SICE 社団法人 計測自動制御学会
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 会誌・論文誌・出版物
  産業論文抄録 第8巻
 第1号 [論  文]
■ 光波距離センサを用いた非定常海洋波の波速,方位および変位計測
     山口大学・谷本和也,三吉翔三,宇部工業高等専門学校・山根健治,山口大学・田中正吾

 船舶の効率の良い操船のためには,波の速度,方位,波高を同時に高速度に測ることが必要であり,現在の目視による方法では精度が悪く,改善が望まれていた.
 そこで著者らは先に,昼夜を問わず,このような船舶の操船を支援するため,プラットホームから海面上に突き出したアームにセットした3個の光センサを用いて,波の速度,方位,波高を同時にリアルタイムに計測するシステムを開発・提案した.具体的には,3つの光センサによりおのおののセンサ直下の海面までの距離を測ることにより波面の挙動の情報を取り入れ,一方,これらセンサ出力から平均海面位を差し引いたものを線形ダイナミックシステムの出力として表現し,これにカルマンフィルタ,最尤法を適用することにより,各センサ間の波の伝播時間を高精度に求め,波速,方位,波高を計測した.
 しかしながら,このような通常の波(定常波)に加え,突然,大型船舶の運行などにより大きな波が発生することもあり,小型船舶などには,このような海洋波の状況をできるだけ正確に時々刻々周知させることも,操船および海洋土木工事においては重要なことである.
 そこで本論文では,定常波に大きな非定常波が突発的に加わっても,定常波と非定常波を分離し,おのおのの波速,方位,波高を高精度に計測できるシステムを提案した.(2009年5月公開)

第2号 [論  文]
■ 位置サーボ系における電流フィードバックループ欠損時の等価伝達関数を用いたリライアブル制御
     中央大学・石川 薫,中村太郎,大隅 久

 多重フィードバックループ系におけるフィードバックループ欠損の対策として,等価伝達関数(以下ETFと略す)を用いたリライアブル制御手法を提案する.センサの故障等によりフィードバックループが欠損すると,制御系は不安定になる可能性がある.この問題を解決するために,提案方式ではETFを用いる.ETFは能動的冗長制御器であり,フィードバックループの欠損前後で全体の伝達関数が等しくなるように計算されたものである.本論文では,ETFを用いたリライアブル制御手法を位置制御系における電流フィードバックループ欠損に適用する.実験にはDCモータを用いる.電流フィードバックループが欠損すると,応答は不安定化し,振動的な挙動を示す.しかし,電流フィードバックループ欠損後にETFを用いると,応答は安定化する.(2009年5月公開)

第3号 [論  文]
■ レーザー誘起クラックを応用した個人認証装置の試作とその性能評価
     創価大学・時田大作,渡辺一弘

 個人認証技術は各種のサービスを構築する上で重要な要素技術の1つであり,今日までに多種多様な手法が提案されてきた.これら従来の認証手法において,偽造は共通の課題であり,偽造に強いとされる生体情報による認証の場合でも対象となる生体情報を模した人工物により認証されてしまうことがある.そこで筆者らは,レーザー誘起クラックを用いた,偽造に対して耐性の高い認証手法を提案してきた.この手法では,唯一性をもつクラックを生成した透明材料を認証キーとすることで,その偽造を事実上不可能にしている.また,読み取りにスペックルパターンを用いており,画像データの照合により認証キーを識別する,生体情報による認証と同様の処理過程で識別を行っている.これまでにこの認証手法の実現を原理的に実証してきた.
 本研究では,この認証手法の実用化に必要な条件を検討するために,認証装置を試作し,その性能評価を行った.その結果,比較的現実性のある認証キーの設置精度(±10μm),認証時間(0.62秒以下),が可能となり,併せて高い認証精度(本人拒否率=1%,他人受容率=0.0067%以下)が達成され,実用化の指標を明らかにすることができた.(2009年5月公開)

