昨年(1999年)11月にJABEE(日本技術者教育認定機構)が設立され,大学等の技術者教育プログラムの認定が始まろうとしています.これは,技術者教育プログラムが,社会の要求水準を満たしているかどうかを外部機関が公平に評価し,要求水準を満たしている教育プログラムを認定する専門認定制度を確立することが目的で,技術者教育の国際的相互承認問題にも対応しようとするものです.また技術士制度についても,国際的に通用する資格にしようということで改正案が検討されています.このような状況に対応するためSICEでは教育認定委員会を発足させ,活動を開始しました.
技術の社会や人類に対する重要性,影響力はきわめて大きなものになり,それにともない技術者の責任もまた重大になってきています.また技術者は企業や国家の枠を越えて国際的に活躍する時代となりつつあります.このような時代にあっては透明性,国際性を有する技術者資格を優秀な技術者に与えて社会的に認知することが必要と考えられます.技術士制度の改革は直接的な技術者の認定の話であり,JABEEの設立の目的は技術者教育の基礎である大学教育プログラムの認定であると理解することができます.このようなJABEEの目標,理念,設立の経緯,認定の手順などについてはJABEEのホームページ(http://www.jabee.org/)に詳しく記載されていますので参照してください.
日本機械学会,電気学会,土木学会,化学工学会などの有力学会はJABEEの発足以前の準備会の段階から関与し,それぞれの分野別基準(案)を作っていました.それに対しSICEは出遅れの感がありましたので,昨年12月1日に第1回の教育認定委員会を開き,議論した結果をもとに急遽計測・制御・システム工学関連分野基準(案)を作り,理事会の承認をいただき,JABEEに正会員として参加することを決定していただきました.また本年から認定の試行を開始するということで,先行他分野は既に準備が進んでいましたので,SICEとしては時間的余裕がなく,会長,正副委員長,幹事の間で相談し,2大学のプログラムで認定試行を受けたい旨JABEEに申請いたしました.その後2月29日のJABEE委員会で,われわれの提案したプログラムのうち東京工業大学工学部制御システム工学科が準備するプログラムが日本機械学会を窓口として認定試行を受けることに決まりました.SICEは日本機械学会に協力する形で試行に参加することになるようです.今後SICEが認定の経験を積み,われわれの提案する分野に多くの大学から認定の希望が出されれば,独立した分野として扱われるようになるものと期待しています.計測・制御・システム工学関連分野の他学会とも協力し,分野別基準もさらに検討し,場合によっては分野名を変えることも含めて検討しております.
また昨年12月末締切で技術士制度の改善についての意見を出すように求められていましたので,SICEとして技術士制度の改善の趣旨に賛成であることと,技術士区分の中に計測・制御分野の新設を要望する旨,SICE会長名で返事が出されました.
さらに教育認定委員会では,JABEEの認定作業に協力すること以外にSICE独自の技術者教育を行うことも考え,検討しております.
とりあえずこのような状況であることをSICE会員の皆様にご報告致しますとともに,JABEEそのものについて,計測・制御・システム工学関連分野の分野別基準について,SICEが行うべき技術者教育について会員の皆様のご意見を承りたく思います.ご意見は委員のどなたかへ,あるいはEメール(sice-jabee@sice.or.jp)でお願いします.
解説
上記学習・教育目標の具体例を表1に示す.これは一つの例であって,ここに掲げた内容をすべて含む必要はないし,文字通り同じ内容を要求するものでもない.ここに示す方向性をもち,それぞれのプログラムの教育目標に合致する深さをもつ内容であればよい.
