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 論文集抄録
 

論文集抄録

〈Vol.38 No.6 (2002年6月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文] [ショート・ペーパー]
■ M系列相関とニューラルネットワークを用いる論理回路の故障診断

鹿児島高専・宮田千加良

 一部の故障回路から算出したM相関と故障候補の故障発生確率との対応をニューラルネットワーク(NN)に学習させることで,任意の故障回路について故障箇所が推定できる方法を提案した.また本方法を用いた論理回路の故障修復,すなわち故障の推定と修復とを繰り返して故障修復を行う方法についてシミュレーションを行い,以下の結果を得た.
1) NNの学習が少なく故障確率の推定誤差が大きくても高い確度で故障の推定・修復が行える.
2) 一部の故障回路から教師信号を算出しているにも関わらず,全故障回路について高い確度で故障修復ができる.
3) 本方法は,正常な箇所を故障と誤推定する割合が低く,しかも推定故障数が数個と現実的な値である.
 本方法はNNの教師信号生成に用いる故障回路数を激減できるため,故障候補数が増えても故障箇所の推定が可能であり,実現上きわめて有用である.また本方法は,論理回路の多種多様な故障に対して故障の推定・修復を繰り返して行う故障修復に,まさに適した方法であると考えられる.


■ 5室湿式流量計ゆらぎ特性の解析

シナガワ・小林 駿,産総研・中尾晨一,高本正樹 工学院大・小宮勤一

 湿式ガスメータは,ガスの密度や粘度が変わっても高い精度でガスの流量を測定できる特性を有する.
 しかし,欠点として,構造上からくる「回転のゆらぎ」があるため,計量ドラムを5回転以上の測定が計量法で規定されているように,短時間での計測ができないことである.これは湿式メータの「ゆらぎ」を低減することにより解決し,計測時間の短縮を可能にできることに着目し,本研究に取り組んだ.
 現在,計量法における家庭用ガスメータの器差性能を検定する最小の基準器は,1回転2L型で,流量は100L/hが最小位である.国際化対応,すなわちOIML国際法定計量機構では,最小位を16L/hと規定している.しかし,わが国にはこの微小流量を測れる基準器は存在しない.そこで,2年前より産総研NMIJのご指導のもと,中小企業総合事業団より本テーマについての委託開発を受け,研究開発を行ってきた.
 研究の結果,湿式メータの計量室を4室から5室にすることにより,短時間計測を可能にした.よって,OIML規格のQminにも対応できる.流量範囲1〜300L/hの1L型湿式基準器が開発できたので,その研究内容について報告する.


■ Backsteppingアプローチによる高次Chained formの制御

東工大・南 澤槿,美多 勉

 ノンホロノミック系とは積分不可能な速度,あるいは,加速度の拘束から導かれるシステムであり,その拘束を巧みに利用することにより,制御入力の数より多い一般化座標を制御することができる.
 速度の拘束から得られる対称アファイン系に関しては数多くの研究結果が報告されているが,加速度の拘束条件から導かれるノンホロノミック系の安定化に関する研究は多いといいがたい.そこで本論文では,加速度の拘束条件から導かれる2入力の高次Chained formの一般系の安定化制御(状態の原点への漸近収束制御)問題を取り上げる.その制御問題に対して,われわれはBackstepping手法を導入し,すべての状態を原点に漸近収束させる制御則を提案した.また,提案した制御則の特異点を明らかにしており,その回避法に関しても述べている.本論文での提案手法は2入力をもつ一般系の高次Chained formに対するものであり,加速度の拘束をもつノンホロノミック系に対する制御の幅が広がると考えられる.また,提案した制御則を3リンクの劣駆動マニピュレータの姿勢制御へ応用し,シミュレーションにて制御則の有効性を検証した.


