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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.42 No.6(2006年6月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ 偏りのある確率分布関数と突然変異を用いた交叉による実数値GAの探索性能の改良

琉球大・金城 寛,大城尚紀,倉田耕治,山本哲彦

 実数値GAの交叉法としてBLX-α法が知られている.BLX-α交叉法は,一様分布の確率分布関数を用いて子の個体を発生させる方法である.本論文では,実数値GAの最適解探索の効率化を図るため,子個体の発生領域をその世代の最良個体に偏った分布(BPDF: Biased Probability Distribution Function)を用いた交叉法を提案する.さらに,進化の途中での局所解への収束と進化停滞を防ぐため,BLX-α法に対して有効な突然変異法を提案する.これは進化の進行とともに小さくなっていく子個体の生成領域を一定の範囲で保証する方法である.本論文では,適当な確率でBLX-α法にBPDFによる交叉法と突然変異法を適用し,一様分布のみを用いる従来のBLX-α法と比較して,提案法の有用性を示す.


■ 0.65μm標準放射温度計の安定性−1.波長安定性

産総研・佐久間史洋,馬 莱娜

 0.65μm放射温度計は高温域での標準温度計として使用される.その波長安定性は校正不確かさに大きな影響を及ぼすが,これまで長期的な安定性のデータが少なかった.今回,のべ10台の放射温度計について,長期的な波長安定性を調べた.その結果,一般に時間が経つにつれ中心波長が長波長側に変化するものがほとんどであり,0.1nm/年程度変化する放射温度計が多かった.ハードコーティング加工したフィルターが非常に安定であった.10台のうち3台ほど中心波長が大きく変化した例があり,最初安定でも一旦中心波長が大きく変化し始めたフィルターは変化し続けた.中心波長が0.2nm/年以上変化する干渉フィルターは交換が必要である.これらの知見を元に,放射温度計の目盛の管理を行う必要がある.


■ 薄膜磁気センサを用いた磁場分布のナノ分解能再構成法

東工大・山川真一,天谷賢治

 薄膜磁気センサを用いた磁場分布のナノ分解能再構成法を提案した.本手法では,水平面内で回転している試料の極近傍でセンサの厚さ方向の並進スキャンを行い,様々な角度と並進位置での計測データから磁場分布を再構成する.磁場分布の再構成法として,広く利用されているCTアルゴリズムを用いることができる.数値実験を行い,本手法の有効性を示した.現在,ハードディスク(HDD)に採用されている薄膜磁気センサの膜厚は数ナノ程度と非常に薄い.従来,センサの幅(数百ナノ)で制限されていた分解能を,本手法では薄膜センサの膜厚と同等の数ナノにすることができる.提案する手法ではHDDの分野で著しく進歩した計測技術をそのまま利用できるため,安価,簡便に高分解能の計測が期待できる.


■ 車輪に横滑りを有する車両の厳密な線形化によるロバスト軌道追従制御

武蔵工大・野中謙一郎,中山 元

 本論文では車輪に横滑りを有する前輪操舵車両に対する新しいロバスト軌道追従制御器を提案している.車輪が横滑りしない非ホロノミック車に対して設計された従来の制御則では車輪が横滑りしない場合には目標軌道に対する指数的漸近収束性を保証できるが,一方で車輪が横滑りする場合には大きな軌道追従誤差を生じる.本論文では,横滑りのダイナミックスをキャンセルすることによって,目標軌道への指数的漸近収束性を実現する時間軸状態制御形と厳密な線形化に基づいた軌道追従制御器を提案している.さらに外乱や車輪のコーナリングパワーなどに不確定性が存在する場合でも,スライディングモードによる自然な拡張を行うことによってロバスト性を保証できる.本手法の有効性はシミュレーションを通じて示される.


■ ニューラルネットワークの学習による確率的な不確かさに対するロバスト制御系の構築法

京大・中西弘明,大産大・井上紘一

 本稿ではニューラルネットワークの学習により不確かさ,特に確率的な不確かさに対してロバストな制御系の構築を行う方法を提案する.第一の手法は,従来のH∞制御系と同じように確率的な不確かさに対するロバスト性を定量的に評価できる.第二の方法は第一の方法の極限に対して,安定な解を得るために制御性能の拘束条件を加えるものである.第三の方法は最悪応答の改善を図るものである.数値シミュレーションによりそれらの方法の特徴を明らかにし,それぞれの学習方法の改善法を示す.また,無人ヘリコプタの飛行制御系設計問題に適用した結果を示す.飛行制御においては風は最も不確定な要素であり,風速などは確率的に変化することが知られており,風に対するロバスト性は飛行制御系の重要な要素である.数値シミュレーションの結果から,提案手法は従来の設計手法よりもロバスト性や制御性能が優れる制御系を構築することが可能であるだけでなく,ロバスト性に対して重要な要因を明らかにすることも可能であることが分かる.


