論文集抄録
〈Vol.44 No.4(2008年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
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[論 文]
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■ 格子点オブザーバを用いた移動体の自己位置推定
奈良先端科学技術大学院大学・福田寛之,中村文一,樋口宗明,西谷紘一
デッドレコニングとスターレコニングは基本的な移動体の位置推定法であるが,それぞれに欠点がある.これらの欠点を補うためのセンサフュージョンに関して盛んに研究がされており,その一つとして誤差モデルを用いないセンサフュージョン手法である初期状態オブザーバを用いた位置推定法が提案されている. しかしこの手法は移動体の行動範囲が有限であり,移動体がどの程度移動するかを前もって定められない場合には位置推定ができなくなる可能性があるという欠点がある.この移動体の移動範囲が有限であるという問題を解決するために,本稿では初期状態オブザーバを拡張した,格子点オブザーバを用いた移動体の自己位置推定法を提案する.提案手法の自己位置推定精度は移動体の移動範囲によらず,しかも計算量は初期状態オブザーバと比べてそれほど大きくなく,拡張カルマンフィルタよりも十分小さい.しかも,移動体の移動範囲が有限であるような実験においても,初期状態オブザーバを用いた自己位置推定法よりも良好な結果が得られる.
本稿では,初期状態オブザーバが位置推定を行えないような場合でも格子点オブザーバは位置推定を行えることをコンピュータシミュレーションにより検証する.また小型二輪車両型ロボットを用いた実機実験により,拡張カルマンフィルタ,初期状態オブザーバ,提案手法それぞれの手法を用いた場合の移動体の位置推定精度を比較することで提案手法の有効性を検証する.
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■ 線形周期システムに対する周期指定の最小実現
宮崎大学・穂高一条,名古屋大学・軸屋一郎
線形時変システムの実現問題においては,一般に重み行列の次数は,最小実現の次元に等しいことが知られており,実現可能な重み行列は常に最小実現可能である.ただしこの事実は実現の候補として任意の線形時変システムを考えた場合である.したがって実現の候補として与えられた周期をもつ線形周期システムのみを考えた場合,重み行列の次数と実現の最小次元が等しくなるという保証はない.そのため,周期指定の実現問題においては,重み行列の次数と等しい次元をもつ線形周期システムを実現の候補として考えるだけでは十分ではなく,重み行列の次数より大きな次元をもつ実現も考慮に入れる必要がある.本論文では,周期指定の実現問題における最小実現問題,すなわち,指定された周期をもつ線形周期システム実現の中でも最小の次元をもつ実現を求める問題を考える.そしてその問題の解を与える最小実現の構成手順を示し,得られた実現の次元と重み行列の次数の関係を明らかにする.
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■ センサ・アクチュエータ配置を考慮した強正実H2コントローラの設計
大阪府立大学・下村 卓,横河電機・高橋政裕
福井工業大学・藤井隆雄
本稿では,センサ・アクチュエータ配置を考慮した強正実H2コントローラ設計問題を考える.まず,アクチュエータ配置を考慮したレギュレータ設計問題をLMIで定式化し,つぎに,これと双対な,センサ配置を考慮したオブザーバ設計問題をLMIで定式化する.そして,センサ・アクチュエータ配置のみを更新してこれらの問題を交互に解く設計手順を与え,Euler-Bernoulli梁を用いた数値例でその有用性を示す.
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■ 相関型Just-In-Timeモデリングによるソフトセンサの設計
京都大学・藤原幸一,加納 学,長谷部伸治
ソフトセンサはオンライン測定が不可能な品質や重要な変数を推定するために産業界で広く利用されている.しかし,ソフトセンサの推定性能はプロセス特性が変化するにつれて低下する.プロセス特性の変化に対応してモデルを更新する手法として,Recursive PLSなどの逐次的にモデルを更新する手法やJust-In-Time(JIT)モデリングとよばれるデータベースに基づく手法が提案されている.ところが,プロセス特性が急激に変化する場合には,これらの手法は必ずしも有効に機能しない.そこで本研究では,JITモデリングに基づく新たなソフトセンサ構築手法を提案する.提案法では,入出力変数間の相関関係に基づいて局所モデル構築用サンプルを選択する.なお,相関関係の指標としてQ統計量を用いる.提案する相関型JITモデリングの手順は以下の通りである.1) サンプルを時間的にいくつかのデータセットに分割する.2) それぞれのデータセットに主成分分析を適用する.3) それぞれのデータセットに対してクエリ点のQ統計量を計算する.4) Q統計量が最小となるデータセットを選択する.5) 選択されたデータセットよりモデルを構築する.提案法は急激なプロセス特性の変化に適応することができると共に,非線形性にも対応できる.触媒の劣化と再生を考慮した連続槽型反応器のケーススタディを通して,提案法の有効性を示した.
