誰もが使いやすいバスのシンポジウム
バスのシステムインテグレーション今昔 + 試乗会 報告
日時 2005年9月6日(火)
会場 独立行政法人 産業技術総合研究所 つくばセンター 共用講堂
参加者 60名
スケジュール、講師、バス紹介 URL http://www.sice.or.jp/org/si-ae/bus.htm
次の趣旨の下に開催しました。
「このたび、誰もが使いやすいバスへのシンポジウム-バスのシステムインテグレー ション今昔-と題して、身近な交通機関であり、また近年ユニバーサルデザイン化の進むバスについて、システムインテグレーションの今昔の変化という切り口からバスについての講演、パネルディスカッション、および乗車体験を含めて、汎用性の高い公共交通機関として今後も社会的に一定の地位を占めると考えられるバスについて学ぶとともに課題発掘、問題提起の場を提供したいと思います。主催する3部会が属する計測自動制御学会は、工学系の学術団体ですが、工学者の課題発掘は参加者各人にお任せすることとして、あえて工学系に偏しない編成をいたしました。バス大好き、バスにご関心ある人、現状のバスに要望のある人など、どうぞご参加下さい。
実際に昔のボンネットバス(写真)と最新式の標準仕様ノンステップバスの体験試乗会を行い、最近40年間のバスの変わった点と変わらない点を実感していただきます。どうぞお気を楽に、お楽しみいただきながら一緒にお考えいただければ幸いです。」
周知期間が短かったにもかかわらず、またあいにくの雨天にもかかわらず、さまざまな立場の多くの方々にご参加いただき、有意義な問題提起の場を提供することができたと思います。ありがとうございました。
佐藤
滋 実行委員長
シンポジウムの様子 パネルディスカッション(左:佐藤滋実行委員長)
鈴木文彦講師 総括 小松崎進講師 ユーザの観点から
交通ジャーナリスト 茨城県立リハビリテーションセンター
児玉進矢講師 行政の観点から 長谷川一種講師 バス事業者の観点から
国土交通省自動車交通局旅客課 関鉄観光バス(株)・関鉄自動車工業(株)社長
生活交通対策室長 前 関東鉄道(株)専務取締役
昭和41年(1966年)製造のボンネットバス 中乗り、中降り
ボンネットバス運転席 最新式標準仕様ノンステップバス
ボンネットバス座席 電動車いすが降りているところ
ボンネットバス後部から前方を見たところ スロープを取り出しているところ
ボンネットバスに乗り込むところ 電動車いすが乗り込むところ
シンポジウム・試乗会報告
◎試乗会
シンポジウム開始前と終了後に、つくばセンターバスターミナルと産業技術総合研究所の間で、昭和41年(1966年)製造のボンネットバスと、最新型のノンステップバスの試乗会を行いました。
ノンステップバスは、車両中央部の昇降口付近のスペースが広くフラットになっており、車いすはここに乗ります。昇降口の下側にスロープが収納してあり、車いすが乗るときには収納口を開いてスロープを取り出し、手で開いてバス停とバスの間に渡します。車内ではタイヤ止めを置いて固定します。
趣のあるボンネットバスは、残念ながら扉の開口幅が狭く、大きな電動車いすの方には乗っていただくことができませんでした。ボンネットバスに乗っている人も見ている人も、なぜか皆さんうれしそうに見えました。
◎シンポジウム
シンポジウム前半では、各講師からご講演をいただきました。
交通ジャーナリストの鈴木文彦講師からは、ヨーロッパを中心にいろいろな国のノンステップバスについて写真を交えてお話しいただくとともに、各国の取り組みの状況などをご紹介いただきました。
茨城県立リハビリテーションセンターの小松崎進講師は、ご自身が車いすユーザで、実のところあまりバスを利用される機会がないとのことです。自らの経験からバスに望むこととして、・車いすの昇降に時間がかかりすぎる。特に固定を簡便に行えるようにしてほしい。
・多人数の障害者が一度に乗車できるようにしてほしい。
・電子マネー携帯などを使って支払いが容易にできるようにしてほしい。
などを挙げられました。
また、ご自身が関わっている視覚障害者からの要望として、
・音声案内をシンプルに(経由と行き先だけ)にしてほしい。
・最近広まっている電光掲示板式の行先表示が弱視者には見づらい。
・料金表示が見づらい。もっと字を大きくしてほしい。
・整理券発券機や運賃投入口の位置がバスによって異なるので、統一してほしい。
などを紹介されました。
国土交通省の児玉進矢講師からは、交通バリアフリー法や、ノンステップバス普及促進のための補助金制度、ノンステップバスの製造コストを低減し普及を促進するための、標準仕様ノンステップバス認定制度等、行政としての取り組みについてご紹介いただきました。
関鉄観光バス株式会社社長、前関東鉄道専務取締役の長谷川一種講師からは、バス事業の現在の状況、バスを1台購入するにあたって決定すべき仕様の数等、乗客とは異なる立場から、バスのバリアフリーについてお話をいただきました。また、昭和40年代のバスのワンマン化に伴って多発した乗客のはさまれ事故を憂慮し、ご自身が開発されたドアセーフティーチェッカーについてもご紹介いただきました。
シンポジウム後半は、フロアからの質問に答える形で進行しました。
車いすユーザや、市民の目線で公共交通機関を考えている方々から、熱心な質問がなされ、講師の方々からも率直なご回答をいただきました。質疑の内容の一部を以下にご紹介します。
・ノンステップバスが、いつどの路線を通るのか分からない。時刻表に表示することはできないのか?
→現有のノンステップバスの台数が少なく、整備や乗務の都合でノンステップバスを走る路線を固定できない。保有台数のおよそ3割がノンステップバスにならないと、時刻表に明記できないと思う。関鉄バスでは、病院に行く路線に優先的に配備している。
・自分がいつも使っているバスは、道が混んでも20分程度で目的地につくのに、車いすの固定に10分程度かかり、自分のために余計に時間がかかってしまう。車いすを固定するために運転手さんがいちいち席を立たずにすむように、ステップの出し入れなどを自動化できないだろうか。
→日本では、中央の乗降口を車いすの乗降に使用するため、運転席からの目視が難しいという問題がある。
・標準仕様ノンステップバスの床の高さなどを、どうしてその数値にしたのか根拠も公開してほしい。
→周知の努力が不足して申し訳ない。
質疑を通じて、全国的にバス輸送が縮小しており、特に地方のバス事業者の経営状況が悪化していること、その中でバリアフリー化にどのように取り組んでいくかはかなり困難な問題であることが浮かび上がってきました。工学に携わる人間として、「よいものをつくれば普及するはず」と考えがちですが、「よいものをどのように普及させるのか」をきちんと考えなくてはいけないと、改めて考えさせられました。
報告 本間敬子 文責 小野栄一