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 論文集抄録
  

論文集抄録

〈Vol.42 No.1(2006年1月)〉

論 文 集 (定 価) (本体1,660円+税)

年間購読料 (会 員) 6,300円 (税込み)

  〃   (会員外) 8,820円 (税込み)


タイトル一覧

[論  文]

[ショート・ペーパー]


[論  文]

■ Hamilton の原理に基づく自然な軌道の計画手法−力学変数の変数変換−

阪大・森田 晋,大塚敏之

 近年,人の運動規範についての研究がなされている.それらで提案されている規範モデルは運動生理学的知見に基づく.対照的に,本論文では純粋に力学原理に基づいた新しい運動生成手法を提案する.提案手法は自由運動の主導原理であるHamiltonの原理に改変を加えることで得られる.その改変とは,一般化座標をその高次積分値の微分量として表現しなおすというものであり,Lagrange関数など,Hamiltonの原理の構造には改変は加えない.自由運動が自然な運動と認められる場合,Hamiltonの原理の構造が保存される点が,提案手法で得られる運動が自然であるという拠り所である.数値例として人の腕の水平面内二点間到達運動のシミュレーションを示す.比較のため,人の実測データ,運動生理学的知見に基づいた運動生成手法,そして工学一般で標準的に用いられる最適化手法の同じ運動に対する結果も示す.


■ 時変の伝送遅れが存在する通信路を介した線形システムのH∞予測制御

早稲田大・御崎芳仁,内田健康,金沢大・東 剛人,藤田政之

 通信路を介して制御を行う遠隔制御システムにおいて,通信路に存在する伝送遅れを避けることは難しく,制御性能の低下や不安定化の原因ともなる.本研究では,線形プラントとコントローラが時変の伝送遅れが存在するセンサーチャネルとアクチュエータチャネルを介して接続されているシステムの状態/出力フィードバックH∞制御問題について述べる.この問題は入出力に時変のむだ時間のある状態/出力フィードバック制御問題とみなすことができる.しかし,一般にシステムの状態が無限次元となるため,解の導出が難しい.そこで本研究では定数むだ時間システムに対する状態予測制御のアイデアを時変のむだ時間へ拡張し,パラメータ依存の線形行列不等式(LMI)の形で解を導く.パラメータ依存のLMIの解法に凸多面体法を用いて,シミュレーションを行い,提案手法の有効性を検証した.


■ Fictitious Reference Iterative Tuning in the Two-Degree of Freedom Control Scheme and Its Applications to A Facile Closed Loop System Identification

阪大・金子 修,リコー・相馬将太郎,阪大・藤井隆雄

 1回の実験データのみを用いて,数式モデルに拠らず制御器パラメータチューニングを可能にする方法を著者らは“Fictitious Reference Iterative Tuning(FRIT)”として以前に提案した.FRITは1回の実験データのみを用いたオフラインの非線形最適化に基づき,所望の応答を達成するようなパラメータを求めることができるので,時間やコストを劇的に軽減できるという点で,実用上有効な調整手法である.本論文では,そのFRITを二自由度制御系における制御器のパラメータ調整に対して拡張する.そして,二自由度制御系のFRITにおいても,擬似領域での評価関数の最小化と本来最小化したい評価関数が対応していることを示す.また,二自由度制御系のフィードフォワード(FF)部がプラントの伝達関数の逆システムと所望の応答の伝達関数の積で表現されれば所望の応答が実現できる,という周知の事実を逆にとらえることで,制御対象の動特性が不明というもとで,FRITによる制御器パラメータ調整法を用いた二自由度制御系のFF部の結果を活用することによる簡便な閉ループのシステム同定手法を提案する.そして実験により,この手法の有効性を検証する.


■ 入力制約付き非線形システムに対する逆最適制御

奈良先端大・喜種奈美,中村文一,北大・山下 裕,奈良先端大・西谷紘一

 実際のシステムにおいては,アクチュエータの性能限界や制御対象保護のため入力制約が存在する.また,モデル化誤差や外乱の影響を無視できないことが多い.この問題は近年盛んに研究されており,非線形システムに対しては,制御Lyapunov関数を用いた制御則がいくつか提案されている.入力制約のないシステムに対して提案されたSontagの普遍制御則は逆最適レギュレータになっており,外乱に対してロバスト性をもつ.しかし,入力制約がある場合については,逆最適問題は取り扱われておらず,また,これまでに提案された制御則はロバスト性を保証していない.そこで,本論文では,入力制約付き非線形システムに対して,局所制御Lyapunov関数が与えられているという仮定のもとで,逆最適制御則を提案する.まず,以前提案した制御則と同じ方向ベクトルをもつ入力によって最小化される評価関数を導出し,セクタ余裕を明らかにする.つぎに,入力制約のもとで逆最適制御則が存在する領域を求め,その領域で原点を漸近安定化する逆最適制御則を構築する.さらに,漸近安定化可能領域全域で原点を漸近安定化するロバストな制御則を提案する.最後に,シミュレーションによって,提案した制御則が外乱に対してロバストであることを確認する.


