論文集抄録
〈Vol.43 No.5(2007年5月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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[論 文]
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■ 初期状態オブザーバを用いた移動体の自己位置推定法
奈良先端大・樋口宗明,中村文一,西谷紘一
移動体の自己位置推定は移動体を利用する上で重要な技術である.移動体の自己位置推定法は大別するとデッドレコニングとスターレコニングに分類することができる.この2つの位置推定法は互いに異なる長所・短所をもっている.そこで,お互いの欠点を克服するために,2つの手法を組み合わせて用いるセンサフュージョンに関する研究が行われており,代表的な手法として拡張Kalmanフィルタを用いる方法が挙げられる.この手法はデッドレコニングとスターレコニングの計測誤差モデルを用いて2つの手法を融合する.しかし,計測誤差をモデル化することが困難な場合もある.そこで,本論文では計測誤差モデルを用いない新たなセンサフュージョン手法を提案する.提案手法は,デッドレコニングおよびスターレコニングにより得られた情報から移動体の初期位置,初期姿勢角を推定するオブザーバを用いることによってセンサフュージョンを行う.提案法は拡張Kalmanフィルタを用いる手法に比べ,計算量が少ないといった特徴をもつ.本論文では,提案手法の推定原理およびパラメータ設計法を述べ,コンピュータシミュレーションおよびロボットを用いた実機実験により,提案手法と拡張Kalmanフィルタの性能差を検討する.
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■ 加速度計を用いた動的力計測法についての基本考察−重錘落下試験を対象として−
東海大・近藤 博,木村修一,本間重雄
物体が衝突するときの動的荷重の測定法として,衝突体に加速度計を設置(衝突体システム)し,衝撃力を求める方法が採用されている.この方法は,ロードセルによる動的荷重の測定が困難な現状では最適な方法である.しかし,この方法で動的荷重を測定する場合の大きな問題点は,つぎの2つである.
(1) 加速度計を力測定に利用する場合は,加速度計の応答特性を知るだけでは不十分で,衝突体を質点として扱ってよいかを知るために,衝突体システムとしての校正が必要となる.しかし,ISO基準の衝撃環境下における加速度計の校正法は,加速度計の応答特性だけを扱っている.
(2) 重錘の質量が同一でも,形状(衝突体と被衝突体との接触面積の大小も含む)が異なると加速度値に影響する.
そこで,本研究では,まず,従来のホプキンソン棒法による加速度計の校正法は,動的力計測に最適な方法でないことを明らかにした.つぎに,ホプキンソン棒法を採用するが,従来とは逆に,衝突体に加速度計を設置して,衝突体システムとしての校正法を提案した.さらに,重錘落下法で問題となる,衝突体の接触面積と加速度値の関係について検討し,衝撃力は接触面積の約0.25乗に比例することを明らかにした.
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■ 円筒閉容器の圧力応答特性を利用した非定常流量の簡易計測方法(第二報:伝達関数を利用した方法の提案と評価)
東医歯大・稲岡秀検,東工大・清水優史,東医歯大・石田明允
本論文では管路内の非定常流量の簡易計測手法について検討を行う.管路の途中に設置した円筒空気室により流れの非定常成分は空気室の体積変化として吸収される.この空気室の体積変化に伴う圧力変化のみを利用して,非定常流量を計測する.本研究では前報により得られた空気室の圧力応答特性から離散伝達関数を同定し,この伝達関数に実測圧力波形を入力として与え,時間領域における断熱圧力波形を直接算出する.空気室の体積変化は断熱圧力波形から簡単に算出でき,これを時間微分することで非定常流量が求められる.まず本手法の計測精度について検討を行い,高精度に非定常流量を計測可能であることが示された.本手法の応用事例として複数の周波数成分を含むパルス状非定常流量の計測を行った.その結果,パルス状非定常流に対しても本手法を適用することで高精度に非定常流量を計測可能であることが示された.また電磁流量計との比較を行った結果,本手法は空気室の圧力変化を利用するという単純な手法であるにも関わらず,電磁流量計と同程度の精度で非定常流量を計測可能であることが示された.
