論文集抄録
〈Vol.43 No.4(2007年4月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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〃 (会員外) 8,820円 (税込み)
タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ コンタクトプローブを用いた眼剛性センシング
広島大・栗田雄一,飯田義親,
Institut fur Automatisierungstechnik・Roland Kempf
広島大・石井 抱,大阪大・金子 真,JR西日本・三嶋 弘
広島大・塚本秀利,中国労災病院・杉本栄一郎
広島大・方倉聖基,小林 賢
緑内障診断において眼球内圧検査は重要な指標の1つである.眼球内圧を直接計測するのは困難であるため,一般的には外力と変形面積に基づく推定眼圧が評価されるが,現在の推定手法は眼の構造的な剛性に個人差が存在しない,という仮定でのみ適切な内圧を推定できる.しかし眼の構造的な剛性は果たしてすべての被験者において同一だろうか? 本研究では接触式眼圧測定装置を用いてプローブを眼に押し当て,その変形をカメラで捉えることで生体眼の剛性を評価した.実験の結果得られた剛性値は,球面モデルを用いた解析な剛性値と比較的よく一致した.また同一の眼圧が推定されていても異なる剛性が計測される例が存在することを確認した.このことは眼の構造的剛性に個人差が存在することを示唆し,従来の力と面積から定義される眼圧の情報に加えて眼剛性の情報を眼科医に提供することにより緑内障早期発見に貢献できる可能性を示す結果といえる.
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■ 屈曲角度測定のための多機能的手法の提案
Saga Univ.・Wei QUAN, Katsunori SHIDA
本文 本論文は多機能技術による屈曲角度測定のための新しい手法の提案であり,これは筆者らがこれまで行ってきた単一構造での傾きと曲げ方向の広範囲での同時測定の研究内容とは異なるものである.本装置の主要部分は蛇腹状のしなやかなチューブであり,それは異なる形状とするために長さを変えるひじの皮膚の状態を模倣した.結合部分に堅いセンサ部分が装着されていないことから,使用者にとってはより快適で,使いづらさの少ないものとなる.このチューブの表面にはセンシング部として3本の鉄線が装着されている.2つの角度パラメーターは鉄線の直線的な動きで表され,インダクタンス変化として測定される.提案した構造の幾何学的解析によって,3種類のインダクタンス測定値から2種類の角度パラメーターを推定する簡単なデータ処理法を見出しうる.ここではプロトタイプを作り,推定した結果から,本提案手法の実行可能性を検証した.この2つの角度の広範囲での測定は腕,ひざ関節,肩などの屈曲角度測定に有効である.
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■ ひきつれ効果に着目したヒト肌の動特性評価
広島大・田中信行,大阪大・金子 真
従来,ヒト肌の動特性評価では,力印加部の変形にだけ着目し,力引加部周辺の変位はほとんど考慮されなかった.本論文では,ヒト肌のダイナミック特性を測るため,1[ms]の応答性をもつ高速空気噴流発生ユニット,肌の変形を追跡するためのスリットレーザ,1[kHz]以上のフレームレートをもつ高速カメラからなる2次元ダイナミック変形計測装置を新たに構築した.さらに力引加部周辺の引き連れ効果を評価するためひきつれ効果指数DSIを新たに導入した.実験によりヒト肌の変形が回復する際に,このDSIの2次の近似係数を使うことによって年齢との間に従来方式に比べて1桁高い精度で有意差が出ることをつきとめた.
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■ 微細熱式流速計を用いた圧力微分計の開発
東工大・五十嵐康一,川嶋健嗣,舩木達也,香川利春
極微小な圧力変動を対象とする空気圧サーボシステムの制御系においては,圧力の微分値を高分解能かつ高速に計測する必要がある.著者らは過去に,容器内状態変化をほぼ等温化できる等温化圧力容器を応用した圧力微分計を提案・試作し有効性を確認した.しかし,従来までの圧力微分計にはダイアフラム式微差圧計を用いており,圧力微分値の計測には他に圧力計が必要となること,加圧下においては微差圧計の零点ドリフトが生じることなどが問題となっていた.
本論文では,計測器としてダイアフラム式微差圧計と圧力計に代えて熱式流速計を用いることで,その出力信号のみから圧力微分値が計測可能な新しい圧力微分計を提案し,実際にセンサを試作する.まず圧力微分計の構成・測定原理について説明し,つぎに圧力微分計の主要素子となる微細熱式流速計の原理・製作工程・特性について説明する.さらに,初期圧力を変えた圧力微分実験を行い,新しく製作した圧力微分計の信号を従来までの圧力微分計および圧力のセンサ信号を不完全微分した値と比較し,新しく試作したセンサの有効性,優位性を明らかにした.