第4号 [論  文]
■ 低剛性荷重変換器の開発に関する基礎的研究
    守谷商会・宮下秀樹,信州大学.曹 西

 一次変換機構として金属板とゴム板からなる積層板を起歪体素子とした,低剛性荷重変換器を開発した.弾性論に立脚すると,金属板とゴム板から成る積層板に作用する圧縮力が,中間金属板のひずみで検知できる.中間金属板のひずみは,ゴムの側方膨出圧の静水圧的挙動に支配されており,ゴム圧縮ひずみの非線形性や粘弾性的挙動の影響は少なく,線形的で可逆的である.積層ゴム内に生じた側方膨出圧は,ゴム状ポアソン比の変動により,載・除荷の応力経路に応じたヒステリシスを示し,低剛性圧力変換器の出力に2%程度影響する.また,室温環境における低剛性荷重変換器の出力は,2%程度のゴムの粘弾性によるクリープを見込む必要がある.この影響による精度低下を減じるために,低剛性圧力変換器は,荷重変動が比較的緩慢な荷重計測に適応することが望ましい.(2009年5月公開)

第5号 [論  文]
■ 作業ロボットの信頼性を考慮した港湾コンテナターミナルにおける自動搬送システムの運用と設計
     東京工業大学・星野智史,東京大学・太田 順

 港湾ターミナルにおける自動コンテナ搬送システムの設計を行なうためには,要求されるコンテナ取扱量や機器投入コストなどの制約に加え,作業ロボットの故障やその修理,ならびに予防保全といった,メンテナンスまで考慮する必要がある.そこで,ロボットの故障とメンテナンス活動をシステム運用に反映させるため,信頼性工学における故障率と信頼度を導入する.ロボットは,故障率に基づき故障し,修理を受ける.したがって,効率的なシステム運用のため,当該ロボットが信頼度に基づき予防保全を受けながら,作業を行なうモデルを構築する.さらに,ロボットのメンテナンスを行なっても,要求仕様を満たすシステムを低コストで設計するため,ロボットの平均故障間隔(MTB:Mean Time Between Failure)に関する性能は,これらの投入台数とともに,適切に設計されなくてはならない.そのため,ロボットの予防保全を行なった上で,それらの投入台数とMTBFの性能により得られるシステムの構築コスト,ならびにメンテナンスにより要求仕様を満たせなかった場合に科せられるペナルティコストを加えた,システムの運用コストまでを考慮した設計方法論の提案を行なう.システム設計を通じて,本設計方法論の有効性について論じる.(2009年5月公開)

第6号 [論  文]
■ 熱システムの負荷推定と擬似データを用いた基準群作成法
     象印マホービン・鈴木 新,奈良先端科学技術大学院大学・杉本謙二

 本論文ではマハラノビス・タグチシステムを利用した熱システムの負荷推定法を提案する.電調理器具などでは熱負荷によって加える温度プロファイルを変更しており,熱負荷の推定は重要な技術となっている.提案手法では対象とする熱システムの最小負荷のステップ応答波形から推定基準となる基準群を作成し,その基準群をもとに対象の熱負荷を推定する.基準群は推定の基準となるために,様々な環境のもとで取得された数多くのデータから作成されることが望ましいが,データの取得に多くの時間を必要とするために開発工数を増加させコストの上昇を招くことになる.提案手法ではステップ応答の立ち上がり時間を短くする条件,長くする条件,標準的な条件のもとで取得したデータを代表値として,その代表値から増殖した擬似データによって基準群を作成することでデータ取得にかかる時間を削減し,開発効率をあげる.提案手法の効果を家電調理器具を用いた実験によって確認し,結果を報告する.(2009年6月公開)

第7号 [論  文]
■ Nursing Care Scheduling Problem: Analysis of Inpatient Nursing
The Univ. of Tokyo・Mingang CHENG,NICT・Hiromi ITOH OZAKU,
Kyoto Inst. of Tech.・Noriaki KUWAHARA,Kanazawa Inst. of Tech.・Kiyoshi KOGURE,
The Univ. of Tokyo・Jun OTA

