論文集抄録
〈Vol.42 No.7(2006年7月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
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■ L-Curve法と適応正則化併用法による磁気画像の形状識別同定法
神戸大・小島史男,日本モレックス・依藤大介
ノースカロライナ州立大・伊東一文
石油資源探査,リモートセンシング技術,コンピュータ断層撮影など逆問題解析は近年の工学応用における重要な問題のひとつであり,これまでに様々な研究が展開されてきた.逆問題解析とは,工学における様々なデータから,直接見えない情報を引き出す計算技術であるが,多くの問題は,その解が一意に決定できないか,または解が存在しても,すこしのデータのぶれに関して解が不安定になるなど,いわゆる不適切な問題となる場合が数多く見受けられる.チコノフの正則化法は解の安定化をはかる有力な方法として,古くから用いられてきた.この正則化法は画像処理やパターン認識技術にも応用されてきたが,解の安定化により本来必要な情報が消失する危険があり,正則化係数の設定は難しい問題のひとつとなっている.そのため,正則化を制御するパラメータをL-カーブによって決定する方法が提案され,現在この方法が一般的に使用されている.しかしながら,チコノフの正則化は,対象領域全般にわたってその効果が一様に分布するために,復元画像全体がぼけてしまう場合が出現する.最近正則化の効果を鋭敏化する技術として,Bounded Varidation(以下,BV法と略)が新たに提案され,その方法に関する研究が進んでいる.本論文では,チコノフの正則化とBV法の正則化を組み合わせ,これらにさらに加速項を加えて,正則化の効果が適応的に変化する方法を新たに提案する.まずチコノフの正則化とBV正則化法を適用した逆問題解析に関する推定機構を与える.提案した推定機構は状態依存型の非線形拡散方程式で記述されるので,これに関する有限差分近似による適応正則化計算式を導出する.これを効果的に解くためのメタ正則化計算アルゴリズムを提案し,最後にシミュレーションと実験データにより,提案手法の有効性を検証する.
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■ 粒子速度計測に基づく時空間勾配解析ブラインド信号分離法
佐賀大・寺本顕武,オムロン・鶴田浩輔
本論文は,一点とその近傍の粒子速度ベクトルを計測するブラインド信号分離法を提案している.提案手法は,(1) 音場を支配する波動方程式にもとづくオイラーの連続の式と,粒子の運動を規定する運動方程式に基づき,観測点とその近傍における直交する粒子速度成分が,それぞれ源信号の音圧の瞬時線形混合和で表わされることを明らかにし,(2) 従来のコンボリューション型のブランド信号分離問題を,簡単な瞬時線形混合型ブラインド信号分離問題に帰着させ,(3) 分離と同時に,波面の到来方向を推定することができる,特徴を有している.数値実験により,観測SN比が0dBとなるようなガウシアン背景雑音が存在する場合において,30dB程度の干渉音抑圧比(SIR)の改善が確認されている.また1度程度の確からしさで波面の到来方向(DOA) の推定を実現している.さらに熱線風速計の原理に基づく粒子速度マイクロホンを用いた音響実験により,実空間においても20dB程度のSIR の改善が確認されている.5度程度の確からしさでのDOA推定を実現し,提案手法の有効性を実証している.
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■ 多角形マーカを用いたカメラ1台でのモーションキャプチャと人間の3次元動作計測
北海道大・高橋秀典,田中孝之,金子俊一
本論文では,1台のカメラによるモーションキャプチャ(Mono-MoCap,以下MMCと呼ぶ)と,MMCによる人間の動作計測について提案する.この手法は,既知形状の多角形マーカをカメラにより計測し,画像処理によりマーカ頂点の画像座標を求め,PnP(Perspective n Point)問題を解くことで,各マーカの3次元位置を算出することに基づいている.
実験により.MMCでの3次元位置計測精度を実験的に検証した.カメラからの奥行距離が1.0×1.3mの範囲では絶対誤差が10mm以内であり,十分な計測精度が得られた.また,動的なマーカの3次元位置計測実験では,ステレオ方式で計測した結果と相対的に比較したところ,運動計測に十分な精度が得られていることを確認した.また,人間の肩,肘,手首,腰,膝,足関節に三角形マーカを取り付け,歩行運動を計測した結果,MMCはステレオ方式に比べて広い計測範囲を持つことが分かった.
