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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.45 No.11(2009年11月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]


[論  文]

■ 操作応答関係の類似性がモード認識にもたらす影響

京都大学・堀口由貴男,福寿竜一,椹木哲夫

 自動化が高度になればなるほどその機能を実現するシステムが複雑化しユーザを混乱させる危険が増すために,システムの活動状態やその意図を表わすモードをいかに的確にユーザに伝えるかは人間−自動化系の設計において重要である.特に,間断なく注意を割かねばならないタスク環境では,モード管理に要する認知資源がユーザの本来のタスクと競合する可能性が高い.そのような環境下におけるモード認識の頑健性を高めるには,即座に利用可能な外部認知資源を幾重にも用意することが求められる.本研究では,そのための認知的な手がかりとして『操作応答関係』に注目する.操作応答関係とは,ユーザの操作入力とそれに対するシステムの反応挙動の間で成立する対応関係を意味する.認知的な手がかりとして操作応答関係がモード情報の伝達に寄与するには,識別すべきモード間でそれが差別化されている必要がある.これについて,ACC機能を実装したドライビングシミュレータを用いた被験者実験によって,操作応答関係の類似性が自動化システムとの共同作業におけるユーザのモード認識に与える影響について調査する.さらにモード認識を支援するインタフェース設計の観点から,操作応答関係を差別化することの有効性についても検討する.


■ 負荷軽減のための運転支援システムに対する過信をもたらす要因の探究

筑波大学・伊藤 誠

 高度知能化された運転支援システムを確立していくにあたり,ドライバがシステムを過信しないようにすることが求められている.過信の議論をするにあたり,負荷軽減のためのものと,事故回避/被害軽減のものを区別する必要があるが,本研究では,負荷軽減のためのシステムの一例として,Adaptive Cruise Control(ACC)システムに注目し,ACCへの過信がどのように起こりうるのかを論ずる.実験を行った結果,ACCに対して過度に信頼していたと考えられる事例を観察することができた.具体的には,当該ドライバが目を見開いて前を直視した状態で,停止物を無視するACCに制御を任せたままで,渋滞末尾に突入したというものである.このような事象をもたらした要因について,実験で得られたデータから総合的に考察したところ,システムが有する機能の能力に関する信頼が高じて,システムの目的や機能を発揮する方法を誤解するに到りうることが示唆された.


■ 連続鋼板処理プロセスのハイブリッドペトリネットによるモデル化とモデル予測制御

名城大学・小中英嗣,名古屋大学・鈴木達也,
     JFEスチール・浅野一哉,飯島慶次

 本論文では,鉄鋼製品の生産プロセスにおいて冷間圧延や表面処理など,半製品のコイルを複数繋いで新たな処理を行うもの(連続処理プロセスと呼ぶ)を考察の対象とする.
 この種のプロセスは制約条件(容量,速度,加速度の上下限やある条件下での減速・停止など)が異なる複数の設備から構成されており,すべての制約条件を満たしつつ速度を最適に制御することが困難である.現状ではオペレータの経験に生産量が強く依存している.
 このような動作の複雑性もあり,これまで連続処理プロセスに対しモデルベースの制御手法が適用された例は見当たらない.本論文では,鋼板の制御が連続的な性質(長さ,速度など)と離散的な性質(鋼板の接続,操業の各種条件)双方を併せ持つハイブリッドシステムであることに着目する.まずはじめに,鋼板の流れをハイブリッドペトリネット(HPN)により視覚的・直感的にモデル化する手法を提案する.また,得られたHPNのモデルを混合論理動的システム(MLDS)に変換することにより,鋼板の流れを制御する問題を数理計画問題に帰着する.これにより,連続処理プロセスに対して数値最適化によるモデルベースの制御が可能となる.
 本手法の有効性を数値実験により確認し,有効性および今後の課題双方を結論として述べる.


■ 関節の動きやすさのリアルタイム最適化は大局的最適な腕運動を生成するか?

