論 文 集 (定 価)(本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員)6,300円 (税込み)
〃 (会員外)8,820円 (税込み)
慶応大・植野彰規,笠原俊和,高瀬守一朗,南谷晴之
近年,眼球運動と精神的活動との関連性が指摘され,さまざまな研究が行われている.しかし,精神的活動を定量的にとらえることは難しく,データの客観性に欠けているという点も否めない.そこで,本論文では精神的活動の1つの尺度として覚醒水準に着目し,覚醒水準がサッケードと呼ばれる高速眼球運動に及ぼす影響について,定量的に評価することを目的とした.
本論文では,覚醒水準を評価するためのパラメータを脳波の周波数解析から抽出した.8名の被験者に対して,2種類の実験条件下でサッケード発生時の脳波を計測した結果,図形弁別課題を負荷した条件下の方が覚醒水準が高く,このとき,サッケードの潜時,誤差,継続時間,最高速度のパラメータも変化していたことが確認された.
これより,図形弁別課題負荷にともなう覚醒水準の上昇とサッケードパラメータ変化の関連性が定量的に示された.また,本論文で用いた覚醒水準評価パラメータの有効性が示された.
計量研・白柳裕子,新井 優,櫻井弘久
室温付近はユーザも多く,高い測定精度が要求される.温度測定は1990年国際温度目盛(ITS-90)に基づいていることが必要であるが,実際の温度測定現場で,これを実現することは困難なことが多い.そこで,ITS-90の定義定点以外にいくつかの二次基準点を設け,簡単に温度計の校正ができれば有意義である.
本研究では二次基準点候補であるジフェニルエーテル(融解温度約26.8℃)について三重点セルを製作した.セルは小型パイレックスガラスセルであり,数種類の精製方法で製作したジフェニルエーテルを真空封入したものである.
真空蒸留と帯融精製を併用する精製方法は有効であり,いずれのセルも推定純度99.998%以上,融解曲線は1.5mK以内の再現性を示した.融解曲線の形は凝固温度に依存することが示された.製作したセルのうち,代表的なものについて三重点温度値の推定を行ったところ26.8633(0.001)℃であった.
秋田大・平元和彦,土岐 仁,大日方五郎
本論文では,複数のプラントを単独のコントローラで安定化する同時安定化問題において,それぞれのプラントとコントローラから構成される閉ループ系の感度やロバスト安定性などの特性を最適化する設計法を提案する.
安定化コントローラのすべてのクラスのパラメトリゼイションの双対の概念に基づき,あるコントローラで安定化可能なプラントのクラスが安定プロパな伝達関数行列をフリーパラメータとして特徴付けられることを示す.
このパラメトリゼイションに基づき,コントローラ,プラント双方のフリーパラメータによって構成される新しい設計パラメータを考えることによって,上記問題が設計パラメータに関してaffineな拘束条件付きのモデルマッチング問題として定式化できることを示す.
さらにこの拘束条件付きのモデルマッチング問題が,初期値に依存せずに大域的な最適解が得られる凸最適化問題に帰着できることを示し,閉ループ凸な複数の設計仕様を満たす同時安定化コントローラが,凸最適化の手法を用いた数値的解法によって求められることを設計例とあわせて示す.
京大・中西弘明,幸田武久,井上絋一
本論文では,階層型ニューラルネットワークによる最適フィードバック制御系の構成方法を提案する.誤差逆伝播法が適用できないので,学習法として勾配法とPowellの共役方向法に基づく新しい方法を示す.2つの学習方法は,従来の方法では不可能であった非線形制御対象や二次形式以外の評価関数に対しても,最適フィードバック制御系を構成できる.特に方向法は勾配法を適用できない微分不可能な評価関数にも適用できる.また,ニューラルネットワークの入出力関係式が最適フィードバック制御器に適するような各層での活性化の式を導く.最適レギュレータ問題や最短時間制御問題への適用例により,提案方法の有効性を示す.特に,最短時間制御問題では方向法による学習が有効であることを示す.
八戸工大・小松崎年雄
本論文では,2次の伝達関数で与えられた制御対象に対し,ファジィ理論を応用したフィードバックシステムの設計方法について述べた.すなわち,偏位とその時間的変化量を軸とする設計平面を極座標を用いて設計仕様に応じてファジィ分割し,次にファジィ分割された各領域で設計仕様を満たす特性根を与えるゲインを指定し,さらにファジィ推論を用いて各領域のゲインより全体のゲインを構成する方法である.特に,速応性領域と減衰領域に配置する特性根として,その減衰係数ζをバターワースパターンより選んだものとζ=0.2,1.5としたシステムについて,立ち上がり時間および行き過ぎ量の割合をシミュレーションにより求めた.また,このシミュレーション結果を用いて,与えられた仕様を満たすシステムの設計法について述べた.さらに,上のゲイン変化法で仕様を満たすシステムが設計できない場合は,ファジィ補償器を挿入して設計する方法について述べた.この方法は,はじめにゲイン変化法で仕様をみたすモデルを求め,次にこのモデルの特性根を参考にファジィ補償器のパラメータを決定する方法である.