これにより,カメラ1台での3次元位置計測だけではなく,従来のステレオ方式の補助的な計測手法としても利用できる可能性があり,ステレオ方式の弱点でもある,マーカの隠れを少なくする手法として有用であると考える.
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■ 接触力と接触面積を計測する非線形触覚素子
東大・星 貴之,篠田裕之
近年,人間社会で自律的に活動するロボットが現実味を帯びてきており,それらの表面を覆う柔軟な触覚センサ(人工皮膚)の開発が望まれている.圧力センサを高密度に配列する手法では,膨大な配線数や人工皮膚の柔軟性が失われることなどが問題となる.その問題を解決するため,本稿では数cm角の単一のセンサで対象物体の表面形状を知覚する新しい触覚センシング手法を提案する.それは,センシングエリア内への力だけでなく圧力分布の広がりをも計測する方法である.これにより低いセンサ素子密度でも豊富な触覚情報を得ることができる.これは人間の皮膚触覚の空間分解能は低いが物体の鋭さに対する感度が高いという特性に着目したものである.この手法の実現のため,導電繊維と柔軟な絶縁体(発泡ウレタン)のみから成る簡単な構造の静電型触覚センサ素子を提案する.絶縁体の非線形弾性を利用することにより,従来の圧力センサでは計測できない接触面積という情報を得ることができる.またこの触覚素子を配列して人工皮膚を作る際には,個別配線なしで信号を伝送する方法を用いる.それは導電面の境界に通信チップを配置してマルチホップによって通信する方法である.触覚素子自体を通信路として用いることにより,柔軟な構造を維持することができる.
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■ 極の領域を指定した拡張H∞制御のLMI解法の導出とその応用
信州大・石原義之,千田有一
極配置制約を付加したH∞制御の解法として,ロバスト安定度指定法やLMIに基づく方法が提案されているが,これらの方法では設計パラメータである重み関数極が不可制御・不可観測とならない範囲でしか極配置領域を指定することができない.しかしながら,虚軸近傍の重み極を使用せざるを得ない場合,それらの方法が利用できない場合がある.その場合,拡張H∞制御の利用が効果的である.そこで,本論文では減衰比の指定を含めた一般的な形で極配置制約を課した上で,拡張H∞制御を解くためのLMI解法を示す.拡張H∞制御の解法は,平田らによってLMI可解条件が導かれている.一方,極配置H∞制御のLMI解法はChilaliらによって示されている.両者の方法を組み合わせれば,求める制御器が得られると考えられるが,両者の解法が異なるために単純に組み合わせることはできない.そこで,本論文ではまずChilaliらが示した結果とは異なり,変数消去型LMIによって極配置H∞制御の可解条件を導出する.次に,この結果を拡張H∞制御条件に拡張することによって極配置拡張H∞制御のLMI解法を導出する.最後に,導出した解法をアクティブ振動絶縁系の設計に実験装置に応用した例を示し,計算機シミュレーションと実験検証結果によってその有効性を検証する.
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■ スムーズな入力信号を生成するモデル規範型適応制御手法
九工大・大屋勝敬,小林敏弘
モデル規範型適応制御系に対する数値シミュレーションを行ったとき,対象出力と規範モデルの出力との出力誤差や入力信号に大きな振動が発生するのを経験することがある.この問題を解決するため,近年,適応制御の制御性能の改善に注目が集まり,種々の手法が開発された.しかしながら,どの手法においても,出力誤差の収束性能は議論されているが,制御入力の過渡応答の議論はなされていない.
本稿では,制御入力に無意味な振動現象が発生しにくく,かつ,出力誤差が指定された収束速度で指数的に零に収束する適応コントローラの設計法を提案する.すなわち,初期値が零の場合に制御対象出力が規範モデル出力に完全一致するために必要な入力と初期値によって決まるなめらかな指数減衰関数との合成信号に制御入力を素早く追従させることができる手法を提案する.そして,制御入力が合成信号に素早く追従したとき,出力誤差e(t)が指定された行列Aをもつシステムdx(t)/dt=Ax(t), e(t)=cx(t)の解軌道に沿って零に収束することを示す.
