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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.43 No.3(2007年3月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 発達性読み書き障害児を対象とした文字単位の音読時間計測によるひらがな読み能力の計測手法

関西大・小谷賢太郎,島野達矢,
     大阪医科大・柏木 充,橋本竜作,
     産総研・岩木 直,大阪医科大・鈴木周平,
     藍野大,若宮英司,関西大・堀井 健

 発達性読み書き障害(developmental dyslexia)が読みの能力に特異的な障害を示すといった症状は,これまで臨床学的には報告されているが,実際に一文字を読むことに対して精度良く定量的に検討した報告はない.本研究ではひらがな文字の音読時間を文字単位で精度良く計測するシステムを構築し,読み書き障害および健常群のひらがな音読時間を実験的に比較,検討することによって,読み能力の評価および治療への応用に向けたシステムの適用を目的としている.実験は読み書き障害児8例,年齢を合わせた健常児8例および健常成人15例に対してそれぞれ同意を得て行った.刺激には日本における言語の最小単位であるひらがな一文字のうち,単独で音節を構成する文字(直音および拗音:計106文字)を用いて,各被験者の文字呈示からそれらの音読に要するまでの時間をミリ秒単位で測定した.その結果,読み書き障害児は音読時間が健常児,健常成人と比較してそれぞれ統計学的に有意な遅れが確認できた.また,音読時間に対する文字の傾向からは,直音と拗音の違いが音読時間に影響を及ぼす可能性が示唆された.以上のことから,本システムが読み書き障害児の読み能力を評価するだけでなく,最適な訓練を計画するうえで有効であることがわかった.


■ 手のハプティックインタフェースによる周辺障害物認識システムを用いた歩行器

東京工科大・橋本洋志,松永俊雄,佐々木智典,
     工学院大・石井千春,東大・新妻実保子,橋本秀紀

 本論文は,目の不自由なユーザが安全のみならず安心して歩行できることを支援するため,周辺障害物の位置情報に関する認識を手のハプティックインタフェースを用いて行える歩行器システムHESW(Hand Haptic Environmental Sensing Walker)を開発した.特徴となる機能は,ユーザはフォースフィードバック機能の付いたジョイスティックを前後左右に操作するだけで,ジョイスティックのフォースフィードバックを通して周辺の障害物情報の認識を面状に行うことができることにある.手の力覚という知覚に訴えるインタフェースのため,ユーザはおよそ5分間の練習でインタフェースの修得と環境認識をおおよそ行えることができることを実験で確認した.このことは,誰にでも簡単に使える,いわゆる人に優しいインタフェースといえる.通路モデルでは誤認識が一部の被験者にあったが,センサの探索レンジを伸ばせば解決できるものと考えている.この成果を踏まえ,実際に90cm幅という狭い通路を目隠しして安全に歩行できることの確認も行った.


■ Development of a New Ultrasonic Sensor for Bladder Measurement

AIST・Hiroyuki KODAMA, Kejin HUANG, Jing YU
Shizuoka Univ.of Walfare・Yasuo KUCHINOMACHI
Takeshiba Eng., Inc.・Hisashi YOSHIMURA
Hokkaido Univ.・Mitsuo WADA

 膀胱内の尿量増加に伴う膀胱形状変化の特徴を測定原理に取入れた新規の超音波尿量センサが開発された.膀胱内への尿蓄積による膀胱形状変化の詳細はMリにより観察された.主要な形状変化は上部方向への拡大であり,膀胱底部の変化はごくわずかであった.この観察結果は超音波を用いて縦方向の変化を捉え,簡易に膀胱容量を推定する測定原理の確立に役立った.測定原理の妥当性は総合せき損センターにおける臨床測定と結果の分析によって検討された.初期の測定原理の定性的な妥当性が検証されるとともに,線形一次式推定を加えることにより定量的な精度の向上が得られることが確認された.この新規の測定原理に基づき設計された超音波尿量センサの精度は±(15%+20ml)であることが検証された.特許出願を行い,人体への使用に際しての安全性などの基準を満足していることが確かめられて厚生労働省の薬事法の認可を得た後に,無侵襲で小型軽量の超音波尿量モニタが商品化された.病院や介護施設での導入が始まり,大学の看護学科でも教材として使用されるに至っている.また,介護施設等での使用に際しては,種々の生活情報,介護履歴情報などを組込んだシステム化を進めている.今後,さらに改良を図り,ユーザにとって一層使いやすいものにすることを考えている.


■ 歩行感覚呈示装置を用いた歩行リハビリテーション

筑波大・大貫久美子,矢野博明,斉藤秀之,岩田洋夫

 理学療法でのリハビリテーションは,練り返し動作を行うことによって機能回復をうながします.しかし,リハビリテーションをはじめて2〜3年経過すると機能回復が停滞します.私たちは,この機能回復が停滞する状態は練り返し動作が足りないからだと考え,練り返し歩行動作を行わせる装置として歩行感覚呈示装置を用いてリハビリテーションシステムを開発しました.また,実際に歩行障害を持つ患者に呈示しその有効性について検証しました.


