論文集抄録
〈Vol.42 No.12(2006年12月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ エンジン吸気量計測における逆流補正信号処理方法
日立製作所・青野俊宏,小渡武彦
本研究の目的は,熱線式流量計でエンジンへの吸気量を計測する際の,逆流の影響を補正する方法を開発することである.熱線流速計が出力する信号から算出されるパラメータのうち,逆流の割合と強い相関を持つのはどれであるか,シミュレーション,数式展開,実験により議論される.
シミュレーション結果からは,f1を脈動の基本周波数,f2,f3をその2倍,3倍の周波数の成分としたとき,正規化された周波数強度f2/f1,f3/f1が逆流比と強い相関を持つことがわかった.しかも,これら2つのパラメータはエンジンの吸気系の寸法やエンジン運転状態に依存しないことがわかった.これら2つのパラメータを用いることで逆流比は±5%の精度で求められることが確認された.
このことは,数式展開でも説明され,実験によってもf2/f1,f3/f1から逆流比が±5%の精度で求められることが確認された.
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■ 定点黒体による0.65μm放射温度計の波長安定性の評価
産総研・佐久間史洋,馬 莱娜
0.65μm放射温度計は高温域での標準温度計として使用される.その波長安定性は校正不確かさに大きな影響を及ぼすため,安定性を確認することが重要である.普通,波長安定性は分光器を用いて測定するが,放射温度計の認定事業者が分光器を維持して放射温度計の分光応答度を評価することは難しい.代案として,2台の定点黒体を用いて波長安定性を評価することを提案する.定点には銅点と銀点を用いる.銀点は0.65μm放射温度計の測定下限温度付近であり,若干ノイズの影響を受ける.銀点と銅点の出力比の分解能および不確かさは主として定点測定の短期および長期安定性による.それぞれ0.02%および0.14%程度である.これから実効波長評価の分解能0.08nmおよび不確かさ0.6nmが得られる.
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■ 上肢運動訓練を目的とした仮想カーリング作業における人間の感覚運動特性
広島大・田中良幸,松下和寛,辻 敏夫
本論文では,生体運動感覚特性に基づく上肢運動訓練支援システムの実現を目的として,インピーダンス制御されたロボットと仮想現実感を活用して仮想カーリングシステムを開発する.そして,健常者18名による基礎訓練実験を行い,仮想カーリング作業の学習過程における手先の空間・時間軌道の推移を明らかにするとともに,訓練規範となる手先速度波形の特徴を明確にする.また,ハンドル慣性の変化に対する被験者の手先軌道と手先インピーダンスの関係から,健常者はストーンのダイナミクスに応じた手先速度波形を生成するように,自らの筋骨格系を積極的に調整することを示す.
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■ 非一様サンプリングされたシステムに対するモデル出力追従制御
熊本大・水本郁朗,大平 聡,公文 誠,岩井善太
マルチレートシステムは,アクチュエータやセンサなどのハードウェアの制約により,入力と出力のサンプリング周期の異なるシステムであり,工業プロセスなどの多様な制御応用場面で遭遇するシステムである.特にこのようなシステムには,入力に関するアクチュエータの動作周期に比べ出力のサンプリングに一定の時間を要するようなシステムが多く存在する.このようなシステムに対しては,入力の速い更新周期を用いてマルチレート化されたシステムに対して,制御系を構成することで入力の速い周期での制御による制御性能の向上が期待できる.本報告では,入力が出力より速く非一様にサンプリングされるマルチレートシステムに対し,出力フィードバックに基づくモデル出力追従制御系設計手法の提案を行う.提案手法は,システムのASPR (Almost Strictly Positive Real) 性に基づく出力フィードバックにより制御系の安定性を保証し,CGT (Command Generator Tracker) 信号を適用することで速いサンプリング周期でモデル出力追従を達成する構造となっている.また,本報告では,速いサンプリング周期での出力フィードバックを実現するための出力推定器の提案も行っている.提案する推定器は,仮想的に速い周期で状態を推定する仮想オブザーバを設計し,その推定状態量に基づき出力推定を行う新しい構造となっており,通常のフレーム周期で状態推定を行う場合よりも,1フレーム周期速い推定が行える手法となっている.
