論文集抄録
〈Vol.38 No.4 (2002年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
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■ マイクログラビティ環境下における質量測定法−被測定物が剛体でない場合に関する検討−
産総研・藤井雄作
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提案している運動量保存則を用いた質量測定器「Space
Balance」に関連して,非剛体を測定対象とする場合の検討を行った.この中で,重要な要素技術として,被測定物体が減衰振動する場合における衝突後の重心速度の推定方法を提案し,その妥当性を実験的に検証した.これにより,被測定物体が減衰振動する場合であっても,基本原理に基づいた質量測定が0.1%程度の不確かさで可能であることを示した.また,液体,粉,動物など,より一般的な物体を測定対象とした場合における,開発の指針について議論した.
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■ 圧力制御型水ヒートパイプによる白金抵抗温度計用精密比較装置
産総研・丹波 純,新井 優
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温度標準の研究分野において,1990年国際温度目盛(ITS-90)で定められている標準用白金抵抗温度計のノンユニークネスを詳細に明らかにすることは,国際温度目盛の次期改訂のために重要である.100℃付近でのノンユニークネスは0.1mK〜0.5mK程度と予想されており,その測定には0.1mKレベルの高精度比較測定が必要不可欠である.本研究では,圧力制御型水ヒートパイプを用いて精密比較装置を製作し,その性能を評価した.
ヘリウムガスの熱膨張を用いた圧力制御系を構築し,圧力安定性は200kPaにおいて±0.8Pa,580kPaでは±5.8Paとなり,温度安定性は100〜157℃において±0.11mK以内という優れた結果が得られた.測温孔の底部から20cmにわたり,0.4mK以内の均熱性が得られた.
温度計の比較測定にあたっての不確かさは,温度の繰返し性に比べ,温度安定性による不確かさが支配的であり,100〜157℃の広い温度範囲において0.11mK以内となった.これにより温度定点に匹敵する不確かさで比較測定が可能であることが示され,白金抵抗温度計のノンユニークネスを測定するための十分な性能を有することが確認された.
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■ 超精密加工臨界ノズルに発生する境界層遷移の精密測定
産総研・石橋雅裕,大槻作治郎
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形状誤差が非常に小さい超精密加工音速ノズル(HPN)に発生する境界層遷移による流出係数の変化を,別のHPNを基準とした直列接続試験により測定した.臨界ノズルの直列接続では下流側ノズルのレイノルズ数が必ず低くなり,また,HPNに起こる遷移が安定しているため,遷移の発生した上流側HPNの特性を,層流境界層のままの下流側HPNで試験することができた.2.4×106までのレイノルズ数において6個のHPNの流出係数を14種のノズル組合せにより測定した結果,遷移は0.9×106から1.5×106までのレイノルズ数範囲内で発生し,乱流境界層域では,国際規格に導入予定の新規の曲線に正確に従うことがわかった.遷移の最中の流出係数変化は,ノズルの組合せに依存することもなく非常に安定していた.また,層流境界層域では,上流側HPNと下流側HPN(群)から求めた流量は,一次標準による試験のばらつきより小さい−0.02%〜+0.05%で一致した.さらに,5年の年月を隔てて異なる製造会社で作られたHPNも,この層流境界層域の範囲内ではまったく同じ特性をもち,非常に優れた長期安定性と普遍的な特性をもつことがわかった.
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■ α−β−γフィルタの安定性と最適ゲイン
三菱電機・小菅義夫,系 正義
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追尾フィルタは,目標位置を観測値として,位置,速度などの目標運動諸元の真値を推定するものである.ここで,α−βフィルタは等速直線運動モデル,α−β−γフィルタは等加速度運動モデルを使用した1次元空間用の追尾フィルタである.α−βフィルタは,安定であるための必要十分条件が報告されている.一方,α−β−γフィルタでは,ゲインα,β,γが,それぞれ0より大きく1より小さいとの条件の下で.安定であるための必要十分条件が報告されている.しかし,α−β−γフィルタのゲインα,β,γは必ずしも1より小さいとは限らない.本論文では,ゲインα,β,γが1より大きいときにも安定性の判定が可能な,α−β−γフィルタが安定であるための新たな必要十分条件を示した.また,α−β−γフィルタが安定ならば,等速直線運動目標に対する予測位置の定常誤差の分散が正となり意味をもつことを示した.さらに,等ジャーク(jerk:
加速度の時間微分値)で運動する目標に対する定常追従誤差が一定との条件の下で,上記の定常誤差の分散を最小にするα−β−γフィルタのゲインα,βおよびγの算出式を示した.さらにまた,このα−β−γフィルタが安定であることを明らかにした.