豊橋技科大・徐 粒,山田 実,斉藤制海
多くの実際のnD(多次元)システムでは,その独立変数のうち,1つのみが無限となることができ,ほかは有限区間に制限されているという特徴がある.このような特徴を考慮して,AgathoklisらはnDシステムに対してPractical-BIBO安定性の概念を提案した.最近著者らは,nDシステムに関するPractical漸近安定の定義も与え,その必要十分条件を明らかにした.また,このようなPractical安定性の概念に基づき,nDシステムのフィードバック安定化問題を代数法と状態空間法の両面から考察し,それぞれの解法を提案した.
本論文では,これらの結果を用いて,n個の独立変数のうちある1つが無限になるとき,ほかはすべて有限であるというPracticalな条件のもとで,nDシステムのトラッキング問題を考える.まず,Practical安定な有理関数環上のskew prime性を定義し,skew prime方程式の可解条件と解法を示す.この結果に基づいてPracticalトラッキング問題を定式化し,その可解条件と解法を明らかにする.得られた方法は,学習制御系やmultipassプロセスのような反復システムの解析・設計の統一的な手法として適用可能である.特に本論文では学習制御系への応用を考察し,例題によりその有効性を示す.
阪大・藤岡久也,田寺明生
本論文は,伝達関数が対称な連続時間制御対象のディジタル制御について考察する.まず連続時間制御対象の対称性は,サンプラおよびホールドがともに対角かつ対角要素がすべて等しい場合に限り,保存されることを示す.つぎに,サンプル点上の性能のみを考慮した離散時間H∞制御問題において,対称な離散時間一般化プラントが与えられた場合,解くべき2本のRiccati方程式が等価になること,伝達関数が対称なH∞補償器が存在することを示す.最後に,サンプル点間の性能を考慮したサンプル値H∞制御問題において,対称な連続時間一般化プラントが与えられた場合,サンプラとして積分サンプラを用いれば,解くべき2本のRiccati方程式が等価になること,伝達関数が対称なサンプル値H∞補償器が存在することを示す.
名工大・伊藤宏隆,南里孝行
シーケンス制御システムの高信頼化のために,これからの故障診断においては,単に故障箇所の発見のみならず,いかにして故障箇所の影響を他の箇所に影響させずに,システムの運転を継続させるか,すなわち,一種のフォールト・トレランスが重要になる.従って,著者は運転継続という観点からのフォールト・トレランスも考えた故障診断法を開発した.
本論文ではまず,この故障診断法について論じている.システムの制御及びシミュレーションをペトリネットで行い,制御プログラムへの入力はシミュレーションモデルからの入力(内部入力)と実システムからの入力(外部入力)の2つを用いる.この2つを比較することで,故障診断を行う.これにより,故障機器からの入力は他の機器へ波及しない,故障箇所によってはシステムの運転を継続できる,などの特長を有する.さらに本論文では,ペトリネットによる故障検出とフォールト・トレランスの実現方法について論じている.
そして,例として,棟間台車システムの故障診断シミュレーションを行い,本方法の有用性を確認している.
筑波大・大音光博,安信誠二
建設現場等で活躍するクレーン車等は,ブームの一端を中心に旋回運動を行うことにより荷物を所定の位置まで運搬する荷役機械である.このような旋回クレーンにおいては,所定位置までの運搬時間短縮が重要な課題の1つである.このクレーンでは,ブームが旋回運動を行うことから,ロープ支点は円弧状の軌跡を描くため,吊り荷の揺れは,遠心力の影響を考慮した円錐振子としてモデリングする必要がある.このように吊り荷の振れが二次元的な振れである円錐振子であることから,残留振れの抑制は困難であった,そのため,旋回クレーンの制御では熟練操縦者の技術に頼る度合いが大きく,非熟練者でも簡単に扱えるシステムが望まれている.
そこで,本論文では,熟練操縦者が旋回動作のみによって,残留振れを抑えた上手い制御を行っていることにに注目して,その制御戦略を解析し,残留振れが円錐振子の形態をとる旋回クレーンの特性を充分考慮することによって,旋回動作のみにより,精度よく停止し,残留振れを抑制できる制御方式を構築した.更に,計算機シミュレーションと模型実験により,残留振れの少ない制御を実現することができ,本制御方式の有効性を実証した.