 病院における看護師の日常業務では1日24時間の間,高機能のサービスを常に提供し続ける必要がある.その具体的な内容は手術準備,患者のケア等々多様な種類のものが含まれておりそれぞれが準備,実行,後片付けの3つから構成されるものになっている.ここでは看護師の行動手順生成過程の解析を目的とする.
 病院において,看護師は,複数個の業務指示(ワークシート)が与えられた際に,看護師自身が保持している各業務の詳細な遂行手順に関する看護マニュアル情報と,自身が有する遂行手順に関する暗黙のルール(スケジューリングアルゴリズム)に基づいて,その実行順序を決定していると考えられる.看護師が遂行している暗黙のスケジューリングアルゴリズムの同定を目指した.既存のスケジューリングアルゴリズムを六種類抽出・実装し,実際の看護師の遂行手順と,実装されたアルゴリズムによって得られた結果とを比較した.準備タスクについてはタスク時間を重視し,実行タスクについては,完了時刻を考慮したEDDディスパッチングルールが最も看護師の行動手順生成に類似していることを示した.
(2009年6月公開)

第8号 [論  文]
■ ARMAモデルを用いた活性化Al微粒子と水との水素発生反応の記述
   福岡工業大学・前川孝司,高原健爾,梶原寿了,大山和宏,ハイドロデバイス・渡辺正夫

 本論文では,ARMAモデルを用いた活性化Al微粒子と水の水素発生反応の記述を提案する.純粋な水素は,活性化Al微粒子の亀裂内での水分解により発生する.その反応はメカノケミカル反応の一種であるが,詳細はいまだよく解明されていない.発熱反応なので,適切な温度調節を行わなければ反応熱によって爆発的に水素発生が起こる可能性がある.反応特性を把握するために,0℃から80℃までの温度設定が可能で,内部の圧力を一気圧に保つことができる水素発生器の製作を行った.水素発生量は,オンラインで測定された実験装置内の圧力と温度を基に計算される.実験結果から,1分間に発生する水素量は,温度に依存して増減することが確認できた.同じ試料を用いた場合には,温度変化に関わらず総発生量はほとんど同じであることも確認できた.したがって,温度制御は水素発生率を制御するための効果的な方法の1つであると思われる.ここでは,水素発生の動特性は水素発生量と反応温度を用いて,線形のARMAモデルによって記述できると仮定し,そのパラメータはサンプリングごとに適応アルゴリズムよって同定された.同定実験の結果,提案したモデルの推定パラメータは変動しながらも,モデル出力と実測値はよく一致し,反応特性を記述できることを確認した.(2009年7月公開)

第9号 [論  文]
■ 異種ガスを用いた抵抗要素の流量特性
   東京工業大学・浅野誠一郎,香川利春,池田駿介,東京ガス・竹内智朗

 本論文では5種類の圧縮性流体に対する抵抗要素の流量特性を実験により明らかにした.実験に用いた抵抗要素は入口形状の異なる2種類のノズルとした.流量特性の計測は等温化圧力容器内を用いた圧力応答法により実施した.まず,この圧力応答法の測定精度を把握するために,JISB8390の測定法と比較し流量特性結果の精度について考察した.その結果,圧力応答法の測定誤差が3%以内であり,実用上十分な精度を有する測定結果であったことを確認した.この等温化圧力容器を用いた計測法により,5種類の圧縮性流体に関する流量特性を明らかした.計測結果により,2種類のノズルの流量係数はRe数の関数として示されることがわかった.また,等温化容器内の圧力応答により算出した流量をノズルの通過流量で無次元化した流量比はノズルの前後圧の圧力比の関数として示されることがわかった.つぎに,本実験にて用いなかった圧縮性流体に対する流量特性の一般化を試み,圧力流量特性の算出方法について考察した.その結果,圧縮性流体の質量流量はノズルの流量係数および圧縮性流体の密度と比熱比を適用することで求まることを明らかにした.(2009年8月公開)

第10号 [論  文]
■ 高炉操業データの3次元画像情報化と独立成分分析による操業監視
     新日本製鐵・伊藤雅浩,松崎眞六,早稲田大学・内田健康,大貝晴俊