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■ Multirate Sampled Data Control of Nonholonomic
Systems in Time-State Control Form based
on Periodic Switching
Nagoya Inst. of Tech.・Manabu YAMADA, Shinichi
OHTA Mitsubishi Electric Corp.・Yuichiro
SYUMIYA Nagoya Inst. of Tech.・Yasuyuki
FUNAHASHI
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本論文では.時間軸状態制御系で表わされる非ホロノミックシステムに対して,マルチレートサンプル値制御と周期的な入力の切り替えに基づいた新しいフィードバック制御系を提案する.本手法の特徴は,サンプラと零次ホールダにより離散化された非ホロノミックシステムを,ある座標変換により,線形時不変離散時間システムに変換している点である.その結果,以下の成果を得ることができた.
1. サンプラと零次ホールダにより離散化された非ホロノミックシステムが可制御になるための必要十分条件を明らかにした.
2. システムを安定化するコントローラの設計法を与えた.設計問題を,線形離散時間システムに対する極配置問題に帰着させ,設計法を簡単化した.さらに提案されたコントローラは,離散化されたシステムの極を任意に配置できるため,過渡応答の改善が容易である.
3. サンプル点間も含めたシステムの状態と制御入力からなる評価関数を最小化する最適なコントローラの設計法を与えた.設計問題を線形最適レギュレータ(LQR)問題に帰着させ,設計法を簡単化した.
最後に,2輪車両を用いたシミュレーションにより,本手法の有用性を確認した.
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■ Nonlinear Optimal Feedback Control as
Eigenvalue Problems of Linear Hamiltonian
Operator on Functional Space
Babcock-Hitachi K.K.・Tetsuro ITAMI
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非線形制御系を波の“重ね合わせ原理”に基づいて最適化することにより,線形波動方程式に基づいてフィードバックを計算できる.本論文では,この基礎式の線形性を十分に活用するために波動関数をハミルトニアン演算子の固有関数で展開する方法を示す.フィードバックは波動関数とその偏微分計算を結合して得られるが,これを固有関数展開によってあらわに表現した.すなわち,基本的な解である固有関数とその偏微分を線形重ね合わせすることでフィードバックが計算できることを明確にした.終端時刻tF→∞のときはこのフィードバックが,「固有値虚数部が最小となる固有関数」のみによって表現できることがわかった.また線形波動方程式には波の揺らぎに起因するコストが追加されるが,これについても固有値虚数部が最小となる固有関数のみで表現できることがわかった.既知の具体例で終端時刻tF→∞の場合に固有関数展開の方法を適用した.まず通常のLQ制御系に対して定常リッカチ方程式を再現した.さらに制御コストに値不連続のあるシステムについても,波の揺らぎを表現する制御パラメータHR→0で従来のハミルトン・ヤコビ方程式によるフィードバックが再現されることを示した.
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■ 線形行列方程式によるインプリシットシステムの安定条件
京大・鷹羽浄嗣,市原 豊,片山 徹
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本論文では,指数可検出性とインパルス可観測性の仮定の下でインプリシットシステムが内部安定であるための線形行列方程式(LME)による必要十分条件を導出する.これらのLME条件はディスクリプタシステムに対する安定条件の一般化である.また,内部安定のための等式制約付線形行列不等式条件および線形行列不等式条件が提案のLME条件から容易に得られることを示す.さらに,インプリシットシステムに対する線形2次最適制御系の安定解析に適用することにより,提案のLME安定条件の有用性を示す.
