論文集抄録
〈Vol.46 No.1(2010年1月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
特集 次世代ヒューマンーマシン・システムインテグレーション;PartU
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
[論 文]
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■ 自律的行動獲得による仮想ロボットの開発
北海道大学・山本雅人,岩館健司,
大江亮介,鈴木育男,古川正志
本論文では,仮想空間内で自律的に行動することが可能な仮想ロボットの開発に焦点を当て,モデリング・シミュレーションの統合ソフトウエアの開発,流体の抗力を考慮した水中や空中環境の実現のために近似流体環境の構築,GAやPSOなどの最適化手法を用いたANNの進化について述べた.実験結果から,本論文で提案したソフトウエアの有用性を示すとともに,計算時間のかからない近似流体環境によって水中や空中環境を近似的に表現することが可能であることを示した.特に,サラマンダーロボットについては,どのような行動が評価値を高めるか,といった指針がない中で,水中・空中環境の双方で妥当で効率の良い歩行行動や遊泳行動が獲得できた点は,ANNとGAやPSOなどの組み合わせの有効性を改めて示したといえる.
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■ 自律型無人ヘリコプタの環境適応方位制御
京都大学・中西弘明,金田さやか,
椹木哲夫,堀口由貴男
自律型無人ヘリコプタにより飛行型レスキューロボットを実現するためには,飛行制御能力の向上による信頼性の向上が不可欠である.このためには風など
環境変化に適応して制御を施すことが重要な役割を果たす.本稿では,方位角制御に着目し,風向・風速や機体の運動方向に応じて適応的に方位角を変化させる方法を提案する.
提案手法では,ロール角とヨー角の相互作用に着目し,目標方位角に追従させる方位制御系のアウターループとして,ロール角とその角速度をフィードバックする多重ループにより機体の振る舞いから目標方位角を算出する適応的目標方位角生成する.開発した自律型無人ヘリコプタを用いた飛行実験より,提案手法を用いることにより風向や対気速度方向に合わせて適応的に機首方向を変化させることができることを示した.
また,機首を対気速度方向と合わせることにより,飛行制御の劣化を抑制することができることを確認した.
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■ Linux標準機能を利用したRTミドルウェア周期実行機能のリアルタイム化−ハプティックジョイスティックによる全方位移動電動車椅子操縦システムへの適用−
千葉工業大学・清水正晴,戸田健吾,
林原靖男,大和秀彰,古田貴之
RTミドルウェアを用いてさまざまなロボット用ソフトウェアモジュールが開発されている.しかし,RTミドルウェアにはロボット制御に必須のリアルタイム処理を実現する機能は含まれていない.そこでLinux標準機能として実現されているリアルタイム対応カーネルとPOSIXライブラリを利用することでRTミドルウェアの周期実行機能をリアルタイム化した.これら標準機能を利用する利点として,1)
メインラインで開発されているLinux,RTミドルウェアをそのまま利用可能なため新機能への対応性や保守性が良い,2)
RTミドルウェアがPOSIXを採用するリアルタイムOSへ移植された際にリアルタイム機能の移植が容易,が挙げられる.このリアルタイム化されたRTミドルウェアを用いてハプティックジョイスティック2台によるマスタ・スレーブシステムを実現することで本手法の有効性を示す.また,上記で作成されたRTコンポーネントを再利用しハプティックジョイスティックにより操縦可能な全方位移動電動車椅子システムを提案手法を適用したRTミドルウェアを用いて構築した.構築したロボットシステムを用いて,RTコンポーネントの再利用や交換について具体的に説明し,再利用性を向上させるための取り組みについても述べていく.
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■ 厚肉円筒モデルに基づく心室壁の非侵襲硬さセンシング
大阪大学・東森 充,小塩 豪,竹田泰治,
坂田泰史,山本一博,金子 真
心臓は硬くなるにつれて負担が増大するが,心臓の硬さを正確に評価しようとすると,心臓の動きと心臓内の圧力の両者を計測する必要がある.このうち心臓の動きについては超音波診断装置で計測できるものの,心臓内の圧力についてはカテーテルを挿入しない限り正確な測定は不可能である.このような侵襲方式の診断は,患者に負担をかけるとともに煩雑な作業を要するため,非侵襲で心臓の硬さを評価する方法が強く望まれている.以上の点を踏まえ,本研究では,非侵襲方式による心室壁の硬さセンシング手法について議論する.拍動運動中の心室壁のひずみと外壁部変位情報に着目し,内外圧を受ける圧肉円筒モデルに基づいた硬さ評価指標を提案する.最後に,左心室の超音波映像を利用した非侵襲硬さセンシングの可能性と医療診断への応用性について検証する.
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■ 粘弾/塑性変形分離に着目したレオロジー物体のアクティブシェイピング
大阪大学・東森 充,吉本佳世,金子 真
食品などのレオロジー物体は,外力の与え方により,一時的で後に復元する変形(弾性変形)と永久的な変形(塑性変形)のバランスが変化する.塑性変形は,食品の見た目を魅力的な商品として維持するための要素となるだけでなく,実際に消費者が口にした際の食感に影響を及ぼす繊細で重要なポイントとなりうる.以上の点を踏まえ,本研究では,レオロジー物体のアクティブな成形問題について議論する.対象物のダイナミックな変形特性を4要素粘弾性モデルで近似し,粘弾性変形と塑性変形の関係を明らかにする.続いて,ハンドリング後に対象物に残存する塑性変形量を,接触力積分値に着目して能動的に管理する手法を提案し,実機実験により有効性を確認する.