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■ 衝突回避を考慮した複数ロボットのオンライン目標軌道修正
電通大・桜間一徳,中野和司
本論文では,複数ロボットに対して与えられた目標軌道を,衝突回避を考慮して修正するオンライン手法を提案する.本手法では,ロボット同士の相対距離に依存し,各ロボットを衝突しないように配置する滑らかな写像を用いて目標軌道の修正を実現する.これによって,ロボット同士が衝突しない軌道が生成され,かつそれはロボットが追従可能であるために十分滑らかである.しかも,この写像は,目標軌道がある程度離れている部分では恒等的であり,修正が施されないという特徴がある.したがって,本手法によって,元の目標軌道をできる限り活かした修正軌道が生成される.つぎに,修正後の軌道を元の目標軌道と比べるために,これらの距離からなる評価関数について考える.その関数の最小化を行うという観点から,写像のパラメータの選び方について考える.最後に,3台の移動式ロボットによるシミュレーションによって,提案法の有効性を検証する.
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■ 独立成分分析に基づく外乱抑制制御系設計
奈良先端大・新田益大,杉本謙二
外乱抑制は,制御工学における主要な問題の1つであり,さまざまな方法が提案されてきた.それらの方法の多くは,感度最適化問題の周波数重みの設計問題に帰着されるため,設計した重み関数がどの程度,外乱の特性を表わしているのかによって制御性能が左右される.しかし外乱は,どのような信号がどのような経路で作用するのかが不明な信号であるため,重み関数を試行錯誤で決定しなければならなかった.
本論文では,外乱源と設計者による入力信号は独立であるという仮定のもとで,外乱源とその伝達特性を同時に同定するために独立成分分析を用いることを提案する.外乱の影響下にあるプラントを測定し,観測信号をそれぞれ独立な入力因子へと分離することで,未知な外乱源から観測信号までの混合係数を推定する.
推定された混合係数によって,従来は系統的に決定できなかった周波数重みを一意に決定し,外乱の特性を含む一般化プラントに対する感度最小化問題を解くことで外乱の影響を除去することを目指す.
▲ ■ Analysis of a Nonlinear System Using Interval Arithmetic: Computation
of an Output Admissible Set
The Univ. of Tokyo・Mizuyo TAKAMATSU,Yasuaki OISHI
Nagaoka University of Technology・Kenji HIRATA
本論文では,制約つき非線形システムの出力許容集合を計算する新しいアルゴリズムを提案する.出力許容集合とは,システムが任意の時刻で制約条件を満たすような初期状態の集合であり,制約つきシステムに対する制御系設計において重要な役割を果たす.
線形システムに対しては最大の出力許容集合を求めるアルゴリズムが提案されている.また,線形システムに対するアルゴリズムが非線形システムへ拡張されている.しかし非線形システムの場合,既存のアルゴリズムは最大の出力許容集合を求められる一方で計算量が大きいという問題がある.
本論文で提案するアルゴリズムは,数値解析の分野で古くから使用されている区間演算を用いたものであり,数値実験の結果実用的な計算時間でほぼ最大の出力許容集合を得ることができた.
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■ 状態空間表現にもとづくH2性能限界の解析表現−非最小位相特性による最適制御性能の劣化について−
東工大・加嶋健司
近年,“制御しやすいシステムの特徴付け”という観点から,制御系設計における性能限界の解析表現の導出が盛んに行われている.この一連の結果は,既存の数値解法と比べて,システムのパラメータ(不安定極/零点,入出力むだ時間,重み関数の時定数など)が性能限界へ与える影響を“解釈”できるという利点をもつ.