表1 学習・教育目標の具体例
項目 |
学習・教育目標 |
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応用数学 |
下記のうち3つ以上 (1)ベクトル,行列,行列式,固有値,固有ベクトル (2)微分,積分,微分方程式の解法 (3)母集団と標本,各種統計量,確率分布,推定と検定 (4)複素関数,極,留数,複素積分 (5)フーリエ変換,ラプラス変換,z変換 |
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自然科学 |
下記のうち3つ以上 (1)質点と剛体の力学,運動方程式,振動と波動 (2)電界と電気力線,磁界,電流と磁束,電磁誘導 (3)熱力学の第1法則,第2法則,エントロピー (4)化学の基礎 (5)物理学,化学以外の自然科学の基礎 |
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コンピュータ |
下記のうち3つ以上 (1)コンピュータの原理,基本概念,基本用語 (2)電子メール,インターネットの仕組みとマナー,使い方 (3)ファイルシステムの概要,市販のソフトウェアによる文書作成・計算・データ処理 (4)コンピュータ言語によるプログラム作成,コンパイル,実行 (5)ネットワークへの接続,ハードウェアの変更・増設・設定 |
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基礎工学 |
下記のうち2つ以上 (1)機械工学の基礎 (2)電気・電子工学の基礎 (3)情報工学の基礎 (4)化学工学の基礎 (5)経営工学の基礎 (6)エネルギ工学を含む内容 (7)材料工学を含む内容 (8)上記以外の共通的,基礎的工学 |
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主要分野 |
計測 |
下記のうち5つ以上 (1)単位と標準 (2)不確かさと精度 (3)信号変換・伝送 (4)インタフェース (5)信号処理 (6)画像処理 (7)機械量計測 (8)電気量計測 (9)光・音響計測 (10)生体計測 (11)化学量計測 (12)プロセス計測 (13)ロボット用センサ (14)動特性の計測 (15)パターン計測 (16)リモートセンシング |
制御 |
下記のうち5つ以上 (1)信号流れ図・ブロック図 (2)伝達関数 (3)周波数応答 (4)フィードバック制御 (5)プロセス制御 (6)状態フィードバック (7)オブザーバ (8)安定性 (9)同定 (10)シミュレーション (11)制御系CAD (12)サーボ機構 (13)シーケンス制御 (14)アクチュエータ (15)ロボット制御 (16)自動化機器 |
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システム工学 |
下記のうち2つ以上 (1)要素技術を組み合わせて有用な工学システムを構築するための方法論 (2)要素技術を組み合わせて新しい機能を有する工学システムの構築を行う事例 (3)学生が自らの創意工夫により,要素技術を組み合わせて,まとまった工学システムを作り上げるという体験 |
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実験,実習,演習 |
(1)本分野における実験または実習またはシミュレーション演習 (2)上記において十分に用意された装置,ツールを理解し,使いこなすこと (3)上記において学生が結果を解析し,吟味し,評価すること |
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理解,説明 |
(1)本分野に関連する実際の工学システムの理解 (2)本分野に関連する技術的内容を日本語で明確に説明する能力 (3)本分野に関連する技術的内容を外国語で説明する能力の基礎 (4)学生が自分の勉学・研究の成果を聴衆の前で発表する能力 |
(委員長) | 青島 伸治 | 筑波大学 機能工学系 |
(副委員長) | 佐野 昭 | 慶応義塾大学 理工学部 システムデザイン工学科 |
(幹事) | 本多 敏 | 慶応義塾大学 理工学部 物理情報工学科 |
相吉英太郎 | 慶応義塾大学 理工学部 物理情報工学科 | |
石川 良雄 | 日揮株式会社 エンジニアリング本部制御設計部 | |
井上 昭 | 岡山大学 工学部 システム工学科 | |
内田 健康 | 早稲田大学 理工学部 電気電子情報工学科 | |
江木 紀彦 | アイ・ティー・エンジニアリング株式会社 | |
大嶋 正裕 | 京都大学 工学部 化学工学専攻 | |
大松 繁 | 大阪府立大学 工学部 情報工学科 | |
木下源一郎 | 中央大学 理工学部 電気電子情報通信工学科 | |
黒岩 重雄 | ARCジャパンオフィス | |
黒崎 泰充 | 川崎重工業株式会社 技術統括本部電子・制御技術開発センター | |
黒須 茂 | 小山工業高等専門学校 機械工学科 | |
小林 彬 | 東京工業大学 工学部 制御システム工学科 | |
野波 健蔵 | 千葉大学 工学部 電子機械工学科 | |
山本 倫久 |