論文集抄録
〈Vol.43 No.1(2007年1月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[ショート・ペーパー]
[論 文]
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■ 簡易ウェーブレット解析による近方場移動不規則定常音源の3次元位置と速度の同時推定
筑波大・深浦 敦,佐々木公男
移動音源のドップラ信号解析による位置と速度の同時推定法としては,時間領域でのアプローチと周波数領域でのアプローチが行われてきた.さらに,近年非定常信号の解析法として注目されているウェーブレット変換に基づいた時間周波数解析による手法として,4点検出信号をウェーブレット変換して得た2次元パターンの相関解析によって単一移動不規則音源の3次元位置と速度を同時推定する手法が提案された.しかし,2次元パターンの相関解析は計算量が多い.そこで本論文では,2次元パターンの相関解析によるパラメータ抽出を,これと同等な1次元の簡易ウェーブレット変換の相関解析で行う手法を新たに提案する.さらに,種々の条件下で計算機シミュレーションを行い,従来の推定法との比較により,その有効性と特徴を明らかにする.
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■ 気体用と液体用の重錘形圧力天びんの高精度比較
産総研・小畠時彦
気体用と液体用の両重錘形圧力天びんにより発生される媒体の異なる圧力を高精度に比較する方法について述べる.具体的には,圧力天びんの装置定数である有効断面積に着目し,気体用および液体用の両重錘形圧力天びんの圧力依存性も含めた有効断面積比を比較測定から高精度で決定する方法について検討した.本研究では,有効断面積比を求める方法として,気体−液体圧力変換槽を用いる方法と液体潤滑型圧力天びんを仲介器として用いる方法の2つを採用した.比較した圧力範囲は0.5MPaから7MPaである.本稿では,両方法により得られた有効断面積比の結果をその不確かさと共に示す.方法による差異は,各方法から得られた有効断面積比の標準不確かさに比較して十分に小さい値であり,どちらの比較方法を用いても,気体用と液体用の両重錘形圧力天びんの比較が高精度に実現できることを示した.
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■ 薄膜磁気センサを用いた磁場プローブまわりの磁場分布のナノ分解能再構成法
東工大・山川真一,天谷賢治,
Simon Fraser Univ.・M. PARAMESWARAN
薄膜磁気センサを用いた磁場分布のナノ分解能再構成法を実験により実証した.実際には,磁気力顕微鏡の磁気プローブまわりの磁場分布を本手法を用いて再構成を行った.本手法では,水平面内で回転している試料の極近傍でセンサの厚さ方向の並進スキャンを行い,さまざまな角度と並進位置での計測データから磁場分布を再構成する.磁場分布の再構成法として,広く利用されているCTアルゴリズムを用いることができる.従来,磁気力顕微鏡による磁場測定では,磁気プローブから発生する磁場によって測定試料の微小な磁場に影響を与える問題があった.本手法では薄膜磁気センサからの発生磁場はないため感受性の高い対象の磁場測定が行えることが期待できる.現在,ハードディスク(HDD)に採用されている薄膜磁気センサの膜厚は数ナノ程度と非常に薄い.従来,センサの幅(数百ナノ)で制限されていた分解能を,本手法では薄膜センサの膜厚と同等の数ナノにすることができる.提案する手法ではHDDの分野で著しく進歩した計測技術をそのまま利用できるため,安価,簡便に高分解能の計測が期待できる.
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■ Filippovの枠組みにおけるOn-Off制御系の安定化
千葉大・赤坂大介,劉 康志
現在,オンオフ制御はそのアクチュエータの機構の簡素さやエネルギー効率の良さから広く利用されている.しかしながら,オンオフ制御系の解析・設計においては,システムの不連続性などに伴う理論的な解析の困難さゆえに,古くから近似的な手法が用いられてきた.それらの手法によって与えられる結果は厳密なものとはならず,システムの性能を最大限に引き出す手法とはいい難い.より効果的なシステム構成のためには,アクチュエータの特性を陽に考慮し,より厳密で使い勝手のよい制御系解析・設計法の確立が必要となる.本論文では,2重積分器を含む2次の線形系を制御対象と不感帯を含むリレー要素をオンオフ型アクチュエータによって構成されるシンプルなオンオフ駆動システムに対して,静的な状態フィードバックによりシステムの大域的な安定化を行う.閉ループ系は不連続性を有するため,微分包含を用いて記述し,Filippovの枠組みで安定性解析を行う.そして,システムの大域的な安定性を保証する非線形のクラスを含む状態フィードバック則を提案する.また,例題を通してオンオフ制御系に対する非線形フィードバック則の有効性を示す.
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■ フィードバック変調器を用いた離散値入力制御系の設計
京都大・石川将人,丸田一郎,杉江俊治
本論文は,制御入力が離散値に制約された制御系の設計に関するものである.そのような系の例としては,リレーやデジタル電磁弁のような離散的な値しか出力できない安価なアクチュエータを含む場合や,アクチュエータは連続値を出力できるが駆動方式の低コスト化のために離散値入力しか扱わない(PWM方式や低ビットのD/A変換器を用いる)場合がある.また,この場合,入力値の切り替え速度が遅い場合にも対応できることが適用範囲の拡大や低コスト化の観点から重要となる.
本研究では,上記の観点から,入力の離散値制約と切り替え速度制約を陽に考慮して,音響機器分野等でよく知られたΔΣ変調器の動作原理を応用したフィードバック変調器を導入し,これを用いた制御系設計法を提案している.このフィードバック変調器の導入により,よく整備された連続値入力システムの制御理論を援用して,離散値入力系を設計することが可能となる.フィードバック変調器を用いた制御系の目標値追従性能性および安定性の理論的解析をおこなった上で,シミュレーションにより,既存のPWM方式との比較も含めながら,提案手法の有効性を例証している.