Kyushu Univ.・M.Ohbayashi, K.Hirasawa,R.Wu and N.Shao
Universal Learning Network (ULN) which can be used to model and control the large-scale complicated systems in the network framework has been presented. In this paper, a method to construct the fuzzy model with a multi-dimension input membership function using ULN is presented. The fuzzy model under the framework of ULN is called Universal Learning Network-based Fuzzy Inference System (ULNFIS), which possesses certain advantages over other networks such as neural networks. It is also introduced how to imitate a real system with ULN and how to construct a control scheme using ULNFIS. ULN allows any differentiable non-linear functions as node functions. And simulations are carried out in order to compare the performance of the fuzzy control the generalization capability than the neural network control.
日立・前川景示,阪府立大・森 直樹,神戸大・玉置 久,東工大・喜多 一,阪工大・西川●一
遺伝アルゴリズム(GA)は適用範囲の広い最適化手法として注目を集めているが,同手法を効果的に適用するためにはつぎの2つの点を考慮しなければならない.1つは解の表現と交叉,突然変異などの演算子によってもたらされる「適応度の景観」の設計であり,もう1つは選択演算子による収束の制御である.従来のGAでは適切な淘汰圧が交叉演算子に依存するなど,両者の相互依存性が強く,そのため,効率の良い探索を行うGAの構成を決定するのに試行錯誤を伴う多くの労力を必要とする.そこで,本論文ではGAの選択ルールに熱力学的なエントロピーと温度の概念を取り入れ,集団の多様性の維持を明示的に行うことができる手法として森らによって提案された熱力学的遺伝アルゴリズム(TDGA)に注目し,これの巡回セールスマン問題(TSP)への適用手法と,適応的なTDGAの温度のアニーリングスケジュールを提案する.TDGAと単純GAをいくつかの交叉を用いた場合について比較する実験により,TDGAでは適応度の景観にあまり依存せずに収束の制御が行えることを示す.さらにGAとTSPの逐次改善法の一種である2-opt法を組み合わせたハイブリッドアルゴリズムにおいてもTDGAによる収束の制御により高い探索性能が得られることを示す.
山武ハネウエル・筒井宏明,黒崎 淳,佐藤友彦
従来,システムの履歴データを用いた同定手法には,物理モデル,ブラックボックスモデルといわれる手法がある.しかし,物理モデルは対象の詳細な仕組みが分からないと一般には良好なモデル化が行えない.また,ブラックボックスモデルは,学習データ全ての情報を少数のモデルパラメータに変換してしまうため,推定する新たな入力に対する推定値の信頼性を保証することができない.
本論文では,これら従来手法が持つ問題点を解決するために,事例ベース推論の枠組みを利用し,履歴データの情報から容易に新たな入力に対し出力推定が行え,かつモデルの完成度と未学習データへの信頼性が示せる新たなモデリング手法であるTCBM(Topological Case Based Modeling)を提案する.TCBMは,出力の許容誤差を指定することで事例ベースを作成し,入力空間における近さを判定するための類似度の定義を行う.これにより,出力推定時では推定を行う入力値と類似した事例が事例ベースに存在するかどうかを類似度を用いて評価できるため,推定された出力値の信頼性を評価することができる.
最後に,実システムのデータを使用したモデリング例を用いて,本手法の有効性を示す.
岩手大・恒川佳隆,千葉晃司,三浦 守
本論文では,われわれがこれまでに提案した分散演算を適用したVLSIアーキテクチャに基づく状態空間ディジタルフィルタ用VLSIプロセッサを設計し,その性能評価を行った.状態空間ディジタルフィルタにおいては量子化誤差に対して最適合成が可能となるため,実現の際には必要語長を他の構造に対して最小化できる.すなわち,計算時間が語長のみに依存する分散演算を用いた本実現法では,高次および多入力多出力の場合でも,従来得ることのできなかった処理時間と滞在時間の最小化が可能となる.
VLSI評価の結果,フィルタの次数16,入出力数1,語長14ビットの状態空間ディジタルフィルタを1チップ実現した場合,非常に高次なフィルタにもかかわらずサンプリング周波数1.67MHz(0.8 μmCMOSスタンダードセル)の高速処理が実現可能となることが明らかとなった.また,センサ信号処理やロボット制御などでのフィードバック制御系で使用する場合に問題となる滞在時間も600nsと非常に減少させることができた.さらに,次数および入出力の増加に対する性能評価を行った結果,他の実現法では処理速度が大きく低下してしまうのに対して,本実現法では約1.6MHzとほぼ一定になることが明らかとなった.
慶応大・藤村香央理,長谷川為春,小沢慎治
移動物体を抽出する際,移動物体のない画像(背景画像)を蓄えておき,観測画像と比較するということがよく行われるが,屋外シーンにおいては天候や照明条件が時々刻々と変化するため,背景画像を随時更新する必要がある.また背景画像との差分をとった画像は,朝夕の時間帯においては移動物体は長い影を伴うため誤認識の原因となることが報告されている.
