論文集抄録
〈Vol.42 No.8(2006年8月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
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[論 文]
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■ 微分領域標本化による瞬時周波数と正弦波パラメータの推定法
小山高専・久保和良
正弦波の微分領域標本から瞬時的な正弦波パラメータを推定する手法を提案した.被測定信号が正弦波である先験情報を仮定することによって,代数演算によって推定を行う具体的なアルゴリズムを示した.数値実験を行ったところ,従来手法よりも高速推定が行え,次の利点があった.
(a) Fourier解析法やWigner分布などの時間−周波数分布に対しては,本手法は不確定性原理の拘束を受けないから,信号観測時間長や窓関数,補間法によって推定値の瞬時性を失うことなく,かつ高精度の推定値が得られる.
(b) 瞬時周波数の本来の定義に従う推定法に対して,本手法では信号の瞬時情報のみに依存した周波数が求められる.
(c) Prony法と比較して,本手法ではさらに瞬時性の高いパラメータ同定が高精度に行え,計算不能に陥ることがない.
本手法は一意的な推定結果を与え,標本化定理の制約を受けず,量子化誤差に対して耐性がある.その反面,微分領域標本間の遅延に弱く,また正弦波以外の信号解析には別のアルゴリズムが必要になるなどの欠点がある.
提案した手法では,周波数の定義に基づき正弦波の同定を基本とし,微分領域標本化を導入することで極めて瞬時性の高い正弦波パラメータ推定を実現できた.
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■ 汎用イメージャの利用を前提としたピクセル抽出法による逐次型2値画像処理の効率化
創価大・杉森健司,伊与田健敏,崔 龍雲,渡辺一弘,久保田 譲
近年,汎用イメージャの高フレームレート化や高解像度化が進んでおり,高精細な物体計測・認識などへの応用が試みられている.しかし,その情報量によって画像処理部へのデータ転送時間や画像処理の負荷が増大し,画像データの増加はリアルタイムな計測・認識の妨げの要因となっている.汎用イメージャを用いた2値画像処理においては,必要な情報のみを抽出し,効率性の高い処理を行うことが重要である.
筆者等は,汎用イメージャを用いることを前提として,2値画像処理を効率よく行うためのピクセル抽出法を提案する.本手法は,イメージャから転送される画像データをハードウェア上で2値化し,その2値画像における対象領域内の画素の座標値のみを取り出すものである.これにより2値画像の処理量は,画面内における物体の位置や形状,イメージャの解像度に依存することはなく,正味の対象領域内の画素数に比例することとなる.2値画像における対象画素の座標値のみに対する処理によって,ソフトウェアにおける背景領域の走査に起因した冗長性が完全に排除される.
本報では,本手法の原理とアルゴリズム,本手法による情報量の変化についての検討,試作した実験システムの概要を示し,従来型手法との比較による本手法の評価実験の結果を示す.
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■ データを使った制御パラメータの直接計算
(株)東芝・中本政志
プラントのデータを用いて構造の固定したコントローラの制御パラメータを直接に計算する方法は,システム同定などによるモデル化を介さずに,簡易に制御パラメータが得られるため多数のコントローラの調整を行う場合など魅力的である.このような方法としてVRFTやFRITが提案されている.これらの方法は参照モデルを設定して,目標値応答特性を参照モデルの応答に近づけるように制御パラメータを求める.VRFTやFRITはもともとSISO制御系について提案されており,多変数制御系に適用するには制約がある.またこれらの方法による外乱信号を利用したフィードフォワード制御のパラメータ計算方法は提案されていない.本論文では,多変数制御系に適用する場合,VRFTに比べ制約の少ない方法を提案する.また外乱信号を利用したフィードフォワード制御のパラメータを求める方法も示す.提案の方法の有用性の検証として,ガス流体の圧力と流量を制御するプロセスでの実験結果を示す.
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■ 複数の入出力基底情報を用いた拘束システムのロバストな目標値整形
京都大・鈴木宙見,杉江俊治
本論文では,ノンパラメトリックな不確かさを持つ拘束システムに対し,目標値追従性の改善と制約を満たすことを目的とした,オフラインでの目標値整形法を提案する.
