論文集抄録
〈Vol.44 No.1(2008年1月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)
〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
▲
■ Online Fault Diagnosis of Air-conditioning Units Using Recurrent Neural
Network Trained with Simulation Data
Waseda University・Upali Samarasinghe Herath Kumarage,Shuji Hashimoto
空調システムの信頼性と安定性の確保,さらには保守管理やエネルギーの有効利用のために故障診断は欠かせないものである.しかし,空調システムの多様化・複雑化により,実環境での明確な故障事例の把握と取得が困難となっている.そこで,本研究では空調システムの計算機シミュレーションによる故障事例の取得とそのデータを用いたリカレント型ニューラルネットワークによる空調機器のオンライン診断を行う手法を検討した.屋内外の温度および湿度の実データでシミュレーションモデルの妥当性を確認した後,空調システムの代表的な故障であるバルブの開閉不良を対象に実験を行った結果,提案手法によって90%以上の正解率で故障診断が可能になった.
▲
■ 0mから測定可能な高精度狭帯域レーダ
株式会社ノーケン・若林和博,徳島大学・入谷忠光
レーダを利用した距離測定方法にはパルスレーダ方式やFMCWレーダ方式などが実用化されているが,産業用途などで利用する場合は,電波法の周波数帯域制限のため利用できないことがある.本論文では,送信信号と測定対象物によって反射された反射信号を同期検波し,検波された信号の同相信号と直交信号の2つの信号を利用することによって狭帯域幅においても近距離まで距離測定が可能な方法を提案する.さらに,ダイオードモデルを組み込んだ高周波回路モデルを利用し,24.15GHz帯において76MHzの周波数帯域幅を利用した場合を例として,4m以下の近距離においても距離測定誤差が±2mm以下の高精度で距離測定できることを示した.
▲
■ パラレル機構型アクティブビジョンのためのマルチレート外乱オブザーバ制御系の設計
職業能力開発総合大学校・島田 明,株式会社ケーヒン・草刈 篤
本論文はパラレル機構を用いたアクティブビジョンのマルチレート制御技術を紹介するものである.アクティブビジョンとは移動機械に視覚センサを載せ,対象物を追尾して画像を獲得するシステムである.紹介するシステムは6自由度のパラレル機構上にCCDカメラを固定する.対象物が点である場合,同点は画像上での位置を表す2次元情報で表され,システムは4自由度の冗長性を持つ.本システムでは,その冗長性を活かし,位置を変化させて対象物を追尾する制御機能と姿勢を変化させて追尾する制御機能を実現する.そして本論文で提案する技術は特に以下の特長を有する.多くの視覚センサの処理時間は,モータ制御時間に対して桁違いに長く,2種類の制御周期を持つマルチレートサンプリング制御系として実現される.そこで,マルチレートサンプリングによる状態空間表現での外乱オブザーバを設計して画像ベースフィードバック制御系を構成することにより,同アクティブビジョンの制御性能を向上させる方法を提案し,さらに,実験結果を紹介する.
▲
■ Markov過程の量子化を用いたLyapunov関数の構築
北海道大学・西村悠樹,山下 裕
Lyapunov関数の存在は,対象となるシステムがLyapunovの意味で安定であることを保証する.この関数の構成法は従来よりさまざまに提案されてきたが,より多くのシステムに適用可能な方法が求められている.本稿では,非線形システムにおけるLyapunov関数を,Lyapunov方程式の解から求める新手法を提案する.具体的には,確率システムへの拡張も考慮して確率化されたLyapunov方程式を状態離散化により差分したのちに,Markov過程の量子化と呼ばれる,古典力学の法則を量子力学の法則に置換する方法論の一つを用いることにより,Lyapunov方程式の解を量子力学的方程式の固有関数の重ね合わせとして近似する手法である.本手法は,状態を離散化し,非有界な状態空間を有界領域に限定しているため,近似的手法である.本手法では更新方程式を用いた反復計算は行わないので,繰り返しによる計算値の発散は起こらない.また,量子力学的方程式の固有値問題を解く際に現れる行列は,固有値解析が比較的容易な疎行列である.本稿ではさらに,量子化によってLyapunov方程式の解の値域が複素空間に拡大される問題とその解決法についても明らかにし,またLyapunov関数の近似構築に使える固有関数の条件を示した.そして,いくつかの例題について本手法を用いて数値計算した.
