論文集抄録
〈Vol.42 No.10(2006年10月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ 高速非侵襲計測による生体眼エイジング効果の発見
大阪大・金子 真,広島大・Roland Kempf,栗田雄一,
飯田義親,石井 抱,JR西日本・三嶋 弘,
広島大・塚本秀利,中国労災病院・杉本栄一郎
空気噴流をヒトの生体眼に吹き付け,そのときの角膜挙動を高速カメラで捕えることができる高速非侵襲計測システムにより,若者(58人)と高齢者(48人)の眼のダイナミック特性を測ったところ,高齢者において角膜の変形速度が不連続に変化する時間の存在が確認された.このときの角膜変位を速度不連続点変位と定義したところ,速度不連続点変位は若者と高齢者の間で統計的に有意な差が観察された.さらに,高速カメラによる眼の時間変化の観察から,このエイジング効果は角膜部ではなく眼球部のダイナミクスが支配的に関与していることを突き止めた.
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■ 放物型分布定数系の適応オブザーバ
北海道大・大室 朗,山下 裕,島 公脩
分布定数系における研究は,最適制御や適応制御,そして状態推定問題など,今日まで様々研究がなされてきた.適応制御では,Bentsmanや小林らによる平均法を用いた追従制御や,有限次元近似モデルへの追従制御などが挙げられ,また状態推定問題については,坂和やPritchardらにより提案された雑音を持つ系や持たない系に対する推定法などが挙げられる.そして,集中定数系における適応オブザーバの研究は,KreisselmeierやNarendraらに代表される状態変数フィルタを用いた手法が,主なものとして挙げられる.
しかし,分布定数系における未知パラメータと状態を同時に推定する適応オブザーバについての研究は,未だほとんど行われておらず,Lillyや宮里らによる有限次元サブシステムに対する提案に留まっている.そこで,本稿ではKreisselmeierにより提案された適応オブザーバの無限次元系への拡張を試みる.
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■ 4つのステアリングを持つ平面5節リンク移動機構の制御
青山学院大・山口博明
本論文では,4つのステアリングを持つ平面5節リンク移動機構,ならびに,そのフィードバック制御法を提案した.この平面5節リンク移動機構は,5つの関節の駆動と4つのステアリングの操舵により,波動歩行(undulatory locomotion)を行うものである.この平面5節リンク移動機構は,その閉ループリンク機構を運動の伝達装置とすれば,2つの関節の駆動だけで移動を実現することもできる.この平面5節リンク移動機構において,仮想的な関節,仮想的なリンク,仮想的なリンクの仮想的な車軸と仮想的なステアリングを想定した.これらの仮想的な機械要素を想定することにより,この平面5節リンク移動機構の運動学的方程式が,微分幾何学に基づいて,Five-Chain, Single-Generator Chained Formへ変換可能となることを示した.また,このChained Formに基づいて,この平面5節リンク移動機構の直線経路への追従を可能にするフィードバック制御法を提案した.特に,この平面5節リンク移動機構の直線経路への滑らかな追従が実現されている.この平面5節リンク移動機構の設計,その運動学的方程式のChained Formへの変換,ならびに,直線経路への追従を可能にするフィードバック制御法の有効性は,シミュレーションにより検証されている.
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■ MRダンパの適応同定と振動制御への応用
慶應大・坂井千春,寺澤 崇,佐野 昭
MRダンパを構造物の振動制御に利用するために,非線形ヒステリシス特性をもつ摩擦現象を表現するLuGreモデルの立場に立ち,所望の減衰力を発生させる入力電圧を解析的に計算することができる特徴をもつMRダンパモデルを提案し,モデルパラメータを適応的に実時間で同定するためのアルゴリズムを与えている.MRダンパへの入力電圧,入力速度,内部状態によってダンパ減衰力を推定できる新しいMRダンパモデルを与え,不確かなモデルパラメータを推定する適応同定アルゴリズムとその安定性を明らかにしている.さらに提案モデルは,MRダンパによって構造物に所望の減衰力が付加できる入力電圧を算出することができる逆システムコントローラを設計できるので,双線形H∞制御と組み合わせることが可能となり,MRダンパモデルに不確かさや変化が生じても,適応アルゴリズムにより効果的な振動制御を実現できる.最後にMRダンパの適応同定実験によるモデルの検証を行い,得られたMRダンパモデルによる4層構造物の振動制御実験でその有効性を検討する.