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■ 局所回帰モデルを用いた鋼材の品質制御
JFEスチール・茂森弘靖,長尾 亮,平田直人,南部康司,池田展也,水島成人
京都大学・加納 学,長谷部伸治
複雑かつ非線形なプロセスに対して,Just-In-Timeモデルの一種である局所回帰モデルを応用した製品品質の自動制御手法を提案する.また,本制御手法を用いた品質制御システムを開発し,厚鋼板の材質制御および幅寸法制御へ適用した.提案手法は,局所回帰モデルに基づいて,既に実績値が存在する前工程の情報から,これから操作することが可能な後工程の最適な操作変数を決定できる.また,提案手法においては,実装前に対象プロセスの実績データを用いて類似度関数を調整する1つのパラメータを決定するだけでよく,実装後は最適なモデルパラメータをリアルタイムに自動計算できる.実機での製品生産において,製品品質のばらつきの低減,モデルのメンテナンス負荷の低減に大きな効果があることを確認した.Just-In-Timeモデリングを用いた自動制御を実用化した本システムは,製品品質の向上,製造コストの低減,および従業員満足度の向上に大きく貢献している.
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■ 方位初期条件および操舵機制約を考慮した参照信号の設計―船体の変針操縦への適用―
トキメック・羽根冬希
船舶用方位制御系は保針と変針との機能をもつ.近年変針性能の向上が期待されている.それは指定変針量に到達するだけでなく,船体特性およびアクチュエータである操舵機への操作入力の振幅制限等を考慮した上で指定旋回角速度も満足する軌道計画の実現である.本稿は係る軌道計画を実現する参照信号の設計方法を提案する.参照方位と船体モデルの逆特性からなるフィードフォワード制御とによる変針方法が報告されているが,参照方位のみに着目し船体特性や操舵機の制限特性を陽に組み込んでいない.また半径一定旋回の実現のために船速に応じて旋回角速度を変更する必要がある.その際参照方位に船首方位の角速度,角加速度の初期条件を取り込むことで,連続的な変針動作が可能になる. 係る課題解決のため,参照方位とフィードフォワード舵角とを包括した参照信号を解析手法で設計する.参照方位は変針条件を満足し初期方位をもつ時間関数で定める.フィードフォワード舵角は参照方位と船体モデルとの関係から最大舵角と最大舵速度とを導出し,それぞれを操舵機の舵角制限と舵速度制限とに対応させる.提案した参照信号の設計方法を数値計算で検証した.その結果提案法は変針条件,操舵機の制限条件を満足する軌道計画を実現することが確認できた.
▲ ■ Actor-Criticを用いた遺伝的ネットワークプログラミングの小型移動ロボットの行動生成における性能評価
早稲田大学・間普真吾,平澤宏太郎,
畠山裕之,古月敬之
グラフ構造を用いて解を表現する進化論的計算手法であるGenetic Network Programming(GNP)は,おもに動的な問題に対して解の表現能力と性能の点で優れていることが明らかになっている.また,タスク実行後に実行される進化に加え,タスク実行中に学習を行うことができるGenetic Network Programming with Reinforcement Learning(GNP-RL)も提案されている.本論文では,GNP-RLの拡張手法であるActor-Criticを用いたGNPを提案している.GNP-RLは離散化された行動群の中から最適な行動を選択する機能を持つのに対し,GNP-ACはセンサの情報判定や行動決定に用いるパラメータをオンライン学習できる特長がある.シミュレーションではGNP-ACをKheperaシミュレータのコントローラに適用し,壁伝い行動の学習を行いその汎化能力の評価を行っている.
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■ 大規模センサネットワークのためのAnt-Based Routingアルゴリズムの高度化
武蔵工業大学・宇谷明秀,織戸英佑,
熊本紋子,山本尚生
無線センサネットワーでは,たとえば電源容量などのリソースに制約のあるセンサノードを観測領域内に数多く配置し,各ノードのセンシング情報をノード間の無線通信によってシンクノードに集めることで,大規模領域の環境観測を実現する.このような利用環境の下で,無線センサネットワークの長期間運用を実現するためには,経路制御やデータ転送の効率性だけでなく,電力消費や故障によるノードの離脱やそれに伴う追加,またアプリケーションによっては移動といったネットワークの構成変化への適応性をも有する経路制御方式が必要となる.本論文では,大規模無線センサネットワークのためのアリの採餌行動に着想を得た新しい動的経路制御方式を提案する.アリの採餌行動に基づく経路制御方式は,一般に経路制御に関するノード処理負荷が軽く,制御アルゴリズムも簡便であるため,本論文で対象とする大規模センサネットワークにおいては有用な枠組みである.しかし,アリの採餌行動に基づく既往の最新の経路制御方式においても,ネットワークの構成変化への対処が不十分であり,制御通信量に関しても改善が必要であると考えられる.本論文ではこれらの問題点を改善する新しい動的経路制御方式を提案し,シミュレーション実験を通して提案方式の有効性を実証した.