▲
■ 衝突回避問題に適合した分枝限定法に基づく複数移動体の編隊制御
電気通信大学・根 和幸,福島宏明,松野文俊
本論文の目的は衝突回避問題に適合した分枝限定法を提案し,モデル予測制御に基づいた複数移動体の編隊制御の計算量の低減化を行うことである.衝突回避のための混合整数計画問題は,移動体が極度に密集している場合を除き,実際には不必要な0-1変数を数多く含んでいるという性質をもっている.標準的な分枝限定法では,全ての0-1変数に対して同様の分枝操作を行うため,衝突回避が必要ない状況でも多くの子問題が生成される.提案手法では,衝突回避制約を除いた最適化問題を緩和問題として用いることにより,衝突回避が必要な時刻,および移動体に対してのみ子問題が生成されるため,標準的な方法と比較して子問題の数が減少し,計算量の低減化が期待される.さらに,従来はオンラインで解く事が困難であった問題に対し実験により有効性の検証を行う.
▲
■ 非線形系の重み付き平衡実現とモデル低次元化
東京大学・椿野大輔,名古屋大学・藤本健治
本論文は,非線形系に対する重み付き平衡実現と低次元化法を定式化する.これは,非線形系の平衡実現を入出力重みを含むように拡張したものである.本手法では,重みを表すシステムと対象システムの拡大系の可制御/可観測性関数に,状態拘束を用いることで重み付き可制御/可観測性関数を定義し,それらを平衡化することで重み付き平衡実現および低次元化モデルを得る.提案する重み付き平衡実現は,線形系に適用することで,線形系に対して得られているいくつかの重み付き平衡実現と一致することが確認でき,自然な拡張となっている.さらに,低次元化後のシステムの安定性を議論し,元システムの安定性が低次元化後のシステムに保存される条件も得た.最後に,本手法を4次非線形システムである2重振子に適用し,その有用性を確認した.
▲ ■ 離散値入力型2Dシステムのための最適動的量子化器と2値ハーフトーン画像生成への応用
京都大学・南 裕樹,東 俊一,杉江俊治
本論文では,制御入力が離散値に限定された2Dシステムにおける動的量子化器の最適設計問題を扱う.ここで考える最適な動的量子化器とは,制御対象の直前に動的量子化器を挿入した離散値入力型フィードバック制御系を通常の連続値入力型フィードバック制御系に最良近似するものである.このような最適動的量子化器を用いれば,制御入力が離散値に制限されたとしても,従来の連続値入力型システムに対する制御系設計理論の使用が可能となる.本論文では,まず,離散値入力型の2Dシステムに対する最適動的量子化器を解析的に導出し,それが制御対象と制御器のパラメータの陽な関数で表されることを示す.つぎに,その最適動的量子化器をハーフトーン画像処理に応用し,動的量子化器を用いて多値画像の画質をできる限り維持する2値画像が生成できることを確認する.
▲
■ 各個体の自律探索機能を強化したParticle Swarm Optimization
京都工芸繊維大学・飯間 等,黒江康明
本論文では,様々な景観を持つ目的関数に対して,早く良い解を得ることができるParticle swarm optimization(PSO)を提案する.一般にオリジナルのPSOは探索が進むと全ての個体が全体最良解付近で探索する傾向があり,これは多峰性の関数に対しては望ましくない性質であると考えられる.この問題点を解決するために,全体最良解にとらわれず解空間内を広く探索することにより,多峰性関数に対して良い解を得ることができる新しいPSOを提案する.提案するPSOは各個体の自律探索機能を強化し,かつ計算時間の増加を招かない簡便な方法である.つぎに,様々な景観を持つ目的関数に有効な解法として,大域探索に優れた先の提案PSOと近傍探索に有効なオリジナルのPSOを組み合わせたハイブリッド解法を提案する.数値実験を通して,前者の提案PSOは深い谷を有する多峰性関数に対して良いこと,また後者のハイブリッドPSOはどの関数に対しても良い解を発見できることが確認された.
