論文集抄録
〈Vol.44 No.3(2008年3月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 標準放射温度計のレンジ比の測定とその安定性
産業技術総合研究所・佐久間史洋,馬 莱娜
0.65mm及び0.9mm放射温度計は高温域での標準温度計として使用される.通常これらの放射温度計は広い温度領域を測定するために3つから5つのレンジを有する.標準放射温度計の値付けでは各々のレンジではなく,1つのレンジで目盛付けを行う.異なるレンジ間はレンジ比を用いて目盛を計算する.そのためレンジ比の値は校正不確かさに大きな影響を及ぼすので,精密に測定することが必要である.3種類の放射源を用いた測定法と測定例,長期安定性及び目盛の不確かさへの寄与について他の波長を含めて報告する.例えば時定数が0.5sの場合0.01%のレンジ比値を得るには待ち時間が5s以上必要なことが分かった.また,レンジ比の測定値に出力依存性があるので,低い放射温度計出力でレンジ比を測定するのは避けた方がよい.レンジ比の値については,名目値に比べて1%程度でばらついており3%ずれているものもあった.レンジ比の長期安定性については,1年間で0.01%以内に収まる場合がほとんどであるが,まれに0.1%急に変化した場合もある.また,長期的に0.01%/年程度でドリフトする傾向の放射温度計も見いだされた.しかし,0.65mm放射温度計で見られた出力の安定性0.2%/年を考えると,レンジ比は十分安定であるといえる.
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■ Features of a New Controlled-Clearance Pressure Balance and In Situ
Mass Calibration of Its Weights
産業技術総合研究所・梶川宏明,小畠時彦,大岩 彰
現在,産業技術総合研究所 計測標準研究部門では,1GPaまでの圧力標準を高度化するため隙間制御型重錘形圧力天びんの開発を進めている.この圧力天びんは,合計1100kgにもなる複数の重錘を個別にピストンに加除できる自動制御機構を備えている.圧力天びんによる発生圧力の評価には重錘質量の精確な測定が不可欠であるが,これまで大型重錘の質量校正は重錘を一度装置から取り外して行わねばならず,労力を必要としていた.本研究では,大型重錘を圧力天びん内に設置したまま,質量比較器を用いて「その場校正」するための装置開発を行った.これにより,大型重錘の質量を高精度かつ効率的に測定することが可能となった.質量校正は2003年と2006年の2回行った.2006年の校正においては,質量測定の待ち時間を適切に設定することで質量の不確かさを小さくすることができた.2回の校正結果の差は2ppm以下であり,不確かさの範囲内に充分収まった.これらの結果から,圧力天びん内の重錘が適切な状態で管理され,その質量が安定であることが確認された.
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■ 反復学習アプローチを用いた跳躍ロボットの周期運動制御
京都大学・石川将人,ソニー・山田研次
京都大学・杉江俊治
本論文では,鉛直1自由度の跳躍ロボットに対して,定常跳躍(ホッピング)運動をフィードバック制御によって行わせる問題を取り扱っている.先行研究で提案されたエネルギー保存フィードバックおよび仮想コンプライアンス制御に基づいて以下の拡張を行った.まず,仮想コンプライアンスを可調整パラメータとみなし,定常跳躍軌道を特徴づける2つの制御量(跳躍高さ,着地衝撃)との関係を数値的に解析した.この結果を利用し,1回の跳躍ごとに可調整パラメータを反復的に更新することによって制御量を所望の値に収束させる方法を提案した.提案法の有効性を数値シミュレーションと実機実験により検証し,とくにモデル化誤差に対する高いロバスト性を確認した.
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■ パケットロスを伴う量子化信号による離散時間線形システムの安定化
日立グローバルストレージテクノロジーズ・星名寛人,
東京大学・津村幸治,東京工業大学・石井秀明
本論文では,SISO離散時間線形システムのプラントを安定化する,確率的パケットロスを伴ったネットワークド制御系を対象とする.確率2次安定化が可能であるための,最も粗いメモリレス量子化器を導出することを考え,許容される粗さの上界を,パケットロス確率とプラントの不安定極の関数として厳密に与える.本論文ではさらに,実装を考慮した有限ステップの量子化器を実現するため,まずは原点近傍に不感帯を有する量子化器を考え,2乗平均 practical 安定のための許容不感帯幅を与える.また時変量子化器を考え,確率1での安定性を満たすための条件を与える.
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■ 無限次元非線形系の平衡実現と有限次元近似について
名古屋大学・藤本健治,小野佐弥香
無限次元の制御対象はその構造の複雑さと制御器設計の困難さから,しばしば有限次元モデルへの近似を行う.本研究では,有限次元の非線形系の代表的な低次元化手法の1つである平衡化打切法の無限次元系への拡張について考察し,無限次元系に対する可制御性関数・可観測性関数を特徴づける.また上記の結果に対して,有限次元近似においてよく用いられるGalerkin 法を2回適用することにより,無限次元系を有限次元のモデルで近似する手法を与える.本手法により,特定の入出力の関係を保存する有限次元近似法が得られる.また数値例を用いて,提案手法の有効性を検証する.