目標値から制約条件が課される出力までの,インパルス応答とステップ応答の上下限値情報が与えられたと仮定し,これらの応答情報を組み合わせて用いることで,ロバストに制約を保証するための条件を記述する.このとき,生成する目標値をインパルス状信号及びステップ状信号の組み合わせとして表現することを提案する.そして,その組合わせの持つ自由度を生かし,最適な組み合わせを与えることで,制約条件を緩和する方法を与える.
その際,スラック変数を導入することで,制約条件を記述する不等式の数を大幅に減らす方法を提案する.このスラック変数の導入により,従来の方法に比べ,ステップ目標値以外の一般的な目標軌道にも適用することが可能となる.なお,整形目標値を求める問題は凸最適化問題に帰着される.
また,提案法の有効性について数値例による検証を行う.
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■ 衝突回避を考慮した複数移動体のモデル予測編隊制御
電通大・根 和幸,福島宏明,松野文俊
本論文の目的は,モデル予測制御に基づき,複数の移動体の編隊を制御する新たな手法を提案し,実験によってその有効性を検証することである.モデル予測制御を編隊制御に利用できれば,従来では困難であった隊列の変化に伴う移動体同士の衝突を陽に考慮した設計が可能となると考えられる.しかし,モデル予測制御に基づいた編隊制御の研究はまだ数が少なく,その有効性は明らかではない.本論文では,モデル予測制御に基づいた従来と異なる編隊制御手法を提案し,モデル予測制御を用いる上で重要となる最適制御問題の可解性と閉ループ系の安定性のための条件を導出する.また,従来研究と異なり,より現実的な2輪車両系の移動体を対象とし,数値例と実験により有効性の検証を行う.
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■ 傾動をともなう液体容器搬送における時間周波数解析を用いた液面振動固有周波数の推定と振動制御
豊橋技科大・野田善之,岐阜大・矢野賢一,日本大・堀畑 聡,
豊橋技科大・寺嶋一彦
容器傾動をともなう液体容器搬送において,容器内搬送液体の液面振動固有周波数は,容器傾動にともない変動する.このような液面振動に対して,本稿では,時間周波数解析を用いて,変動する液面振動固有周波数の推定手法を提案する.また,代表的な時間周波数解析手法である短時間フーリエ変換,Wigner分布,Wavelet変換を本稿で提案する液面振動固有周波数推定手法にそれぞれ適用し,比較検討を行う.さらに,推定された液面振動固有周波数に対応した時変ノッチフィルタを液面振動抑制制御システムに導入し,液面振動抑制を考慮した液体搬送システムを構築する.構築された制御システムは,時変システムとなるため,その安定性についても示す.提案された液体搬送システムは,液面振動データをフィードバックせずに,液体搬送によって生じる液面振動を抑制することが可能な制御システムである.提案システムを容器傾動をともなう液体搬送システムに適用し,その有用性が示される.
▲ ■ 同次固有値を用いた同次システムの解析
奈良先端大・中村文一,北海道大・山下 裕,奈良先端大・西谷紘一
拡大つき同次システム(以下単に同次システムとよぶ)は線形システムを含むシステムであるが,線形制御理論において不可能であった問題の中には同次システム理論が非常に有効な解析手段となるものが存在する.例えば,非線形連続時間有限時間整定制御,リアルタイム厳密微分器,非ホロノミックシステムに対する制御則,線形近似システムが不可制御であるようなシステムに対する制御などといった問題である.しかし,単純な構造を持つ同次システムですら安定性を判別することは難しい問題となっている.
本論文では,まず同次次数による不安定な同次システムの解の性質の違いについて明らかにする.次に,同次固有値を提案し,同次固有値の基本的な性質を明らかにする.さらに,同次固有値を用いてシステムの安定性を議論し,正の同次固有値が存在すれば原点は不安定となることを明らかにする.最後に例題を用いて同次固有値を用いた同次システムの安定性の解析を行い,同次固有値の概念の有効性を示す.