▲ ■ 強化学習におけるサンプリング条件で信頼性が保証された最適政策
金沢大学・泉田 啓,藤井信治
強化学習手法を適用するとき,状態遷移確率の推定精度が,得られる政策に影響を与える.従って,正しく最適政策が得られるかどうかは,推定精度に依存する.そこで本研究では,所望の信頼度で正しい最適政策を導くサンプリング条件を導く.まず,導かれる政策が所望の信頼度で最適であるために必要なQ値の精度を導く.次に,その精度内にQ値が収束するように状態遷移確率の推定精度を求め,それを満たすサンプリング条件を定める.要求される状態遷移確率の推定精度とサンプリング条件は導かれる最適政策に依存して定まることが,議論の過程で示される.さらに,要求サンプル数を事前に予測する方法も提案する.提案法の有効性を数値シミュレーションにより検証する.
▲ ■ 触覚情報を用いた全身マニピュレーションの実現
理化学研究所/産業技術総合研究所・大西正輝,
理化学研究所・小田島 正,向井利春,
理化学研究所/神戸大学・羅 志偉
高齢化社会を迎え,介護や福祉の現場において人間の代わりに力仕事ができるようなロボットの実現が強く望まれているが,現状では物体に接触するような力仕事をロボットに行わせるのは難しい.本論文ではタスクに成功した時の運動情報と感覚情報を時系列に記憶しておき,新たな動作を行う際に得られた感覚情報を基に運動を時空間的に修正することでタスクに成功する軌道を作り出す手法を提案する.本論文では特に触覚を用いて全身マニピュレーションを行うことを目指しておりロボットアームを用いた実験により提案手法の有効性を確認した.さらに理化学研究所BMCで開発した人と接することを目的として作られたロボット“RI-MAN”を用いて身長158cm,体重18kgのダミー人形を抱き上げる実験を行った.
▲ ■ 不完全状態同定と力学系の頑健性
神戸大学・上浦 基,東京大学・中嶋浩平,神戸大学・郡司 ペギオ-幸夫
本稿では,生成ポインターの概念が導入される.これは,不完全な状態同定の形式化である局所恒等写像を伴った,拡張された部分対象分類子である.この概念は有理数の創発プロセスの一般化から引き出される.また,生成ポインターは力学系の階層構造をヘテラルキー構造に変形させる.一般に,間欠性は,力学系の臨界現象として現れるので,パラメータ摂動に対して脆弱である.これに対し,生成ポインターがエノン写像に適用される場合,オン-オフ間欠性は広いパラメーター領域で遍在的に観測される.このことは,パラメータ摂動に対する臨界現象の頑健性を意味する.力学系の構造安定性や軌道安定性は,ある特定の不変な写像に関して定義可能な概念である.これに対して,頑健性は,写像の動的変動に基づき,これらの安定性と区別される.この視点において,頑健性は創発概念と相反せず,むしろ表裏の関係にあるものと考えられる.
▲ ■ 群ロボットの未知環境に適応した分散的移動手法
北陸先端科学技術大学院大学・花田洋輔,李 根浩,丁 洛榮
本稿は群ロボットが障害物環境を自律的に移動することができる群移動制御手法を提案する.群ロボットの実環境での応用において環境変化に適応しながら与えられた目標に向かい移動することが必要である.本稿は,魚の群泳行動に注目し,環境状態の条件に応じてチームの維持や,分裂,統合の3つの基本的な振舞いをモデル化した.提案手法は個々のロボットにおける局所的相互作用に基づいており,センサ範囲内に存在するロボットから動的に2台のネイバーを選出し,それらと一定距離を維持する.一般性を得るために,個々の識別番号を持たず,事前選任のリーダーロボットがおらず,過去の動作を記憶せず、相互情報伝達を行わないなどの仮定を設定した.シミュレーション結果から,群ロボットは分裂,統合,維持を繰り返しながら複数の狭路に適応した移動をすることができた,また,提案手法は自己組織化,自己安定化,決定論的手法の特徴を持っていることが明らかになった.
|