 近年,鉄鋼業の高炉は,炉容積の拡大が進む中で劣質原料の多量使用など原燃料環境が変化し,操業不調の発現要因が増加している.炉況の把握と予測には,炉体の温度計(350点以上)や圧力計(20点以上)などを適切に選択し,トレンドチャートから測定量の空間的分布や時間的変動を総合的に判断してイメージする必要があり,現場オペレータの経験と技量に負うところが大きい.そこで著者らは,計測データを,炉体を構成する画像として可視化するシステムを開発し,現場適用してきた.画像化によりオペレータ間や操業スタッフ間での炉況認識の客観的な共有化が可能となり,操炉支援に寄与している.
 本論文は,まず,可視化システムで用いた計測値の空間的補間方法,等値線探索方法,3次元画像情報化方法を報告する.CG技術の活用によって高速な3次元画像化処理が可能となり,炉内ガス流れの瞬時的変動に対応可能な計装1秒周期に同期する可視化システムを新日鐵名古屋第1高炉で実機化した.
 さらに本論文では,画像情報に対し脳磁図信号の解析などで注目されている独立成分分析を用いた炉況監視方法を検討した.その結果,炉内現象を反映すると考えられる特徴的な基底画像が抽出され,独立成分信号の監視による炉況変動の検出や過去の類似操業日時の検索が可能であることを確認した.
(2009年8月公開)

第11号 [論  文]
■ 無人航空機の簡易型手動飛行操縦装置の開発
     宇宙航空研究開発機構・牧 緑,デジタルプラス・武居秀雄,宇宙航空研究開発機構・石川和敏

 JAXA(宇宙航空研究開発機構)無人機・未来型航空機チームにおいて,無人の飛行船,小型固定翼機を用いた上空からの災害監視無人機システムSAFE-BIRD(SAFE=Smart Autonomous Flying Eye)の開発を進めている.各自治体の消防署などで運用できる規模で,特殊専門員を必要としないシステムを想定している.固定翼小型無人機の発進・ミッション飛行を自動化することは比較的容易であるが,一方回収にあたっては,小型無人機の場合,限られたスペースへの精密誘導が要求される.
 この場合,従来は,自動飛行モードからマニュアル操縦モードに切り替え,無線送信機(通称R/Cプロポ)を用い,人間の視覚にもとづく精密誘導を行うことが一般的であった.ただし,その操縦には特殊な技能と多くの経験が要求され,一般ユーザーが短期間に習得できるものではない.特殊操縦技能者の必要性は,無人機運用コストを引き上げ,また一般ユーザー向け産業用/自家用無人機の普及を妨げる一因となっている.特殊な訓練を必要とせずに,無人航空機の高度,進行方位,姿勢などを直感的に,自在に,かつ安全に操縦することができるゲーム用コントローラのような安価な小型軽量装置があれば,ホビー用も含めて,無人機の市場は将来大きく拡大していく可能性がある.小型,軽量,省電力,廉価部品のみを用いたプロトタイプを開発し,限定的ではあるが飛行実証を行った.飛行制御系設計,実装,検証,予備飛行実験について報告する.(2009年8月公開)

第12号 [論  文]
■ 動的時間伸縮の時間伸縮情報によるバッチプロセスの故障検出
     東京ガス・田村雅之

 動的時間伸縮法(DTW)を使用した新しいバッチプロセスの監視方法を提案する.定常状態にあるプロセスと異なり,バッチプロセスは各変数のとるべき値が時々刻々と変化するため,単純な上限値や下限値を設定した計測値の監視では故障を感度良く検出することは困難である.このことは,一般にプラントの起動時や状態遷移時においても課題となる.本研究の提案手法は,DTWの時間伸縮情報と外部変数の関係を利用する.DTWは多変量統計的プロセス管理(MPCA)における前処理のツールとして,さまざまな長さを有するバッチデータの時間軸を伸縮調整するために使用されてきた.MPCAはこれまでに多くの成功例があるが、発生する故障がプロセスの進行速度のみに影響し,変数間の相関を変化させない場合にはその故障検出能力は限定されたものとなる.このとき,DTWの時間伸縮情報が初期温度や原料濃度などのプロセスの外部変数と相関している場合,それらの間に正常時に成り立つ入出力関係を同定しておけば、故障検出に利用できる.提案手法をペニシリン培養セミバッチプロセスのシミュレータに適用し,その有効性を示した.(2009年9月公開)