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■ 運転データに基づく品質改善のための定性的品質情報の定量化
京都大・加納 学,藤原幸一,長谷部伸治,神戸大・大野 弘
本研究では,品質変数の新しい定量化法を提案する.従来の定量化法を用いることにより,例えば良品なら1,不良品なら0というように定性的な品質変数を定量化することができるが,このような定量化は運転条件最適化には役立たない.なぜなら,運転条件を入力,製品品質を出力とするモデルを構築した場合,モデルの出力として得られる品質の物理的意味が明確でなく,さらに希望品質を指定することもできないためである.そこで本研究では,主成分分析と線形判別分析を用いて,定性的品質情報を製品の歩留りとして定量化する方法を提案する.これにより,希望品質の指定や運転条件の最適化が可能となる.さらに本研究では,運転データに基づいて製品の品質や歩留りを改善する方法(DDQI; Data-Driven Quality Improvement)を提案する.DDQIは,定量的な品質変数と定性的な品質変数を統一的に取り扱うことができ,希望品質を実現できる運転条件を求めると共に,与えられた評価関数と制約条件の下で運転条件の最適化を行うことができるため,品質改善に役立つ有用な情報を提供できる.さらに,提案する定量化法と品質改善法の有効性をケーススタディを用いて示す.
▲ ■ 運転データに基づく階層型品質改善システムの開発:品質制御のための操作変数選択
京都大・藤原幸一,加納 学,長谷部伸治,神戸大・大野 弘
本研究では,品質改善を目的とした階層型品質改善システム(HiQIS; Hierarchical Quality Improvement System)を提案する.HiQISは,DDQI(Data-Driven Quality Improvement),Run-to-Run(R2R)制御,多変量統計的プロセス管理(MSPC)を要素技術として構築されており,1) 運転条件を入力,製品品質を出力とする品質モデルの構築,2) 品質のばらつき原因の解析,3) 品質改善において操作すべき変数の選択,4) 操作条件の最適化,5) R2R制御による希望品質の達成などの機能を有する.現実の産業プロセスでは,オペレータが運転条件を一定に維持しようとしているにもかかわらず,品質がばらついてしまうという問題が生じる.さらに,数多くの変数を同時に操作することは困難であるため,品質改善に有効な少数の変数のみによる操作が望まれる.そこで本研究では,品質のばらつき原因の解析方法およびその解析結果に基づく操作変数選択方法を提案する.また,ケーススタディを通じて,HiQISおよび提案法の有用性を示す.
▲ ■ バッチ学習型競合連想ネットとその性質
九工大・黒木秀一,西田 健,渕川康裕
競合連想ネット CAN2 (Competitive Associative Net 2) は非線形関数を学習し区分的線形関数として近似するニューラルネットである.これまでこのネットの学習法として訓練データを1個ずつ学習するオンライン学習法が提案されているが,本稿では蓄積された複数個の訓練データを一括して学習するバッチ学習法を提案する.前者の学習法は無限個の訓練データを処理するときには有効であるが,有限個の訓練データに対しては後者の方がより有効であると考えられる.提案するバッチ学習法は従来のオンライン学習法と同様に,非線形関数の入力空間を区分するための荷重ベクトルを勾配法により更新し,各区分領域内で関数を線形近似するための連想行列を線形最小二乗法により更新し,さらに勾配法の局所解問題を回避するために漸近最適条件を用いて再初期化するという手順を繰り返すものであるが,各手順においては有限個のデータの各種情報を利用するものである.最後にこの学習法をいくつかのベンチマーク関数に適用する数値実験結果を従来のオンライン学習型CAN2とSVR (Support Vector Regression)の結果と比較し,本手法の性質や有効性を示す.
