論文集抄録
〈Vol.45 No.1(2009年1月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 4個の正方形コイルを用いた磁気式モーションキャプチャにおける高速位置推定法
九州大学・山口 崇,加嶋良年,笹田一郎
本論文では,おもに人体や物体の局所的な運動の計測を標的とする,4個の正方形コイルを用いた磁気式モーションキャプチャ方式について,陰的な反復計算によらず位置を高速に推定する方法を提示する.時分割で生成され直交3軸磁界センサで測定される3つの磁界ベクトルの内積を用いて,センサの姿勢に影響されないスカラー量を定義し,センサの位置をその逆関数ととらえる.位置座標をスカラー量から陽に計算するため,測定領域の中心点においてこの逆関数をテイラー展開し,さらにその収束領域を広げるためにベクトル・イプシロン・アルゴリズムを適用する.この方法ではテイラー展開の特性により中心点付近で高い計算精度が得られる.反復解法であるガウス・ニュートン法による推定と比較して,計算量は非常に少なく,また磁界の測定誤差に対する位置推定の安定性はガウス・ニュートン法とほぼ同程度であった.この方法を実際に,3軸ホールセンサを用いて試作したシステムに適用し,有効に機能することを確認した.
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■ 脈波,呼吸成分の平均相互情報量を用いた寝姿勢の変化にロバストな無呼吸時間検出法
法政大学・栗原陽介,渡辺嘉二郎,小林一行,
東京医科歯科大学・田中 博
睡眠障害は睡眠の持つ心身の疲労回復の機能を阻害する.中でも,睡眠時無呼吸症候群(SAS)はその多くを占め,日本における有病率は,症状の軽い人を含めると,30歳以上の男性では24%,女性では9%である.SASにより,慢性的に睡眠時の低酸素血症が続くと,高血圧や虚血性心疾患をはじめとする循環系障害,自律神経系異常,ストレス性ホルモン異常などの重篤な疾患を合併し,死に至る場合もある.これらを予防するためには,日々の睡眠時の呼吸状態をモニタリングすることで,SASを早期に発見し,医療機関などでしかるべき処置を施すことが重要である.本論では,空気圧方式を用いて睡眠時の無呼吸時間を検出する方法を提案する.空気圧方式では,無拘束で脈波と呼吸が計測できる.脈波成分に対する呼吸成分は雑音であり,無呼吸状態になり,呼吸成分が減少すると脈波成分に関する平均相互情報量が増加する.この平均相互情報量の変化を閾値として,呼吸の波形に適用することで,無呼吸の時間を推定した結果,ストレインゲージで無呼吸を検出した時間と,提案した方式により検出した時間の誤差のRMSEは3.1sであった.また,閉塞型無呼吸の患者において,医師が判定した
無呼吸の発生回数と,提案方法により求めた無呼吸の発生回数の誤差は3.3回であった.
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■ 時変の通信遅延を有する非線形テレオペレーションのバイラテラル制御
金沢大学・河田久之輔,滑川 徹
本論文では,時変の通信遅延を有する非線形テレオペレーションに対して安定性を保証した2種類の制御則を提案する.提案する制御則はどちらも通信遅延の変化率に依存した速度制御と最大遅延に依存した位置制御で構成されるPD型制御則である.Lyapunov-Krasovskii関数を用いた安定性解析をおこなうことで,システムが漸近安定となるための遅延に依存したゲイン条件を導出する.さらに提案制御則は明確な位置制御機能を有していることから,マスタとスレーブの位置誤差が零に収束することと,スレーブの静的な接触力が操縦者に伝達されることが示される.
最後にシミュレーションと制御実験により提案法の有効性を実証する.
本稿の貢献は,比較的単純な制御則を用いて,時変の通信遅延を有するバイラテラルテレオペレーションを安定に制御できることを示した点にある.
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■ 1次元線形放物形フィードバック制御系における解の減衰評価
神戸大学・南部隆夫
放物形分布系のフィードバック安定化においては通常,系の「状態」が指定された減衰率をもつように制御機構を設計する.その際,状態の任意の線形汎関数は,少なくとも状態と同じ減衰率で安定になる.本文では標準的な1次元放物形フィードバック制御系を考察し,通常の状態安定化のみならず,自明でない状態のある線形汎関数が状態よりも「正確に」速く減衰する特別な制御機構を構築できることを示す.
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■ 射影型反復学習による多変数連続時間システム同定
奈良工業高等専門学校・酒井史敏,
京都大学・杉江俊治
本論文では,反復学習制御を利用した連続時間システム同定法を一般的な多変数系に適用し,対象システムの伝達関数行列表現を同定できるように拡張する.多変数系の伝達関数行列表現にはさまざまな表現方法が考えられるが,本論文では推定するパラメータ数が少なく,かつ事前情報として伝達関数行列のすべての要素に対して分母・分子の次数を与える必要がないという利点をもたせるために,共通の分母多項式をもつ伝達関数行列表現を採用し,同定アルゴリズムの定式化を行った.また,学習更新則および学習ゲインの選択に関しては著者らがこれまでに提案してきた手法をそのまま適用することができることを示し,多変数系に対しても良好な同定結果が得られることを数値例により確認した.