そこで本研究では駐車場画像を対象とし,観測画像と背景画像の差分をとるだけで認識対象の車両本体のみを抽出できるような背景画像を生成,更新していく手法を提案する.このような背景画像を生成するために,ここでは静止物体領域のみで構成され,移動物体領域は背後にある静止物体で置き換えられた画像(画像1)と移動物体領域のうち認識の対象外の部分を抽出した画像(画像2)の2枚の画像を用意する.これらを合成した画像を背景画像として用いることにより,観測画像と背景画像との差分は対象物体のみとなる.
実際には,画像1ではあるフレーム数以上同じ明度を保った画素の明度を画像の明度とすることにより,静止物体領域の明度をとらえることができる.画像2では影領域を領域探索により抽出し,抽出領域の形状の変化や消失にもロバストな抽出を可能とした.
また本手法の有効性を確認するため,駐車場の実画像に本手法を適用し,追跡プログラムへ本背景画像による車両抽出結果を入力することにより,本手法の有効性を確認した.
近畿大・太田光雄,西村公伸広島県西部工業技術センター・吉野信行
暗騒音混在下での稼動機械から発生する騒音を,振動計測を基に抽出できる新たな確率的一評価法を提案する.振動−音変換機構の物理メカニズムに基づく理論解析よりはむしろ,揺らぎの機能面を重視し,まず振動・音間に潜在する低次・高次の各種相関関係の階層的情報を活用した非線形回帰型のシステムモデルを見出す.ついで,この確率モデルをもとに関連した振動情報から対象の騒音変動分布を暗騒音混入下で予測する.さらに,非定常なジグソー騒音の評価を一例にとり,本手法を適用した原理的一実験により有効性の一端を検証している.
東洋大・古川 徹,井内 徹
放射測温において,放射率変化は深刻な温度誤差を引き起こすため,この問題を克服するための放射測温計の研究・開発が多く行われてきた.我々は特に金属の酸化に伴なう放射率変化を詳細に調査するために放射率の精密測定装置を開発した.本装置は試験放射率の分光,角度,偏光特性を測定できるが,特に金属の酸化膜成長に伴う放射率変化を真空状態,一定量の空気注入状態,還元ガス注入状態など,さまざまな条件下で定量的に測定できることに特徴がある.酸化還元に伴う方向放射率および偏光放射率変化の新しい知見を測定例として報告する.
佐賀大・中村政俊,冷水大作,中村光児安川電機・久良修郭
産業界におけるメカトロサーボ機器では,複数のサーボ系の高速高精度な位置同期が要求されている.本稿は,メカトロサーボ系の2つの軸に関して,従軸の補償を行いつつ主軸の位置に従軸の位置を同期させる主軸位置同期法を提案する.本方法はメカトロサーボ系を2次モデルで表現して従軸の補償を図る.2次モデルを用いる本提案法は,先に筆者らの一部が提案した1次モデルを用いた方法の拡張になっており,メカトロサーボ系の高速動作時により有用性を発揮する.本方法によってメカトロサーボ系の各軸の特性のばらつきや外乱印加時においても常に各軸の位置同期が図られて,高精度の輪郭制御,協調制御が図れる.本方法におけるモデル化誤差と位置同期誤差との関係を明らかにし,ロバスト性を示した.本方法はメカトロサーボ系の現状のハードウェアの変更を有することなく,位置ループの計算制御のソフトウェアの変更だけで実行できるので,産業界に受け入れやすく有用な方法である.
法政大・高橋朋一,長坂建二
自己相似性を持つ図形は,通常フラクタル構造を持つといわれ,その特性量であるフラクタル次元の推定方法に対しては,様々な方法が提案されている.フラクタル次元の1つであるハウスドルフ次元は,図形をおおう被覆から計算されているため,フラクタル次元の推定に際しても,対象図形をおおう被覆から求めるのは極めて自然な発想であり,粗視化の度合いを変える方法として,広く適用されている.この方法は,地図のようにスケールがはっきりしている場合には適切と考えられる.しかし,フラクタル構造を持つと思われる時系列データであっても,時間軸のスケールおよびデータのスケールを変えることによって,全く違った図形になってしまうことがある.つまり,時系列データに対してフラクタル次元を推定する方法として,粗視化の度合いを変える方法は不適切ということになる.
本研究では,時系列データのフラクタル次元を推定するにあたり,移動平均値の中心化法という新たな推定法を提案した.この方法が,フラクタル次元を推定することができるか否かを確認するためにM−系列を加工したランダムな時系列データに対して適用したところ,我々が提案した方法がBurlaga
and Klein の方法やHiguchiの方法よりもわずかではあるがよい結果を得ることができた.さらに,株価の変動曲線に対して我々が新たに提案した方法でフラクタル次元の推定を行い,適用可能であることを確認した.