■ パラメータ空間における安定化PIDゲイン集合の性質

広島大・佐伯正美

 本論文では,1入力1出力フィードバック系を安定化するPIDゲインの集合をPI,PD,ID平面のパラメータ平面に描く方法を与える.まず,Boundary Crossing Theoremに基づき,安定化PIDゲインの集合の境界をパラメータ平面に描く方法を与える.この方法の特長はプラントの周波数応答を用いて境界が描ける点である.この境界によりパラメータ平面がいくつかの領域に分割され,その中から安定化ゲイン領域が決定される.ここでは,境界を横切るようにゲインを変える際の不安定根の数の増減に関する性質を明らかにする.すなわち,PI,PD平面では,境界を横切る特定の向きで不安定根の増減が決定されるという興味深い結果が示され,ID平面では増減を決定する判別式が与えられる.これにより,ほとんど根を直接に計算することなく,各領域での不安定根の数を決定できる.


■ モデルマッチング非因果的解の計算法とその予見フィードフォワード制御への応用

中部大・十河拓也

 本論文では,両側Laplace変換を導入することで予見フィードフォワード制御器の設計問題をモデルマッチング問題として取り扱うことを検討した.そして,線形時不変系の予見型Stable inversionと呼ばれる逆系が,このモデルマッチング問題の非因果的解になっていることを示した.これによって,最適設計法が確立されているフィードバック制御器と同様に予見フィードフォワード制御器を周波数領域で議論することが可能となった.さらに,この予見フィードフォワード入力を因果的システムの応答に基づいて計算する方法を明らかにした.また,共役システムに基づく反復学習制御を両側Laplace変換による伝達関数で表現し,その適用範囲を無限次元系まで拡張した.この結果は,1リンク柔軟アームの先端追従制御実験によって検証した.


■ 状態遷移モデルを逐次推定する強化学習の学習加速

金沢大・泉田 啓,藤井信治,真野修輔

 強化学習の代表的な解法の1つであるQ学習は,問題を解くための試行回数や時間が長いため,より効率的な学習を可能とする解法を提案する.それは,つぎの2つのアプローチを組み合わせた解法である.1つは価値反復や政策反復などのDP反復に,Robbins-Monro確率近似アルゴリズムに基づく状態遷移確率モデルの逐次推定法を組み込むアプローチである.他方は,DP反復の政策評価ステップが代数方程式の反復解法とみなせることを示し,代数法的式の効率的な反復解法(Jacobi法,Gauss-Seidel法,SOR法など)を応用するアプローチである.Q学習では定まらない学習率パラメータは,提案手法ではモデルの推定精度に応じて適切に決定されるという特徴を有する.政策評価法と政策更新法の違いにより派生する学習則を整理する.既存のQ学習に比べ,学習の収束までに必要な試行回数が低減化され,学習が加速できることを論理的に議論すると共に,複数の数値シミュレーション例で検証する.



■ 独立防御層の数理モデル

岡山大・凌 元錦,鈴木和彦,京都大・幸田武久

 原子力発電所や化学プラントは,従来から多重防御の安全設計思想に基づいて安全対策が講じられてきた.これは多重の独立した防御層により安全を確保しようとするもので,独立防御層(IPL)と呼ばれる.これまで,IPLによるリスク低減の定量的評価では,FTAおよびETAを用いて時間平均のリスク評価に重点が置かれてきた.実際には,リスクが時間経過によって変化するので,ライフサイクルを通じ,IPLによるリスク低減の時間的変動を評価できるモデルが必要となる.
 本研究は,IPLをn層まで一般化し,プラントと各IPLの故障時間分布は一般的な分布関数で与えられる場合に,プラントの正常トリップの期待回数および事故発生確率の一般的な計算方法を示し,本手法は指数分布の場合のマルコフ解析により得られた結果と一致することを確かめた.また,防御層数n≦3,プラントおよび各IPLの故障時間が指数分布に従う場合に,正常トリップの期待回数および事故発生確率の解析解を求めた.さらに,ライフサイクルを通じ,IPLによるリスク低減の時間的変動を評価するためのモデルを提案し,プラントと各IPLの故障時間分布はワイブル分布に従う場合に,本モデルをニトロベンゼン合成バッチプラントのリスク評価に適用し,その有用性を示した.


■ ガイドポストと一台のカメラを用いる移動ロボットナビゲーション

九工大・渕川康裕,黒木秀一,ジャトコ・松尾克宏,
鹿児島大・宮本俊一郎,九工大・西田 健

 本論文では画像計測を用いた移動ロボットの誘導手法を述べる.提案手法では誘導経路に沿って複数のガイドポストを設置し,移動ロボットはガイドポストに沿って移動する.ガイドポストの表面には人工ランドマークとバーコードが貼られており,それぞれ姿勢計測と走行指令の取得に使用される.姿勢計測とバーコードの取得には1台のカメラを用いる画像計測システムが用いられる.この方法は画像計測による3次元位置計測手法でよく使用されるステレオビジョンと比べてカメラのコストや設置スペースの少なさなどの点で優れている.本手法で使用する画像計測システムは1枚の画像を処理するのに3秒程度必要とするが,計測遅れを考慮した経路設計法により移動ロボットは滑らかに移動することができる.本論文の最後に提案手法を実装した移動ロボットにより誘導実験を行いその結果と検討結果を示す.


