福祉工学部会見聞録
2006年10月3日(火) 13:30−15:45頃、福祉工学部会見学会セミナーにて
場所 東京大学 柏Uキャンパス 生涯スポーツ健康科学研究センター
参考URL http://www.sci-news.co.jp/news/200504/170401.htm
http://blog.kashiwa88town.com/2005/12/10vol03.html
参加者23名、工学関係者、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、整体師などの参加で、広島、宮城、長岡、甲府、鈴鹿など遠方からも熱心な方々が集まりました。
図1 生涯スポーツ健康科学研究センター
見学会セミナーで小林寛道(こばやし かんどう)先生に1時間ほど講演をしていただき、その後見学と体験を1時間ほどしました。認知動作型トレーニングシステムに関するお話は、とても興味深く、他にはないユニークなトレーニングマシンを拝見し、トレーニングされている方々の目が活き活きとしていて楽しそうでした。
小林先生が研究・開発したシステムは、従来の筋肉・心肺系の身体パーツのトレーニングマシンと異なり、「血圧が上がらないマシン」、「重力から独立した特殊な負荷を与える」、「体の深い部分の筋肉を鍛える」、「動きの質を高める」(Quality of Motion、QOMと略す)などの特徴を有し、低体力の高齢者でもトレーニングが可能で、脳・神経系を活性化する脳を中枢とした総合的身体機能・運動機能を高めることを重視しています。
図2.講演中の小林寛道(かんどう)先生、今年から東大名誉教授、名誉生涯スポーツ健康科学研究センター長。
小林先生は、オリンピック選手の能力向上に13年関わって(日本陸上競技連盟科学委員長でした)おり、静岡県知事の協力依頼により、その知見を超高齢化対策に活かす(しずおか健康長寿財団副理事長)ことになり、従来と異なった様々なトレーニングシステムの研究開発をされました。そのため週に1回は
現在は、経済産業省の健康サービス産業の創生の一環として、町の中10坪のジム(10坪ジム、とつぼジムと呼ぶ)にマシンを5つほどおいて、地域での健康サービスの推進も図っているそうです。その指導者(55歳から80歳)の育成も進めており、NPO法人も立ち上げ、柏市内3ヶ所、見学よく日にさらに1箇所10坪ジムはオープンとのことでした。
ご講演では、オリンピック選手の強化経験(短距離11秒台の人が10秒台に)から、社会状況、年齢と体力の関係、西洋(カロリーの重視)と東洋(心身の調子を重視)の考え方の違い、QOMの改善、各種トレーニングマシンの特徴などなど、多くのことを短時間に身振り(先生の軽い身のこなしをご覧に入れたいくらいです)や実験データ、ビデオを交えご紹介してくださいました。
QOMの改善では、「体幹深部筋の強化−>脳・神経系の活性化−>運動が楽しい−>効果が実感できる−>筋肉痛がおきにくい−>飽きずに運動ができる」という循環が働くような各種トレーニングマシンを研究・開発され、現在センターでは週に2回、地域で募集した方々を対象にトレーニングを実践しています。リラックスして筋肉を伸ばしてちょっと力を入れて引くなど、低体力者でも参加可能なトレーニングマシンです。高齢になると大腰筋(体の深部にある)が若いときに比べ細くなってきますが、その大腰筋がトレーニングで70歳以上の方で1割以上太くなる結果がでています。歩き方も、胸椎12番目あたりから振り出すように歩くと良いそうです。講演後に見学しましたが、センターの高速トレッドミル(移動ベルトの上を歩く歩行トレーニング機)は、100m10秒の速さまで実現でき、ある程度目標を高く速く歩く(?)ことも可能です。移動ベルトの幅は車椅子ごと乗れる幅があり、一般のトレーニング用トレッドミルより大きく余裕があります。
また、普通の筋肉トレーニングマシンでは、脳があまり働かないのですが、認知動作型トレーニングマシンを利用しているときは脳が活発に働いていること(島津製作所製NIRStation[NIRSニルスと略す]で脳表面の酸素状態を計測)を示す実験ビデオを紹介してくださいました。むずかしいことをやると脳が働きます。また体の深い部分を動かし、脳幹に刺激になり脳が働きます。スプリントトレーニングマシンなど多くの研究・開発マシンの利用中にはNIRSの計測値がプラスに活発に働きます。ところが和船の艪を手で漕ぐような動作のトレーニングマシンでは、マイナスの方に活発になります。利用者に聞くと気持ち良いそうです。
トレーニング的には、体の中からあたたまり、トレーニング機器の操作に頭を使うものが多く、子供は面白動作で楽しそうにやってゆくとのこと。知的障害者もトレーニングを試みているそうです。
図3 スケートの選手がコーナーを回るときの脚の動きをトレーニングするマシン。黒い円盤部が回転する。
図4.和船の手漕ぎタイプのトレーニングマシン。(右は利用者でなく実行委員です)
スノコが引いてあると大変気分が出るそうで、このマシンはトレーニング後、気分が爽快で癒され疲労が取れます。
図5 パワーアシスト型トレーニングマシンで、和船漕ぎの櫓の部分が自動で動きます。利用者が自分の力でこいだり、また櫓の動きに抵抗したりと、自分で力を出す運動もできます。負荷が加わると写真の中央下端に写っているランプが光って負荷の強さを示します。あまり急激に大きな力を加えると、マシンからの負荷が伝わらなくなります。櫓の動作範囲や負荷の大きさは写真の右下隅に写っているコントローラで調節します。(小林先生と体験中の見学者)
図6.多動式パワーアシスト自転車
・ペダルは楕円に動く。(自分で動かすのではなくペダルが回転するのでそれに足を合わせる)・サドルが上下し、それに合わせてハンドルが前後に動く。・サドルが上に上がると、周囲を見下ろす感じで気持ちよい。・利用者が自分で動かすところは、ハンドルを左右に曲げるのみ。(この装置のある部屋で実際に利用者がトレーニングしており、説明を聞きながらいろんなところを見ている見学者)
図8.スプリントトレーニングマシン
自転車のペダルは回転するだけですが、このマシンのペダルは、前後水平に動きます。より歩くパターンに近いです。また他のマシンの多くも体を動かす支点が固定的ではありません。1つの大きな特徴となっています。足を後ろに振り上げるマシンも腰を後ろに引いてから上げるような感じです。そのマシンを利用すると高齢のために認知できる範囲が前方に狭まる傾向の視野が、脇まで広がるそうです。
それぞれ、お話しを聞くと深いものがあり、利用者は知らないうちに体力が付くだけでなく、より健康になっていくのが目に見えるようでした。
青色は、東大オリジナルのトレーニングマシンで、他にもたくさんありましたが、利用者の方々が多くいらしたので、写真は割愛しました。アニマルウォーク式トレーニングマシン、足を後ろに広げるマシン、背中・腰を捻るマシン、足を広げるマシンなどなど、たくさんのオリジナルマシンや通常他ではあまり拝見できないトレーニングマシン(前出のトレッドミルなど)を拝見させていただきました。
利用者(あまりお若くない)とお話しを聞きましたが活き活きとされ、利用者の方々が目を輝かせながらトレーニングしているのが、その効果を物語っていると感じました。
ご多忙のところ、ご講演・見学対応して下さった小林寛道先生、また体験のお手伝い下さったトレーナの方々、利用者の方々に感謝いたします。
(文責 小野栄一)