■ 視覚障害者誘導用ブロックの白杖・足底による検知・識別実験

製品評価機構・三谷誠二,徳島大・藤澤正一郎,山田直広,
  岡山県立大・田内雅規,京都ライトハウス・加藤俊和,徳島大・末田 統

 視覚障害者の屋内外での移動を支援するものとして道路,公共施設,駅等に敷設され広く普及し,世界の多くの国で利用されるようになった点字ブロックは,2001年9月にそのパターンを規定した日本工業規格JIS T 9251「視覚障害者誘導用ブロック等の突起の形状・寸法及びその配列」が制定された.しかしながら,この規格はシステマティックな足底の触覚による実験結果を基に制定されたものであり,視覚障害者の移動時の補助的役割を果たす白杖による検知性や識別性は考慮されていない.そこで,世界に例がない徳島大学が構築した視覚障害者誘導用ブロックの評価システムを使用し,点字ブロックの白杖や足底による検知性や識別性について盲人40名を被験者とした実験を行った.その結果,2001年に制定されたJIS規格品の点字ブロックは,白杖でも十分検知できることが確認できた.しかしながら,点字ブロックの識別性については,白杖は足裏に遙かに及ばないことが明らかとなった.これは、白杖は白杖先端の線による識別であるのに対し,足底は2次元平面での識別であるため,白杖に比べ足底の識別性が非常に良いものと考えられる.


■ 雑音に乱される準周期生体信号から周期を推定するための観測器

法政大・栗原陽介,オリンパスメディカル・真鍋宗広,
    キヤノン・吉川 崇,法政大・渡辺嘉二郎

 生体リズムの推定を目的に,準周期波の周期推定のための非線形観測器を提案した.観測器の基となるモデルとしてはLotka-Volterraのprey-predator方程式と呼ばれる振動的食物連鎖の古典生物学モデルを採用した.この方程式は安定した振動を発生でき,方程式の係数を一定にしても解の振幅の大きさにより周期が変わる性質をもつ.
 シミュレーションでは,計測されるヒトの心拍脈動を模擬する波形をprey-predator方程式の解として発生させ,さまざまのレベルの雑音を加え場合において,この観測器により波形を推定するとともに毎回周期を求めた.雑音がない場合,観測器は真値に速やかに収束し,周期が異なった後でもそれに追従した.さらに空気圧方式で計測された心拍脈動に同じ観測器を適用し,この推定値から周期を求めた.比較のために計測値の周期を求め、ECGデータから求めたR-R間隔を基準として,2つの方法による誤差を求めた.計測値から直接求めた周期の誤差の絶対値の平均値は7.70%,平方二乗平均は0.134sであるのに対して,提案する方法ではそれぞれ4.72%,平方二乗平均は0.092sと改善されている.


■ 一般化した線形系の特異値・特異ベクトルによる補償入力のオンライン設計

首都大・原 尚之,児島 晃

 モデル予測制御は,制約を有する系に対する有力な制御手法の1つであり,各サンプル時間ごとに有限時間区間の最適化問題を解くことにより,制約条件を満足する制御入力を決定する手法として知られている.しかしながら,各サンプル時刻において最適化問題を解く必要があるため,動特性の非常に速い系などに適用することが困難な場合がある.
 本研究では,連続時間で動作するフィードバック系に対し,系の制約条件を満足させる補償入力をReceding Horizon制御に基づき,オンラインで構成する方法を明らかにした.補償入力の設計にあたり,系の入出力空間を指数関数で重み付けした線形システムの特異値分解をあらたに導入した.このような一般化した線形系の特異値分解を導入することにより,近未来の部分が強調された系に影響を与えやすい入出力波形(特異ベクトル)の構成法が明らかになり,Receding Horizon制御に適した補償入力が構成できることを示した.
 最後に,導いたオンライン補償則を数値例に用い,得られた結果について検討した.



■ マッチング条件を満たさない不連続システムの安定化制御と油圧アクチュエータ制御への応用

上智大・平野麻衣子,伊藤和寿,田村捷利

 力学系において静摩擦は代表的な不連続現象であり,システムがマッチング条件を満たさない場合には,不連続現象の影響を制御入力によって直接キャンセルすることはできない.また入力信号の不感帯は制御性能を劣化させる固有の非線形特性である.本論文では,まず静摩擦のみを有するマッチング条件を満たさない不連続システムに対してBackstepping法により誤差の収束範囲を指定できる制御系設計法について述べ,nonsmoothシステムの解析に基づく安定性の厳密な証明を与える.つぎに制御対象に静摩擦と不感帯の両方を考慮したシステムに拡張し,不感帯を入力に依存する外乱としてとらえ,システムを不感帯の大きさに依存して切換わる不連続系として取扱う.この系に対して不感帯幅を適応的に推定して補償を行う不感帯補償器を適用し,これに対しても安定性解析を与える.さらに提案した制御則を液圧系の位置制御系設計問題に応用し,数値シミュレーション結果により未知の不感帯に対して設計した制御系の有効性についても示す.