第13号 [論  文]
■ 位相勾配検出による干渉縞画像の2次元周波数推定
      東レエンジニアリング・北川克一

 本論文では,位相勾配検出による2次元周波数推定法を提案する.キャリア縞導入方式の3波長ワンショット干渉計測には,干渉縞の正確な周波数推定が重要である.しかし,精度が高く,計算負荷の低い実用的な手法は見当たらない.
 筆者らは,画像の局所位相値が周波数誤差に依存することを利用した周波数推定法を考案した.局所位相計算には既に提案済みの「局所モデル適合法(LMF法)」を使用した.さらに,実装上の問題点として,位相接続を取り上げ,これを不要化する方法を考案した.精度が高く,計算負荷が軽く,2次元周波数の同時推定が可能という特徴がある.また,周波数がゼロ近傍の場合でも適用可能である.計算機実験と実試料実験により,提案手法の妥当性・有効性を確認した.(2009年9月公開)

第14号 [論  文]
■ 3波長干渉計測のためのクロストーク補正
      東レエンジニアリング・北川克一

 本論文では,3波長ワンショット干渉計測のためのクロストーク補正法を提案する.市販のRGB-LED照明装置とカラーカメラを利用して,3波長同時撮像系を構成する場合,各波長間のクロストークは無視できず,その補正は必須である.
 筆者らは,カラーカメラのR,G,B輝度信号が3波長光源による輝度信号の和であると仮定したクロストークの線型モデルを作成し,補正アルゴリズムを導出した.クロストーク係数は,各色のLED照明を個別点灯して得られる画像から,RGB輝度の線形回帰分析により求めた.光源が近似単色光であることを利用した複数の評価法により,補正効果を確認した.さらに,本手法を利用した3波長ワンショット計測法により,1μm段差試料の測定に成功した.高速,かつ,振動の影響を受けないワンショット干渉計測は,オンマシン計測やオンライン計測に適しており,今後,産業界での広い応用が期待される.(2009年9月公開)

第15号 [論  文]
■ Nondestructive Inspection of the Diameter of Reinforcing Bars in Concrete Using an Elecrtomagnetic Wave (Radar)
Yamaguchi University・Halima BEGUM,Masayuki OKAMOTO and Shogo TANAKA

 コンクリート中の異形鉄筋の径計測に,電磁波レーダを用いた手法を提案している.
計測に際しては,レーダを鉄筋に沿って走査し,得られる受信信号を信号伝播モデル法により厳密に解析することにより,鉄筋に沿った節の周期性を計測している.このときの周期長と鉄筋径との関係により径を間接計測しているが,前回報告した通常の走査法では,電磁波がコンクリート面に対し斜め入射していたため,必ずしも節の周期性の情報が正確に得られなかった.
そこで本論文では,レーダをコンクリート面から少し持ち上げた状態(リフトオフ)でレーダを走査させることにより,電磁波をコンクリート面に垂直入射しやすいようにし,これにより鉄筋に沿った節の周期性がより高精度に計測できることになった.つまり,前回の方法に比べ,鉄筋径が非破壊的により高信頼度に計測できるようになった.(2009年10月公開)

第16号 [論  文]
■ Interruption-free Shunt System for Fiber Optics Transmission Line
NTT・Takeshi TSUJIMURA, Koichi YOSHIDA, Kuniaki TANAKA,Kazunori KATAYAMA, and Yuji AZUMA