▲ ■ H∞状態フィードバック設計のための冗長なディスクリプタアプローチ−伸張型LMIに基づく既存結果の拡張−
舞鶴高専・川田昌克,京大・蛯原義雄,南山大・陳 幹
パラメータ依存系の解析や設計問題におけるLMIの数値的な取り扱いを容易にするための方法として,冗長なディスクリプタや伸張型LMIアプローチが知られている.LMIを拡大するという点で両者は類似しているものの,H∞状態フィードバック制御問題においては大きな差異があり,前者では後者において不必要な一般化制御対象に関する仮定が必要となる.この仮定はディスクリプタ形式でシステムを再表現した際の見かけ上の直達項に関連するものであり,拡大したLMIの可解性がもとの状態空間表現に基づくLMIの可解性よりも厳しくならないことを保証するために必要とされてきた.
本論文では,この仮定を必要としない,より一般的な新しい冗長なディスクリプタアプローチを示す.具体的には,状態空間表現をディスクリプタ表現に変換する際に実は伸張型LMIの補助変数に対応するものを導入する自由度があることを示す.この補助変数はディスクリプタ表現の見かけ上の直達項を調整する役割を担うものであり,結果として上述の仮定を必要としない伸張型LMIと完全に等価な結果が導かれる.同時に,伸張型LMIアプローチにおいては特に明確な役割を意識することなく導入されていた補助変数の役割を,冗長なディスクリプタアプローチの観点から明らかにする.
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■ 多項式計画による飽和系の局所安定解析
京大・杉江俊治,植田克樹
本論文では,多項式計画を用いて飽和入力を持つシステムの局所安定領域を求める手法について考察している.まず,飽和入力を論理整数を用いた多項式として記述し,より自由度の高いS-Procedureを用いた多項式計画問題として局所安定条件を導出した.つぎに,この多項式計画問題に二乗和分解を適用する事によりLyapunov関数を求め,漸近安定領域を求める手法を提案している.さらに,この手法は区分的Lyapunov関数を用いた場合にも適用可能である事を示し,一つの具体的な計算アルゴリズムを提示した.最後に,数値例により既存の手法と比較して提案法の有効性を検証している.
▲ ■ 自動車の自動駐車技術の実用化に関する研究
千葉大・Dao Minh QUAN,井上拓也,劉 康志
本稿は完全自動駐車システムを実現することを目的とし,車両の操舵角の制限および駐車空間の制限があっても駐車できる駐車方法を提案する.本稿の制御手法は著者らが提案した一般のchainedシステムに対する切り返え制御手法に基づいて自動駐車を実現するフィードバック制御則を設計した.本稿の焦点は操舵角の制限があるときの車両の挙動を解析し,システムの安定性を保証する条件を導出することである.求めた安定条件に基づいて駐車アルゴリズムを提案し,制御実験で制御アルゴリズムの有効性を示した.
▲ ■ 切換に起因する外乱応答を抑制する制御系の設計−低次の切換時補償器の設計−
大阪大・浅井 徹
動作中の制御系に切換が発生すると,切換直後に応答が大きく乱れることがある.このような応答は制御系の制御性能を損なうだけでなく,制御対象に物理的な損傷を与えるなどの危険を伴うこともあるため望ましくない.これに対し,切換前の外乱から切換後の応答へのゲインを評価指標とすることで,直接的に切換前後の振舞いを扱う設計問題とその解法が提案されている.しかしながら従来の手法では,例え制御対象やフィードバック補償器の内部情報を利用できる場合であっても,得られる切換時補償器は高次であった.本論文では,切換前に利用可能な,あるいは切換後に直接制御可能な状態変数の数に応じて,低次の切換補償器が存在することを示す.またさらに,そのような低次補償器の存在条件が線形行列不等式によって与えられることも示す.
▲ ■ 階層型制御系の統合最適設計とその加熱炉の燃焼制御への応用
東工大・小林孝一,井村順一
本論文では,階層構造を有する制御系に対する設計理論構築の基礎として,上位システムを離散時間システム,下位システムを連続時間システムとした2レベル階層型制御系に対する設計理論の構築を目的とし,最適制御問題の定式化および解法を与えた.最適制御問題においては,評価関数を連続型と離散型の二次形式評価関数の和とし,離散時間および連続時間入力を求めることから,統合最適設計問題と呼ぶことができる.この問題に対して,終端固定付き有限時間最適制御の結果を用い,連続時間入力の設計問題を離散時間入力の設計問題に帰着させることで,連続時間および離散時間最適制御入力を導出した.また,従来の各階層を個別に最適化する手法(分離最適設計)と提案した統合最適設計の性能差を考察するために,2レベル階層型制御系に対する分離最適設計問題の定式化および解法を与え,統合/分離最適設計の性能差を陽に表現した.さらに,2レベル階層型制御系の応用として,熱間圧延工程における加熱炉の燃焼制御を取り上げ,そのモデリング方法を提案した.提案方法は加熱炉内の燃焼制御とスラブの加熱炉への装入順を最適化するものである.最後に,数値例により,統合最適設計の有用性を示すと共に,統合/分離最適設計の性能差についても考察した.
