2008年425日講演概要記録

筑波技術大学*1 山脇博紀(やまわき ひろき)氏 

産業技術学部 総合デザイン学科 准教授

 

 

「身体障害児・者」の施設の建築計画*2に関する研究について豊富な事例を交えてご紹介いただいた。

ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health 2001WHO採択)で、生活機能と環境との関係性が明示されたことで、環境(建物・空間のみでなく人との関係も含む)は活動と参加の向上が目標と明確化された。

 

施設環境と家庭環境の違いが活動を抑制させる例として、5つの観点から紹介があった。生活感やプライバシーの有無(1:空間の落差)、集団生活や施設側の事情による生活リズム(2:時間の落差)、個人の意思より外力的な規則(3:規則の落差)、赤ちゃん言葉や指示・禁止・教育調の言葉(4言葉の落差)、社会における役割、存在意義の喪失(5:生きがいの落差)など。

 

次に活動を向上させる施設作りについて紹介があった。先の落差を少なくするだけでなく、自然と家事の手伝いや生活行為ができやすくなるしかけ(セッティング)や施設機能(事務・医療、訓練、居住)を分棟化して建物から外へ、敷地から外へ、街へと外界(社会的な外部、いつもの人と違う)や自然と接する機会を増やすことで、子供は医療を背負う雰囲気がやわらぎ、高齢者は過去の話ばかりするのでなく未来の話やサーカディアンリズムが整い、社会参加の機会も増えるようになった例を上げられた。

 

車いすで移動することのみを想定して作られたフロアではなく、居室や共用リビング・トイレなどを連続するようにカーペット空間をつくり、座位移動や転がり移動などで生活することを可能にしたら、車いすに乗せられていたときは自分で移動ができなかった子が、ズリズリ動いてトイレへ行きたい意思表示ができ、そのうちトイレまで行けてトイレで介助を受けるだけになったり、次にズボンの上げ下ろしができるようになったり意思表示や運動の自立度があがった。

スタッフが記録作業などをスタッフルームでなく、高齢者やこどもたちなど施設入居者のそばで行うことで常に入居者の微細な変化や要求に対応できたり、家庭的になり、洗濯物を畳む作業をしていて、これは○○君の衣服と渡すと、自分で片付けにいったりするようになる。

プライベートな空間を作ると閉じこもりがちになるのではと言われるが、自己領域をつくることができる空間があることで落ち着き、共用スペースにも良く出てくる。

 上記のような新しい建築環境に移すときは、一気にやらず、まず看護師のスタッフは、ユニフォームを着ないようにして、馴染んだら、次の環境を変えていくなど段階的に行い、1人1人の子供の気持ちを考えてやると、子供たちも変わってくる。尊重されるから尊重するようになる。

 このような看護・介護する側の活動を心理評価すると、運動量は減っているにも関わらず、変化して3ヶ月くらいは疲れたという人が多いが、その後は楽になり、充実度があがる。

 

 最後に7つの項目をあげ、考え方や工夫の仕方の極意をわかりやすく再度講演内容をとりまとめも含め説明をされた。その項目のみを列挙すると、1:施設空間の主役は利用者である。2:個人の活動と環境との相互作用からとらえる。3:活動を抑制する環境を意識する。4:欲求・活動意欲を上げる空間をつくる。5:移動を保障する空間をつくる。6:適時的確な支援が可能な空間を作る。7:外部空間をつくる。

 

この講演は、福祉工学部会第2回運営委員会(会場:経産省別館第1会議室)で行われた。山脇先生は、ご多忙で、また急な講師依頼にも関わらず、快く引き受けてくださった。若くして多くの実務経験も有しており、今後の活動を期待するとともにまたお話を伺ってみたいと思った。(文責:小野)

 

*1:筑波技術大学は、聴覚および視覚障害者のために創られた国内(世界でも唯一)の国立大学です。
http://www.tsukuba-tech.ac.jp/

*2:より良い施設を作るためのサイエンス。建物の使い方、適切な機能配列/動線計画、規模計画