論文集抄録
〈Vol.44 No.11(2008年11月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
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■ 限定的な情報共有環境下における拡張ラグランジュ分解調整法を適用した企業間交渉の最適化に関する研究
神戸大学・貝原俊也,指尾健太郎,神野亘俊
本稿では,競合関係にある企業同士が限定的な情報共有下で協調関係を結ばなければならないため,厳密解法などの集中管理型手法の適用が困難であるバーチャルエンタプライズ(VE)の企業間交渉に対して,拡張ラグランジュ分解調整法を適用した自律分散協調型の企業間交渉メカニズムを新たに提案している.そして,厳密解法である分枝限定法や契約ネットプロトコルを用いた従来手法との比較実験を行っている.その結果,提案手法は,限定的な情報共有環境下においても解の精度や計算時間について効率的な企業間提携を可能とすることを検証し,提案モデルの有効性を示している.なお提案手法は,企業間交渉問題に限らず,社会的交渉を用いたあらゆる資源配分問題への適用が可能となる.
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■ Particle Swarm Optimizationとモデリングを用いた統合的最適化
首都大学東京・河原林 雅,安田恵一郎
本論文では,最適化手法とモデリング手法を結合させた統合的最適化における性能向上を検討した.最適化手法としてParticle Swarm Optimization (PSO),シミュレータとPSOとの間の関数近似手法としてRadial Basis Function Network (RBFN)を用いることより,シミュレータへのアクセス回数を大幅に減少させつつ,高い最適性を持つ解を発見することを実現した.また,サンプル点の追加方法,制約条件の考慮に関して汎用的な性能向上を狙った手法を提案し,数値実験によりその有用性を検討した.
本論文の要点をまとめると以下のようになる.
(1) 実用的な最適化を目指し,最適化手法とモデリング手法を結合させた統合的最適化のコンセプトを示した.
(2) 最適化手法としてPSO,モデリング手法としてRBFNを用い,シミュレータへのアクセス数を大幅に減少させつつ最適化を行うことを実現した.
(3) 可能な限り少ないサンプル点で疎な領域を作らず,大域的最適解周辺を高い精度で近似することを目標とし,新たなサンプル点の追加方法を提案した.また,制約の取り扱いに関して新たなペナルティの付加方法を提案した.そして,典型的なベンチマーク問題を用いた数値実験により提案手法の有用性を示した.
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■ 状況認識の強化とACC機能限界の理解支援のための減速度表示
筑波大学・伊藤 誠
本論文では,Adaptive Cruise Control System (ACC)が稼働中のときの,追突警報に対するドライバーの過度な依存を防ぐ方策を論ずる.直近の自車の減速度の最大値を表示しつつ,現時刻の減速度も表示する,減速度の準実時間表示を行う減速度メータを提案する.この表示によって,ACCが最大減速度に対してどの程度の強さの減速制御を行ったのかを知ることができ,ドライバーが自身でブレーキ介入すべきタイミングを次第に理解できるようになることが期待される.ドライビングシミュレータを用いた評価実験の結果,先行車が急減速をしている状況で,ACCの減速限界に達している時に警報の提示が失敗した場合においても,減速度の実時間表示を利用できるドライバーは迅速にブレーキ操作を行えることを明らかにした.この結果は,減速度の実時間表示によって,警報システムへの過依存を防ぐことができることを示唆するものである.
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■ ビープ音刺激の音圧が覚醒効果に及ぼす影響−サッカードと脳波の解析に基づく定量評価−
東京電機大学・國分志郎,植野彰規,内川義則
ビープ音の音圧が覚醒度の上昇能や維持能に与える影響について,被験者8名に対して定量解析し,検討した.サッカード眼球運動の加速度特性を覚醒度指標とし,実時間で値を算出した.また,値が閾値を下回った場合には70,80,または90dBで刺激を与えた.結果より以下が明らかになった;(1)覚醒度指標の平均増加率は70dBよりも90dBの方が有意に高かった,(2)刺激直後の増加率は90dBが最も高かったが70,80dBとの有意差はなかった,(3)90dBが最も長い覚醒持続効果を示したが,80dBよりも長くはなかった.90dBでは2名の被験者で刺激後7sに覚醒度指標値が有意に低下したため,音刺激に対するリバウンド現象に関して更なる調査の必要性が示唆された.