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■ 画像を用いた月惑星軟着陸のための障害物検出と回避
三菱電機・西口憲一
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将来の月・惑星探査計画において,安全な軟着陸を成功させるためには障害物検出と回避が必須の技術となる.前に筆者らは,月面がLambert面である場合に適用できる障害物検出と回避の方法を提案したが,実際の月や惑星の表面の反射特性はHapkeの理論モデルで良く近似される.本論文で提案する方法は,先の方法の拡張であり,Hapkeのモデルに従う月・惑星表面の画像に適用可能なものである.提案する方法は2段階からなる.第1段階では,画像の各点を着陸可能領域と障害物領域とに分類する.分類のための識別関数は,輝度値の局所統計量と準大域的統計量から構成する.この関数はHapkeのモデルにおいてあらわれる太陽の衝効果の影響を削減するように構成されている.第2段階では,着陸目標点を着陸可能領域の中で障害物領域からもっとも遠い点として選択する.第1段階での分類は粗分類であり,誤分類もあるが,第2段階の手順で安全な着陸目標点が選択される.提案する方法を,フラクタルモデルとHapkeの反射モデルから作成したCAD画像に適用し,その有効性とロバスト性を評価する.
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■ 月面軟着陸における画像からの障害物検出法のジオラマによる検証
三菱電機・西口憲一,吉河章二
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将来の月・惑星探査計画において,安全な軟着陸を成功させるためには障害物検出と回避が必須の技術となる.画像情報を用いてこれを行うのは有望に思われるが,宇宙ではまだ実績がなく,画像処理アルゴリズムの開発と共に十分な検証が必要になる.
本論文では,先に提案した輝度値の局所統計量を用いる障害物検出・回避の方法を,月面ジオラマへ適用して実験的に妥当性の検証を行う.実験シナリオは,無人着陸機が高い高度から次第に降下していく際に,何段階かにわたって搭載カメラで下方を撮影し,そのつど,障害物検出と回避を行うというものである.実験では,遠くから接近しながら3つの位置で撮像した月面ジオラマの写真へ同一の画像処理方式を適用して,最終的に選択した着陸目標点の妥当性を評価するようにした.実験の結果,提案する手法では,遠くで見えていなかった障害物が接近するにつれ,順次検出されて,安全な着陸点が選択されることが確認された.このことは,光源の広範囲な変化のもとで成立し,照明条件に対するロバスト性も確認された.
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■ Enhancing the Generalization Ability of
Backpropagation Algorithm through Controlling
the Outputs of the Hidden Layers
Kyushu Univ.・Weishui WAN, Kotaro HIRASAWA,
Jinglu HU and Junichi MURATA
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本論文では階層型ニューラル・ネットワークの中間層の出力を制御することによってネットワークの汎化能力を向上する新しい方式を提案している.
ネットワークの中間層の出力を上限あるいは下限に近づけるための指標を通常の評価指標に追加することにより,ネットワークの重みの絶対値を小さくすることなく汎化能力を向上できることを示すとともに,提案方式により入力雑音が出力に影響を及ぼさないことを理論的に導いてある.提案方式をベンチマークとして著名な2重螺旋分類問題,関数近似問題およびあやめの分類問題に適用した結果,提案方式は従来のラプラスおよびガウス方式より学習および汎化能力の点で優れてあることを明らかにしている.
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■ 極配置レギュレータに基づくフィードフォワード補償を図った入力信号修正法
佐賀大・中村政俊,劉 鵬,後藤 聡,久良修郭
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本研究では,既存の装置のハードに変更を加えずに制御系の特性が改善でき,フィードフォワード補償器の役割を有する入力信号修正法を提案した.本提案法においては,極配置レギュレータ理論のみを適用して修正要素が導出され,修正要素を極配置レギュレータに基づき系統的に設計できる.今回提案の入力信号修正法の特性を理論的に解析した.制御系の応答特性を改善することができる.さらに,本手法の有効性を多関節ロボットアームを用いた輪郭制御実験を検証した.
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