利用するために,複数の矩形部品を最適に配置する問題について考える.ここでの目的は,シートの余材を最も少なくすることである.この問題はネスティング問題と呼ばれ,裁断や板金加工などさまざまな産業工程に現れる.しかし,NP困難な問題である.そこでこの問題を,部品の配置順序の最適化の問題と,その順序を用いて部品を配置していくためのアルゴリズムの問題の2つの問題に分けて考える.それらの中で,後者の問題に対して,稜線法と呼ばれる新しいグリーディアルゴリズムを提案する.また,部品の配置順序がこの手法に与える影響は非常に大きい.そこで,前者の問題に対して,メタ戦略(局所探索,シミュレーテッド・アニーリング,タブー探索,遺伝アルゴリズム)の適用を考える.また,遺伝アルゴリズムの場合には2つのオプションを用いている.そして,これらメタ戦略にランダム法を加えて,それぞれシミュレーションを行い,比較を行った.その結果,シミュレーテッド・アニーリングが他のメタ戦略よりも有効であることがわかった.
シオン短期大・有澤正樹,大阪工大・和多田淳三
階層型ニューラルネットワークの学習には,学習に先だってネットワークの構造を決定する必要がある.また,ネットワークの構造は入出力間の写像の再現能力や汎化能力といった基本的な能力に大きな影響を与える.しかしながら,実際にはネットワークの構造の決定は,試行錯誤やネットワークの設計者の経験によって決定さられることが多い.
本論文では,大きめのネットワークから学習を開始し,ファジィ推論による冗長リンクの削減と,ユニットの貢献度によるユニットの削減を行う,ネットワークの構造学習アルゴリズムを提案する.提案するアルゴリズムは事前に厳密なネットワーク構造の決定が必要でなく,学習過程で不要ユニットおよびリンクを削減することにより,ネットワークのコンパクト化および入出力間の構造出現を可能にしている.さらに,これまで構造学習のためのコストとして許容れてきた学習回数の増加を抑制し,十分な平均2乗誤差の減少を可能にしている.
NTTデータ通信・喜多川 健,東北大・本間経康,阿部健一
リカレントニューラルネットワーク(RNN)は,ニューロン数が等しい階層型ネットワークに比べシナプス結合の総数が多く自由度が高いため,優れた表現能力をもち,複雑なダイナミクスの同定問題などへの応用が期待されている.しかし,一般に冗長な自由度は計算コスト,収束速度および汎化などの点で学習に悪影響を及ぼすことが知られており,従来の学習法では,自由度に対する何らかの制限条件を必要とする場合も多い.
著者らは,RNNの結合重みなどを基にした新たなマクロ的なパラメータを導入し,ネットワークダイナミクスを詳しく解析した.本論文では,離散値の複雑適応系などで報告されているカオスの辺縁でのダイナミクスが,連続値系であるRNNにおいては,表現能力を損なわない,冗長な自由度に対する新たな制限条件となることを明らかにし,これを利用した学習手法を提案する.結合構造をあらかじめ制限するなどの従来の静的な条件に対し,提案する制限条件は,学習目標である誤差減少のためのパラメータ変更との双方向の相互作用をもつことより,これによる学習は創発的な動的過程をとり,汎化も含めた収束速度の改善に有効であることをシミュレーション結果より確認した.
機械技研・堀内英一
ロボットを新規の作業に導入する際にはスキルの発見,すなわち目標作業を成功に導くような知識の発見が必要である.本報告が提案する一般的な枠組みは,人間のオペレータによるロボット作業のスキル発見を支援するシステムである(提案手法は計算機でできない部分を人間のオペレータが補う).現在の枠組みにおける人間の役割を減じることにより,スキル発見の完全自動化に向けた1つの見通しが与えられる.
われわれはスキルを,センサ情報と時間変数から制御情報を生成する関数と定義し,スキルは運動学,静力学に加えて動力学を含むことになる.スキル関数は多項式近似され,スキル発見は単項式の係数の最適な組合せを探索する問題に帰着される.遺伝的アルゴリズムが,任意の問題に適用できる,局所解に対して頑健であるという理由で,この探索問題に適用される.現在の枠組みが人間の専門家に依存するのは探索効率化の戦略であり,部分問題への分割やGAのためのより良い適応度の設計がこれにあたる.ロボットが獲得した行動からその行動を実現する基本メカニズムを陽に抽出する課題を,スキル理解と呼ぶ.われわれの枠組みでは,多項式で表現されたスキルを単項式に分解してどの項が制御情報において支配的になるかを解析することで,このスキル理解を可能としている.提案手法の有効性を検証するため,ロボットに空間の飛球をキャッチさせるビジュアルサーボ問題,非ホロノミック拘束をもつ機械システムの開ループ制御を見つける問題,の2つの事例について調べる.前者ではスキル理解の実際の進め方を例示し,後者では非ホロノミック拘束に対する1つの統一的なアプローチを示す.
