論文集抄録
〈Vol.44 No.5(2008年5月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ノート]
[論文]
[論 文]
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■ ダイナミクスの拡張にもとづいた2自由度平面フレキシブルマニピュレータの手先位置制御
新潟大学・清水年美,佐々木 実,岡田徳次
本研究では2自由度フレキシブルマニピュレータの手先位置制御問題を解決する新たな制御スキームを提案する.フレキシブルマニピュレータの厳密な運動方程式は非線形常微分方程式と偏微分方程式から構成される.一般的な制御系設計法では,モード展開と高次モードの打ち切りなどを施して,偏微分運動方程式の離散化と低次元化を行い,得られた低次元モデルにもとづいてコントローラを設計する.しかし,2自由度フレキシブルマニピュレータは変数分離することができないため,このような低次元モデルにもとづいて導出されたコントローラは十分な制御性能を発揮できない.さらに,入力変数と制御変数が非共配置となるため,問題解決がより一層困難になる.
これらの問題を解決するために,本研究では,厳密な運動方程式にもとづいて,ポテンシャルエネルギの整形とダイナミクスの拡張を用いて出力フィードバックを構成した.得られたコントローラは関節角速度,手先の位置誤差,およびリンク先端のたわみに関するフィーバックから構成され,閉ループ系を目標手先位置に漸近的に収束させることができる.本研究では,理論的な安定解析を行い,閉ループ系の局所漸近安定性を適切なレベル集合とω極限集合を導入することで証明した.
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■ Performance Analysis of Control Systems under Limited Data Rates
Tokyo Inst. Tech.・Hideaki ISHII,
NTT Data Corp.・Chihiro OHYAMA,
Univ. of Tokyo・Koji TSUMURA
本稿では,ネットワークを介した制御系を考え,達成される制御性能と制御対象に関する情報の送信に必要な通信量の間のトレードオフを明らかにする.特に Nair & Evans (2004) で提案された枠組みに従い,制御対象の状態の自乗平均ノルムに対する上界を導出する.1次系に対する数値例を通じて,得られた上界を検討し,ま制御性能と通信量のトレードオフを確認する.
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■ モデルの不確かさを考慮した線形ジャンプシステムに対する出力フィードバックによるロバスト予見H∞追従制御
大阪大学・名倉 剛
本論文では有限時間区間におけるモデルの不確かさを考慮した線形時変ジャンプシステムに対する出力フィードバックによるロバスト予見H∞追従制御問題について考察している.そのモデルの不確かさの構造は予め与えられており,未知行列に関してもその上界は既知であると仮定している.モデルの不確かさの構造に応じて導入した補助システムと補助評価関数に対する補助ゲーム問題の解を求めることにより,予見可能性に応じて2種のH∞追従制御問題に対する出力フィードバック則を提案している.出力フィードバック問題を解くためにFull Information (FI) 問題を介在させ,その結果を利用してOutput Estimation (OE) 問題に帰着させる手法で出力フィードバック問題の可解性を与えるRiccati方程式・その解を用いたコントローラーをそれぞれ提示した.
本論文で提示した理論は有限時間区間においてU. Shakedらによる連続及び離散時間線形システムのロバスト予見H∞追従制御理論を線形ジャンプシステムへ拡張した理論ということができる.本論文で提示した理論はジャンプ時刻に外乱の影響を考慮するシステムにも考慮しないシステムにも適用可能である.
[開発・技術ノート]
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■ On-Off制御系に対する安定化出力フィードバック則の設計法
千葉大学・Daisuke AKASAKA, Kang-Zhi LIU
本稿では,制御対象が不連続なオンオフリレーによって駆動されるオンオフ制御系を扱う.オンオフ制御は,アクチュエータ自身のコストを削減できるといった利点から,産業界から我々の身近な所に至るまで幅広く応用されている.しかしながら,本稿で扱うようなオンオフ制御系において,これまで解析が主として行われており,理論的に厳密かつ統合的な制御系の設計法が確立されているとはいいがたい.また,このようなシステムは多くの非線形現象を内包しているため,より高い性能を発揮する制御系を構築するためには,非線形なフィードバック制御則まで含めて考える必要がある.そこで本稿では,微分包含解により記述されたオンオフ制御系に対して,非線形にまで拡張した安定化フィードバック則の設計法を提案する.まず,状態フィードバックの場合について,閉ループ系の微分包含解の大域的な安定条件を偏微分行列不等式の形で導出する.そして,連立偏微分方程式の解析解に基づいた安定化状態フィードバック則の設計について述べる.さらに,オブザーバを用いた出力フィードバック安定化についての検討も行う.最後に,例題を通じて具体的に非線形な出力フィードバック則を設計し数値例を示す.
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■ 飽和を有する制御系の解析条件の関係性について―マルティプライア/ポリトープ的方法に基づくL2/指数安定性能解析―
大阪大学・木山 健
本論文では,飽和や不感帯の非線形性を有する連続時間線形時不変システムを考え,マルティプライア(S-procedure)およびポリトープ的方法を用いて,2次形式のリアプノフ関数に基づき,このシステムの領域的なL2/指数安定性能の解析方法を提案する.特に,この性能を保証するシステムの初期状態の領域を新しくL2/指数安定性能保証領域として定義する.この解析のため,本論文では初期状態は有界な集合に所属し,また外乱は有界なL2tノルムを持つ集合に所属することを仮定する.結論として,2つの方法による解析問題は,それぞれ線形行列不等式による最適化問題に帰着される.一般的に,マルティプライアに基づく解析条件は,対応するポリトープ的方法に基づく解析条件の十分条件になっていることを証明する.飽和あるいは不感帯の非線形性が単数の特別な場合,マルティプライアによる解析条件は,ポリトープ的方法による解析条件と厳密に等しいことを証明する.したがって,この単数の非線形性を有するシステムの安定解析のこれまでの結果より,マルティプライアによる解析条件は,2次形式のリアプノフ関数を用いた吸収領域に基づく安定解析の必要十分条件を与えることを明らかにする.