■ 多項式型パラメータ依存 Lyapunov 関数を用いた不確かな線形時不変系のロバスト H∞ 性能解析

京都大・平井義人,蛯原義雄,萩原朋道

 本論文では,ポリトープ型の不確かさを有する連続時間線形時不変系のロバストH∞ 性能を,多項式型パラメータ依存 Lyapunov 関数を用いて解析することを可能とする LMI 条件を提案する.このような LMI 条件を導出するために,本論文ではまず不確かさのない系の L2 ゲイン性能をある特別な形の Lyapunov 関数を用いて解析する問題を考え,適切な系の冗長表現を用いることでこのような Lyapunov 関数の存在条件をある集合上での不等式の成立条件に帰着させる.この不等式条件は Finsler の補題が適用できる形となっており,結果として不確かさのない系の L2 ゲイン性能(したがって H∞ 性能)を解析するための新たな LMI 条件が平易な手順で導かれる.この LMI 条件は,既存の extended LMI あるいは dilated LMI と呼ばれる条件の自然な拡張となっている.この新たな LMI 条件を用いることにより,ロバスト H∞ 性能を保証する多項式型パラメータ依存 Lyapunov 関数が存在するための十分条件を,ポリトープの端点で評価された有限個の LMI の可解条件として得ることができる.本論文では,いくつかの数値例を通して提案する解析手法の有効性と計算の複雑さを検証する.


■ 線形ジャンプシステムに対する状態フィードバックによる予見H∞追従制御

京都大・名倉 剛

 本論文では有限時間区間における線形時変ジャンプシステムに対する状態フィードバックによる予見H∞追従制御問題について考察している.主に目標信号がある予め設定された予見時間においてコントローラー設計のために利用可能である問題について考察し,予見時間がない場合,終端時刻まですべての時間間隔で予見可能な場合を含めて3つのH∞追従制御問題に対する状態フィードバック則を提案している.さらに数値シミュレーションにより,予見時間を増やすことにより追従性能が改善されることを示した.本論文は線形連続時間及び離散時間システムに対するH∞追従理論を線形ジャンプシステムへ拡張したものである.この理論はゼロ次ホールドの入力を持つ制御系にも適用可能である.


■ MOESP-type closed-loop subspace model identification method

Osaka Inst.of Tech.・Hiroshi OKU, Yasuko OGURA, Osaka Univ.・Takao FUJII

 本論文では,MOESP型の閉ループ部分空間同定法を提案する.部分空間同定法の1つであるMOESP法は入出力データからなるハンケル行列のQR分解を使った出力誤差モデルに基づく同定法であるが,閉ループ同定には適用できない.提案手法は,外部励起信号と既知の制御器の情報を使うことにより,MOESP法とほぼ同じ手順で閉ループ系内に接続された同定対象を同定することができる.数値例において2つの閉ループ同定問題を考え,提案手法と既存のいくつかの同定法(CCA法,SSARX法,PO-MOESP法)との比較を行う.数値例により提案手法がARMAXモデル構造をもつ同定対象だけでなく,CCA法やSSARX法といった式誤差モデルに基づく同定法では取り扱えないBox-Jenkinsモデル構造をもつ同定対象にも等しく適用可能なことを示す.


■ 制御 Lyapunov-Morse 関数による大域漸近安定化

北海道大・都築卓有規,山下 裕

 非線形制御理論における大域漸近安定化問題の解法として,制御 Lyapunov 関数による方法がある.しかし,状態空間が一点可縮ではない場合,状態空間上の任意の関数は2個以上の臨界点を持ち,制御 Lyapunov 関数は存在しない.一方,力学系理論においては複数の臨界点を許容する Lyapunov-Morse 関数が提案されている.本稿では,制御 Lyapounov-Morse 関数を定義することで,一般的な多様体上の制御系に制御 Lyapunov 関数の概念を拡張する.そして,この関数から導かれる不連続フィードバック制御則を提案し,その制御則により制御された系が大域漸近安定となるための条件を明らかにする.また,大域漸近安定化を保証するため,不連続制御系の解の定義として,よく用いられる Filippov の解を変更した新しい解の定義を提案する.