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■ 患者体表面へのプローブ接触力を考慮した遠隔超音波診断システムのためのインターフェースの開発
東京農工大学・堀口智洋,大籠研介,渡辺弘樹,桝田晃司
われわれは遠隔地にある超音波検査ロボットを駆動させ,診断を行う遠隔超音波診断システムを開発してきた.双方向通信制御により医師は患者側のロボットへ位置指令値を送信し,患者とプローブの接触力をコントローラの反力として感じることが可能である.しかし映像のみでは遠隔地の患者状況の把握には限界があったため,コントローラの指令に対するロボットの状況を正確にモニタリングし,視覚的に遠隔操作を支援するシステムの開発が必要とされた.そこでまずプローブの指令値と実測値をグラフィック環境上に構築することで両者の位置の誤差を可視化できるシステムを開発した.また,患者体表面へのプローブ先端の接触から得られる情報を基に,患者側の環境を医師側に再構成することでプローブと体表面の位置関係の把握が容易となった.さらに,診断に必要な映像の優先度を自動的に判断する映像品質制御を実現したことにより,その状況で重要度の高い映像を精細に表示することが可能となった.そこで,本インターフェースの操作性を検証するため,インターフェースを用いた遠隔操作実験を行ったところ,全員に所要時間の減少が見られ,遠隔超音波診断システムにおける有効性が示された.
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■ 歩行補助ロボットにおける歩幅予測制御のためのヒューマンインタフェース
名古屋大学・香川高弘,宇野洋二,神谷俊光,河村耕造
対麻痺者の日常的な活動(ADL)の改善と麻痺による合併症の予防の観点から歩行補助システムに関して多くの研究がなされてきた.歩行補助において,ユーザの随意的な運動とシステムによる麻痺肢の運動とを協調させるために,ユーザの意図に基づく歩幅の制御が重要である.本研究ではユーザの意図する歩幅を予測して歩行補助ロボットを制御するために,歩行器を用いたヒューマンインタフェースを開発した.ユーザの意図した歩幅がその前の歩行器の移動距離と一致することを仮定して,歩行器の加速度を多項式近似することでその距離を推定する.本論文では,提案するヒューマンインタフェースの検証実験の結果として以下を示す.(1) 歩行器を用いた健常者の歩行において,腕の移動距離と歩幅がほぼ一致する.(2) 多項式近似による移動距離推定法では2階積分による推定法よりも高い精度で腕の移動距離を推定できる.(3) 提案法を実装した歩行補助ロボットを用いて,歩行器の移動距離に応じて歩幅を調整しながら歩行できる.以上の結果から,歩行補助ロボットの歩行パターン調整するヒューマンインタフェースとして,提案法が有効であることが示唆された.
▲ ■ 力場環境下における内部モデルの不完全性とインピーダンス制御による補完
東京工業大学・登美直樹,郷古 学,近藤敏之,伊藤宏司
対象物操作など,外力拘束環境下で腕運動を行う際には,人間の中枢神経系は,内部モデルを用いた制御と筋の粘弾性を利用したインピーダンス制御をフィードフォワード的に協調させて動作させる必要がある.本研究では,腕に加わる外力パターンを複雑化させた際に,人間が学習する環境の内部モデルが不完全となり,その状況下で補完的にインピーダンス制御が使用されることを実験的に示す.これは,制御対象の不安定性や予測不可能性に基づいて使用されると考えられていた従来のインピーダンス制御の制御スキームとは異なる.実験課題として,被験者には力場環境下での2点間到達運動学習を行わせた.この際,回転性の速度依存力場と位置依存力場を線形に足し合わせて合成力場を構成し,これに対する到達運動の適応プロセスを解析した.実験を行った結果,被験者は合成力場に関する正確な内部モデルを学習しておらず,運動前半の速度依存の負荷に対してはインピーダンス制御,運動終盤の位置依存の負荷に対しては内部モデルを用いた制御を主要な補償法として適応していることが示された.
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■ 表面筋電図と膝関節角度からみたスキー運動時の筋疲労がパフォーマンスに与える影響の評価
新潟大学・阿久津俊彦,木竜 徹,村山敏夫,牛山幸彦
近年のスキー事情として,スキー場では,中高年向けのプランが数多く提案されている.用具の安全性や操作性も向上し,誰もがスキーを安全に楽しむための環境が整いつつある.一般的なスキー運動の注意点として,気分の高揚によって疲労に気づきにくいなどといったことが挙げられる.そこで,本研究では,誰もが安全にスキーを楽しむため,表面筋電図と膝関節角度からスキー運動時の運動機能の評価を行った.スキーのターンにおいて最も筋活動が盛んと思われる区間を推定し筋疲労評価を行い,さらに,膝関節角度から膝関節角度差とターン時間を算出しパフォーマンスの評価を行った.また,屋内においてスクワット実験を行い,個人ごとの筋活動の特徴を把握し,スキー運動のパフォーマンスとの関係を探ることとした.その結果,スキーの技術レベルにおける筋疲労の特徴とパフォーマンスについて評価することができた.今後スクワット運動での個人毎の筋活動や動作様式を明確にし,スキー運動との関連性を精査していく必要があることがわかった.