理化学研究所・吉原佑器,牧野悌也,
     東北大学・冨田 望,矢野雅文

 人間は,環境が突然変化してもリアルタイムに関節の動きを変化させ,手先を頑健に目標位置に到達できる.環境が変化しない場合,運動全体は大局的に最適なものとなる.これら2つの特徴を同時に生成しうる制御手法は,工学的な有用性が高いが,これまであまり知られていない.われわれは,関節の動き易さのリアルタイム最適化に基づく自律分散的制御モデルを提案してきた.このモデルでは,各関節は自己の動き易さを検出しながら,互いにその情報をやりとりすることで,全体としての目標である手先速度を満たしながら,各瞬間で動き易い関節を働かせるように運動を自律的に決定するため,突然の変化に適応可能であった.運動の各瞬間で,動き易い関節を優先的に働かせるこのモデルは,大域的な最適性から見ても好ましい運動を生成すると期待できる.われわれは,3関節腕による16方向のセンターアウトタスクを計算し,代表的な最適化理論であるトルク変化率最小モデル(MTCM: Uno et. al, 1989)と比較を行った.結果は,この予測をおおむね支持しており,提案したモデルの運動コストは13/16方向でMTCMと比較できる程度に小さく抑えられた.この結果は,適応と大域的な最適化は,運動の各瞬間で動き易い関節を優先化させるモデルによって,両立できる可能性があることを示している.


■ 有向グラフを形成するRCPSP群内での資源移動計画

大阪大学・西澤 俊,大橋 優,巽 啓司,谷野哲三

 現代社会では作業の分業化が進み,大規模かつ複雑なスケジューリングモデルが必要となっている.そこで,本論文では既存のRCPSPをひとつのユニットとして捉え,それが複数集まることでより大規模かつ複雑な問題を扱うことを可能とした有向グラフを形成するRCPSP群モデルを導入する.
 また,よりよい企業活動を継続するためには,人材や設備などの資源を有効に活用する必要がある.これらを十分に考慮し,本論文では先のモデルにおいて,ユニット間で制約付きの資源移動を許可する.プロジェクト全体を通じて資源の過不足を考慮し,目的関数に沿って資源の有効利用がなされるよう適切な資源配置を模索していく.この目的関数として,プロジェクトの総完了時刻と,プロジェクト全体の納期ずれコストという2つの観点を扱う.これらの目的関数に対して,効率よく資源移動を行うユニットの選択方法として,資源利用率を考慮する手法などを提案する.これらの手法を用いて,各目的関数に対して適切な資源配置を与えることがその最適化にどのように寄与するのかをシミュレーションし,その有効性を検証する.


■ 作業者の対象系把握に対する形式概念分析

富山県立大学・本吉達郎,京都大学・川上浩司,塩瀬隆之,片井 修

 本論文では,形式概念分析を用いて,作業者のシステム操作における汎用能力を示す概念構造の可視化手法を提案する.まず,作業者の概念構造の可視化に必要なシステム操作と操作目的の対応関係を得るために,表計算ソフトを用いたグラフ描画の操作を対象として調査を行った.調査結果に対して形式概念分析を適用し,コンテクスト表から得られる含意論理が,マニュアル等に記載されていない汎用的なメニュー選択の根拠となる暗黙的ルールを表現すること,また,コンセプトラティスが,作業者が経験的に獲得したメニュー使用の汎用能力の習熟度を表現することを示した.これにより,本手法は,作業者の使用経験から蓄積した,言語化されにくく陰に埋もれて評価されにくかった操作能力や,想定外の操作に至る根拠を示す手法として有用である可能性が示された.