■ 動力学モデルに基づく蛇型ロボットの軌道追従制御

NTTデータ・佐藤博毅,電通大・田中基康,松野文俊

 蛇型ロボットにより正確かつ複雑なタスクを実現させようと考えたとき,動力学モデルに基づいたロボットの正確な軌道追従制御の実現が必要であると考えられる.動力学モデルに基づく車輪型蛇ロボットの制御に関して,従来は特異姿勢回避を軌道追従誤差とのトレードオフで実現しており,ロボット先頭の正確な軌道追従を理論的に保証する制御系は提案されていなかった.
 そこで本研究では,蛇型ロボットに対して動力学モデルに基づいた制御系設計を行い,特異姿勢を回避しながらロボット先頭の正確な軌道追従を理論的に保証する制御系を提案する.対象とするモデルは,車輪型蛇ロボットの一部のリンクの受動車輪を取り除いたモデルである.車輪を取り除くことによって生じる運動学的冗長性を代表する変数として形状可制御点(車輪を取り除いたリンクの関節角)を選び,これを特異姿勢に関する評価関数を増大化(減少化)するように目標値を与えて制御することで特異姿勢を回避しながらロボット先頭の正確な軌道追従を実現することができる.最後に,提案する制御則の有効性をシミュレーションによって検証する.


■ 超一様分布列を用いることによる遺伝的アルゴリズムの性能改善

鳥取大・木村周平,松村幸輝

 乱数発生器は進化的アルゴリズムにおける重要な要素の一つである.従って進化的アルゴリズムを用いて関数最適化を行う場合,我々は良い擬似乱数発生器を注意深く選択する必要がある.進化的アルゴリズムにおいて擬似乱数列はしばしば,新たな探索点を生成するために使用される.その理由は,探索範囲に出来るだけ一様に新たな個体を生成するためである.そこで本研究では新たな個体を生成するために,擬似乱数列の代わりに超一様分布列を使用する.これにより擬似乱数列を用いた場合よりも一様に個体を生成することが可能である.本研究では超一様分布列を幾つかの実数値遺伝的アルゴリズムに適用し,その効果を確認した.考察においては,超一様分布列を初期集団生成のために使用すると最適解発見率が向上すること,超一様分布列を子個体生成のために使用すると最適化に必要な関数評価回数を減少させることを示した.さらに超一様分布列として離散スクランブルHalton列を用いた場合,高次元関数最適化問題でも遺伝的アルゴリズムが良好な探索性能を持つ可能性を示した.


■ アクティブFSO通信システムの光軸補正制御

NTT・吉田耕一,辻村 健

 本論文はサービス範囲が比較的小規模なユーザーネットワークにおいて移動を伴う端末を追尾しながら光空間通信を行うアクティブfree-space optics(FSO)システムに関するものである.アクチュエータ駆動される反射鏡によって通信用レーザー光の反射方向を調整可能な動的機構を採用し,通常の無線LAN等の端末間通信を介して制御信号を伝達することよりこれらを連動させて移動端末を追尾する.これにより高速性とユビキタス性を両立させたアクティブFSO通信システムが提供可能となる.端末の移動に伴う光軸のズレを補正するための制御法を含めたシステム構成が述べられる.また,プロトタイプを用いたシミュレーション評価と基礎実験による提案システム性能の検証が行われる.


■ 超音波エコーを利用した体肢横断面画像計測システムの開発

産総研・福田 修,広島工大・福元清剛,佐藤広徳

 客観的・科学的健康管理という概念の中「体組成」は健康評価の最も基本的なインデックスの1つである.そこで我々は体組成を正確に評価するために,複数個の超音波探触子を用いてX線CTやMRIと同様に体肢の横断面画像を計測可能なシステムを開発した.本システムは探触子ユニット,メインユニット,および画像合成ソフトウェアからなる.探触子ユニットは,体肢を挿入する水槽とその周りに設置された複数の探触子からなり,探触子取り付け部分は,計測対象の太さに合わせて自由に交換することができる.メインユニットは,探触子切替回路,撮像回路,および画像合成用計算機で構成される.画像合成ソフトウェアでは複数の探触子から転送された断片画像を,各探触子の幾何学的位置関係に基づいてアフィン変換し,合成する.本装置の妥当性,再現性,操作性,フィールドでの有効性を検証するために実験を行った.その結果,妥当性においてはMRIと高い相関関係が得られ,再現性においても十分な精度が得られた.また,操作性においては大幅な計測時間の短縮と画像合成時の精度向上が確認できた.さらに,フィールド調査においても358名から得られたデータから筋バランスの変化などを観察でき,調査研究に十分耐えうるものであることが確認できた.