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■ POMDPsでの強化学習における状態フィルタ
新潟県立看護大学/兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所・永吉雅人
神戸大学・村尾 元,玉置 久
強化学習(RL)をエージェントの制御規則の適応的調節・獲得などに応用しようとする試みが盛んであるが,RLの実用化のためにはいまだ多くの課題が残されている.近年,RLの実用化に向けて,RL手法を部分観測マルコフ決定過程(POMDPs)へ適用する試みが多くなされており,多くの接近法が提案されている.しかし,ほとんどの接近法が,膨大なメモリ量や計算時間,設計者の多くの事前知識を必要としていること,またほとんどの手法が連続状態空間を有するPOMDPsに対して有効でないなど,いまだ実用化に向けて問題が解決されていない.
本論文では,RLの実用化に向け,POMDPsへの対応・状態空間のコンパクト化に焦点を当て,MDPsを対象とする状態フィルタを考慮した枠組みを,POMDPsにおける枠組みに拡張を行った.また,対象システムが連続/離散状態空間のどちらを有する場合においても,適応的に履歴情報の記録・参照を行い,繰り返し内部状態の分割・統合することで,POMDPsへ接近する状態フィルタの一実現手法を提案した.さらに,計算機実験を通して,POMDPsへの対応・状態空間のコンパクト化を実現できることを,そして提案手法の有効性・実問題への適用可能性を,それぞれ確認できた.
▲ ■ タイトル
著者
対麻痺者の歩行補助システムの開発において,効率的で安定な歩行補助制御の実現は重要な問題である.本研究では,弾道歩行において後方へ転倒しないための必要条件(弾道歩行の必要条件)について解析した.倒立振子モデルにより導出した弾道歩行の必要条件は,離脚時における重心の位置と速度の間の単純な関係で表現される.筋骨格モデルによるシミュレーションおよび,健常者と対麻痺者の歩行計測実験に基づいて,弾道歩行の必要条件の妥当性を検証するとともに,効率的で安定な歩行パターンについて検討した.シミュレーションの結果は倒立振子モデルの予測と定性的によく一致した.また,健常者と対麻痺者の重心軌道は弾道歩行の必要条件を満たした.健常者の歩行では両脚支持期に正の仕事を必要とし,単脚支持期では倒立振子モデルの弾道運動に従った軌道を示した.対麻痺者の装具歩行においても両脚支持期に正の仕事が必要であったが,単脚支持期では弾道軌道とは異なって負の仕事の大きい軌道を示した.これらの結果から,両脚支持期の間に弾道歩行の必要条件を満たすように重心速度を増加し,単脚支持期では重心が倒立振子の弾道運動に従うように制御することで,後方に転倒することなく効率的な歩行補助が実現できることが示唆される.
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■ 床センサと加速度センサの統計的統合による複数人間同定追跡
大阪大学・池田 徹志, 石黒 浩
産総研・西村 拓一
人間の行動理解や活動支援を行なうために,環境内の人間の位置とIDを取得することは重要な課題であり,センサネットワークを用いた研究が進められている.床センサは環境内の条件変化や遮蔽物に影響されることが少なく,また設置に伴うプライバシーの問題も少ないセンサであるが,人間のIDを観測できない点が問題である.本研究では人間が携帯する加速度センサ情報と組み合わせることにより,効果的にこの問題を解決する手法を提案する.同じ人間の動作を観測した床センサと加速度センサの信号はタイミングが相関して変化することに注目し,両者の相関性を時系列信号の統計的検定を用いて判定することにより,複数の人間の追跡を行う.提案手法の有効性を確認するため複数の人間の追跡を行う実験を行い,床センサのみを用いた手法では曖昧性が生じて追跡に失敗する場合でも,加速度センサを統合することにより正しく追跡を行うことができることを示した.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ ミュラー・リヤー錯視による人間上肢運動の変化
横浜国立大学・小坂 翔,EPFL・原 正之,
近畿大学・黄 健,横浜国立大学・藪田哲郎
本論文では,人間の運動メカニズム解明の一端として,人間の視覚と運動の関係について注目した.視覚情報が運動に及ぼす影響を測定するための手段としてミュラー・リヤー錯視と上肢運動の関係を利用し,脳の認識現象が人間の運動に影響を及ぼすかどうかを検証した.Gloverは,錯視と運動の分野に関しての多くの従来研究を踏まえたうえで錯視は運動のplanningには影響を与えるがcontrolには影響を与えないというplanning-controlモデルという仮説を立てている.われわれはこの仮説に注目し,錯視情報と運動の瞬間的な切り替えという新しい実験方法を用いてこの仮説を検証した.
その結果,ほぼすべての被験者から,事前に反復運動によって体に覚えさせた長さは,視覚情報により脳内に刻まれた偽りの長さに引きずられてしまうという結果が得られた.つまりMuller-Lyer錯視情報は人間の上肢運動に多大な影響を与えていることを明らかにした.錯視情報と運動の切り替えをすばやく行うことによって,錯視は運動のplanningに影響を与えるというplanning-controlモデル仮説と一致する実験結果が得られた.
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