■ 複数の位相変化量を用いる複素Profit Sharing

横浜国立大学・澁谷長史,島田慎吾,濱上知樹

 本論文では,複素数で表現された評価値を用いる Profit Sharing(複素Profit Sharing) と,複数の位相変化量を用いる複素Profit Sharing を提案する.筆者らはこれまで, POMDPs環境において,豊富な計算資源と環境のモデルを仮定せずに文脈行動を効率的に学習する手法として,複素強化学習を提案してきた.複素強化学習には,複素空間で価値を表現すること,エージェントの文脈を表す変数として内部参照値を用いることなどの特徴がある.
 複素強化学習の具体的な実装として,Q-learning の行動価値を複素数として扱う手法を提案してきたが,学習係数や割引率などパラメータの種類が多く,パラメータの設定に多くの試行錯誤が必要であった.そこで少ないパラメータで学習ができる手法の実現を目指し,複素強化学習の原理を Profit Sharing に適用した複素Profit Sharingを提案する.
 ところで,複素強化学習においては,内部参照値が回転する周期と不完全知覚状態が出現する周期の関係が重要な役割を果たす.そこで,本論文では複素 Profit Sharing の提案に加えて,複素 Profit Sharing において内部参照値が回転する周期を制御するパラメータである位相変化量を動的に追加し,内部参照値が回転する周期を調整する手法を提案する.
 シミュレーション実験によって提案手法が有効であることを示す.


■ 複雑ネットワーク環境下における消費者の異質性を導入した外部性を有する製品普及に関する研究

神戸大学・江田 崇,藤井信忠,貝原俊也

 外部性を有する製品の市場では技術的に優れた製品が必ずしも普及するとは限らない.このため,この現象を解明するためにしばしば市場のモデル化と計算機によるシミュレーションが行われてきている.先行研究においては複雑ネットワーク環境下におけるマルチエージェントシステムを用いた実験が行われ,その有効性が確認されてきた.本論文では複雑ネットワーク環境下におけるマルチエージェントシミュレーションに消費者の異質性を導入したモデルを提案し,計算機シミュレーションによって消費者の異質性と消費者間のネットワーク構造が製品普及に与える影響を検証した.実験結果として,製品の購入に対して抵抗あるエージェントでも,外部性による効用から製品を購入する場合があることと,媒介中心性の高いエージェントが製品普及に重要な役割を果たすことが明らかになった.


■ スパイキングニューラルネットワークを用いた視覚系の特徴抽出モデルの構築

大阪電気通信大学・木村一郎,
    京都工芸繊維大学・黒江康明,
    大阪電気通信大学・小寺広倫,村田智哉

 本論文では,ヒトやサルなどの高等動物の視覚系の情報処理過程のうち工学的な応用にもつながる特徴抽出機構に注目し,スパイキングニューラルネットワーク(SNN)を用いて,特徴抽出モデルを構築することを目的とする.ここではサルの第一次視覚野と動きの領野でみつかった,それぞれ運動方向選択性を持つニューロンと動的視差に反応するニューロンに対応するネットワークを構成し,それぞれの応答特性に対応した特徴抽出モデルを構築する.提案したSNNモデルは,いずれもきわめてシンプルなネットワーク構成で,視覚系の特徴抽出機構の2例のみへの適用にすぎないけれども,生体のニューロンの特性を的確に捉えている.これは脳の情報処理のモデリングにSNNが有効なツールであることを示唆している.したがって,視覚系にとどまらず,ほかの神経生理学的な知見にもSNNを適用していくことが必要で,その積み重ねにより,将来脳の高次機能のメカニズムの解明につながることが期待できる.また,工学的な応用の面から考えると,刺激に対して単純に応答すると想定したニューロンを光センサなどに置き換えることにより,今後生体に近いセンサシステムを実現できると考える.


■ RBF出力関数を有するRCEニューロンモデルとその性能評価

松江工業高等専門学校・幸田憲明,
     大阪大学・河合祐司,兵庫県立大学・松井伸之

 RCEネットワークはあらかじめニューロン数を設定することなく必要に応じてニューロンを生成追加してクラス分類を行うことができるニューラルネットワークであるが,ニューロンを多く生成して計算リソースを冗長に消費してしまう欠点があった.そこでニューロンの出力関数にRBF関数を導入し,ニューロンの生成数を抑えるよう図った新しいRCEモデルについて,小規模な分類問題であるアヤメ分類問題から大規模なデータベース分類であるシャトル問題を利用してその分類性能評価を行った.また追加学習についても同様に性能を評価した.
 評価の結果,あらかじめネットワーク構造の定義が困難であり,随時分類データを追加で学習,計算リソース消費を抑える必要もある実環境下において,新しいRCEモデルが有効な学習モデルの1つである結果を得ることができた.


 
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