▲ ■ 変形ロジスティック写像による間欠性カオスを用いたマルチエージェンロボットのデッドロック回避手法
福井大・前田陽一郎,日本レジストリーサービス・松浦孝康,
大阪電通大・水本雅晴
本研究では,複数の障害物を回避しながら目的地に向かうマルチエージェントロボットにおいてデッドロック(停留)現象を探索問題における局所最小解と見立て,これをカオス的ゆらぎにより効率的に回避させることを考える.筆者らは,すでに大域結合写像(GCM)による大規模カオスを用いたデッドロック回避手法の提案をしている.しかしながら,大規模カオスの場合は,同期・非同期の制御が困難で効率的な回避行動を設計するのが容易ではないという問題があった.
本論文では個々のエージェントにおける障害物回避行動を記述したファジィルールの後件部シングルトンを変形ロジスティック写像の間欠性カオスに従って変化させることにより,集団としてのデッドロック回避を効率的に行うことが可能な手法を提案する.さらに,変形ベルヌーイ系と比較することにより提案したアルゴリズムの有効性を検証したのでこれについても報告する.
▲ ■ 複数の固有振動を持つ振動子網の構造遷移による挙動制御
東工大・舩戸徹郎,倉林大輔
システムの構造はその挙動,さらには機能に大きな影響を与える.構造による機能生成はWWWや輸送網などの幅広い分野で利用されており,生物の脳においても神経構造が情報処理機能の生成に大きな役割を果たしている.本研究では,このような構造による機能生成の過程を明らかにするために,非線形振動子の結合系を作り,その結合構造によって挙動を制御する手法を提案した.多様な収束状態を持つ最も単純な系である,2種類の振動子を交互に接続したシステムを形成し,振動子数が偶数個のときと奇数個のときで挙動が異なることを示した.さらに振動子間に新たな結合を加え,できあがった結合構造によって偶数型と奇数型に相当する収束性の異なるシステムを形成した.これによって構造遷移による収束状態の制御が可能になった.またこの現象について,収束性が変化していく過程を数理的に解析することにより,構造変化が振動子間の相互作用に影響を与えることによって,挙動が変化することを明らかにした.次いで,3種類以上の固有振動数からなる系では,固有振動数の差が大きい振動子同士を結合することによっても収束性を変化できることを示した.
▲ ■ 非等間隔サンプルデータを用いた分数階微積分の数値計算法
高知高専・池田富士雄
分数階微積分は,微積分の階数を非整数に拡張した作用素であり,近年,レオロジーやフラクタル,分布定数系,制御系設計などの様々な分野において数多くの研究がなされている.分数階微積分を計算機により実現するには離散時間系のモデルを求める必要があるが,従来の離散化モデルの多くは過去の履歴計算に演算量を多く費やし多大な計算コストが掛かるという問題があった.本論文はその問題の本質的な解決を図るべく,非等間隔サンプリングによる離散化手法(IS-Algorithm)を提案した.これは分数階微積分を一種のStieltjes積分の形式で表現し,その積分変数上の刻み幅を一定として数値積分演算を行う方法である.これにより離散化モデル上では,過去の時点に遡るにつれて徐々に粗くサンプリングされ,サンプリング点数を効果的に削減することができる.最後に数値計算により従来の手法と同程度の精度を保ちながら,計算効率を大幅に改善できることを確認した.
▲ ■ プログラマブル・ロジック・コントローラを用いた医薬品製造設備制御ソフトウエアの効率的なコンピュータ・バリデーションの一手法
島根大・高橋正和
本論文では,プログラム・ロジック・コントローラを用いて開発された医薬品製造に関わる制御ソフトウエア(PCSW)のコンピュータ・バリデーション(CV)手法を提案する.CVは「医薬品製造システムが要求仕様に従って確実に動作することを保証する証拠を文書で示すこと」と定義されている.PCSWのCVは「上位の開発文書が作成されない」,「CVで要求されるテストと実際に行われているテストの対応をとることが難しい」,「設計情報の展開を追跡することが難しい」等の問題により困難となっている.本論文では,要求されるCVプロセスと現状のPCSW開発プロセスの対応付けを行い,さらにPCSW設計情報の標準化を実施した.さらに,開発文書の雛型と設計情報を管理するためのデータ・ベースを作成し,CV作業の効率化と標準化を図った.その結果,上記の問題を解決することができ,適切なPCSWのCVが実施可能となった.