上智大・申 鉄龍,田村捷利
不確かさがゲイン有界な摂動関数として表現される場合,非線形系のロバストH∞準最適性は,摂動関数を含むHamilton-Jacobi不等式の正定解の存在性によって保障されるが,不確かな摂動関数を含んでいるためにその解を求めることは不可能である.そこでそのような正定解が存在するための十分条件は適当なスケーリング関数をもつHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつことが示されていたが,この論文ではその必要性が示された.すなわち,摂動関数を含むHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつための必要十分条件は適当なスケーリング関数が存在して摂動関数をもたないHamilton-Jacobi不等式が正定解をもつことである.この結果は線形系のロバストH∞準最適性に関連するRiccati不等式に関する結果も含んでいる.
徳島文理大・森本滋郎,山本由和,小林郁典,古本奈奈代,田渕敏明
回帰型線形システムyt=χtTθt+etの未知パラメータベクトルθtを追跡するための適応アルゴリズム性能は,適応ゲインktの調整と密接な関係がある.このゲイン調整を行う一般的な方法は,ゲイン調整用パラメータをqとするとき,ytの予測誤差εt(q)の2乗平均C1(q)=E{εt2(q)}を最小にするようにqを選定することであり,dV1(q)/dq=Oが数値的に解かれる.このときに問題になるのがV1(q)は極値ではなく,最小値に達するかどうか,ということである.
本論文は,実行可能で,しかもV1(q)が漸近的に最小になる意味で最適な適応アルゴリズムを提案するものである.それは,dV1(q)/dq=Oを数値的に解くのではなく,あらかじめゲインkt-1(q)によって最小化がなされている量rt(q)を用いて,E{εt2(q)}=定数×E{rt(q)}となるようにqが設定されている.このようなqは,次式を最小化することによって得られる.
V(α)=E{εt2(q)σ2rt(q)+logσrt(q)},α=[qTσ2]T
このとき,V1(q)も漸近的に最小になり,この意味で,適応アルゴリズムは漸近的に最適になることが示される.
早大・佐々木清吾,内田健康
われわれは先に,入力アフィン多項式非線形システムの内部安定性とL2ゲインを解析するための新しいアプローチを提案した.そこでは,拡張2次形式リアプノフ関数を用いて,状態に依存する線形行列不等式の形式で可解条件を導き,状態の許容領域を凸包で囲みその端点で条件を解くことによって,その条件を厳密に解くことを可能とした.
本論文で,このアプローチを内部安定性と拡張2次形式評価関数の有界性を保証する状態フィードバック制御の設計に適用し,その可能性をらかにする.拡張2次形式リアプノフ関数を用いて制御則の構成条件を導出する.この条件は状態依存双線形行列方程式を含むため,先のアプローチを適用することができない.そこで,つぎに,この構成条件を状態依存線形行列不等式のみに変換する可能性を検討し,先のアプローチがそのまま使える1つの十分条件を与える.最後に,数値例を用いて,先に提案したアプローチが状態フィードバック制御の設計にも有効であることを示す.
阪府大・李 徳宇・柴田 浩,藤中 透
システムのASPR(Almost Strictly Positive Real)性はSAC(Simplified Adaptive Control:簡易型適応制御)の漸近安定性を保証する重要な条件である.しかし,ASPR条件は現実のシステムにとって非常に厳しい制限であり,これを緩和するために,プラントに並列にフィードフォワード補償要素を挿入してASPR化をはかる方法がある.それは,定数出力フィードバックにより安定化可能なプラントに対してはその定数ゲインの逆行列,定数出力フィードバックにより安定化不可能なプラントに対してはプラントを安定化する補償器の逆システムをフィードフォワード補償要素として用いるものある.
本論文は定数出力フィードバックにより安定化不可能なプラントを扱い,これをASPR化する方法を提案する.これは,ダイナミクスをもつフィードフォワード補償要素を用いる従来法に対して,プラントと補償要素との合成系を定数出力フィードバックにより安定化可能にし,この定数ゲインの逆行列をASPR化のためのフィードフォワード補償要素として用いるものである.こうすることにより,補償要素はフィードバック補償,並列補償,直列補償という3つのうちのいずれによっても実現可能となる.