論文集抄録
〈Vol.45 No.4(2009年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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■ 歩行中の足の特徴断面の3次元形状計測
産業技術総合研究所・木村 誠,持丸正明
産業技術総合研究所/カーネギーメロン大学・金出武雄
人体形状の計測は衣料,自動車など多くの製品設計に役立っている.本研究は,靴の設計に役立つ足の形状計測を目指すものである.人間が歩行,走行する際に足が変形することは明らかであり,靴の設計において運動中の足の形状計測は重要であると言える.本論文では立脚区間(踵が接地してからつま先が離地するまで)に着目し,立脚区間中の足の特徴断面の形状を計測する.足の特徴断面とは,解剖学的特徴点(骨の位置など)によって定義されるものであり,たとえば靴のJIS規格などにも利用され,バイオメカニクスの分野でも特徴断面に基づくパラメータ(周囲長,幅など)は広く用いられているが,運動中の特徴断面の計測法は過去に存在しなかった.提案手法は,計測対象とした4つの特徴断面にあらかじめ赤,緑,黄,青の4色で描線し,歩行中の被験者の足を撮影した映像から,多眼ステレオ法でフレームごとの断面形状を計測するものである.多数のカメラ画像間で矛盾しないような対応点を求めるため,相互相関演算に加えて非線形な条件を用いている.本研究は静止状態における足形状計測装置と同レベルの精度を想定しており,誤差1mm未満を目標とした.実験において,目標精度が達成できたことが確認されている.
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■ 2乗和多項式に基づくクレーンのゲインスケジュールド制御
南山大学・青木卓也,高見 勲,大石泰章
本論文ではパラメータに非線形に依存する制御対象であるクレーンに対して保守的でないGS制御器の設計を行う.具体的にはGS制御器の設計問題をロバスト半正定値計画問題に定式化し,これを2乗和多項式を使って解く.2乗和多項式を使う解法は漸近的に厳密なので,いくらでも保守的でない設計が可能である.これらのアイデアの基本的な部分は先行研究に示されているが,設計が保守的でなくなるにつれて計算量が大きくなるという理論的問題があり,具体的な応用は遅れている.本論文では,クレーンという具体的な制御対象にこの方法を適用してその実用性を評価した.その結果,今回扱った問題に対しては実用的な計算量の範囲で十分良い設計結果が得られることがわかった.設計した制御器の良さはシミュレーションおよび実験室における実験によって確認した.
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■ コミュニケーションロボットとの対話を用いた発話と身振りのタイミング機構の分析
東京工業大学・熕凵@將司,金沢工業大学・山本 知仁,東京工業大学・武藤 ゆみ子,
金沢工業大学・阿部 浩幸,東京工業大学・三宅 美博
われわれは,人間のコミュニケーションにおいて,多様なコミュニケーション・チャネルがどのように統合され,円滑なコミュニケーションとして実現されるのか,そのメカニズムを明らかにすることをめざしている.本研究では,対話におけるコミュニケーション・チャネルの重層性を考慮することによって明らかにされた発話と身振りのタイミング機構を,人とロボットのインタラクションとして再構成し,その影響を質問紙法によって評価した.特に,指示・応答対話におけるタイミング制御モデルを構成し,このモデルの有無の違いを評価する対比実験を行い,タイミング制御が対話の印象に対してどのような影響を及ぼすかを分析した.その結果,このタイミング制御の有無によって,対話の印象に差が現れることが示された.特に,高齢者においてこの差が顕著に現れ,タイミング制御モデルを搭載したロボットとのインタラクションが好ましい印象を与えることが明らかになった.このことから発話と身振りのタイミング機構という時間的構造が,対話において重要な役割を担っていることが実証された.さらに、タイミング制御によって言語的メッセージの解釈に変化が生じることも示された..
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■ ビデオ画像を利用した新生児運動のマーカーレス・モニタリングシステム
広島大学・島 圭介,大澤裕子
産業技術総合研究所・ト 楠
広島大学・辻 徳生,石井 抱,松田浩珍
麻布大学・折戸謙介
国立循環器病センター・池田智明
野田産婦人科医院・野田俊一
従来より,新生児の運動異常と障害との関連性が指摘されており,動画像を用いた運動解析や評価が行われてきた.しかしながら,運動の解析と評価を行うためには新生児にマーカーを装着したり,固定具を使用する必要があり,おもに新生児への負担の問題から長時間の計測は困難と考えられる.本論文では新生児運動の定量的評価を目的とした新生児運動計測・解析システムを提案する.提案システムでは,マーカーレスで撮影した画像を背景差分画像とフレーム間差分画像に変換し,各画素数をカウントすることで体位や運動の時間変化を抽出する.また,抽出した特徴量から活動量,運動量などの全身の運動に関連する評価指標を求め,画像,特徴量とあわせて医師へ提示する.これにより,医師が新生児の状態を直感的に把握でき,診断の支援や障害・病症の早期発見につながる可能性がある.
実験では,満期出産児,および低体重出生児(出生体重2500[g]以下)を対象とし,動画像から特徴量や評価指標を抽出して評価を行った.その結果,低体重出生児では活動量や四肢間の協調性が低くなり,満期出産児と低体重出生児の運動の差異を定量的に評価できることが明らかになった.
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■ ホットストリップミルにおける鋼板の高精度ダイナミック冷却履歴制御
住友金属工業・中川繁政,橘 久好
ホットストリップミルにおいて,鋼板の品質は,仕上圧延機と巻取機の間にあるランアウトテーブル冷却設備における冷却過程の影響を大きく受ける.したがって,鋼板の品質を一定に保つには,冷却過程における鋼板温度を高精度に制御することが重要である.
そこで,高精度な鋼板冷却制御を実現するために,ランアウトテーブル冷却の新しい制御システムを開発した.開発した冷却制御システムの特徴は以下である.
1) ダイナミック制御機能を活用して実現した,バーニアバンクを用いない新開発の巻取温度フィードバック制御.冷却不安定な温度領域において,バーニアバンクを用いないので,巻取温度の低い鋼板に対しても,安定的にフィードバック制御の適用が可能となった.
2) 鋼板速度の大幅な加減速に対しても,目標とする温度降下履歴を高精度に実現できるダイナミック冷却履歴制御.
開発した冷却制御システムは,2004年7月から鹿島製鉄所のホットストリップミルで実用化しており,本冷却制御により,鋼板の巻取温度の制御精度が大幅に改善され,また,鋼板の温度降下履歴が高精度に管理できるようになり,品質安定化・歩留向上に大きく寄与している.
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