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■ Zero Dynamicsを利用した倒立振子型二輪ロボットの高速移動制
職業能力開発総合大学校・畠山直也,島田 明
本研究は,平行二輪型の倒立振子を利用した高速移動ロボットを開発することを研究の目標としており,自らバランスを崩すことによって生じる加速度を高速移動に利用する制御法を提案し,実用化を試みようとするものである.そして本稿では,平行二輪型倒立振子を用いて,直線運動・旋回運動・カーブ動作をすべて実現できる制御技術を提案している.本稿で紹介する平行二輪型倒立振子は,バランスの崩しと戻しをコンピュータが能動的・自律的に行うことを特長とする.この加速時の前傾動作は,スピードスケートの選手が得意とするスタート時のロケットスタートのような動作である。そして,停止時には,その逆の後傾動作を生じる.本論文では,その実現手段として,三次元空間での運動方程式を導出し,入力と状態変数の一部との関係を線形化する部分線形化を施し,その結果生成されるZero Dynamicsを利用することにより,意図する高速制御が実現できることをシミュレーションと実験によって示している.
▲ ■ 弱結合大規模確率システムのためのNash均衡戦略
広島大学・向谷博明
本論文では,伊藤確率微分方程式によって支配される弱結合システムに対して,確率Nashゲーム問題を扱う.まず,LQ確率制御問題の結果を利用して,Nash均衡を実現する戦略対および関連する連立型確率Riccati方程式を導出する.続いて,弱結合パラメータに依存しない近似確率Nash均衡戦略を得るために,連立型確率Riccati方程式の解の漸近構造を明らかにする.この得られた漸近構造を利用して,近似確率Nash均衡戦略を構築する.さらに,導出された近似確率Nash均衡戦略による評価関数の劣化の程度を明らかにする.本論文の最後で,提案された近似確率Nash均衡戦略の有効性を検証するために,実用的な電力システムに対して,数値シミュレーションを行う.
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■ 運転行動における判断の定量化とそれに基づく行動特性解析
名古屋大学・田口 峻,稲垣伸吉,鈴木達也
豊田工業大学・早川聡一郎
トヨタ自動車・津田太司,渡辺 篤
本論文では,ドライバの判断をロジスティック回帰モデルに基づいて確率的に表現することを提案する.具体的にはドライバが交差点で行う右折時の判断を対象とする.つぎに,得られたモデルが判断のオンライン予測に有用であることを示す.そして最後に,推定したパラメータより計算が可能な,「判断のエントロピー」,「判断の積極性」等の判断特性を表わす定量的な指標を提案し,それらによる運転者の分類が可能となることを示す.
▲ ■ 極細かつ長尺の線状体用力センサの開発―脳動脈瘤コイル塞栓術への適用―
名古屋工業大学/NTN・永野佳孝
名古屋工業大学・佐野明人,坂口正道,藤本英雄
医療現場において,細くて長い線状体であるカテーテルを使用した治療は,患者の身体的負担の少ない低侵襲治療として幅広く行われている.本研究では,脳動脈瘤コイル塞栓術への適用を目的として,術中での使用が可能な線状体用の力センサを開発した.圧縮力に応じてその撓み量が変化することに着目し,撓み量を光学的に検出する挿入力検出原理を新たに提案した.曲げ剛性の異なるワイヤに対応し,既存のワイヤやカテーテルがそのまま利用できる.また,力センサをYコネクタと一体化して既存の医療器具との互換性を高めた.さらに,操作者(医師)とセンサは干渉せず,医師の巧みな操作が損なわれない.本論文では,試作した力センサの基本特性を示し,模擬動脈瘤を使ったコイル塞栓実験でその有用性を示す.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 時変むだ時間をもつ離散時間システムのH∞外乱抑制
青山学院大学・米山 淳
本論文では,時変むだ時間をもつ離散時間システムに対するH∞外乱抑制問題を考える.時変むだ時間の上限と下限は既知であるとする.ただし,その特別な場合として,定数のむだ時間も扱う.このようなむだ時間システムに対して,
H∞外乱抑制を達成する条件を行列不等式(LMI)による十分条件により与える.時変の離散むだ時間システムに対するH∞外乱抑制問題を考察した論文はまだ少ない.H∞外乱抑制を達成する条件の導出には,時変むだ時間に対応した新たなリアプノフ-クラソフスキー関数を定義する.さらに,一般化モデル変換法と冗長なフリー重み行列を意図的に導入して,得られる条件の保守性を軽減することを目指す.また,むだ時間の中間値を用いることや拡大システムを定義することで条件式のさらなる保守性を軽減する.得られた結果の有効性を検証するために,数値結果を示す.H∞外乱抑制問題に加えて,安定性の結果も示す.安定性に関しては,従来の多くの研究結果と比べて,本論文の条件は保守性が軽減され,広い範囲での安定性を示している.H∞外乱抑制問題に関しても,同様に,既存の代表的な結果よりもよい結果が得られていることがわかる.
▲ ■ フィードバック変調器を用いた離散値入力制御におけるアクチュエータ非線形性の補
京都大学・石川将人,丸田一郎,杉江俊治
著者らは先行研究において,通常の方法で設計された連続値入力の制御器を離散値入力型に変換するためのフィードバック変調器(以下FBM)の設計法を提案した.本報告では,FBMの構造の簡潔さを生かして拡張を施すことにより,アクチュエータが非線形特性を持つ場合にも柔軟に対応できることを示す.提案する拡張法は非線形特性のモデルをFBMの内部に導入するというものである.非線形特性の例として,現実のアクチュエータに典型的な切り替えの遅れ,不感帯要素,およびバックラッシュ要素の三種類の場合を扱い,FBMの有効性および内部モデルの精度が制御系の性能に与える影響を検証する.
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