■ 制御を考慮したモデル推定・選択問題における数値実験と考察

セコム・茅野 貢,東大・津村幸治

 制御系設計者がある制御性能指標を定めているとき,あるコントローラを介して,複数の制御対象は複数の制御性能に写像される.本論文では,制御性能へ写像された空間でのモデル推定・選択するという手法を,数値実験によって考察した.
 モデルの評価基準としては,写像された空間で平均対数尤度を最大化するモデルを推定・選択することを考えた.なぜなら,写像された空間での平均対数尤度は,制御性能のエントロピーと,推定モデルと真のモデル間のKullback-Leibler情報量との,両者の和となるからである.制御系設計において,制御性能のばらつきが小さいことは,望ましい性質と考えられる.
 数値実験は制御性能空間でのモデル推定・選択という提案手法の他に,制御対象空間でのモデル推定・選択を行う手法と,複数の制御対象のうちの最悪状況を考慮する制御手法とを,参照のために行った.その結果,提案手法は制御性能のばらつきが小さく,かつ,ロバスト制御における保守性を回避するモデルを推定・選択した.また,制御対象あるいは制御性能のデータを適切にスケーリングすることにより,ばらつき抑制と保守性削減の程度を,制御系設計者が任意に調節できることも示した.


■ 自律移動ロボットを介したヒトのボール捕獲戦略の検討

阪大・森 亮介,宮崎文夫

 スポーツ科学の分野では,外野手のボール捕獲時の移動経路を解析し,動作戦略をモデル化する研究が行われている.これらの研究は,ヒトが長年の練習の成果として身につけた無意識下で行う動作の合理性をモデルで説明しようとするものであるが,時々刻々と変化するボールの位置に応じて移動方向や速度をどのように決定しているのかについては明らかにしていない.言い換えると,ヒトとボールの望ましい相対関係を表わすモデルに対して,そのような関係を実現するための動作を導く方法が不明である.
 本論文では,スポーツ科学の分野で提案されたヒトのボール捕獲戦略に基づき,特徴ベースビジュアルサーボによる自律移動ロボットの軌道制御手法を提案し,視覚をもつ移動ロボットに対してボール捕獲タスクを実現するための具体的な動作生成方法を導出した.さらに,この方法によれば,自律移動ロボットに搭載する視覚システムとして,魚眼レンズ付きCCDカメラ1台を用いた単眼視でも,3次元的に移動するボール捕獲タスクの遂行が可能であることをシミュレーションにより確認した.


■ 曲げ・ねじり変形を考慮した1リンクフレキシブルアームのダイナミクスベースト力制御

名工大・森田良文,東工大・松野文俊 名工大・小林幸洋,池田素久,鵜飼裕之,神藤 久

 フレキシブルアームの先端に手先効果器が取り付けられた場合,さらにはそれを用いて対象物を把持した場合,アームの曲げだけでなくねじれによる変形・振動が発生するため,これらを考慮しながら位置制御や力制御を考える必要がある.
 本論文では,1リンクフレキシブルアームを対象とし,曲げ・ねじれの結合振動の抑制と同時に力制御を実現する制御法を考える.ここでは,ダイナミクスベースト制御法を適用し,結合振動系に対する制御系の構成を明らかにする.まず,分布定数系のダイナミクスに着目して,リアプノフの方法に基づいた出力フィードバック制御を導出する.この制御系は,モータ角度のPD制御に加え,アーム根元での曲げモーメントのフィードバック,力制御を実現するための定常トルクから構成される.つぎに,分布定数系としての閉ループ系の漸近安定性を示す.これにより,提案法が有限次元近似モデルに依らない構造的に安定でかつロバストな,そして簡便でかつ実装容易な制御系であることが示される.さらに,ねじれモーメントの情報を制御系に用いることなく,結合振動系に対する漸近安定性が保証されることが示される.最後に,提案する制御系の有効性を検証するために,数値シミュレーションを行い,曲げ・ねじれの結合振動に対する抑制効果を確認した.