本論文では,非最小位相特性に着目したある構造を有する一般化プラントに対して,H2性能限界の解析表現を導出した.得られた結果においては,非最小位相特性が最適制御性能へ与える影響が,容易に解釈可能な行列関数の二次形式として特徴付けられる.システム論的意義としては,既存の結果の多くが伝達関数表現と既約分解にもとづいているのに対して,本研究ではこれらとは完全に異なる問題設定およびアプローチとして,おもに状態空間表現と無限次元システムの制御理論を用いている.それにより本結果は,特に多入出力系や無限次元システムなど従来結果では必ずしも見通しよく扱うことのできなかったシステムの制御性能限界の解析において,Riccati方程式との関連性など新しい視点を与える.
▲ ■ ランダムタイリングとGibbs-samplingを用いた多次元状態−行動空間における強化学習
九州大・木村 元
脚型移動ロボットやヒューマノイド型ロボットなどの多数のアクチュエータを有するロボットにおいて,強化学習によって動作規則を学習する場合,状態空間だけでなく行動空間についても高次元で膨大な空間であり,状態の評価方法だけでなく行動空間での行動選択方法および学習方法にも工夫が必要である.代表的な強化学習法であるQ-learningとCMACなどの状態汎化方法との組合せにより,多次元連続な状態空間を扱う方法は多数提案されているが,Q-learningで多次元の連続な行動空間を扱う方法については,議論されてこなかった.本論文では,まずランダムタイリングを用いて状態−行動空間を汎化し,Q値や行動選択確率分布を表現する方法を提案する.つぎに,多次元で連続な行動空間を細かく離散化するが,Gibbsサンプリングによって空間爆発を回避しつつ行動選択を行う方法を提案する.Q-learningやSARSAなど,これまで代表的強化学習手法だったにもかかわらず,行動選択の困難さから膨大な行動空間を持つ強化学習問題への実装が困難だったが,本手法により容易に実装できることを示す.
▲ ■ ハイブリッドGAによるインスタンスベース政策学習−SLIPの提案と評価−
東工大・土谷千加夫,塩川祐介,京都大・池田 心,
東工大・佐久間 淳,小野 功,小林重信
強化学習は複雑な制御問題に対する有用なツールである.強化学習は価値関数アプローチとDirect Policy Search (DPS)に大別されるが,Q-learningに代表される伝統的な価値関数アプローチは組み合わせ的爆発の問題を内包している.一方, DPSは政策をなんらかのモデルで表現し,そのパラメータ空間を直接探索するアプローチである.それゆえ,GAなどの強力な最適化手法が利用できるという特徴を有する.インスタンスベース政策(IBP)はDPSのための政策表現モデルである.IBPは状態と行動の対からなるインスタンスの集合によって政策を表現する.本論文では連続状態・連続行動からなるインスタンス集合を効率的に最適化するハイブリッドGA(SLIP)を提案する.SLIPは二項分布交叉BDXによる組み合わせGAと突然変異的交叉INDXによる実数値GAからなる.SLIPを猫ひねり問題と並列二重倒立振子の振り上げ安定化問題へ適用した結果,その有効性を確認した.
▲ ■ ステアリング操作における人間の手先インピーダンス特性の解析
広島大・田中良幸,神田龍馬,
マツダ・武田雄策,山田直樹,福庭一志,正守一郎,
広島大・辻 敏夫
本論文では,ステアリング操作における人間の運動インピーダンス特性を解析することを目的とし,開発した仮想ステアリング装置を用いて計測・解析を行う.まず,ステアリング操作を対象とした1自由度回転系における人間の手先インピーダンス特性の計測法について説明する.そして,既知物理量を用いた機械インピーダンス特性の計測実験を行い,開発装置によるインピーダンス推定精度の高さを示す.つぎに,被験者によるインピーダンス計測実験を行い,ステアリングの把持位置と操舵力の大きさによって人間のインピーダンス特性が大きく変化することを明らかにする.最後に,計測結果を用いて,両腕の把持位置による人間−ステアリング系の操縦安定性について議論する.
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