論文集抄録
〈Vol.43 No.2(2007年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ 白色光干渉法による透明膜に覆われた物体の膜厚と表面形状の同時測定
東レエンジ・小川英光,東芝・下山賢一,
東工大・福永正和,東レエンジ・北川克一,
東工大・杉山 将
半導体ウエハや液晶パネルのように表面が透明膜で覆われた物体の,膜厚,および,膜の表面形状と裏面形状を同時に測定したいという要望が急速に膨らんできている.これら3種類の量のどれか2種類がわかれば,他の1種類の量もわかることになる.膜厚が1ミクロン以上の透明膜の場合は,膜がない場合に開発された白色光干渉法(VSI)を素直に応用することができた.しかし,膜厚が薄い場合にその方法を適用することは困難であり,新しい手法が望まれていた.本論文では,白色光干渉顕微鏡で得られる同じインターフェログラムを使いながら,透明膜の厚さによらず,膜と表面形状を同時に測定できる新しい方法を提案した.この方法によれば,薄膜から厚膜まで,数ナノメートルの精度で膜厚を測定することが可能である.
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■ 空気噴流方式眼圧計で角膜変形遅れ特性が起こるメカニズムの解明
大阪大・金子 真,TU Darmstadt・Roland KEMPF,
広島大・栗田雄一,飯田義親,奥出純平,
JR西日本・三嶋 弘,広島大・塚本秀利,
中国労災病院・杉本栄一郎
空気噴流方式の非接触式眼圧計と接触プローブを用いた接触式眼圧計でそれぞれ独立に眼剛性を計測したところ,眼剛性値は両者で大きく異なった.この差を考察するため,非接触眼圧計を用いて得られた角膜変位応答を詳細に調べたところ,角膜変位が印加力に対して遅れる傾向が見られ,しかも時間遅れが眼圧に依存する(相関値R=0.816)という興味深い結果が得られた.この角膜応答の時間遅れは角膜チェーンモデルによって明快に説明することを示し.この角膜応答の時間遅れが結果的に力印加初期の段階で極端に大きな等価眼剛性を作り出していることを明らかにする.さらに今回の結果は,医学的な発見にとどまらず,ヒトの眼に優しい眼圧測定という観点から,眼が変形しはじめた時間から眼圧計則が可能な低風圧眼圧計開発の可能性をも示唆する.
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■ 非線形系の大域漸近安定化を目的とした遺伝的プログラミングによる制御 Lyapunov-Morse
関数の探索
北海道大・都築卓有規,桑田幸典,山下 裕
ある条件を満足する制御 Lyapunov-Morse 関数を1つ見つけることができれば不連続な大域漸近安定化制御則を導くことができることがわかっている.しかし,一般的な制御系について制御 Lyapunov-Morse 関数を構築することは不可能である.そこで本研究では遺伝的プログラミングを用いた制御 Lyapunov-Morse 関数の探索アルゴリズムを提案する.具体的には,制御 Lyapunov-Morse 関数は LgV(x) = 0 を満足する点 x 上で LfV(x) < 0 を満たすことが基本的な条件であるため,臨界点から LgV(x)=0 を満たす部分集合を探索するアルゴリズムを用いて,任意の関数が制御 Lyapunov-Morse 関数かどうかを判別することで,望みの制御 Lyapunov-Morse 関数を探索している.
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■ 疎性の利用によるロバスト半正定値計画法の効率化
東京大・猪阪佑介,大石泰章
本論文では,制約式が不確かなパラメータの多項式で表わされるロバスト半正定値計画問題を考え,計算量を改善した新しい行列拡大法を提案する.本手法は制約式の疎構造を利用して従来の行列拡大法よりも小さなサイズの近似問題を生成するものであり,しかも従来の行列拡大法と同じく不確かなパラメータの領域を小さく分割することにより,生成した近似問題の最適値が元のロバスト半正定値計画問題の最適値に収束するという性質を保持している.この意味で,本手法は漸近的に厳密である.また,生成する近似問題のサイズは制約式の次数により評価できる.従来の行列拡大法との比較を行い,数値実験による検証も行った.
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■ H2最適追従制御設計問題の精度保証付き計算アルゴリズム
CREST/JST・管野政明,東京大・原 辰次
本論文では,一入力一出力線形連続時間系に対するH2最適追従制御問題を精度保証付きで数値的に解くアルゴリズムを提案している.提案アルゴリズムは,計算機代数システム(数式処理システム)上に実装され,さらに区間演算(数値計算)を用いている.それらを組み合わせることにより,精度保証という厳しい要求を満足することを可能としている.また,本論文で考察する追従制御問題の解の構造的特徴を利用することにより,計算量の低減化が実現されている.本論文ではまず,精度保証付きアルゴリズム構築に適したH2最適追従制御問題に対する解の表現を与えている.つぎに,導出した解の特徴を利用して,最適コストおよびそれを達成する最適制御器を計算する精度保証付き計算アルゴリズムを導いている.最後に数値例を用いて,提案アルゴリズムの有効性を示している.