■ 人の操作特性を考慮した人間機械協調テレロボティック作業支援システムの構築に関する実験的考察

静岡大・伊藤友孝,弓達孝治,松井 隆

 操作性や親和性を考慮した人間機械協調システムの構築を行う場合には,ロボット側の特性だけでなく,人を含む系全体の特性を踏まえた上で適切な設計を行う必要がある.本論文では,人間機械系の1つであるネットワークテレオペレーションシステムを対象として取り挙げ,人の操作特性を考慮して人間機械系を設計するための指針について考察することを目指している.ネットワークテレオペレーションシステムはマスタスレーブ間に相互に通信遅れを有するため,従来よりロボットシステムの安定性問題が盛んに議論されてきたが,スレーブ側の実画像をモニタで監視しながら作業を行う場合に通信遅れが「人の視覚制御ループ」にどのような影響を与えるかについては,ほとんど議論がなされていない.そこで本論文では,通信遅れや操作器特性・監視画面の拡大率等が人の操作に与える影響や人の適応特性について実験的に考察し,その結果を基に,人の特性を考慮したシステム設計の一例として,通信遅れによる操作の不安定化を防ぐための操作支援手法を検討し,実験により有効性を確認した.


■ 人工筋肉を利用したヘビ型水中推進ロボット

名古屋大・小川浩司,理研・中坊嘉宏,向井利春
     産総研・安積欣志,名古屋大・大西 昇

 本研究の目的は,他のアクチュエータにはない優れた特徴をもっている人工筋肉を利用し,ヘビ型の推進方法で泳ぐマイクロロボットを実現することである.この推進機構を実現できれば,スクリューによる推進では困難な環境,たとえば人体の血管のように,動作空間が狭い上に材質がもろく,水を含む溶媒で満たされた管内を移動することができ,さらに,その移動を制御することが可能になる.
 本論文では,目的を果たす上で最も重要と思われる,人工筋肉のヘビ型の屈曲運動と,実際の水中での推進を実現した.具体的には,まず,人工筋肉をパターニングして部分ごとに独立した制御を実現した.そして,各部分に位相を変えた正弦波を入力し,人工筋肉のヘビ型の屈曲運動を実現した.その後,ヘビ型の屈曲運動で最も速く前後に推進する入力条件を調べた.また,正弦波のデューティ比を変えたものを入力波形として使用し,最適な入力条件で制御することによって,左右旋回運動を実現した.


■ 世論形成のマルチエージェントモデルによるシミュレーション

東大・古田一雄,森野耕平

 参加型の社会的意思決定への要求の高まりとともに,世論形成の動態やメカニズムに対する興味が高まっている.しかし世論形成に関する従来の数理的モデルでは,世論に重大な影響を与えると思われる要素のいくつかが考慮されておらず,現実の世論動向が示す複雑な振舞いを捉えきれていない.そこで,現在,社会的現象の解明のための有力な手法として期待されているマルチエージェントモデルを提案し,世論形成の動態とメカニズムの解明を試みた.本研究のモデルは,同調行動と私的自己意識を考慮した人間の意志決定モデルに基づき,さらにマスメディア,個人差,主張の真偽の偏りといった世論形成に大きな影響をもつと思われる要素を組み込んだものである.提案モデルに基づいてシミュレーションを行った結果,社会が賛成派と反対派のコミュニティに分裂すること,同調傾向が強いほど大規模なコミュニティが形成されること,主張の真偽の偏りやマスメディアの存在は意見を画一的にする効果を有することなど,世論形成の動態とメカニズムに関する有用な知見を得た.



[ショート・ペーパー]

■ 統計的に未知の観測雑音を想定した線形系の状態推定

茨城大・山中一雄,菊池浩司,齋藤充行

 本論文では,駆動雑音のスペクトルは既知(白色)で,観測雑音のスペクトルのみ未知の場合の線形系の状態推定問題を,推定器と観測雑音のゲームとして解決するひとつの方法を考察している.スペクトルが未知の雑音の平均パワーに仮の上界を設ける必要性を回避するために,推定誤差に加えて観測雑音の平均パワーにペナルティを与える評価関数をとり,状態推定問題をゲームと考える.あるリヤプノフ方程式が正定解をもつならば,この評価関数は鞍点をもつことが示され,鞍点に対応する推定器が状態推定問題に対する解として得られる.加えて,鞍点に対応する観測雑音は観測信号を常に0とする雑音となること,鞍点推定器は強い意味で局所的ミニマックス解でもあることなどが示される.


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