 本論文では光ファイバケーブルの無瞬断切替システムを検討している.通信ルートを二重化し光信号を一時的に迂回することにより,従来不可能とされてきた通信断を伴わないケーブル切断工事手法を提案した.このシステムでは二重化した通信信号が受信器に同時に到達しないと伝送エラーになるため,2つのルート長を数十mmオーダーで高精度に一致させる必要があり,新たに光路差計測技術と光路長調整技術を開発した.前者は,試験光を用いてパルスの到達時間から距離差を推定する.距離差1m以下では干渉波形をフーリエ解析することにより高精度化を図った.全長15kmの光ファイバルートの距離差を分解能10mmで計測できることを確認した.後者は,光ファイバ通信線の途中に空間通信系(Free Space Optics)を挿入し,その区間の伝送距離を制御することにより光路長を調整する手法である.対向する反射鏡間で光信号を多重反射し,反射鏡をモータ駆動するメカニズムを設計した.試作装置による実験で,通信中の光回線に対して100m以上の距離差の連続調整を分解能1mmで実現した.以上の技術により,1Gbit/sのブロードバンド通信系をフレームロスを発生することなく切り替えることに成功した.
(2009年12月公開)

《特集 プロセス制御応用》
(第8巻第19号 [開発・技術ノート]
■ 製紙会社での計測制御に関する取組み
王子製紙・森 芳立

 計測制御は製紙会社でも重要な技術分野の1つであり,定常操業時のプラント運転の自動化,生産効率の向上,生産コストの低減,製品の品質向上などが大きな課題とされている.また,実際の工場操業では,定常操業時の安定性だけではなく,製品変更や生産量変更など,操業状態が不安定となる操業変更前後の非定常操業時にも高い生産効率や即応性を維持していくことが求められている.本報では,それらに対して,紙パルプ生産工程の上流に位置する生産計画問題から,製造工程の流れに沿って,パルプ工程,抄紙機工程,そして,最下流に位置する仕上げ工程の物流問題まで,紙パルプ生産工程で取組んだ事例についてダイジェスト的に述べてみた.(2009年12月公開)

第20号 [開発・技術ノート]
■ グリッドコンピューティングで解く企業利得評価モデル
法政大学・坂本憲昭,武智一貴,小沢和浩,新村隆英

 企業の利得評価モデルは,企業がその市場に参入して利得を得るか損失となるかなどの戦略分析,また,すでにその業界で利得を得ている企業については,その組織形態の分析などに用いる.このモデルが成立しているとみなすためには,目的関数の値をほぼゼロにする8個のパラメータ値を求める必要がある.本研究の目的は,このパラメータを探索することにある.現状では1データを計算するのに,ほぼ1日を要することが課題のひとつになっている.
 一方,計算時間の短縮を実現する手法として,グリッドコンピューティング環境がある.著者らはこの環境をパソコン実習室に導入し,いくつかのモデル計算時間の短縮と,導入および保守コスト低減の検証等をおこなってきた.
 そこで,本研究のモデルをグリッドで計算することにより,20データの結果を一度に容易に得られることを示し,研究の迅速化を示す.1台の高性能なパソコンに比べ,グリッドで用いるパソコンは性能が劣るために,1データあたりの計算時間は長くなるが,一度に20データの計算を一斉に行うことができるため,結果的に約15倍の効率化を図ることが可能になった.(2009年12月公開)

第21号 [開発・技術ノート]
■ 液化天然ガス(LNG)ローリー出荷基地 能力増強に伴う計装設備対応について
      東京ガス・竹内文郎

 東京ガスは,首都圏に都市ガスを供給するための3つの都市ガス製造工場を有している.工場では,桟橋に接岸したタンカーから液化された天然ガス(LNG)をタンクに受入れ,気化させ熱量を調整し都市ガス特有の臭いを付けた後に,都市ガスとしてガス導管を通じてお客さまにお届けしている.
 当社は,都市ガス製造工場からのガス供給だけでなく,ガス導管が通じていないお客さまに対して,都市ガス製造工場でLNGをローリー車に積み込み,現地でLNGを都市ガスにしてお客さまに供給する事業を展開しており,近年天然ガスの環境優位性等から,その需要が増加している.
 当社のローリー出荷は根岸工場と袖ヶ浦工場で行っており,そのうちの根岸工場で保有している出荷口数では想定されるLNG販売量拡大への対応が困難なことが懸念され,より効率的かつ柔軟な出荷業務を構築するため,出荷口を増設することとした.
 本運用を実現するに際し,ローリー出荷場の緊急遮断弁が閉となった時のメインラインの圧力上昇等の課題があった.
 本課題に対しシミュレーション解析および解析結果に基づいた実機テスト,そして対策を実施した.
(2009年12月公開)