▲ ■ 部分的変化を伴う強化学習に対する効率的計算法
金沢大・泉田 啓,藤井信治
実環境での強化学習には長い時間を要するため,オンラインにより全ての学習を行うのではなく,予測モデルを用いたシミュレーションと組み合わせる方法がよく用いられる.学習に用いるモデルは,実環境に対し部分的に誤差を含むため,実環境下においてオンラインで修正されなければいけない.従って,より少ない計算量で修正を行うことが重要になる.本研究は,逆行列の部分的修正を行うSherman-Morrison公式に基づき,Partial Modification Algorithm (PMA)を提案する.PMAはコスト,状態遷移確率,行動選択確率の部分的変化に対する効率的な修正を可能にする.提案手法の計算量に関して,既存手法と論理的に比較した後,最適制御に関するいくつかの問題に適用し,数値シミュレーションにより計算量を低減化できることを示す.
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■ 災害調査データ共有のための時空間アプリケーションスキーマ開発とレスキューロボットへの実装実験
京都大・畑山満則,早稲田大・目黒淳一,
三菱電機・瀧口純一,早稲田大・橋詰 匠
本研究では,レスキューロボットもシステムの1部と考えるレスキュー活動支援システムの構築を目指す.本論文では,このレスキュー活動支援システムにおいて不可欠な情報収集活動に着目し,この活動を支援し,得られた情報を用いた分析や意思決定への橋渡しを行うサブシステムに関する考察を行うことを目的とする.まず,レスキュー活動支援システム全体の概要を示し,情報収集活動の位置付けを明確にする.次にレスキュー活動支援システムにおける情報共有基盤となる地理情報に関して考察する.災害発生時には,平常時に比べて状況変化が激しいため位置のみでなく,位置と時間を管理できる時空間データを管理する必要がある.地理情報の仕様を作成するためは,概念モデル,アプリケーションスキーマ,符号化方式の3つを決める必要があるが,まず,具体的な利用方法に依存しない基本部分に対する時空間データの概念モデルと符号化方式に関して提案する.次に,レスキューロボットによる災害調査を利用場面に想定したアプリケーションスキーマとそれを取り扱うソフトウエアを開発する.最後に,情報収集活動を目的とするレスキューロボットへの実装実験を行い,提案した時空間データの有効性の検討と情報共有のための課題をまとめる.
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■ 周期入力制御を用いた準受動的歩行ロボットの斜度・外乱に対するロバスト性
ホンダエンジニアリング・梅枝真守,
釧路高専・梶原秀一,北海道大・田中孝之,金子俊一
我々はこれまでに周期的な運動をする制御対象に周期的な制御入力を加え,目標としている動的状態を実現する周期的な入力による制御法を提案し,様々な制御対象にて有効性を示してきた.これらの手法は,系の周期的運動が持つエネルギーに着目したもので,メカニカルシステムに周期的な入力をタイミングよく与えることで,励振あるいは制振を起こして周期運動を目標とするエネルギー状態を持つリミットサイクル上に拘束,安定化するというものである.我々は受動的歩行や準受動的歩行が周期的な運動であることから,この制御法を歩行ロボットに適用することで,強い外乱や斜度の変化などに対してよりロバストな準受動的歩行が実現できると考えた.本研究では歩くやじろべえを模範としてトルクユニットを搭載したロボットQuPPIを開発し,周期入力制御法を用いてエネルギー制御系を設計した.そして,これを用いて慣性ロータの供給するエネルギーにより,QuPPIのロール軸方向の周期運動を目標とするエネルギーを持つ状態に制御できることを実機実験によって示した後,斜度の変化や外乱が存在する斜面において斜度を計測したり,パラメータを変化させたりすることなく,ロバストな歩行を実現した.