[ショート・ペーパー]
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■ 防災用飛行ロボットシステムの開発と適用
東京大学・谷口弘樹,吉松祐香,森田 学,鈴木真二
三菱電機・廣川 類,実松洋平
早稲田大学・鈴木太郎,橋詰 匠
宇宙航空研究開発機構・久保大輔
空中撮影は災害時の状況把握に欠かせない手段である.衛星や有人航空機が現時点で活用されているが,解像度や即時性,撮影コストの問題がある.こうした状況から,迅速にまた手軽に撮影を行う手段,および取得データの処理技術に関するニーズは大きい.そこで東京大学,早稲田大学,三菱電機は防災用に簡便に利用できる無人航空機による空撮システムの研究開発を2004年から開始し,各種試用,評価を経て「防災用飛行ロボットシステム」を開発した.安全性と手軽さを重視した重量数キログラムの防災用無人機(飛行ロボット)と,撮影データを有効に活用するための高度なデータ処理ソフトウェアを組み合わせて効果的な空撮システムを確立した.
その有用性を検証するため2008年2月には江戸川において堤防計測を行い,RAMS-eや計測車両によるレーザ測量に比べ,非常に高密度の高度データを取得することができた.またその精度も測量手段として十分なものであった.
▲ ■ つくばチャレンジのための自律移動ロボット:JW-Future
ヤマハ発動機・藤本勝治,梶洋 隆,根来正憲,
吉田 睦,水谷浩幸,斉藤友也,中村 克
2008年11月に開催されたつくばチャレンジ2008に参加するにあたり,著者らが製作した自律移動ロボットJW-Futureについて紹介し,つくばチャレンジ2008の結果とその考察を述べ,企業チームとしての視点から,このような技術チャレンジに参加する意義を示す.
[論 文]
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■ 周期係数離散時間システムの入力ホールド制御
岐阜大学・鈴木達雄
周期係数離散時間システムは,たとえば,周期的に可変なサンプリングレートをもつディジタル制御や複数のサンプリングレートをもつディジタルフィルタ,周期的な通信制約をもつネットワークを有する定係数システム(NCS)のモデルとしてあらわれる.
筆者等は,すでに周期係数離散時間システムに対してサンプルホールド制御を提案した.これは,間欠的にサンプルした状態あるいは出力をある一定時間ホールド(保持)し,周期時変フィードバックゲインにより各時刻での制御を行う方法である.
本稿では,これとは独立に新たな制御則を提案する.本制御則は,各時刻の出力と周期時変ゲインを用いてある一定の周期で入力を更新するものである.入力更新周期内では入力がホールド(保持)されることから入力ホールド制御と呼ぶ.つぎに,入力ホールド制御は,ある種の定係数拡大システムに対する状態フィードバック制御に相当することが示され,これにもとづき,制御則の構成条件と手順を導出する.また,閉ループシステムがどのようなシステムとなるかについても考察する.最後に数値例による具体的設計手順も示す.
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■ 眠気とリラックス状態の差異明確化のための生理指標の検討−異なる照度刺激を用いて−
立命館大学・芝垣佑美,小川 梢,萩原 啓
本研究の目的は,作業に伴う人の状態の変化を詳しく知ることができる生理指標を見つけることである.心拍変動高周波成分(HF:0.15〜0.4Hz)が副交感神経の活動度を示すという研究が進められている。しかしHFのみで副交感神経の活動度を評価するにはいくつかの問題があり,その1つとして,一般的にHFのみでは眠気の高い状態とリラックス状態の違いを区別することは難しいということが挙げられる.そのため,特に疲労等に由来する眠気とリラックスを区別して評価できる指標を見つける研究を進めている.人の状態が異なると思われる2つの環境を照度の違いによって作り出し,そういった指標を見つける研究を行った.30分の認知判断パフォーマンステストを100ルクスと1500ルクスの2種類の照度の下で行ってもらい,心電図・脳波・主観評価等を計測した.それらの結果から活性度や眠気などの異なる2つの状況が作り出せたことが確認できた.また,心電図RR間隔ローレンツプロットを用いた面積Sと中心Cという2指標を使い,さらに上記の2つの状況を細かく分類して考察することで,面積Sと中心Cの2指標を用いて評価することで疲労等による眠気をリラックス状態とは区別して判断できる可能性があることを示すことができた.
▲ ■ コミュニケーションロボットとの対話における交替潜時長と頷き先行時間長の影響評価
東京工業大学・高杉將司,吉田祥平,沖津健吾,横山正典,
金沢工業大学・山本知仁,東京工業大学・三宅美博
われわれは,コミュニケーションにおける言語的側面と非言語的側面の両者がどのように統合され,円滑なコミュニケーションを実現するのか,そのメカニズムを明らかにすることをめざしている.本研究では,人間とロボットの指示・応答対話を取り上げ,ロボット側の発話開始タイミング(交替潜時長)および頷き開始タイミング(頷き先行時間長)を変化させることによって,人間側が受ける対話の印象をScheffeの一対比較(中屋の変法:7段階)を用いて分析した.その結果,タイミングを変化させることによって,対話の印象が大きく変化すること,さらには,その印象のタイミング依存性が評価項目によって多様に変化することが明らかになった.このことから,対話における,タイミングとその解釈との間には,相互に影響を及ぼしあう関係が存在することを示唆した.また,タイミングからの影響は,若年者では被験者によらず一様であるが,高齢者では多様に変化することが明らかになり,高齢者は対話におけるタイミング機構を若年者よりも多様に使い分けている可能性も示唆した.本研究の成果を基に,対話におけるタイミング機構をロボットなどのインタラクションに応用することによって,高齢者のコミュニケーション支援などで大きい有効性が期待される.
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