■ 脳低温療法のためのモデル規範型脳温2自由度制御

東医歯大・檮木智彦,若槻琢也,若松秀俊

 脳温制御の自動化には,精確な脳温管理,医療従事者の負担と医療コストの軽減,脳低温療法の普及促進が期待できる.しかし,脳温制御は対象が生体ゆえに温熱特性の個体差,非線形性,時変性が問題となりうる.そこで,平均的な温熱特性を表す特徴モデルを規範モデルとして導入した2自由度制御システムを考案し,2つの制御器に最適レギュレータと適応制御器を据えた最適・適応制御システムとそれぞれファジィ制御器を据えたモデル規範型ファジィ制御システムを構築した.そして,患者の代用として代謝産熱と血液循環を模擬することが可能な樹脂人形を対象とした脳温制御実験から,両制御システムの比較・検討を行い,脳温制御における2自由度制御の意義と特徴を考察した.
 実験の結果,どちらのシステムでも低侵襲で精度のよい脳温制御が実現可能であることを確認した.またモデル規範型2自由度脳温制御システムは,特に特徴モデルの導入とそれを対象にするフィードバックループに脳温制御におけるいくつかの意義があり,今後行われるであろう種々の生体制御に対しても有用と考えられる.


■ 防災オントロジーをネットワークインテリジェントシステム

首都大・山口 亨,都立科技大・梅田雅士,斎藤毎至
     東京電機大・原島文雄

 情報インフラは整い,便利になり,そして高度化した.その反面,大地震などの災害時には非常に弱い.そのため,既存のネットワークに機能を追加し,災害に強いネットワーク構築を行うことが必要である.また,被災状況に応じて避難経路や火災状況など必要な情報を自動的に集めてくる機能も必要である.本稿では,災害時におけるネットワークリンクのダウンを克服するための手法と,これを利用した状況に応じて必要な情報を自動的に収集する手法の2つを提案し,これを用いてネットワークインテリジェンスを構築することで災害時における避難支援システムを開発する.そして,避難訓練実験を行うことでこのシステムの有効性を示す.


[ショート・ペーパー]

 

■ 超音波センサを用いた多重反射波モデルによる複数コンクリートクラックの検出

山口大・山本寛也,I.M.マズハル,田中正吾

 著者らは先に,多重反射波モデルに基づくパターンマッチング法により,超音波センサを用いたクラック非破壊検査法を提案し,超音波進行方向に高々クラックが1個ある場合に対し,クラックが検出できることを示した.しかしながら,この方式では,1クラックがあった場合,クラックの厚みに応じて得られる結果が異なっていた.つまり,クラック厚が大の場合はクラックの位置が求まっていたのに対し,クラック厚が小の場合は,全体のコンクリート厚(つまり底面の位置)が求まっていた.これは,コンクリートとモルタルの境界面での反射が全体の底面での反射に対し小さいからである.
 そこで本稿では,先に提案した1個の反射面に対する多重反射モデルを複数の反射面の場合に拡張し,合わせてその有効性を,コンクリートとモルタルを接合したコンクリート壁(校舎の壁)を例に示した.その結果,コンクリートとモルタルの境界面のようにほとんど反射が生じない場合でも,コンクリート構造物の全体の底面と合わせて,この境界面の位置も同時に高精度計測でき,今回提案の非破壊検査システムがクラック厚が小さい場合や多重クラックの場合にも有効であることが確認された.


 

■特異摂動システムの漸近安定性に対する必要条件について

名古屋大・穂高一条

  線形時不変特異摂動システムの安定性に関する結果に,Klimushchev-Krasovskiiの定理がある.これは,小さなパラメータを含む特異摂動システムから,一定の手続きで得られる2つのサブシステムの漸近安定性が,もととなる特異摂動システムの漸近安定性を意味することを示すものである.この2つのサブシステムの漸近安定性が,もとのシステムの漸近安定性に対して必要となるかどうかという問題は,その条件がどの程度保守性をもっているかを知る上で重要である.ところがこの問題はいくつかの文献に誤った形で言及されている.本論文ではこの慎重な取り扱いを要する問題について議論し,誤りを訂正する.その際,特異摂動システムの極の分布に関する新しい結果を導出し,その結果に基づいて,前述の問題に対する簡潔な解答を与える.


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