論文集抄録
〈Vol.42 No.2(2006年2月)〉
論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)
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タイトル一覧
[論 文]
[論 文]
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■ 眼剛性センシング
広島大・金子 真,徳田寛一,飯田義親,栗田雄一,
ケンフ・ローランド,川原知洋,石井 抱,
河野 進,三嶋 弘,塚本秀利,杉本栄一郎
眼球内において健常眼圧を超える眼圧上昇,血流障害,神経細胞死が起こると,視神経障害が発生し徐々に視野が失われていく.これが緑内障と呼ばれる病気である.緑内障の診断方法として,視神経乳頭の異常観察,視野異常の測定などに加えて,眼圧測定が非常に重要な指標となるが,一般的な眼圧推定手法では「角膜の硬さに個人差がない」という前提が存在する.もし角膜の硬さが平均より柔らかい患者が存在したとすると,小さな圧力で角膜が大きく変形するために眼圧が小さく見積もられてしまう.このことは患者の真の眼球内圧が精密検査を必要とする危険レベルにあったとしても,従来手法のみでは見過ごしてしまう可能性を示唆する.そこで本研究では,角膜の硬さの個人差を調べるために1秒間に5000フレームの撮像が可能な高速度カメラを使用して空気噴流印加時の角膜変形を撮影し,角膜頂点変位と印加力から眼剛性を定義して個々の被験者の眼剛性を評価した.実験の結果,眼剛性が平均よりも低い被験者が存在することを確認された.眼剛性が低い被験者は眼圧が低く見積もられ緑内障が見逃される可能性があるため,眼剛性が低い被験者に対しては眼圧診断によらない他の検診を併せて勧めることで緑内障の早期発見に貢献できる可能性を示した.
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■ 動的ロードセルの設置条件が出力値に及ぼす影響
東海大・近藤 博,木村修一,本間重雄
ロードセルで圧縮荷重を測定する場合は,剛で平らな場所に設置するように言われている.しかし,剛の明確な基準が定められていない.本論文では,円筒受管形タイプの供試ロードセルを,静的に剛と判断できる場所(無反射条件)と動的に剛な場所(全反射条件)に設置し,重垂を落下させる衝突試験を行い,設置場所の剛性がロードセルの出力値に与える影響が大きいことを示した.つぎに,実験結果をよく表現できるインピーダンス法を適用したシミュレーションで,ロードセルの出力値に及ぼす境界条件の影響を調べた.その検討から,ロードセルの出力値は設置場所の影響の他に衝突体の大きさの影響をより大きく受けることを明らかにした.すなわち,両反射条件での出力値の比は衝突体の大きさの約0.5乗に比例することを示した.
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■ Development of a Temperature Fixed Point Cell Using High Purity Aluminium
AIST・J. V. WIDIATMO, Katsuhiko. HARADA, Masaru ARAI
金属中の不純物に起因する不確かさを低減すべく,国際温度目盛(ITS-90)の定義定点の1つであるアルミニウム凝固点セルについて,セル作製時に材料金属の純度を損なうことのない鋳込み方法を考案し,セルを作製した.作製には,高純度アルミニウム(公称純度6N,ペレットおよび単円柱型)を用いた.考案した鋳込み方法で作製したセルおよび従来の鋳込み方法で作製したセルを用いて,(1)融解したアルミニウムが凝固するときの温度測定および(2)セル間の温度の比較測定を行い,新考案のセルを評価した.両測定結果を用いて,従来の作製方法によるセルと比較すると,新考案のセルにおいてはセル作製中の定点金属への汚染が防止でき,不純物に起因する不確かさが半分以下にすることができた.
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■ 小型衛星に有効な姿勢制御システム
千葉工大・細川 繁,升本技術事務・升本喜就
ヴェルリサーチ・竹沢 進,羽地和彦
本論文では,2002年12月にH-UAロケットの4号機によって打ち上げられた鯨生態観測衛星(WEOS)で構築した小型衛星に有効な姿勢制御システムを提案する.
WEOSの姿勢制御機能には,衛星分離時に発生するタンブリング・レートを収束するデタンブリング制御機能と衛星のアンテナ取り付け面(衛星下面)を常に地球方向に姿勢安定させる機能を備えている.デタンブリング制御機能は,地磁気センサと1軸のトルカ・コイルで3軸のタンブリング・レートを収束させる.地球指向姿勢安定機能は,国内で初めて試みたマスト伸展による重力傾度法を採用している.また,トルカ・コイルは重力傾度による姿勢が逆方向に安定した場合の反転制御用および姿勢安定状態で地球周回時に発生するライブレーション制御用にも使用する.これらの制御機能は,飛翔結果から小型衛星に有効なシステムであることが検証された.