▲ ■ ロボットアームの動的な操作性能に及ぼす重力の影響
防衛大学校・八島真人,山脇 輔
本論文では,重力の影響を考慮に入れてロボットアーム・システムの入出力関係における動的過程に着目し,ロボットアームの制御精度の観点からその操作性能を評価する手法を提案する.まず,ロボットアームの線形ダイナミクスモデルから得られる出力可制御性行列を用いて,規格化された関節駆動力の集合に対する平衡点からの手先位置・姿勢の変化を表す集合は出力可制御性楕円体によって表されることを示す.そして,出力可制御性楕円体と制御精度の関係を明らかにし,ロボットアームの性能指標を導出する.シミュレーションにより,ロボットアームの操作性能において重力負荷の影響を考慮することの重要性を示す.そして,条件数指標ができるだけ大きくなるように軌道計画を行うことで,制御精度を改善できることを示し,重力を考慮した軌道計画の有用性を明らかにする.提案指標は線形システム理論に基づいているため,特定のクラスのロボットアームに依存せず,いろいろなロボットシステムへの本手法の適用が期待できる.
▲ ■ 歩行経路観測に基づく重要点抽出による移動ロボットナビゲーション
東京大学・佐々木 毅,橋本秀紀
本論文では,人間の生活環境における移動ロボットのナビゲーションに適した地図構築と経路生成を行うことを目指し,人間の歩行経路観測に基づく手法を提案する.これを行うためには広域での人間観測を実現する必要があるため,知的センサが分散配置されたインテリジェント・スペースを利用することとした.
人間が何らかの目的をもって移動する場合,経路の始点と終点にはその目的に応じた意味があり,空間における重要な点であると位置づけられる.そこで,人間の観測から頻繁に訪れる点などの重要点を抽出し,これらをノードとし,重要点間の移動の有無に基づいてエッジを付与したトポロジカルマップを構築した.また,本論文では,人間が頻繁に使用する歩行経路は効率的かつ環境のルールが含まれた経路であると考える.そのため,重要点を結ぶ人間の歩行経路から平均的な経路を主要経路として抽出し,これを移動ロボットの重要点間の移動経路として利用することとした.
さらに,獲得した環境地図及び主要経路を用いた移動ロボットナビゲーションを行った.インテリジェント・スペースによる移動ロボット支援システムを構築し,移動ロボットを主要経路に沿って正確にナビゲーションすることを実現した.
▲ ■ 整形外科用骨切除装置における動的制御型加工法の提案
東京大学・杉田直彦,中島義和,光石 衛
骨切除ロボットを含めた人工関節置換術支援の加工システムとその装置には,主として手術の低侵襲性,加工装置としての安全性,骨の高加工精度と加工の高能率化などが要求される.本研究が金属加工などで行われている適応制御と基本的に異なるのは,主としてつぎの2点である.
まず,最初に挙げられるのは,異なる材質の骨材の連続切削ということである.すなわち,切削する骨組織が工具進行経路に沿って皮質骨から海綿骨へ連続的に変化し,続いて海綿骨から皮質骨へと変化するが,この両者の骨組織がまったく機械的性質を異にする点である.そのことから,本研究は,工具の送り速度を適応的に制御することにより,切削時間の短縮を図りながら,工具と骨の衝突による骨と工具の損傷を回避しようとするものである.
つぎの特徴は,決められた工具経路に沿って最初に工具が皮質骨に向かうとき,工具はいきなり皮質骨に高速で衝突しようとするが,その工具空転時に切削開始点を予測制御して工具と皮質骨の衝突にともなう危険を回避することである.
このように本研究は,骨の組織とその機械的特性に応じて切削力の観点から加工条件を適応に制御することにより,加工損傷を避けながら手術時間を大幅に短縮することを目的としている.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ ステップドFMレーダにおけるSCR改善手法
金沢工業大学・西山文夫,村上秀男
本論文では自動車用センサとして注目されるステップドFMレーダにおいて受信信号からマッチドフィルタを設計する手法を提案する.提案手法ではまず受信信号から目標の反射信号(目標信号)の相関関数を推定する.そして,その相関関数を離散フーリエ変換することでマッチドフィルタを導出する.
電波暗室内で60GHz帯レーダを使用してコンクリート平板を路面クラッタに,コーナリフレクタを目標に見立てて反射信号を計測した.提案手法では取得した目標信号の数が十分に多い場合にマッチドフィルタを正確に設計できる.しかし,目標の存在は当然未知であるために受信信号として潜在的に取得する目標信号の数が十分でない場合が考えられる.そこで1バーストの受信信号における目標信号の数をパラメータにしてシミュレーションにより提案手法でマッチドフィルタを設計した.そして設計したマッチドフィルタのSCRの改善比を求め,提案手法の性能を確認した.
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