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■ インタラクタのオンライン推定を含む間接法離散時間多変数MRACSの一設計法
大工大・加瀬 渡,上智大・武藤康彦
著者らは先に,制御対象のマルコフパラメータからなるToeplitz行列の擬似逆行列を計算する程度で実行できるインタラクタの導出法を提案した.本論文では,この方法をオンラインで用いることによりインタラクタを逐次計算する間接法タイプの多変数MRACSの構成法を提案する.この方法では,インタラクタの次数の上限値が既知であれば,その導出のために繰返し計算を行う必要がない.すなわち,インタラクタの構造的な推定を含む方法と言える.擬似逆行列を計算するプログラムは,今日の標準的な制御系解析・設計支援のソフトウェアには標準装備されており,利用しやすく,またオンライン計算にも十分耐えうる.また,間接法を適用するため,Diophantine方程式をオンラインで解く必要がある.この点に関しても,著者らが提案した状態表現のパラメータを利用した方法を利用することにより効率的に計算する.
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■ 非駆動の根元関節を有する3自由度ロボットの振り上げ制御とその動きの解析
岡山県立大・忻 欣,兼田雅弘
本論文では,鉄棒運動をする体操選手の3リンクモデルとしての関節1(根元関節)が非駆動,関節2,3が駆動のロボット(以下PAA型垂直ロボットと呼ぶ)を対象とし,PAA型垂直ロボットを任意の初期状態から真上平衡点の任意の近傍まで振り上げる制御則の設計と,その動きに関する大域的解析を目的とする.まず,PAA型垂直ロボットの固有のダイナミクスや平衡姿勢の構造を利用し,リンク2とリンク3を1つの仮想合成リンクと考え,それに基づく2つの駆動関節の角度に関する座標変換を提案する.また,その座標変換を用いて新たなLyapunov関数を選定し,エネルギー制御法による振り上げ制御則を提案するとともに,任意の状態に対して,その制御則に特異点が存在しないための制御パラメータに関する必要十分条件を与える.つぎに,その振り上げ制御でのロボットの動きを解析する.その解析により,提案した制御則で,PAA型垂直ロボットは,任意の初期状態から,真上平衡点の任意の近傍まで振り上げられるか,あるいは,ある平衡点集合(真上平衡点を含まずに,真下平衡点を含む)に属する1つの平衡点に収束するかの何れかになることを明らかにする.さらに,その平衡点集合が真下平衡点のみをもつように,制御パラメータに関する条件を与えるとともに,真下平衡点が不安定であることを示し,その振り上げ制御でのロボットの動きを大域的に初めて解析する.最後に,ある体操選手の3リンクモデルのパラメータを用い,数値シミュレーションにより本設計・解析法の有効性を確認する.
本論文では,エネルギー制御法による多自由度劣駆動ロボットの制御系の設計・解析法に対して,新たな糸口と知見を与える.
▲ ■ ウェーブレット解析を用いたバッチプロセス操作プロファイルの最適化
京都大・藤原幸一,加納 学,長谷部伸治,神戸大・大野 弘
本研究では,ウェーブレット解析と多変量解析に基づく新しい統計モデル構築方法を提案する.ウェーブレット係数回帰(WCR)と呼ぶ提案法では,バッチプロセスの操作プロファイルから導出されるウェーブレット係数を統計モデルの入力とすることにより,操作タイミングなどの時間情報を適切にモデル化し,操作プロファイルを製品品質に関連づける統計モデルを構築する.さらに,多変量解析とウェーブレット解析を組み合わせることで,入力変数の多重共線性の問題を回避する.結果的に,WCRによってバッチプロセスを対象とした予測性能の高い統計モデルが構築できる.また,WCRを用いて構築した統計モデルに基づいて,バッチプロセスの品質改善を実現する手法を提案する.提案法は,希望品質を実現する操作プロファイルを決定できると共に,与えられた目的関数と制約条件の下で操作プロファイルを最適化できる.提案するWCRと品質改善手法の有効性を半回分式発酵によるリジン生産プロセスのケーススタディを通じて示す.
