日 時: 平成10年6月25日(木)9:20 〜 16:55
場 所: ホテル アウィーナ大阪 金剛(東)の間(4階)
〒543 大阪市天王寺区石ヶ辻町19番12号 電話(06)772-1441
(近鉄上本町駅下車あるいは地下鉄谷町9丁目駅下車)
挨 拶 | 計測自動制御学会関西支部 支部長 | 堀内 健文 | ||
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講 義 | シンクロトロン放射光技術の基礎と展望 | 立命館大学 理工学部 | 岩崎 博 氏 | |
放射光による鉄鋼製造プロセスの動的解析と
SPring-8 への期待 |
新居浜工業高等専門学校 | 川崎 宏一 氏 | ||
SPring-8 における医学利用と計測画像診断 | 国立循環器病センター研究所 | 宇山 親雄 氏 | ||
放射光を用いた位相コントラスト型高感度
画像計測---SPring-8 に向けて--- |
日立製作所 基礎研究所 | 百生 敦 氏 | ||
SPring-8 におけるタンパク質の立体構造研究と
コンピュータグラフィックスの活用 |
姫路工業大学 理学部 | 安岡 則武 氏 |
講義内容
「シンクロトロン放射光技術の基礎と展望」
立命館大学理工学部 岩崎 博 氏
近年,科学・技術の研究のための強力な武器としてシンクロトロン放射光が注目されている.この光は実験室で用いられているX線などと本質は同じであるが,発光のメカニズムが異なるため,際立った特徴を有している.講演ではまずそれについて説明する.ついで放射光源,ビームラインの構造と機能について触れ, 光の特徴を生かしてどのような新しい研究ができるかについて,私の経験を中心にして紹介する.
[講師紹介]
1956年 東京教育大学理学部物理学科卒業.1958年 東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了.1958年 東北大学助手,金属材料研究所に勤務.X線回折による長周期規則合金の構造と相転移の研究に従事.1964年 東北大学助教授.研究の重点を「合金および V 族元素の結晶構造に対する高圧力の影響」に移す.1975年 東北大学教授.この頃に始まった放射光利用研究に参加,ビームライン建設チームを結成.1986年 高エネルギー物理学研究所教授に転属,放射光実験施設(フォトンファクトリー)の測定器研究系主幹.1991年 同研究所放射光実験施設長に併任.1994年 立命館大学教授となり,理工学部に勤務.同大学の SR センター建設に参加.1996年 同大学 SR センター長に併任.現在,X線および軟X線領域放射光を利用した研究に従事.理学博士.
新居浜工業高等専門学校 川崎 宏一 氏
高エネルギー研での先端的成果について述べる.高分解能・高速の結晶粒投影法の研究開発により,変圧器用電磁鋼板の巨大結晶粒が高温で爆発的に生成する様子が捉えられた.まス,自動車用薄鋼板の高温における結晶粒投影図が初めて得られた.一方,X線TVによる像観察により,鉄の凝固過程と電磁鋼板の巨大結晶粒の成長が初めて動的に観察された.さらに,亜鉛めっき過程も動的に解析されている.SPring-8では著しい高輝度化,短波長化を活用し,上記手法の高速化,高感度化とならんで,厚い試料の動的観察,薄い表面変化の動的観察及び高分解能の凝固過程観察が大いに期待される.
[講師紹介]
昭和20年12月15日生.昭和43年東京大学工学部機械工学科卒業,昭和45年同修士課程修了,昭和45年新日本製鐵入社,君津製鐵所へ配属,昭和59年先端技術研究所へ移動,平成元年〜4年総合研究大学院大学放射光科学専攻在学,博士(学術)取得,平成7年日本金属学会技術開発賞,平成8年新居浜工業高等専門学校数理科教授.新日本製鐵君津製鐵所在職中は自動車用薄鋼板の材質研究に従事,先端技術研究所では放射光を利用した動的解析研究に従事した.特に総合研究大学院大学放射光科学専攻に派遣中に,X線回折により高温過程を動的に解析する新極点図法を研究した(共同研究者:高エネルギー物理学研究所放射光実験施設長岩崎博先生(現立命館大)).その他X線トポグラフィも利用して電磁鋼板などの金属材料の高温熱処理過程を解析した.