▲ ■ ロボット指一対による2次元物体把持の多様体上安定論
立命館大・有本 卓,吉田守夫,「 芝薫
指先が半球形状をした平面ロボット指一対が2次元物体を“blind grasping”する際の安定性を解析する.安定解析は,指先と把持物体とが常に接触し,指先が滑らずに対象物体の側面上を転がるという二つの拘束条件のもとで,全体系の運動を表すラグランジュ方程式に基づいて行う.ロボットと把持物体の運動は垂直平面に限定されるが,重力の影響は直接的に受ける.本論文では,“blind
grasping”を次の条件を満たす把持制御法として定義する. 1)把持物体情報及び視覚や触覚センシングのような外界センシングを全く用いることなく,指の運動学パラメターと指関節の測定データのみから制御信号は構成される.
2)閉ループ系は力/トルク平衡の状態へ漸近的に収束する. 実際,人間は目を閉じても,物体の近くに手が予め置かれれば,物体を安定的に把持する.安定性は拘束多様体上で定義し,全体系が冗長自由度をもつ場合について“EP-manifold”(EP:Equilibrium
Point)と呼ぶ新しい概念を導入する.拘束多様体上にある閉ループダイナミクスの任意の初期値から出発した解軌道は,力/トルク平衡を満たすより低次元のEP-manifoldに指数関数的に収束することを示す.
▲ ■ ハイブリッドシステムのモデル予測制御における離散ダイナミクスモデリング
東工大・小林孝一,井村順一
ハイブリッドシステムのモデル予測制御問題は一般に混合整数二次計画(MIQP)問題に帰着されることが知られているが,MIQP
問題は離散(0-1)変数の次元に対して,計算量が指数関数的に増加する問題点を抱えており,実用化に向けた課題となっている.したがって,MIQP
問題における 0-1 変数の次元が低減されるように,ハイブリッドシステムを表現することが望ましい.とくに,有限オートマトンのような離散ダイナミクスに対して,少ない
0-1 変数でどのように表現すればよいかという問題は非常に重要であるが,このような観点からの研究はこれまでほとんどなされていない.本論文では,Bemporad
らによる従来のモデリング手法より少ない 0-1 変数で有限オートマトンを表現する新しいモデリング手法を提案する.まず,有限オートマトンを通常の実数体上のインプリシットシステムによって表現する手法を提案した上で,変数変換が容易な有限体上に変換する.つぎに,有限体上のインプリシットシステムの変数を状態変数および入力変数に変換することで,対応する状態方程式を導出し,さらに,状態変数および入力変数の次元を保存した実数体上の状態方程式に変換可能であることを示す.最後に,提案手法の有効性を数値例によって示す.
▲ ■ 線形周期係数システムに対する周期指定の実現問題
名古屋大・穂高一条
本論文では,線形周期係数システムに対する実現問題において,従来知られていた結果では扱うことができないが,明らかにすべき問題がまだ残されていることをまず指摘する.そしてこの問題が,与えられた周期をもつ線形周期係数システムによる実現問題に帰着されることを示し,そのような実現が存在するための必要十分条件を明らかにする.その際,その問題の本質的な困難さが実行列における対数の存在条件にあることを示し,行列指数関数をある意味で一般化した行列値関数を導入することでその困難さを解決する.また,実現に要する計算は主として,定められた区間における定積分と実行列の対数計算から成り,十分実行可能なものであることが示される.このことは,一般に厳密解を書き下すことができない線形周期係数システムの中から,厳密解を陽に書くことのできる実現を選択することができることを意味し,そのような意味において簡潔な実現を与えるものである.