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■ 多入力多出力システムの一制御方式(P+quasi-I+D制御)−高ゲイン出力フィードバックに基づく安定化−
慶應義塾大学・田村健一,志水清孝
本論文では,P+quasi-I+D制御による多入力多出力(MIMO)線形システムの漸近安定化制御を研究する.P+quasi-I+D制御は通常のPID制御のI動作にフィードバックパスを付加することで得られる.われわれの目的はP+quasi-I+D制御の安定性を解析し,閉ループ系が漸近安定となるようにPIDパラメータ行列Kp,Ki,Kdと付加行列Dを決定することである.提案手法の安定性解析は最小位相性と高ゲイン出力フィードバック定理に基づく.行列D,Kp,Ki,Kdの値は仮想的なシステムの零ダイナミクスを漸近安定化し,高ゲインフィードバックを適用することで調整される.不安定な多変数線形システムに対してシミュレーションを行い,提案手法の有効性を示す.
▲ ■ 音響信号を利用したカーネル判別器による疲労紙幣検出−Divergence-basedカーネルを用いた時変スペクトル判別−
統計数理研究所・石垣 司,樋口知之孝
Support Vector Machine (SVM)の成功によりカーネル判別器は多様な分野において利用されるようになっているが,高い判別性能を得るためのカーネル関数の選択・設計法に一般的な指標はなく,その性能は与えられたデータの構造・分布に大きく依存する.本論では,2つの確率密度間の類似度を測るカーネル関数であるdivergence-basedカーネルを,時変スペクトルの類似度を測る尺度へ適用する.また,その手法を音響信号を利用した高精度な疲労紙幣の検出へ応用する.ここでは,紙幣の弾き音に注目し,その時変スペクトル構造を特徴量とする.その特徴量をSVMとカーネルBayesian判別器であるRelevance Vector Machineに学習させることにより,疲労紙幣の検出を行う.その結果,一般的によく用いられるカーネル関数を使用するよりも高い検出性能が得られることを実験的に示す.
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■ 認知症高齢者のためのレクリエーションにおけるロボット動作設計の研究
岡山大学・大久保寛基,日立建機・井上和也,
富士通・丸山譲二,筑波学院大学・浜田利満, 早稲田大学・大成 尚
Support Vector Machine (SVM)の成功によりカーネル判別器は多様な分野において利用されるようになっているが,高い判別性能を得るためのカーネル関数の選択・設計法に一般的な指標はなく,その性能は与えられたデータの構造・分布に大きく依存する.本論では,2つの確率密度間の類似度を測るカーネル関数であるdivergence-basedカーネルを,時変スペクトルの類似度を測る尺度へ適用する.また,その手法を音響信号を利用した高精度な疲労紙幣の検出へ応用する.ここでは,紙幣の弾き音に注目し,その時変スペクトル構造を特徴量とする.その特徴量をSVMとカーネルBayesian判別器であるRelevance
Vector Machineに学習させることにより,疲労紙幣の検出を行う.その結果,一般的によく用いられるカーネル関数を使用するよりも高い検出性能が得られることを実験的に示す.
[ショート・ぺーパー]
▲ ■ 設計自由度を陽に含む動的量子化器
熊本大学・岡島 寛,松永 信智,川路 茂保
オンオフ型アクチュエータを用いた制御や通信容量の制約を含む制御においては,量子化された信号に基づいた制御を行わざるを得ない.このような背景から,量子化の影響の低減化のために,入力が離散値に制限された系の出力と理想的な出力との誤差の最悪値を保証する量子化器が提案されている. 本論文では,誤差の最悪値の保証を行い,かつ設計自由度を陽に含む量子化器を提案する.さらに,提案した量子化器の自由度を利用した低次元動的量子化器の実現法を示し,数値例によってその有効性を検証する.
[開発・技術ノート]
▲ ■ ILQ最適サーボ設計法を応用した柔軟構造物の振動制御
岐阜工業高等専門学校・森 貴彦,名古屋工業大学・不破勝彦,森田良文,神藤 久
近年,宇宙産業の発展に伴い,大型宇宙構造物の制御の研究が行われている.このような柔軟構造物の持つ弾性が制御性能の劣化や制御系の不安定化を引き起こす恐れがあり,スピルオーバ現象の回避やロバスト安定化が必要不可欠である.森田らは,木田らの最適レギュレータを最適サーボ系に拡張して,制御入力の高周波成分を抑制するよう前置フィルタ(2次ローパスフィルタ)によるスピルオーバ対策の有効性を実験検証した.一方,藤井らは,モデルの不確かさに対する最適レギュレータのロバスト性に着目して, ILQの解を応用した最適サーボ系の基本構造から,解析することでその系がフィードバックループ内に1次ローパスフィルタを内包することを明らかにした.そこで本稿では,柔軟構造物の位置決め制御を対象に, ILQ問題の解を応用して,1次ローパスフィルタによるスピルオーバ対策の有効性を検証する.本設計手法の主な特徴は通りである.従来法と同様に設計モデルを剛体モードのみとするが,前置フィルタを用いなくても,ILQ最適サーボ系が構造的に内包する1次ローパスフィルタを明示的に用いることで,スピルオーバ対策を図る.その結果,従来法に対して,補償器の低次元化およびフィルタ遮断特性の設計の簡便化も可能となる.
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