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■ EMGセンサスーツによるロバスト関節トルク推定と高速較正
電通大・鈴木洋輔,北海道大・田中孝之,
カリフォルニア大・マリア Q. フェン,長崎大・諸麦俊司
人間機械システムの汎用的ヒューマンインタフェイス及び運動計測機器としてセンサスーツを提案した.センサスーツは筋活動測定のための小型センサデバイスが内蔵されたウェアラブル運動計測システムである.センサスーツでは,装着ごとのセンサ取り付け位置誤差や装着者の体格差がトルク推定精度に大きく影響する.本研究では,複数の筋電図(EMG)センサを内蔵したEMGセンサスーツにおいて,測定位置誤差や個人差に対してロバストな関節トルク推定システムを高速に較正する手法を構築した.実験により,大腿部EMGと膝関節角度,膝関節トルクを計測した.ニューラルネットワーク(以下NN)を用いた非線形トルク推定システムは,重回帰分析を用いた線形システムに比べて,推定誤差を約60〜70%削減できることを確認した.また,複数被験者の共有データから学習した共有NNを提案し,これによりロバストなトルク推定システムを高速に較正することができた.実験により,較正時間を10%に短縮することができ,推定誤差を10〜30%を削減できることを確認した.以上より,提案手法は測定位置誤差と個人差に対してロバストな関節トルク推定システムの構築と高速な較正に有効である.
[ショート・ペーパー]
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■ 原子炉用超音波流量計の測定の高精度化(第二報)−平面二重曲り配管と整流装置およびトランスデューサの再取付の影響−
産総研・佐藤浩志,寺尾吉哉,高本正樹,
東京電力・山内祐樹,日立製作所・長谷川 真
超音波流量計は,原子力発電所の給水流量計としてで現在利用されているフローノズルやオリフィスメータの代替として注目されている.本論文は、外付け型超音波流量計を用いて,流量計の上流側配管条件の影響について検討した第二報を報告する.
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■ 回転する合わせ鏡を用いた運動を伴う微小物体の三次元計測
宮崎大・川末紀功仁,宮崎県庁・隅本 武
近年複数のメーカーから,合わせ鏡を回転させるロータリーヘッドを搭載したマイクロスコープが販売されている.従来真上のみから観察していたものがこのロータリーヘッドを用いることで様々な角度から観察できるようになる.このロータリーヘッドの構造は著者らが考案した円形速度バイアス法のシステムと類似しているため,三次元計測に利用できる.これまでに著者らが提案した計測システムでは,合わせ鏡を計測点の動きよりも十分早い速度で高速回転(3,600r/min)させることで撮影される軌跡を円形軌跡として近似し,画像解析を行った.しかし,マイクロスコープに搭載されているロータリーヘッドは,本来観察用であり高速回転できる仕様では無い.そのため,円軌跡として近似すると十分な測定精度が期待できないので,新たな画像処理手法が必要である.本論文では,撮影されるらせん軌跡の形状を基に,同時刻に異なる角度から撮影した場合の計測点の位置を推定することで三次元計測を行う手法を提案する.
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■ 作業目標とフィードバックがないVDT作業での心理的時間の歪みの是正現象について
広島市立大・徂徠三十六,村田厚生
本研究では,動機付けが低いと思われる,すなわち作業目標やフィードバック情報のないVDT作業において,これまでの研究でいわれているような,時間の歪み現象が生じるかどうかを明らかにすることを,ひとつ目の目的とした.すなわち,こういった作業においても,作業の困難度の増加とともに,時間の過小評価が顕著に観察されるかどうかについて検討し,過去の研究と本研究結果に基づいて,心理的時間の歪み現象について考察を加えた.さらに,心理的歪み現象が認められた場合に,作業の進行とともにその歪みが拡大していくのか,あるいは是正されていくのかを明らかにすることを,ふたつ目の目的とした.歪みが拡大するなら精神の過負荷がさらに増大するという結果を招き,そうでなければある程度改善されていくということになる.すなわち,VDT作業が数回連続した場合の時間の歪みの経時変化についても検討した.これらの結果,単調感が高い条件下でも,作業の難易度を上げれば,知覚時間の見積もりは過小評価の傾向になることが明らかになった.また,難しい課題では作業の進行とともに心理的時間の歪みが是正され,小さくなることが示された.
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