■ Stability Analysis of the Characteristic Polynomials whose Coefficients are Polynomials of Interval Parameters Using Monotonicity

Kitami Inst. of Tech.・Takeshi KAWAMURA Hokkaido Univ.・Masasuke SHIMA

 本論文では,係数が複数の区間パラメータの多項式により与えられている特性多項式の安定性を,区間パラメータに関して単調であるときの条件を用いて解析する.まず,Frazer-Duncanの定理に基づき,すべての条件が区間パラメータの端点のみで判定でき,単調性の仮定のもとでは必要十分条件となる安定条件を提案する.つぎに,一部または全部のパラメータ変動領域で単調性の条件がなりたたないときに,区間を分割して,それぞれの部分区間で単調性の条件を用いる方法を提案する.さらに,区間分割法を用いても単調性の条件を適用できないときに,区間パラメータに関する単調な多項式に条件式を変換するアルゴリズムを提案する.この方法は,一般に十分条件ではあるが,区間パラメータの多項式を係数にもつすべての多項式を区間パラメータに関して単調にできる.例題により,われわれの方法を説明し,その有用性を示すとともに,Siljakの方法,S●iderisの方法,そしてEdge定理との比較を行う.


■ 車線逸脱警報装置の設計における時間基準の警報発生タイミングの策定手法

自動車研・鈴木桂輔,若杉貴志,新潟大・相馬 仁

 車線逸脱による側方障害物への衝突を防止する警報装置として提案されている車線逸脱警報装置をとりあげ,警報発生タイミングの策定手法を提案し,その最適値を示した.著者らは,車線逸脱警報装置の警報発生タイミングを策定するにあたり,警報の煩わしさを抑制し,同時に車線逸脱回避のための余裕時間を確保できることが重要であると考える.
 本稿では,まず始めに,車線を逸脱するまでの余裕時間を意味する逸脱予想時間を用いて,警報発生タイミングを設定することのできる実験車両を製作し,警報発生タイミングと警報の煩わしさとの関係について解析した.ついで,ドライビングシミュレータを用いて,警報発生タイミングと車線逸脱の回避特性との関係について解析した.これらの解析結果より,たとえば,東名高速道路では,逸脱予想時間1.0秒(車線逸脱の1.0秒前)が,警報の煩わしさを抑制し,同時に車線逸脱回避のための余裕時間を確保できる,警報発生タイミングの最適値であることがわかった.


■ 光ファイバ瞬きセンサ

兵庫工技センタ・瀧澤由佳子,才木常正,北川洋一 神戸市立高専・林 昭博

 瞬きは疲労,覚醒水準等を知る指標のひとつとして計測されており,簡便に瞬きを計測できるセンサが求められている.本論文では,簡便に瞬きを計測できる光ファイバ瞬きセンサを提案する.本センサは目の前方に設置した光ファイバで目とその周囲の反射光を受光し,開眼時と閉眼時の受光量差により瞬きを検出する.光ファイバそれ自身の特性である受光角内で入射した光を伝送できる特性をもっている.この特性と簡単な目のモデルにもとづく検出モデルを設定し,本センサの検出特性を検討した.10人の被験者より目のパラメータの標準値を定め,そのときの閉眼時の受光量に対する開眼時の受光量比を表わす標準検出特性を示した.そして,目のパラメータが標準値から変化したとき,および黒目が移動したときの検出特性を明らかにし,これらの変化に対しても開眼と閉眼を判別できることを示した.また,実験により,設定した検出モデルによる検出特性の有用性を確認した.


■ L2性能基準に基づく静的Anti-windup補償器の設計

広島大・和田信敬,佐伯正美

 本稿では,Teel and Kapoor(1997)で提案されたAnti-windup性能の評価基準を満たす静的Anti-windup補償器の一設計法を示す.この基準は,Anti-windup性能の評価指標として,飽和を含まない仮想的線形制御系とAnti-windup制御系のプラント出力の誤差のL2ノルムを用いるものであり,本稿ではこれをL2性能基準と呼ぶことにする.この基準を用いると,従来の静的Anti-windup設計法では困難であった,L2に含まれない外部入力が加わった場合における系の安定性や時間応答を厳密に考慮した制御系設計を行うことが可能となる.同様の評価基準に基づく静的Anti-windup補償器の設計法がRantzer(2000)で提案されているが,この手法は1パラメータのAnti-windup補償器をラインサーチで求めるものであり,高次の制御器や多変数系に適用することは困難である.これに対し,本稿の設計法は,高次制御器や多変数系にも適用可能である.また,数値シミュレーションにより,同様の評価基準の下で設計された動的クラスのAnti-windup補償器を用いた場合と比較検証する.

copyright © 2003 (社)計測自動制御学会