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■ 0.65μm標準放射温度計の安定性 2.出力安定性
産総研・佐久間史洋,馬 莱娜
0.65μm放射温度計は高温域での標準温度計として使用される.その出力安定性は校正不確かさに大きな影響を及ぼすが,これまで長期的な安定性のデータが少なかった.今回,のべ10台の放射温度計について,定点黒体による校正を繰り返し行い,長期的な安定性を調べた.その結果,一般に時間が経つにつれ出力が増加するものが多かった.いくつかは中心波長が長波長側に変化することで増加を説明できた.また,一時的に放射温度計の出力が1%低下したことがあり,この時は対物レンズを洗浄することで出力が回復した.レンズを汚さないようにすることが大切である.レンズの汚れを洗浄すると,出力の長期安定性は波長の変化の寄与を含めた場合2%/年以内,ゲインのみによる寄与の場合は0.2%/年以内と評価された.
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■ 時空間RRTによる複数障害物を考慮したリアルタイム軌道生成
大阪大・坂原洋人,大阪電通大・升谷保博,大阪大・宮崎文夫
現在未知の動的環境での軌道生成の研究が盛んであるが,環境の動的特性を上手く扱ったものは少ない.われわれの手法では短時間では環境の変化は予測可能と考え,軌道生成問題を時空間の経路生成問題として扱うことで,障害物の動きを考慮した軌道生成手法を提案する.われわれの考慮する問題はいくつかの円形の移動障害物が存在する2次元の閉空間で,それゆえ時空間では障害物は傾いた円柱で表わされる.目標点は時空間では線で表わされる.問題は時空間で,初期点から,目標点までの経路を発見することである.動的環境においては,ロボットが目的地に到着するまで経路は逐次更新される.StRRTは加速度の制限ややノンホロノミックな拘束などさまざまなロボットの移動能力を考慮しつつ,軌道を生成することができ,また,割り当て時間内で逐次拡張されるツリーから最良の解軌道を見つけることができる.われわれは,計算機シミュレーションにより, RRTとポテンシャル法と比較した実験を行い,StRRTがより良い軌道を生成することを示した.
▲ ■ 対称アフィンシステムの直接勾配降下制御による安定化制御
慶應大・志水清孝,田村健一
本論文は非ホロノミックシステムの制御に関する研究である.対称アフィンシステムは連続な状態フィードバックでは制御できないことが知られている.本論文では直接勾配降下制御(DGDC)を対称アフィンシステムに適用する.DGDCとは勾配降下法によって評価関数を直接減少させるように制御入力を操作する動的制御である.また,DGDCは動的制御であるので,われわれはそのゲインパラメータだけではなく,その初期値も調整することができる.ここではDGDCによって対称アフィンシステムの可制御な状態変数を漸近安定化するだけでなく,その初期値を適切に選ぶことによって制御できないがリアプノフの意味で安定な状態変数をも原点に収束させる方法を提案する.提案手法によってchained form"へ変換することなく,対称アフィンシステムを制御することができる.4輪車,浮遊ロボットに対してシミュレーションを行い,提案手法の有効性を示す.
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■ フィードバック誤差学習の多入出力系への一般化
奈良先端大・バセル アルアリ,平田健太郎,杉本謙二
本論文は,よく知られたフィードバック誤差学習システムの多入出力への一般化を行っている.制御対象の行相対次数を補償する前置フィルタと低性能のフィードバック制御器が与えられたとき,2自由度構造にてフィードフォワード制御器を構成する.動作中のフィードバック誤差に基づき,フィードフォワード制御器のパラメータを学習させてトラッキング特性を高性能化する.学習則を行列形式に拡張しパラメータ真値をインタラクタから求めることで多入出力への拡張を果たしている.また,適応制御系としての安定性を示し,最後にシミュレーションによって性能を評価している.
▲ ■ 3次線形不確定むだ時間システムの安定化
都立科技大・橋本智昭,摂南大・雨宮 孝
都立科技大・藤井裕矩
本稿では,線形不確定むだ時間システムのロバスト安定化問題を扱っている.任意に大きな値をとる不確定変数とむだ時間を対象にしており,本稿で示される安定化条件は不確定変動幅の大きさに依存せず,不確定要素とむだ時間の位置に依存した条件となっている.むだ時間を含まない不確定システムでは,不確定要素を許容できる配置条件がWeiによって与えられている.本稿では,3次システムにおいて,時変不確定要素が許容できる位置に時変むだ時間が存在しても,または,時不変不確定要素が許容できる位置に時不変むだ時間が存在しても,システムは安定化可能であることが示される.したがって,むだ時間の存在によってシステムの安定化可能性が損なわれないことが示される.