■ 入力部に非線形特性含むシステムに対する適応制御系の設計と実験による検証

佐賀大・佐藤和也,九州産業大・鶴田和寛,佐賀大・石部朝之

 超精密位置決め性能を達成するために,アクチュエータによる高精度な位置/角度制御技術が要求されている.駆動源から歯車などを通じて所望の部分を制御する場合,制御対象の入力部に存在する不感帯やヒステリシス現象など未知な非線形特性を考慮する必要がある.特に精密な位置/角度制御を目的とする場合,制御系の設計法によっては微小振動や追従誤差が発生するなど,予期せぬ制御性能の劣化が生じる可能性がある.これまで,非線形特性のパラメータを適応的に推定して逆システムを構成する方法や,非線形要素の特性を利用して未知パラメータ部分と有界な外乱部分に分解し,未知パラメータを推定し,外乱はsat 関数やsgn 関数といった不連続関数によって抑える手法が提案されているが,高周波振動やチャタリング現象が発生する可能性が指摘されている.本論文では,外乱をH∞ 制御の規範で抑制する逆最適の手法を用いて適応H∞ 制御系を構成する方法を提案する.提案手法によれば外乱の抑制に不連続関数を用いないため,従来法の問題点を解決することが可能である.さらに推定則に射影則を導入し,推定値の増大を防ぐ構成方法を示す.実機実験を行い,PID 制御法をベースとした方法と比較検討を行い,提案手法によりより良い制御性能が得られることを示した.


■ 離散値入力型フィードバック制御における最適動的量子化器

京都大・南 裕樹,東 俊一,杉江俊治

 本論文では,制御対象と制御器が与えられた離散値入力型のフィードバック制御系における最適動的量子化器の設計問題を扱う.ここで考える最適性は,通常の連続値入力型のフィードバック制御系の出力の振舞いに最も近くするという意味のものである.このような最適動的量子化器が得られれば,離散値入力型システムの設計において,これまでに整備されてきた連続値入力型システムに対する線形制御理論を適用でき,離散値入力型システムの設計が容易になることが期待できる.本論文では,最初に動的量子化器の一般形を示した上で,その性能評価式を与える.そして,最適動的量子化器を導出し,性能限界を示す.最後に,数値シミュレーションにより動的量子化器の有用性を確認する.


■ 鋼板水冷工程の熱伝達係数推定法

新日鐵・杉山賢司,上野博則,若狭和式,土岐正弘,赤瀬 裕

 鋼板の製造工程では,所定の材質特性を得るために,熱間圧延プロセスにおける圧延条件や,それに続く水冷プロセスにおける到達温度や冷却速度の正確な制御がきわめて重要である.冷却の正確な制御のためには,鋼板表面と冷却水との間の熱伝達係数を正確に知ることが必要であるが,熱伝達係数は冷却水量密度や板温などの水冷条件の関数であり,実水冷プロセスにおいて,入出側温度等の測定可能な値から直接計算することが難しく,実験室等でさまざまな水冷条件で鋼板を水冷しながら板温を測定して求めることが多い.本論文では,メタヒューリスティクス手法の一種であるシミュレーテッドアニーリング法による探索と伝熱計算とを組み合わせて,実水冷プロセスにおいて冷却を行う鋼板についての温度測定値や水冷条件から,オンラインで熱伝達係数を推定する手法を新たに提案する.本手法を用いることで,操業実績データからの熱伝達係数計算が実用的に行えるようになり,品種ごとの熱伝達係数の精度良い推定も可能になった.



[ショート・ペーパー]

■ 連続時間線形周期システムの可制御・不可制御部分への分解可能性について

名古屋大・穂高一条,軸屋一郎

 正準分解の定理は,線形システムの理論における最も基本的な事実の1つである.これによれば,不可制御な線形時変係数システムは,ある状態変数変換によって,可制御な部分と不可制御な部分に分解表現できる.もちろん,線形周期係数システムにおいても,不可制御なシステムは可制御・不可制御部分に分解できることが知られている.しかしその分解に用いられる変換行列や変換後のシステムの係数行列を周期関数とすることができるか,さらに,それらを実行列値関数から選ぶことができるかという問題は自明ではない.これに対してある文献では,この問題を肯定的に解決したと主張している.すなわち,ある周期をもつ線形実・周期係数システムが不可制御であるとき,それを可制御・不可制御部分に分解するような,システムと同一の周期をもつ実行列値の変換行列が存在するということが述べられている.本論文では,この主張が一般に誤りであることを示す.


copyright © 2005 (社)計測自動制御学会