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■ 脊髄と筋骨格系の機構に基づく分散運動制御系
東工大・長野智晃,東農工大・近藤敏之,東工大・伊藤宏司
生体運動制御系は神経伝達ループに時間遅れをもつ分散システムであり,この時間遅れは運動制御を不安定化する.この問題を解決する手段として,制御トルクのローパスフィルタリングによる安定化が考えられる.本論文では,まず,脊髄反射系の神経回路をモデル化する.このときアクチュエータ出力である関節トルクにローパスフィルタをかける機構は生体において脊髄反射系に存在するRenshaw細胞による反回抑制をモデル化することで自然に組み込まれることを示す.つぎに,筋骨格系のダイナミクスを多リンク系として,分散的に計算するアルゴリズムについて述べる.そして,以上より,脊髄と筋骨格系の機構に基づいた分散運動制御系を提案する.提案手法の有効性を示すために,生体と同程度の時間遅れ20msに対しても提案制御系が機能することを示す.例題として,2関節4筋の人腕モデルのリーチング動作を取り上げ,20cmの手先到達運動を500ms程度の時間で滑らかに実現できることを示す.このとき,Renshaw細胞のフィードバックゲインが運動の安定性に関係していることを実験的に示す.加えて,提案手法が複合的なタスクに適用できることを示す.例題として,姿勢安定化と運動実現の協調問題を取り上げる.
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■ 逐次閉ループ部分空間同定アルゴリズムによる緩やかな時変フィードバック系の同定
大阪工大・奥 宏史
本稿では,閉ループ部分空間同定法の1つであるMOESP型閉ループ部分空間同定法(CL-MOESP法)の逐次更新アルゴリズムを導出する.提案手法では,Hessenberg QR法を利用してQR分解のR行列の効率的な逐次更新がなされている.さらに,忘却係数の導入により,閉ループ内にある緩やかな時変系の逐次同定に利用できることを示す.提案手法の有効性を示すため,数値例において提案手法から逐次的に得られる推定値が同定対象の緩やかなパラメータ変化に追従可能であることを例証する.また既存の一括処理型の閉ループ同定法について比較実験を行い,CL-MOESP法と提案する逐次アルゴリズムの優位性を示す.
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■ ハイブリッド制御における有限オートマトンの最小表現
東工大・小林孝一,井村順一
ハイブリッドシステムのモデル予測制御問題は一般に混合整数二次計画(MIQP)問題に帰着されることが知られているが,MIQP 問題は離散(0-1)変数の次元に対して,計算量が指数関数的に増加する問題点を抱えており,実用化に向けた課題となっている.したがって,MIQP問題における0-1変数の次元が低減されるように,ハイブリッドシステムを表現することが望ましい.とくに,有限オートマトンのような離散ダイナミクスに対して,少ない0-1変数でどのように表現すればよいかという問題は非常に重要であるが,このような観点からの研究はこれまでほとんどなされていない.著者らはこれまでに,標準的なモデリング手法より少ない0-1変数からなる入力変数をもつ線形状態方程式により,有限オートマトンを表現する新しいモデリング手法を提案し,数値例によりその有効性を示した.しかしながら,0-1変数の次元に対する考察は行っていなかった.本論文では,著者らのモデリング手法を改良した手法を提案し,有限オートマトンを表現するインプリシットシステムから得られる線形状態方程式が,ある同値変換のクラスで0-1変数の次元が最小であることを示す.
▲ ■ 一組の閉ループ実験データによる相関関数を利用した多変数制御器調整
三重大・若山直矢,弓場井一裕,平井淳之
本論文では,多入力多出力システムに対するデータ駆動型制御系設計法として,擬似参照信号による相互相関関数を利用した新たな設計法を提案した.制御器導出に多数回のデータ取得が必要な従来法であるIFTやCbTと比べ,提案法では擬似参照信号の導入により制御器導出に要するデータ取得実験回数を1回または2回に低減した.また1回のデータ取得で制御器導出が可能な従来法であるVRFTは,設計者が閉ループ特性を指定する参照モデルの構造に制限があり,多入力多出力システムの制御器設計での制御器の最適性の議論がされていないが,提案法では特に参照モデルに対する制約がなく,評価関数に取得したデータおよび擬似参照信号による相互相関関数を設定することにより,提案法の制御系設計における制御器の最適性を周波数領域で明確にした.本論文で提案する設計法の有効性は,IFT,CbTのベンチマーク問題で使用されているシミュレーション条件により検証している.