▲ ■ 線形放物系の状態安定化と出力安定化
神戸大・南部隆夫
線形放物形分布系の安定化には,30年以上の歴史がある.動的補償器を含む制御機構による安定化は,最も困難な境界観測‐境界制御の場合を含めて研究されてきた.楕円型作用素の分数ベキによる積分変換を経由する初期の解析的アプローチには(有用ではあるが)限界があり,最近ではより広範な適用性を誇る代数的アプローチが提案されている.安定化は通常,制御系の状態(state)安定化を意味し,したがって,状態に従属する出力は,少なくとも同じ減衰率で安定になる.このことから,出力安定化についての文献は少ない.本文では,系の出力が状態より速く減衰するという特別な制御系を構成できることを示す.
▲ ■ ロ−ソク足チャートを利用したGenetic Network Programmingによる株式売買モデル
早稲田大・間普真吾,泉 良裕,平澤宏太郎,古月敬之
有向グラフ構造の遺伝子を特徴とする進化論的計算手法であるGenetic Network Programming(GNP)を株式売買モデルに展開する研究が進められている.本論文では,GNPを利用してローソク足の組み合わせを最適化する株式売買モデルを提案し,その有効性を検証している.ローソク足とは,日々の株価の変動を1本のローソク状の棒で表わす表示法である.従来,ローソク足をトレーダーの経験により組み合わせることで売買の判断を行ってきた.しかし,株価の値動きは複雑であるため,株式売買のための最適な組み合わせルールを求めることは困難であった.そこで,本論文ではGNPの構造と特性を利用してローソク足の組み合わせを最適化する手法を提案している.売買シミュレーションでは,遺伝的アルゴリズムによって生成された株式売買ルールおよびBuy&Holdの結果と比較しその有効性を明らかにしている.
▲ ■ 周期関数最適化のための遺伝的アルゴリズムの交叉演算
ヤマハ発動機・梶 洋隆,京都大・喜多 一
工学問題では,決定変数として角度をもつような最適化問題にしばしば直面する.たとえば,内燃機関のような回転機構をもつ装置のタイミング最適化などは,連続周期関数の最適化問題として定義できる.近年,工学問題に多数応用されている遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)の1つである実数値GA(Real-Coded GA)を用いて周期関数を最適化すること考えると,定義域のとり方によってはサンプリングバイアスや進化的停滞といった問題が発生する.そこで本論文では,この問題を解決するために小野らの正規分布交叉(Unimodal Normal Distribution Crossover, UNDX)を周期関数の位相のつながりを考慮して拡張した,周期関数用交叉UNDX-P(UNDX for Periodic function)を提案する.UNDX-Pをいくつかの周期テスト関数に適用し,従来手法と比較して定義域のとり方によらず安定して最適化できることを示す.さらに,UNDX-Pが探索の初期段階でサンプリングバイアスのない交叉であることに着目して周期性のないテスト関数へも適用し,最適解の位置に対して比較的ロバストな探索性能をもつことを示す.
▲ ■ 椅子からの立ち上がり動作推定を目的とした足底情報と身体位置との関係
九工大・杉村行信,星琳高校・落石孝祐,九工大・和田親宗
現在,さまざまな立ち上がり支援装置が考案され開発されている.しかし,多くの支援装置は使用者の動きに合わせた制御を行っていないため,使用者に不快感や違和感を与えるなどの問題点がある.われわれは,現在の立ち上がり動作の状態を把握し,人の動作に合わせた制御を行うことで,この問題点を解決できると考えた.立ち上がり動作の状態は,身体位置がわかれば把握できる.仮に,足底情報のCOP(圧力中心)とVRF(垂直床反力)を計測することで,身体位置を推定できれば,使用者を不快にせず,しかも測定場所を限定しない計測が可能であると考えた.しかし,足底のCOP・VRFと身体位置の関係は明らかではなく,立ち上がり動作を推定できるかどうかも明らかではない.そのため,本論文では,椅子からの立ち上がり動作中の足底情報と身体各部の位置を計測し,足底のCOP・VRFと身体位置の関係を明らかにしたので報告する.
▲ ■ 時間ペトリネットの分解と調整によるスケジューリング問題の解法
大阪大・西 竜志,岡山大・前野良太
本論文では,時間ペトリネットの分解と調整による新しい最適化モデリング手法によるスケジューリング問題の解法を提案する.スケジューリング問題は,目的関数を最小とするように実行可能な発火系列を求める問題として定式化される.本研究では,発火継続時間モデルで記述される時間ペトリネットを複数のサブネットに分解し,それらの解を調整することで近似解を効率良く求める手法を提案する.最適化アルゴリズムはペナルティ法を採用し,サブネットごとの部分問題の解法には多項式オーダ−で計算可能なダイキストラ法を用いた.提案法の最適化性能を向上させるため,新たなペナルティ関数法における重み係数の更新法を開発した.提案手法をフローショップスケジューリング問題に応用し,SA法との比較を行うことにより,提案手法の有効性について検討した.その結果,提案手法は,SA法と同等もしくはそれ以上の性能を有することを確認した.
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