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■ 実例に基づく強化学習法の頑健性向上に関する一考察:マルチロボットシステムによる検証
津山高専・保田俊行,広島大・大倉和博
移動知の研究が対象とする分野の典型例としてマルチロボットシステムがある.本論文では,制御器として連続な状態・行動空間を自律的に逐次分割する強化学習手法・Bayesian-discrimination-function-based Reinforcement Learning (BRL)を用いる.BRLはマルチロボットシステムの自律的機能分化による行動獲得に有効であることが示されてきたものの,安定な行動獲得後に実験を継続するほどに行動がその環境に特化するという“過学習”が生じて,システムに変化が生じた場合にシステムの挙動が次第に不安定になる傾向があること観測された.そこで,システムの頑健性の向上を目指して,ルールパラメータに基づいて有効ルールを選定・保持することでルール集合の多様性を維持する拡張型BRLを提案した.均質な三台のアーム型ロボット群の協調荷上げ問題に適用した.実機実験において,拡張型BRLでは可塑的な自律的機能分化を実現することで従来型BRLと比較して頑健性が向上していることを確認し,提案手法の有効性を示した.
▲ ■ 位置決めと振れ止めを同時考慮した旋回クレーンのオペレータ支援システムの開発
岐阜大・矢野賢一,豊橋技科大・山田昌弘,寺嶋一彦
港湾や建設現場における荷の搬送や積み下ろしに,旋回,起伏,巻上げ下げの3動作により任意の位置に荷を搬送でき,かつ作業場所を容易に変更することのできる旋回クレーンが多く用いられている.港湾における作業においては,荷物の積み下ろし時間の短縮が求められているうえ,吊り荷が振動しやすく,非常に難しい作業となっている.本研究では,旋回運動によって発生する遠心力の影響を考慮した上で,操作が非常に難しいとされる振動抑制制御,衝突回避制御,直線搬送制御などは機械が自律的に行う安全性と作業性を考慮した旋回クレーンのセミオート型オペレータ支援システムの開発を行った.制御系設計においては,旋回運動によって生じる振動を回避するために,直線搬送方式を提案し,その有効性を示した.また,振れ止め制御を実現した上で,吊り荷の空走距離を最小限に抑え,かつ操縦者の意思に従い正確な位置決めを可能とする位置決めと振れ止めを同時考慮した制御システムの設計法を提案し,その有効性を示した.本研究の成果は,旋回クレーンにおける操作性,作業効率,安全性などの向上に貢献するとともに,過酷な重労働からの解放,熟練労働者不足の解消に貢献すると考える.
▲ ■ 半導体製造クリーンルームへの冷熱供給システムのライフサイクルコストと環境負荷最小化
日立製作所・石田 康,新潟国際大・岸野清隆,日立製作所・坂内正明
半導体製造のように年間の運転時間が長い生産ラインへの冷熱供給は,運転費,保守費とも大きいのでLCC評価が重要である.熱源システムの建設から廃棄までのLCC,LCCO2を最小化するためには,計画時に高効率機器を導入し,熱源システムの最適運用方法を見出し,保守を最適化し,これらの計画をプラントで実行することが望まれる.しかし,高効率機器や高度な運用方法は適用時の電気代とCO2発生は抑制できるが,建設・廃棄時のコスト,CO2発生量は抑制できない.ライフサイクルの中でコスト,CO2の両者をいかに低減させるかが重要である.本研究では,特に電気式のターボ冷凍機の性能低下に,最も大きく影響を及ぼす冷却水の汚れを考慮し,冷熱供給プラントの計画から運用・保守を含むLCC,LCCO2最小化を定量的に評価し,その結果を実際のプラントに適用した.その結果,10年間でLCCを1億7200万円,LCCO2を14,050t-CO2,削減できるという知見を得た.
▲ ■ 位相補間によるPLLの特性改善
九工大・井上 学,小林史典,渡邊 実
PLL(Phase Locked Loop)は,入力信号の位相を制御量とするフィードバック制御型の発振回路で,通信,制御など,様々な分野で応用されている.
しかし,PLLには,発振周波数が細かく変化する時間軸方向の動的なノイズ,ジッタ(jitter)の問題がある.また,このジッタを制御系として改善するには,系の応答性が犠牲になるということも問題となっている.
一般にPLLは,入/出力信号の位相を,両信号の立上りのタイミングで比較する.これに対し,本研究では,内部の高速クロックで駆動するカウンタにより入力信号の位相を補間・推定して,1周期に何度も位相を比較することのできるPLLを提案した.
そして,これをFPGA(Field Programmable Gate Array)で実現し,評価・検討したところ,ジッタ低減および応答性改善に有効であることを確認した.
さらに,位相の補間・推定法とその回路構成を見直し,1周期中の位相の比較回数を増やした場合にも回路規模や動作周波数の悪化を抑えることに成功した.
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