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■ 制御性能評価に基づくパフォーマンス・アダプティブPIDコントローラの設計
広島大・高尾健司,呉高専・大西義浩,広島大・山本 透,雛元孝夫
近年の産業界においては,徹底した低コスト化が促進されており,制御性のさらなる高精度化が望まれている.このような要望を満たすためには,制御系が適切に制御されていることが必要不可欠である.よって,制御系が望ましい状態で動作しているかを評価する,いわゆる制御性能評価が注目されている.しかし,その研究の多くは制御性能を評価するのみに留まっており,性能を改善するための制御系の調整方法についての研究はほとんど考察されていない.そこで本論文では一般化最小分散制御法に基づく制御性能評価法によりPID制御器の評価を行い,さらに,制御性能を改善するためのPIDパラメータ調整方法を提案している.従来のセルフチューニング制御(STC)では,応答が大きく変化しない定常状態においては,たとえ制御性能が劣化しても,制御パラメータが適切に調整されることが難しい場合がある.しかし,本手法では制御性能評価に基づいて制御系が調整されるため,定常状態においても制御性能を改善することができ,さらにシステム同定が不要であるという大きな利点を有している.最後に,数値例を通して,本手法の有効性を定量的に検証している.
▲ ■ The Search for Nash Equilibrium Solutions with Replicator Equations
Derived from Gradient Dynamics on a Simplex
Keio Univ./JSPS・Takashi OKAMOTO,Keio Univ.・Eitaro AIYOSHI
本論文では,各プレーヤーの意思決定の際に正規化制約条件(単位シンプレックス条件)が課せられる場合の連続ゲーム問題について考える.この問題は,制約条件の課せ方によって,2つのタイプに分類できる.1つは,生産能力分配問題のように,シンプレックス制約が,各プレーヤーの変数に対して独立に課せられる場合(制約独立型)である.もう1つは,市場占有率の競争問題のように,シンプレックス制約が全プレーヤーの変数に対して干渉を伴って課せられる場合(制約干渉型)である.本論文では,制約独立型問題の解としてNash均衡解を想定し,これに,シンプレックス制約を侵害せずに収束する勾配力学系を導出する.制約干渉型問題については,Nash均衡解が制約領域全域で集合を形成するため,その集合上の任意のNash均衡解に収束する力学系を構成する意味がない.そこで,正規Nash解を導入し,この解へシンプレックス制約を侵害せずに収束する勾配力学系を導出する.そして,導出したそれぞれの力学系とレプリケータ力学系との等価性についても議論する.最後に,導出した力学系の有効性を,簡単な例題への適用を通して確認する.
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■ 木構造を有する階層型確率ニューラルネットの提案と指形状識別への応用
広島大・岡本 勝,村上樹里,柴 建次,辻 敏夫
本論文では,確率ニューラルネットワークlog-linearized gaussian mixture networkを階層的に組み合わせたパターン識別法を提案する.提案手法では,識別木の各ノードにおいてデータの統計的な特徴に基づいて確率的な部分空間(サブクラス)への識別を段階的に繰り返すことにより,多クラスの識別において従来手法と比較して高い精度の識別が可能である.また,サブクラスの構築にクロスバリデーションを導入することにより,よりデータの特性を考慮した学習が実現できる.本論文ではシェイプセンサを用いた指形状の識別実験を行い,多クラス識別の有効性を確認する.また,生体信号ベースで操作可能な環境制御システムBio-Remoteを利用し,指形状を家電製品の操作コマンドに割り当てることで,家電製品の直接操作を行えることを確認し,インタフェース応用への可能性を示す.
▲ ■ ソフトフィンガー型最小自由度ハンドを用いた把持・操り動作における安定把持効果
立命館大・井上貴浩,平井慎一
本稿は,半球型ソフトフィンガを用いた最小自由度2指ハンドによる把持・操り動作において,閉ループ制御系を構成することなく対象物の動的安定把持が容易に実現できることを示す.はじめに,指先の2次元モデルを提案し対象物-指先間に現われるホロノミック拘束とノンホロノミック拘束を示す.さらに,拘束付きシステムのラグランジアンを定式化した上で,システムの運動方程式を導出する.つぎに,拘束付き運動方程式の解析手法として,両拘束を含めたCSM法により動的解析を行う.最後に,前記解析手法により把持対象物の動的挙動を解析し,対象物の位置と姿勢が一意に決まることを示す.以上のように,現実の物理現象として存在するLMEEをモデルに組み込むことにより,柔軟指マニピュレーションでは安定把持が容易に実現できることを示す.
▲ ■ 時間領域フーリエ補間による非同期サンプリング・レート・コンバータ
九工大・井上 学,小林史典,渡邊 実
ディジタル・データは,伝送時に劣化しないと思われているが,実際にはそうではなく,それが現れる機器の1つがサンプリング・レート・コンバータ(SRC)である.SRCは,携帯電話でさまざまなレートの着信音や音楽(たとえば,8,16,44.1,48kHz)を単一レートの再生器(たとえば32kHz)で扱う際や,CDとDVDの互換など,さまざまな場面で利用される.
このレート変換は,入力された離散データをなんらかの方式で補間して連続時間信号を生成し,この信号から規定のレートで再サンプリングすることで実現される.
現在主流の補間方式は,フィルタを使った周波数領域型で,高い変換精度を有す反面,回路規模・消費電力が大きくなり,例に挙げた携帯機器では機体の大きさ・連続再生時間に直結する.
そこで,この論文では,従来の周波数領域型補間方式よりも小さい回路規模で実現できる,時間領域型フーリエ補間方式を提案・LSI実現している.さらに,この補間法を改善し,レート変換の際に生じるノイズを1/3に抑え,音声周波数帯域において高い変換精度を得ることができた.回路規模に関しては,従来式のSRCに比べて1/150の規模となった.消費電力は回路規模と基本的に比例関係にあり,同様のことがいえる.
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