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■ PWM型制御入力に基づく安定化制御
リコー・冨田健太郎,阪大・浅井 徹
通常の制御系解析・設計では,制御入力は連続値をとるものと仮定されている.しかし,制御入力の取りうる値が有限個であるような制御対象も多く存在する.それらの制御入力は記号入力と呼ばれることもある.そのような制御対象に対し,PWMを用いれば制御入力が連続値をとると仮定して系統的に制御系を設計することが可能である.ただし,従来のような平均値に基づく解析・設計手法では,とくに弁などのような動作帯域の狭い機械要素をアクチュエータとして用いる場合には,理論的な意味においてだけでなく実用上においても有効な結果は得られない.そこで本論文では,記号入力を有する制御対象に対してPWMを用いることを前提とし,さらに,その制御系の状態遷移を厳密に解析することにより系の局所的な安定性の解析や安定性を保証する制御則の設計を行うことを考える.
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■ 弾性関節を有するマニピュレータのマルチレート完全追従制御
能開大・島田 明,篠原優介
弾性関節を有する多関節マニピュレータのマルチレートフィードフォワード完全追従制御法を提案する論文である.まず,逆システムを利用するフィードフォワードが効果をもつ条件をふまえて,1つないし2つのオブザーバを用いるディジタルサーボ補償器を設計する.前者はモータ軸の角度制御に当たり,後者はロボット関節角度に対応する.さらに,同補償器により,制御対象がほぼ剛体系と見立てられると仮定して簡略化したフィードフォワード補償器と,あくまでも振動系と見立てたフィードフォワード補償器との2種類の補償器を設計し,合計4種類の制御系に対して差異を比較する.
同論文では,これをロータの位置変化や弾性関節による振動を考慮に入れた厳密なマニピュレータモデルに適用する方法を紹介し,シミュレーションでその有効性を評価するものである.
▲ ■ IMPをもとにした位相補償ロバスト制御
山形大・王 蕊,渡部慶二,村松鋭一,有我祐一
ロバスト制御系の設計は,制御対象のモデル誤差を評価関数で見積もり,評価関数と相補感度の積が1を超えないように設計してきた.しかし,この方法には,スモールゲイン定理を基にしているため保守性が高いという問題がある.また,モデル誤差の情報を拘束条件にしか使用しておらず,安定仕様が満たされても応答が振動的になることがある.
本稿は,これらの欠陥を取り除くために,内部モデル・パラメトリゼーション(IMP)の構造を利用し,モデル誤差の位相情報を,ロバスト安定性,応答の改善につかう新しいロバスト制御法を提案する.はじめに,内部モデルパラメトリゼーション(IMP)をもとに従来のロバスト制御を解析し,保守性の原因を解明する.つぎに,保守性を解消するためIMPの構造を用いた位相補償方法を提案し,ロバスト安定条件を導きだす.それをもとにした設計法を提案する.最後に,制御と比較しながら,本稿の有効性を示す.
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■ 拘束環境下における人間-機械系の等価慣性
豊田中研・羽田昌敏,山田大介,広島大・辻 敏夫
われわれが日常行うほとんどの作業は,人間も対象物も多様な拘束を受けているが,われわれは無意識のうちにその拘束を積極的に利用して,力の伝達経路を有効に変化させている.人間−機械系の特性を解析する研究では,対象物の特性とともに人間の特性も機械インピーダンスを用いてモデル化する場合が多い.特に慣性特性は,姿勢と環境からの拘束により,その特性がすべて記述される.したがって人間−機械系の等価慣性を調べることで,人間の巧みな戦略が持つ物理的意味を明らかにできる可能性がある.そこで,本論文では人間と対象物の間の接触のみならず,人間や対象物が受ける拘束までを考慮した新しい人間−機械系の等価慣性を導出する.まず,人間および対象物の一般化座標で表現されたそれぞれの慣性テンソルを,対象物上の任意の座標系へ変換および合成できることを示す.つぎに,人間および対象物の加速度に関する拘束式と運動方程式を用いて,それぞれに対する拘束を考慮した人間−機械系の等価慣性を定義する.そしてドライバ−ステアリング−シート系を例として取り挙げ,操舵するドライバの姿勢変化や,ステアリング・シート・関節に生じる接触や拘束により等価慣性が変化する様子をシミュレーションにより解析し,本手法の有用性を示す.