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■ 等価慣性指標にもとづく人間−自動車系のレイアウト設計法
豊田中研・羽田昌敏,広島大・辻 敏夫
人間−機械系における操作系配置に関する研究では,計算機内に構築した人体モデルをもとに,関節可動域と関節角度に着目した評価が行われている.またロボット工学の分野などで知られる可操作性の考え方を用いて操作系配置を評価する研究も行われている.しかしながら,これらの研究は人間と対象物との間の接触条件や拘束条件までは考慮されていない.そこで本論文では人間−機械系の等価インピーダンス特性に基づいた,新しい操作系配置の設計手法を提案する.筆者らはすでに人間−機械系の等価慣性を拘束条件および接触条件を考慮して導出する手法と,筋の粘弾性特性を考慮して等価インピーダンス特性を解析するシステムを提案している.本論文ではこれらのうち等価慣性指標を用いた最適化手法により,人間−機械系のレイアウト設計問題を考える.本論文では,まず提案する設計法の概要を述べる.つぎに人間−機械系の等価慣性を用いた評価関数を提案し,人間−自動車系へ適用する.そこでは自動車の主要な操作機器であるステアリングとアクセルペダルの配置に関する官能評価実験を行い,提案する評価関数による計算結果と比較することでその妥当性を検証し,さまざまな体格のドライバに対する本手法の有用性を示す.
▲ ■ 河川の汚染負荷量とその流入地点の同定および水質推定:擬似観測量の導入によるアプローチ
京工大・大住 晃,小見山資朗,渡邉雅彦,柏木正隆,国交省・高津知司
本論文は,工場廃水や生活排水,あるいは事故などによって汚染された河川の水質(生物化学的酸素要求量 [BOD] と溶存酸素量 [DO])の測定データからの推定と,その汚染源となった未知負荷量の同定および汚染源(あるいは汚染区域)の特定の問題についての解決のひとつのアプローチを提案したものである.
BODとDOに対する数理モデルはすでに著者らが提案している水質方程式を用い,汚染地点はイノベーション過程の振舞いにより特定し,また未知負荷量の大きさの同定は擬似観測量の考え方を導入することによって行う.
提案したアプローチは数値シミュレーションによって有効な方法であることが確認されている.
▲ ■ 高速ステレオカメラへッドの設計と開発
東北大・辻田哲平,近野 敦,内山 勝
人間の網膜機能を模擬した三次元ビジョンチップを用い,並列視覚処理および脳型情報処理を歩行ロボットの制御に応用することを目的とし,ビジョンチップの高速性を最大限に引き出すための高速カメラヘッドの開発を行った.カメラヘッドに2つのビジョンチップカメラを搭載し,人間の高速眼球運動(たとえば,人間の眼球運動の最高速度は約600 [°/s]に達するといわれている.)を模擬することが目標である.また,移動ロボットに搭載するためにはカメラヘッドは軽量である必要がある.高機能カメラを搭載可能とし,カメラの高速応答性と軽量化を両立させるため,パラレル機構を用いカメラヘッドを構成した.カメラヘッドの機構は独立した方位角と共通の仰角の計3自由度を有する.人間の脳機能を模倣した視覚処理システム研究の発展を促進させるため,ロボットの専門家以外でも簡単に利用できるように機構を簡素化しメンテナンス性も良くした.本論文では,このカメラヘッドの設計と開発,および性能評価について述べる.開発したカメラヘッドの機構は簡素になっており,順運動学解も解析に導出することが可能である.この順運動学および逆運動学についても述べる.
▲ ■ 時間軸変換と他動的運動を用いた人体の慣性パラメータ同定
松下電工・谷口祥平,立命館大・小澤隆太,川村貞夫
人体の運動解析において,人の慣性や粘弾性パラメータを同定することは,スポーツ,医療,脳研究などの分野で重要である.本研究では,計測した関節トルクから筋の粘弾性等に起因する慣性推定に不必要なダイナミクスをあらかじめ取り除くことで,精度の高い慣性パラメータの同定を行う.人間の肩・肘関節周りのパラメータを推定する実験を行い,全関節トルクから同定した慣性パラメータと本手法で同定した慣性パラメータを比較し,本手法による慣性パラメータ同定の信頼性が高いことを示す.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 操縦者の安全と誤入力を考慮したレスキューロボット用操作盤の開発
長岡技科大・木村哲也,石崎雅寛
本報告では国際安全規格の考え方に基づき,操縦者の安全および誤入力を考慮したレスキューロボット用操作盤を開発し,安全性と作業性の検証を行った.その結果,提案する操作盤は良好な作業性を維持しながら安全性を向上させていることが確認できた.また歩行等の通常作業をしてもらい,身体的負荷が少ないことが確認された.
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