▲ ■ 観測情報量制約下での障害物回避における準最適制御
東京工業大学・齊藤 護,田崎勇一,井村順一
車両などのダイナミクスを有するエージェントが障害物を避けつつ移動する障害物回避問題において,その最適な経路を求める問題は,非凸な許容状態領域下での連続時間動的システムの最適制御問題と捉えることができる.このような問題に対して,時間的・空間的に離散化するアプローチを発展させ,障害物などによる状態拘束に関わる一部の状態変数に対して取り得る値を離散化し,どの離散状態を経由して(判断),かつ経由点間をどのように振る舞うか(運動)を求めるといった,判断と運動の同時最適化問題として定式化し,効率的に解く手法が提案されている.一方,障害物回避問題において,状態の許容領域を観測する際のセンサ側が扱える情報量は実際には限られている.
そこで本研究では,観測情報の情報量に制約があるもとでの観測,判断,運動を最適化するための問題を定式化し,その近似解法の1つを与える.さらに,シミュレーションにより,提案した手法の有効性を検討する.
▲ ■ モバイルマニピュレータの位置と力のハイブリッド制御
豊田工業大学・成清辰生,中川雅史,川西通裕
本研究では,動力学パラメータ(慣性モーメントや質量)が未知で,外乱の影響を受けるモバイルマニピュレータの位置と力のハイブリッド制御系の提案を行った.外乱はその大きさがある有界な領域に入ることを仮定しているが,パラメータについては有界であることのみを仮定した.提案手法は,非ホロノミックシステムが次元縮小化可能であることを利用して,適応制御手法を用いて制御則と適応則を設計するものである.リアプノフの手法を用いて,全座標の有界性,位置軌道追従偏差およびマニピュレータのエンドエフェクタに対する力偏差が原点に漸近収束することを証明した.収束は漸近収束であるため,収束速度は設定できないが,2リンクのマニピュレータを搭載したモバイルマニピュレータを用いたシミュレーションでは,十分な速さで収束することが確認できた.
▲ ■ プラント変数最適ロバストサーボ系に基づく2軸型空圧人工筋アームの軌道追従制御−圧力情報を利用したオブザーバによる追従性能の向上−
京都大学・金盛且洋, 清田将五郎, 蛯原義雄, 萩原朋道
パナソニック・岡崎安直, 小松真弓
本研究では,2軸型空圧人工筋アームの高精度軌道追従制御の達成を目的とする.この目的を達成するために,本研究ではプラント変数最適サーボ系の設計手法を適用し,さらに空圧人工筋内部の圧力情報を効果的に利用することによって制御性能の向上を目指す.すなわち,2つのリンクの間の相互干渉を低減するための圧力情報を利用したマイナーループの適用や,アームの角度と圧力情報との間の関係を考慮した次数を抑えた形の制御対象モデルの導出といった特別な工夫を施す.さらに制御対象のモデル化の際には相対次数にも注意を払うことで,PV最適ロバストサーボ系の重み行列の選定を合理的な形で行なえるような制御対象モデルを導出する.これらに加え,本研究ではとくにオブザーバの設計に着目し,制御入力および制御出力である関節角度情報に加え空圧人工筋内部の圧力情報をも利用したオブザーバを設計することで,制御性能を大幅に向上しうることを実機実験により確認した.
▲ ■ 発現パターンに基づく遺伝子ネットワークの学習による設計法
京都工芸繊維大学・森 禎弘,黒江康明,森 武宏
遺伝子の発現機構を調べることは,生物の仕組を理解する上で重要であり,遺伝子発現の調整機構である遺伝子ネットワークを対象とした研究が盛んに行われている.その1つとして,所望の機能をもつ遺伝子ネットワークを人工的に設計,実現する研究が行われている.本論文では,所望の動作として発現パターン遷移列が与えられたときの遺伝子ネットワークの設計問題,および,制御用遺伝子ネットワークを設計する制御問題を考え,これらの問題を離散時間ネットワークの学習問題として解く方法を提案する.また,遺伝子ネットワークモデルが連続時間区分線形ネットワークモデルで,遺伝子間の相互作用を表わす関数があるクラスの関数であるとき,これらの問題はリカレント高次ニューラルネットワークの学習問題となることも示す.本提案手法は,簡単な拡張で種々の設計問題に適用可能であるという汎用性をもっている.このことを示すためにいくつかの設計問題について提案手法で設計可能であることを示す.また,数値実験を行い,提案手法の有効性を示す.
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