▲ ■ Path Planning Algorithm - How to Evalueate the Difficulties of Moving
in Various Environment
Mie Univ.・I.Zunaidi, N. Kato, Y. Nomura, H. Matsui
移動ロボットは通過する地形要素に大きく影響される.本論文では屋外地形要素を移動ロボットの「通りにくさ」と言う形で考慮に入れて,地形要素認識を用いたセンサベーストナビゲーションを行う.ロボットは一定時間間隔でCCDカメラから得られる画像データを用いて地形要素を認識する.認識結果からロボットの通りにくさを表す評価値を算出し,その評価値を環境マップに埋め込む.得られた環境マップを基に,複数の経路候補を逐次生成し,その経路候補の中から最も「通りやすい」経路を選択する.これを繰り返しながら,目標位置へと移動する.本手法を用いて,ロボットの移動しやすさの異なるアスファルトと草地からなる地形に対して実験を行った.その結果,アスファルト道路上でロボットの進行方向に対して草地が幅広く広がっている場合には,生成された経路が少々長くなってもそれを迂回して進むという経路を取った.それに対して,同じく進行方向に草地が存在するがその幅が狭かった場合には,草地を直進して進むという行動結果が得られた.このことから,本論文で提案した経路計画法により「通りにくさ」を考慮して環境に対応するナビゲーションが行えることがわかった.
▲ ■ 重量物挙上動作における動作姿勢の受容率を用いた評価
静岡大・松丸隆文,福山 聡,佐藤智祐,伊藤友孝
本研究は,重量物の挙上動作の定量的な評価方法の確立を目的として,安全な姿勢・最適な姿勢の究明をねらいとしている.本論文は,まず3種類の動作(動作A:膝を最大に伸ばした姿勢Aからの挙上,動作B:膝を最大に曲げて上体をできるだけ起こした姿勢Bからの挙上,動作C:膝をほぼ直角に曲げて上体を起こした姿勢Cからの挙上)に対して,絶対的な評価項目である受容率を新たに導入して評価した結果を報告している.受容率は,それぞれの関節の許容限界関節モーメントの推定値と変動係数から,挙上動作中の関節モーメントを許容できる人口割合を推定した値である.受容率が85[%](Av.-1SD)となる腰関節モーメントから算出した腰部椎間板の圧迫力は,3種類の動作すべてにおいて,その最大値が,Jagarらの基準値を大きく超えるものでなかったので,この85[%]を安全基準と考え,a判定(95[%]以上:推奨できる),b判定(85〜95[%]:注意が必要),c判定(85[%]未満:変更が必要)を設定した.3種類の動作を受容率から評価すると,動作Aは足関節,動作Bは膝関節により姿勢の変更が必要だと判定されるのに対して,動作Cはすべての関節で受容率が高くb判定以上であり,動作Cの有効性を定量的に明らかにした.
▲ ■ 単眼視覚移動ロボットによるボール追跡捕獲タスク
阪大・高木史朗,宮崎文夫,東北大・森 亮介
本論文では,単眼視覚移動ロボットを用いてボール捕獲を実現する方法を示す.われわれは,これまでに3次元空間を飛来するボールを捕獲するための動作戦略を提案してきた.この戦略は,ヒトのボール捕獲動作に対する説明として実験心理学の分野で提案されている仮説に着想を得たものであるが,よりロボットに実装しやすくなっている.今回,非ホロノミック移動ロボットに対して同戦略を実現する制御則を導出し,実機による検証実験を経て,その有効性を確認した.
▲ ■ 3次元物体把持の力学的定式化と多様体上安定解析
立命館大・有本 卓,吉田守夫,「 芝薫,岸 康敏
本論文では,3次元空間において指先形状が半球である2本指ロボットを用いることにより,平行な側面をもつ3次元物体を把持する物理的相互作用を表わす数理モデルを提案する.物体把持に関する2次元と3次元の決定的な違いは,対象物体(剛体)の瞬時回転軸が変動し,ここから新たに非ホロノミック拘束が生ずるという困難性にある.つぎに,人の把持動作は親指と他の指(人差し指または中指)との対向力によって実現される事実を参照することにより,把持物体情報および外界センサーをまったく用いない簡潔な制御則を提案し,動的な意味において安定把持が達成できることを示す.
最後に,力/トルク平衡を満足する指−把持物体からなるシステム全体の安定性は,新しいコンセプトである“多様体上の安定”に基づき証明できることを示す.
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