▲ ■ 一次元空間への低次元化写像を用いた対象物操作の強化学習
理研・小林祐一,NTTデータ・藤井博基,理研・細江繁幸
強化学習は幅広い対象に適用可能である反面,対象に関する知識を仮定しないため試行錯誤が多く必要とされるという問題を持つ.本研究では,ロボットによる対象物操作問題を想定し,ロボットの運動が拘束により低自由度の運動に制限される,またその拘束を破る境界が連続である,という知識を仮定した強化学習法を提案する.低次元状態空間への写像をオンラインで構築し,この写像を利用した状態空間においてタスクの失敗を引き起こす境界を推定することによる報酬関数の推定を行う.例として2リンクマニピュレータによる1自由度対象物の回転操作を取り上げ,対象物とマニピュレータ手先の接触を維持しながら目標姿勢まで対象物を回転させるタスクにおいて評価を行う.低次元化写像を用いないモデル同定型強化学習,および低次元化写像を用いるが報酬関数の推定を行わないTD学習との比較において,高い学習性能でタスクの達成が可能であることを示した.
▲ ■ ドライバのシステム依存による不安全行動を考慮した衝突防止支援制動装置の有効性評価
大同工大・鈴木桂輔, 山田喜一
本稿では,前方車両と衝突の危険性がある場合にブレーキ操作を支援する衝突防止支援制動装置を例に,システム作動時の目標停止位置,正常作動や不作動といったシステムの作動状態,ドライバの覚醒度を状態変数として,ドライバの制動開始タイミング,前方障害物(先行車両)への衝突率を20歳代〜30歳代の被験者45名により調査した.次いで,先行研究として著者らが報告した,ドライバのシステムへの依存を考慮したドライバ・システムの統合エラー確率モデルを用いて,当該装置を使用する場合と使用しない場合の,エラー確率(前方障害物への衝突の危険性)を定量的に分析した.最後に,システム使用時におけるドライバとシステムを統合したエラー確率がシステムを使用しない場合のドライバ単体のエラー確率よりも低下すれば,システムは事故回避支援に有効であるという考えに基づき,システム使用による衝突危険性の低下の程度およびその有効性を分析した.
▲ ■ 特異値分解を用いた所要時間予測
三菱電機・西馬功泰,後藤幸夫,熊澤宏之,駒谷喜代俊,三菱電機米国研・Daniel NIKOVSKI
道路交通システムの分野では,今後,プローブ情報システムなどの出現により収集される情報量の増大が予想され,計算負荷の軽い交通情報予測システムが求められている.本稿では,数時間先までの所要時間などを予測する手法において,履歴情報とリアルタイム情報を組み合わせることにより予測精度を高精度に保ったまま,予測処理,予測モデルの構築処理および更新処理の高速化を達成する予測手法を提案する.提案手法は,履歴情報の特異値分解(Singular Value Decomposition) により予測モデルを構築することにより,予測精度と高速性を両立させたことが特徴である.また,提案手法の予測精度を実際の所要時間データを用いて評価し,他の非線形手法と同等の予測精度をより少ない計算量で達成可能であることを確認した.
▲ ■ 計測融合シミュレーションを用いた非定常管内流れ場のモニタリング
東工大・井上慎太郎,川嶋健嗣,舩木達也,香川利春
流れ場の新しい計測方法として計測融合シミュレーションが注目されている.この方法は実験値を有効にシミュレーションにフィードバックさせるため,粗い計算格子でも実際の流れに近い収束解を得ることができ,計算時間の短縮化が期待される.
著者らは計算時間の短縮化に着目し,計測融合シミュレーションを用いた,プラント配管等の非定常を含む管内流れ場のモニタリングシステム構築を目指している.モニタリングシステム構築のためには,フィードバック則に対する考察が重要である.また非定常流れ場の検討,計算時間の定量的な評価が必要である.
そこで本研究では基礎的研究として,オリフィス流れを対象とし,空気を作動流体とした計測融合シミュレーションの評価を行った.その結果,流速に関してはフィードバック位置が,圧力に関してはフィードバック点数が重要となることを明らかにした.また非定常流量発生装置を用い,非定常流れ場についても計測融合シミュレーションが適用できることを示した.さらに一般的なシミュレーションと計算時間の比較を行い,計測融合シミュレーションの計算時間は非常に短く,モニタリングシステム構築は可能であることを示した.
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