第23号 [開発・技術ノート]
■ 都市ガスの高圧幹線圧力制御のシミュレーション
東京ガス・林 浩幹,山武・松岡 研一

 東京ガス(株),首都圏を中心とした約1,000万件のお客様に都市ガスを供給している.当社では,近年需要拡大を続けるガスを安定的に供給するため,高圧幹線網の拡張を行っている.高圧幹線は,材料技術の発展に伴いその設置年度に応じて圧力仕様が異なり,この差を吸収するために既設と新設の幹線の間に減圧弁を設置する必要がある.その結果,複数の減圧弁で1つの管体圧力を制御することとなり,高圧幹線網の拡張に伴い圧力制御が複雑化している.
 今回,新たな高圧幹線および減圧弁を設置するにあたり,動的シミュレーションを開発し,高圧導管網全体の圧力制御性および流量制御性の検討を行った.その結果,減圧弁を安定制御できる適正な制御パラメータを算出することができた.本検討結果に基づき,減圧弁の運用開始時に解析したパラメータを現場装置に適用することで,調整期間を短縮すると共に,高圧幹線網の安定制御を実現することができた.
(2009年12月公開)

第24号 [開発・技術ノート]
■ プロセス動特性同定ツール
東芝ITコントロールシステム・魚谷一則
    東芝三菱電気産業システム・江木博志,重政 隆,根岸靖典

 プロセスの制御においては,PID制御を用いて制御を行うことがほとんどであり,そのパラメータチューニングの多くはいまだ専門技術者の経験に頼っているのが現状である.この解決策として,チューニングが簡易でありかつ高精度な制御を可能とするコントローラとして制御器内にモデルを内蔵するモデル駆動PID制御があげられる.モデル駆動PID制御を用いることで,長いむだ時間を有するプロセスおよびむだ時間に加えて積分特性を有するプロセスであったとしても,有効な制御を行うことができる.しかし,モデル駆動PID制御を適用するためにはモデルに近似したプロセスの特性把握が必要不可欠であるのに対し,プロセスには長いむだ時間や外乱などの要素が大きく,正確な特性を得ることは困難である.そこで本論文では,プロセスのステップ応答から動特性を同定し,モデル駆動PID制御をプロセスに効率よく適用するためのツールの開発事例を紹介する.なお,本ツールは操作出力から制御量への動特性を同定するばかりでなく,外乱から制御量への動特性や,積分特性と無駄時間が組み合わさったプロセスの動特性も同定することができる.(2009年12月公開)

第25号 [論  文]
■ 溶剤回収システムの省エネルギーの一方法
      富士フイルム・浦田昌裕,東京工業大学・香川利春

 本研究は活性炭を吸着剤とする溶剤回収装置のエネルギー効率の改善方法を提案する.
 吸着剤である活性炭は,溶剤を吸着させたあと脱着を行って繰り返し使用する.この脱着には,多量の蒸気が使用されている.設備の制約上,使用する蒸気は調節弁でほぼ大気圧に減圧して使用するが,減圧後の蒸気温度は管理されていない.
 しかし,この調節弁においてJoule-Thomson効果による温度変化が生じる.これにより蒸気の熱利用効率が低下することに着目して,これを補償し,省エネルギーを達成する方法の要点はつぎのごとくである.
 1. 工場の蒸気配管において各装置に蒸気を供給する弁における圧力降下は,Joule-Thomson効果による温度変化をともなう.それは溶剤回収で使用する蒸気の温度,圧力の範囲では,10-20Kの温度降下となり,溶剤回収装置のエネルギー効率に対して大きな影響がある.
 2. 溶剤回収装置のエネルギー効率は,蒸気を吸着塔に連結する減圧弁の下流に再加熱装置を設置して,温度を再上昇させることにより,大きな改善をすることができる.
 3. 再加熱のために,蒸気配管の高圧蒸気を用いる熱交換器を導入すれば,設備費と運転コストの総計の評価において,経済的に有利な装置とすることができる.(2010年1月公開)
copyright © 2010 (社)計測自動制御学会