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■ サンプル値逆系による連続時間逆系の近似とその反復学習制御への応用―両側z変換による逆問題への代数的アプローチ
中部大・十河拓也
反復学習制御は試行運転の反復によって逆系を得る制御法と定式化され,数学解析的には第T種Fredholm積分方程式の求解と等価になる.この積分方程式を離散化して解く場合,一般にもとの連続時間での解とまったく異なってしまう可能性があることが知られている.一方,反復学習制御は試行運転データの記録が必要なため,通常0次ホールドとサンプラによるサンプル値系として実装される.このことは連続時間系の問題として定式化した反復学習制御を実システムへ適用した場合,望み通りの結果が得られるかどうかが保証されていないことを意味する.そこで本稿では,サンプル値逆系が連続時間逆系を近似するための条件について,両側Laplace およびz変換を用いた非因果性を認める枠組みの下で代数的に考察を行った.その結果,Euler-Frobenius多項式の零点配置に基づき,連続時間系の相対次数の偶奇によって分類された軌道の滑らかさと一様連続性に関する近似可能性の十分条件を示した.これらの結果より,連続時間系について開発された反復学習制御は,非因果的な入力更新が可能で十分一様に滑らかな目標軌道を設定するならば,サンプル値系に適用でき,原理的にサンプル周期を短くすることで望みの精度が得られることがわかった.
▲ ■ 点接触仮定に基づく2足動歩行制御−Sagittal運動制御と安定化−
名古屋大・土井将弘,筑波大・長谷川泰久,名古屋大・福田敏男
本論文ではわれわれが以前提案した新しい制御手法である,Passive Dynamic Autonomous Control (PDAC)を2足歩行のSagittal運動に対して適用する.PDACは,1) 点接触,2) Virtual Constraintという2つのコンセプトに基づいて,ロボットのダイナミクスを1次元の自律システムとして記述する.このアプローチは,自律性に起因して,1) 保存量が存在すること,2) 1次元の自律システムを時間に関して積分することにより遊脚着地からつぎの遊脚着地までの時間の算出が可能なこと,という2つの注目すべき点をもつ.本論文ではPDACを用いて歩行を生成し,歩幅一定という拘束を用いることによって歩行を安定化させる.そして,PDACにより導出した保存量を用いて安定性の証明を行い,最後に,算出した運動周期に合わせて,われわれが以前実現したLateral運動を行わせることにより,3次元動歩行を実現する.
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■ 階層型ニューラルネットにおける中間層での適応的空間再構成と中間層レベルの汎化に基づく知識の継承
大分大・柴田克成,東工大・伊藤宏司
ニューラルネットを用いたロボットが,われわれ人間のように「似たような状況で似たような行動をとる」ことで効率的に学習を行うためには,単に入力パターンの類似性に基づいた汎化だけでなく,中間層に再構成された空間での類似性を出力に反映させることが重要である.これを中間層レベルの汎化と定義する.そしてまず,有効な中間層表現の獲得原理として,「教師信号が近いと,学習によって中間層パターンも近くなる傾向がある」という仮説を立て,ランダム入出力パターンの学習で検証した.
さらに,局所化された信号である簡単な視覚センサ信号を入力として大域的な情報を学習した場合,中間層ニューロンが入力層−中間層の初期重み値の情報を保持しつつ,適応的に大域的な情報を表現することを示した.また,入力空間を分割し,それぞれで独立した教師信号で学習すると,片方の領域での学習が他へ干渉しないような中間層表現となった.
以上より,センサからモータまでをニューラルネットで構成したロボットに物体到達タスクを強化学習に基づいて学習させることで,中間層に空間情報が表現されるようになる理由として,状態評価値と必要とされる動作が物体の位置に対して滑らかに変化することが考えられる.
[ショート・ペーパー]
▲ ■ 一般化シルベスタ行列方程式の解法について
大工大・加瀬 渡
多くの物理システムは二階の微分方程式で表現できるため,それを一階の連立微分方程式である状態方程式を経ることなく,そのままの表現で扱う研究が最近なされている.そのような表現のもとで,状態フィードバックゲインやオブザーバの設計を考えたとき,二次のシルベスタ行列方程式を解く必要が生じてくる.これに関して,Duanらは,解の自由度を明確にした解法を示している.本稿では,この考え方が,方程式の次数が二次と限定されることなく,一般の次数に対しても適用できることを示す.また,解の計算過程において,伝達関数行列の左分解表現を右分解表現に変換する必要がある.これについて,Duanらは有効な手段を提供してはいないが,本稿では,多項式ベクトル空間の基底ベクトルを計算する手法を利用することで,より実用的な計算法を提案する.
▲ ■ Newton法を利用したH2/H∞制御問題を解くための数値計算
広島大・向谷博明,山本誠司,筑波大・Hua XU
本論文では,H2/H∞制御に関する連立型リカッチ方程式に対して,解を得るための数値計算アルゴリズムを考察する.まず,γが十分大きい場合,これを摂動項とみなし,Newton-Kantorovich定理を適用することにより,解の局所唯一性,準正定性等を証明する.さらに,γが十分大きくない場合での局所唯一性を示す.これらの性質は,γが∞の場合には明らかな結果である.しかし,γがそれほど大きくなく,摂動項と見なすことができない場合における局所唯一性,二次収束性を保証したところに新規性が存在する.数値例では,提案されるアルゴリズムの有用性が確認される.
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