国立循環器病センター研究所 宇山 親雄 氏
放射光は単色化できることが最大の利点である.その結果これまで利用できなかった物質と光子との相互作用が個別にとらえられるようになり,従ってこれまで見えなかった,または見ることが困難であった像が見られるようになった.これらの点を具体的に述べる.
[講師紹介]
1965年京都大学工学研究科修士課程電気工学専攻修了,助手.1985年2月国立循環器病センター研究所放射線医学部部長.以来医用画像処理の研究に従事.冠状動脈造影像を対象とした高精度冠状動脈血管径計測装置の開発,腹部大動脈瘤用ステントグラフト設計支援システムの開発など最近は3次元医用画像処理の研究に従事.放射光の医学利用研究に関しては1988年5月の第1回次世代大型X線光源研究会から参加し医学利用サブグループ発足の発起人となって以来,同サブグループの世話人として SPring-8 に関わる種々の活動に貢献した.また,研究活動では単色X線CTの研究に参画している.工学博士.
日立製作所 基礎研究所 百生 敦 氏
最近,X線領域における位相コントラストイメージングの研究が活発になってきた.X線干渉計を用いる方法,ホログラフィー的方法,ゾーンプレートを利用する方法等,現在様々な原理による撮像法が報告されている.それぞれ得られるコントラストの物理的意味は異なるのだが,概して,位相コントラストイメージングの特長は吸収コントラストによる従来のX線イメージングを遥かに凌ぐ感度が得られることである.我々は,X線干渉計を用い,位相コントラストに基づく三次元撮像法(位相型X線CT)を開発し,がんなどの生体軟部組織が無造影で観察できることを示した.講演では我々の成果を中心に位相コントラストX線イメージングの研究状況を解説し,SPring-8での今後の研究を展望する.
[講師紹介]
昭和37年9月10日生.
1985年 東京大学工学部物理工学科卒業.
1987年 東京大学大学院工学系研究科物理工学修士課程修了.
同年,(株)日立製作所入社.
結晶による動力学的回折理論に基づく精密X線光学を学び,日立,基礎研究所では物質構造科学研究所,放射光実験施設における日立ビームラインで軟X線を用いた有機薄膜(Langmuir-Blodget膜等)の構造解析法の研究に従事した.平行して位相型X線CTを発案し,その実現に向けての研究をすすめた.また,1997年3月から1998年2月にフランスのESRF(European Synchrotron Radiation Facility)に滞在し,第三世代の放射光を用いた位相コントラストX線イメージングの研究を行った.工学博士.
姫路工業大学理学部 安岡 則武 氏
1997年10月から SPring-8 が供用を開始した.X線領域の放射光施設としてはつくばの高エネルギー加速器研究機構の放射光研究施設についで 2番目のものであるが,はるかに高輝度であり,本格的な利用に入ればタンパク質の立体構造研究の分野で大きい成果が期待できる.タンパク質結晶に関する共同利用のビームラインは今のところ1本であるが,多くの利用申請があり,活発な活動が開始された.SPring-8 が拓く構造生物学の新しい局面について紹介する.
[講師紹介]
昭和34年3月 京都大学工学部工業化学科卒業,昭和34年4月 通商産業省工業技術院大阪工業技術試験所.以後,大阪大学工学部助手,助教授を歴任の後,昭和60年6月姫路工業大学工学基礎研究所教授.平成2年4月より理学部教授.平成8年4月より平成10年3月まで姫路工業大学理学部部長を併任.理学博士.
X線解析の研究に従事してきた.複雑なそして興味深い物性を有する有機化合物の構造決定,特異化学結合を持ちまた触媒活性を持つ有機金属化合物の構造決定などの研究を経て,次第に重点を生体関連物質に移し,現在ではとくにタンパク質やタンパク質複合体の構造研究を行っている.最近の研究対象は微生物,なかでも硫酸還元菌のエネルギー代謝系に関与するタンパク質・酵素の構造である.またコンピュータグラフィックスによる立体構造の図示システムの開発,計算機を活用したX線解析の一貫処理システムの開発も行っている.
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